今回は原作六巻に当たります。つまりはシャルバさんの見せ場ですな
第八話 STRIKES
夜が明けて朝になろうとも、ミッテルトは帰らなかった。イッセー達は彼女が何らかの事件に巻き込まれたのだと悟った。
「どうするにゃ?」
「……俺が探す。二人は留守番を頼む」
それだけ言うとイッセーは早足に部屋を飛び出した。彼の後ろ姿を見送りながら黒歌はなんとなくテレビに視線を移す。若手悪魔同士のレーティング・ゲームだ。
電源が入ったままになっていたか、とリモコンに手を延ばした彼女は固まった。隣に座っていた白音も言葉を失う。
「お姉様、今のはッ!」
「間違いないにゃ……」
偶然映っていたリアスとディオドラの戦い。ディオドラが高笑いしながら『
「テロリストに捕まってるなんて……」
彼等の内、長髪の偉そうな男がミッテルトの首根っこを掴んでいたのだ。まるで見せつけるかのように。つまりは人質なのだろう。
最強の邪神を駒として操る材料という訳だ。
「……どうしますか?」
「言われた通りにするしかないにゃ。勝手に動いて私達まで捕まったら笑えないし」
▼▼▼▼▼
時間はリアス達のレーティング・ゲーム開始まで遡る。案の定ディオドラが『
正直に言えば予め離反を察知していたアザゼル達の想定通りだった。
シャルバがミッテルトを捕まえていた点を除いての話だが。
「私に胃薬を! 胃薬をくれぇぇぇぇぇえッッ!!!」
腹を抑えて転げ回るサーゼクス。何処ぞの魔王なり損ないがよりにもよって邪神のお気に入りを拉致したものだから、彼の胃は致命傷を負ってしまった。
協力者が出てくるまでディオドラを泳がせておこう、などと自信満々に笑っていたアザゼルに至っては魂が抜け出ている。
「……シェムハザ、後は任せた」
アザゼルが蒼白な顔で遺書を準備し始めた頃、ゲームフィールドもまた大変な事態に陥っていた。
要するに邪悪なオーラを全身から溢れさせたイッセーが降り立ったのだ。
「久しいな、メルヴァゾア。最後に会ったのは三大勢力戦争に乱入してきた時か」
「ミッテルト、少しの間だけ眼を瞑ってくれ」
「……? 解った」
何時もの陽気さを消し去った彼の言葉にミッテルトは首を傾げながらも頷く。眼を閉じた事を確認してから魔力を放出するイッセー。
「こっちには人質があるんだ! それ以上に妙な真似をすればどうなるか、解ってるんだろうな!!」
「──その人質とやらは何処に居る?」
「なッ!? 馬鹿な、何時の間に!」
気付けば捕らえていた筈だったミッテルトはイッセーの腕に抱かれていた。人質ありきで立てた作戦が故に、肝心の人質を奪還されては話にならない。
つまりは詰みである。
滝汗を流す馬鹿三人組を前にイッセーはゆっくりとその姿を、形容しがたい純粋な闇へと変えていく。数千数万からなる歯車が身体を構築し、剥き出しの部品群を覆うは無数の蟲。
人の形を成さないそれは彼の本来の姿。
即ち、本気を出した『邪神メルヴァゾア』が此処に降臨したのである。
『…………フム、長ク変身シテイタ影響デ鈍ッテイルナ』
「あわわわわ」
圧倒的な体躯の差は、そのまま実力差を明確に表していると言って良い。広大なフィールドに半身を横たわらせる程の規格外の全長。中央の恐らく顔に当たる部分に巨大な一つ眼と、近くにバリアで護られたミッテルトが浮かんでいた。
嬉しそうに眼を細めると、一転して今度はシャルバ達を睨んだ。
『……滅ビヨ、一片残ラズナ』
そしてあっさりと連中を消滅させた。溜め息を吐きながら再び人間の姿へと戻った。
「終わったぞ、ミッテルト」
「……助けてくれて、ありがとうっス。その、ウチが弱いせいで」
「気にするな。これから先、何度でもお前を護ってやる。だから俺の隣に居てくれ」
「──永遠にな」
「うん! イッセーさんもずっとウチの隣っスよ!!」
こうして彼等は猫姉妹の元に戻り、帰還祝いのパーティーを行い、更に悪魔政府にまたしても賠償を求め……。
プロポーズ紛いの発言をしてしまったと互いに気付くのは寝る直前だった。
逃げちゃ駄目だ。