常に吐く息が白くなるほど空気は冷え切っていて、どことなく漂ってくる錆びた鉄の臭い。
普通なら劣悪に感じられる環境だが、廃材だらけで廃退しきった文明の遺跡を含めて二人の少女達は慣れきっていた。
だからなのか、少女達は見渡す限り真っ白な世界だろうと不安を感じている様子は一切なく、当たり前のように半装軌車ケッテンクラートに乗って前進を続ける。
ただひたすらに前へ、更に前の道へと、二人して深緑一色に染め上げられている軍用のコートを着用して寒さを凌ぎながら進んでいく。
その中、半装軌車の後部荷台に乗っている長い金髪の少女は、仰向けでシュターヘルムを被りながら澄んだ青空を見上げて呟いた。
「さむ~……」
声量と発言内容からして、なんてことない独り言。
けれど、金髪の少女は運転手の少女にリアクションを求めていたらしく、碧色の瞳を青空に向けたまま再び呟いた。
「いやぁ、空は晴れているのに何でこんな寒いんだろうね。不思議だと思わない?ねぇ、ちーちゃん」
金髪の少女はちーちゃんと、如何にも愛称らしい名前で呼びかけた。
この愛称に運転している黒髪ローツインテールの少女は反応を示すが、黒い瞳を前方に向けたまま、ぶっきらぼうな口調で言葉を返す。
「空ばかりじゃなく周りを見てみなよ。見飽きるほど雪が積もっているだろ。それが寒い理由の答えだよ」
「んー、でもさ。寒いのにはもっと他の原因がある気がするんだよね。たとえば……」
「たとえば何?あと私のヘルメットを返せ。ユー」
ちーちゃんと呼ばれた黒髪の少女は、無愛想な声色で要求と金髪少女の愛称を口にした。
これにユーは手元に持っていたブロンディヘルメットをちーちゃんに被せながら、寒い理由を簡潔に答えた。
「ん、ヘルメット。で、寒い理由だけど、やっぱりお腹が空いているのが原因な気がするんだよね。ほら、お腹が減っている時って特に寒いし」
「いつも空腹だと愚痴をこぼしている奴が言っても、説得力に欠ける言葉じゃないかな。あと、食糧の残りが少ないから限界まで我慢しろって」
「えぇ~、こういう時のちーちゃんって二言目には我慢しろぉとか、やめろぉだよね。たまにはさ、パーっとしようよ。パーっとさ!なんかこう…、私の言う通りにした方が多分幸せだよー」
「お前の言う通りに毎日パーっとした事やっても、思っているような幸せになんてならないよ。まず残りが少ないからパーなんてことできないんだが」
「あぁ、ひもじいなぁ。たまには幸せという言葉の意味を知りたい……、っと……あれ?何か匂わない、ちーちゃん」
ユーに匂うと言われて、ちーちゃんは嗅覚を働かせるが特別変わった臭いは感じられなかった。
視界に映る光景も相変わらず銀世界で、何も察知できずにいるとユーが珍しく声を荒らげた。
「ちーちゃん、止まって!」
「な、なんだよユー。いきなり大声をあげて…、何かあったの?」
「んー…、やっぱり匂う。これは間違いなく食べ物の匂いだよ!分からない?」
ちーちゃんが振り返って後部座席を見れば、ユーは自信満々な表情と声で食べ物の匂いと断言する。
食べ物の匂いと言われれば少しイメージはつくが、具体的にどんな匂いかと言われたら思い浮かべづらいものである。
それに食べ物の匂いなんて千差万別だろう。
どれを食べ物の匂いだと判断するのか、またどこから匂うかなんて分からない。
そのこともあって、ちーちゃんはユーの食い意地から来る優れた嗅覚を頼りに指示を求めた。
「食べ物の匂いだなんて本当かな……。まぁ、残りが少ないから探すか。ユー、だいたいの場所は分かるの?」
「分かるよ~。あっちだね」
ユーはそう言って、風向きとは逆の方向を指さした。
どう考えても風で流れて来るわけがない方向だから、どういう嗅覚なんだとツッコミたくなる。
それとも本能レベルで食料の在り処を察知しているのではないのかと、ちーちゃんは思わずにはいられなかった。
色々と彼女は考えるが、ひとまずユーが示した方向へ愛車のケッテンクラートを走らせた。
もっと速くと、珍しく頭の後ろから急かされながらも雪道を突き進む。
すると数分間も走った後だろうか、屋根の隙間から白い煙だか蒸気を吐いている廃墟があった。
見た目は一軒家……、みたいなもの。
人が住めば全部家になるわけだが、言葉で形容するなら倉庫のようにも見える。
もっと簡略して言えば鉄の塊。
とりあえず煙が出ているわけだから、何か潜んでいるのかとちーちゃんは呟く。
「なんだろ。なんかの機械が作動しているのかな」
「ちーちゃん、機械でも何でも良いから入ろうよ。すっごい食べ物の匂いだよ」
「確かに…。これは食べ物の匂いっぽい。ユーがそう言い表す理由が何となく分かったよ」
ちーちゃんはケッテンクラートのエンジンを止め、改めて匂うを嗅ぐ。
