「馬鹿な、どうやって侵入した!? 上には大勢の神父が……ッ!!」
「ほら、拘束を解いてやったぞ。ついでに隣のお嬢ちゃんも」
「話を聞きなさいよ!!」
レイナーレは思わず怒号を放つ。突如現れたイッセーに十字架を根元からへし折られるどころか、拘束術式すらも簡単に解除されれば当然だ。見せつけるように展開した黒翼と光の槍は精一杯の脅しだった。
「ほーれ、高いだろー」
「ウチで遊ぶな、高い高いすんな!」
しかし当のお二人は無視するばかりか、ナチュラルにイチャイチャしていた。それはもう状況が呑み込めずにポカーンとしているアーシアを放置して、盛大に。
ここまで馬鹿にされては生かしてはおけない。部下であるカラワーナに殺害を命じようとしたところで漸くイッセーがレイナーレ達に視線を移した。
「……さて、ゴミ掃除を再開しますか」
「至高の堕天使を嘗めるんじゃないわよ! ドーナシーク、カラワーナ! 愚かなこいつらを血祭りにあげなさい!!」
確かな実力を持つ側近達ならば余裕で片付けられるだろう。アーシアは捕らえて、残りは煮るなり焼くなり好きにすれば良い。彼等の末路を思い浮かべて余裕の笑みを浮かべる。
だが部下からの返答は無かった。
「──探し物はこれかな?」
静かな声音が目の前から投げられた。一挙手一投足も見逃すまいと眼を離さず、瞬きすらしなかったのに。何の変化も感じさせないままでイッセーはレイナーレの前に立っていた。
その赤い両手に握られているのは、見慣れた2つの顔。
「あ、あぁ……」
「ほれ、返すぜ」
「ヒィ!?」
ゴロゴロと投げられた頭部から少しでも離れようと後退りする。頭部のみにされたドーナシーク、カラワーナは驚いた顔で、恐らくは何が起きたのか解らないまま死んだのだろう。
レイナーレはもう戦意を喪失して、座り込む事しか出来なかった。ひたすらに
「お前は一体、何者なのよ!?」
「確かに。イッセーさんは何者なんスか?」
「あ、やっぱり気になる?」
ミッテルト達の問いは尤もだ。簡単に教会に侵入したばかりか、今また堕天使をあっさり殺害したのだ。ただの人間とは思えない。
そんな視線に気付いたのか、はたまた面倒だからか。頭を掻きながらイッセーは告げた。
「俺は『
「……冥土の土産に覚えておけ」
最後に片手を翳すとレイナーレは跡形もなく消し去られた。
▼▼▼▼▼
「邪神だったんスか!? どうりで強い筈っス!」
「今は人間の姿に化けて力も制限してるが、これでも最強の邪神なんだぞー?」
「マジパネェ」
さらりと重要な情報を洩らしたが、阿呆なミッテルトは気にせずにはしゃいでいた。イッセーもそんな彼女が気に入ったのか、頭を撫でた。
「帰る場所が無いなら俺の家に来い。面倒見てやるよ」
「んー、でもレイナーレ様とか消しちゃって大丈夫なんスか? 『
敵対する悪魔の領地で独断行動していた馬鹿を組織が救うとは考えにくいが、何かしらの文句を言われる可能性もなきにしもあらず。
珍しくまともな発言をすると、感心の拍手が舞う。
「結論から言うと別に問題ない。アザゼルに許可取ったし」
「ハァ!? あのアザゼル様!?」
「駒王町に侵入した堕天使共が鬱陶しいから組織ごと壊滅させる、と脅したらあっさりな。ミッテルトが俺の保護下に入った事も伝えてる」
「パネェ!」
ミッテルトと、ついでにアーシアの救出にも成功したので後は帰るだけ。なのだが邪神の顔は険しい。
「……そこに隠れている悪魔共、出てこい」
そう言いながら邪神のオーラを軽く放つと慌てて人影が飛び出してきた。まだ10代後半と思われる少年少女達だ。両手を挙げて敵対の意志が無い事をアピールしている。
「私はこの駒王町の領主、リアス・グレモリー。後ろに控えているのは眷属よ」
「好き勝手している堕天使を討伐に来ましたと。遅すぎるぞ、無能野郎。お前が動くまでに何人の住民が殺されたのか、知ってるか?」
「な……ッ!? 私を愚弄するつもり!?」
「煩いから騒ぐな。……面倒だ、付き合ってられん」
二人とも帰るぞ。ミッテルトとアーシアの手を掴んで、イッセーは教会を出た。後に残されたリアスは侮辱された屈辱から、凄まじい形相で彼等の後ろ姿を睨んでいた。
Darkness was upon the face of the deep.
闇が深淵の面にあった。