少年は昼頃に漸く眼を覚ました。両親は出掛けてしまったのか、とても静かだ。
着替えていると玄関のチャイムが響く。出迎えれば見慣れた二人の女性が立っていた。
「こんにちは、黒歌お姉さん。それに白音お姉さんも」
「やっはろー! 元気してたかにゃー?」
「姉様ったら……。こんにちは、セイマくん」
黒髪で変なしゃべり方の黒歌と、白髪でしっかり者の白音だ。なんでも父親に助けられた事があるらしく、今でもこうして遊びに来る仲らしい。
「イッセーに様子を見るよう頼まれたにゃ。今日はお姉さん達と遊ぼう! ほら、酒も持ってきたし!」
「……未成年に飲ませないで下さい」
言うなり懐から酒瓶を取り出す姉に呆れながら、棚に飾ってある写真に視線を移した。純白の衣装に身を包んだ二人が幸せそうに笑っている。あれからもう十年。早いものだと白音は苦笑した。
……そしてハッと気付いた。姉から眼を離した事に。慌てて振り返るも既に遅く。
「僕はお姉ちゃん達と結婚するー!」
「あははは、私もお嫁さんになるにゃー!」
セイマは黒歌と一緒に酔っぱらっていた。テーブルを空瓶の山で埋もれさせ、それでも足りないとばかりに新しい酒をがぶ飲みしている。挙げ句に何を狂ったのやら、結婚すると言い出す始末。
取り敢えずは二人を引き離さなければ。行き遅れを押し付ける訳にもいかない。
「姉様、いい加減にして下さい。セイマくんも、お酒はまだ早いですよ」
「やー! 黒歌お姉ちゃんが好きだもん!!」
「かっこいいー! 惚れ直したから、おっぱいサンドしてあげるにゃ!!」
「光源氏でも目指すつもりですか!?」
必死に止めようとするも彼女の言動は更にエスカレートして、顔を自分の胸に埋もれさせて興奮する有り様だ。いや、今はまだ酒の席での戯れで言い訳出来るが、ニャンニャンした日には確実に殺される。
顔を真っ青に染めて白音は兎に角離そうとした。だが黒歌も負けじと腕に力を込めた。
「大酒呑みの姉様を貰ってもセイマくんが苦労するだけです! お嫁さんには私がなります!!」
「ちょ、喧嘩売ってんの!?」
「セイマくんは、お姉ちゃん達と言ってくれましたから!」
自分達より二回りも下の少年をおっぱいに挟んだまま、言い争う猫姉妹。似た者同士な彼女達の舌戦はヒートアップするばかり。
そして結局……。
「こうなったらセイマくんに決めて貰おうか」
「上等です。どちらが魅力的か、白黒ハッキリさせましょう」
「待って、それはズボン──」
このあと滅茶苦茶ニャンニャンした。因みに帰ってきたイッセーとミッテルトにぶん殴られたのは言うまでもない。
Those women longed for the touch of others' lips, and thus invited their kisses.