おいしそう、というより
昔に嗅いだ焼きたてのパンより素敵で、夢いっぱいな匂いがする。
まさに一種の幸せ、と言った所か。
とにかく建物の中へ入ろうと二人の少女は車から下りて、念のため装備をしなおす。
ユーはライフル銃に装填されている銃弾を確認し、二人して使い込んだサバイバルナイフを備える。
そうして慣れた手つきで装備を整え、律儀に建物の扉を探して見つける。
発見した扉は、取って付けたような凹凸が激しい鉄板だ。
だからなのか取っ手の部分など無く、押して開けるしかない。
すぐにちーちゃんは扉を押し開けようとするが、体重と力をかけようとした時にユーがぼそっと言い出す。
「知っている、ちーちゃん。こういうときって、お邪魔しますって挨拶するんだよ」
「私達以外の人間が居れば正しい知識だろうな。それより扉が固くて動かない。ユーも押すのを手伝え」
「んもー、ちーちゃんは非力だなぁ。私がいないと何もできないんだから」
「いいから早くしろ。ここまで散々急かしたのはお前だろー」
二人は互いに急かし合いながら扉の鉄板を押す。
それでも固くて開かずにいて、ちーちゃんは嫌味っぽい愚痴をこぼした。
「もー、ユーは非力だなぁ。だったか」
「こんなこともあるさぁ。とにかく、固いね。これは私の必殺技を使うしかないかも」
「必殺技?なんだそれ。爆弾か銃でも使うの?」
「それが違うんだなー。車に乗っているときに考えたんだ。ずばり、勢いをつけて全身ぶつけるの」
「ただの体当たりじゃないか。ユーらしいと言えばユーらしい手段だけど……」
「まぁ期待して私の活躍を見てて。一発で開けて、中にある食べ物を奪うから」
へらへらとユーは笑う。
正直、彼女の行動に期待はしていない。
しかし、やる気があるなら良いかと思ってちーちゃんは任せることにした。
それからユーは扉から数歩下がり、肩で体当たりする構えを見せてから力強く一歩踏み出した。
開くわけが無いだろうなと、ちーちゃんが思った矢先のこと。
ユーが走り出して扉へ豪快に体当たりすると、騒がしい音を立てて見事に鉄板が吹き飛んだ。
どうも想像していたより威力があったようだ。
「おー、やるもんだな。ユー」
あっさり開いたこともあって、素直にちーちゃんは感心の声をあげた。
だがユーは体当たりの勢いのまま建物の中へ突入してしまい、褒め言葉に対して反応を返す様子は無かった。
おそらく食べ物がある所へ一直線に向かってしまったか。
仕方なく外で眺めていた彼女は小走りで建物の内部へ向かい、ぶちあけた扉から中へ入って行った。
「おい、あまり一人で先に行ったりするなよ。危ないだろ……って、なんだここ」
ちーちゃんが見た建物の内部は、非常に綺麗だった。
おいしそうな匂いが充満していることに加え、とても廃墟とは思えないほど整理整頓と掃除が済まされている。
特に家具が綺麗な状態で置いてることに驚き、扉が壊れてしまっていることを除けば立派な家と呼べるだろう。
その扉を壊してしまったのは、彼女達の行動によるものだが。
「凄いな。まともな内装を見るのは久しぶりだ。いや、旅に出てからなら初めてになるのか」
世界は広くて自分たちが知らない事ばかりだと考えたら、案外不思議な事では無いのかもしれない。
ただ徹底と整理整頓されているのを見れば、今も人が住んでいるのではと疑わざる得なかった。
そう一人で考察していると、奥の部屋からユーの雄叫び声が聞こえてきた。
「フフフッ、おいしー…!!」
笑い声が混じっていて間抜けな雄叫びだ。
もしかして早くも食糧を発見して勝手に食べているのかと思い、ちーちゃんは急ぎ足で声が聞こえてきた建物の奥へ向かった。
「おい、ユー!パーっとするなって、さっき言ったばかりだろ!勝手に食べるな…!」
ユーの無責任な行動に怒りを覚えて、ちーちゃんは声を荒らげた。
でも、奥の部屋にはユー以外にも人の姿があり、彼女は怒りなど忘れて驚き戸惑うことになる。
とりあえずちーちゃんは身構えるが、肝心のユーは椅子に座ってテーブルクロスがかけられた机を前にして笑顔でいた。
よくよく落ち着いて見れば彼女は見たことも無い食べ物を口に運んでいて、次々と無用心ながら食べていっている。
その喜んで食べている姿を、もう一人の人間………自分達より年上の女性が嬉しそうに見ている。
身なりは建物の内装と比べて貧相で、ぼろい服だ。
そして食事の様子を見ている彼女に敵意など一切なく、なぜ笑顔なのか分からなくて、ちーちゃんからすれば不気味のように見えてしまいそうだった。
「……えっと、ユー。その人は誰なんだ?というか大丈夫なのか?」
少し呆然とした後、ようやくちーちゃんは再び呼びかける。
この呼びかけで年配の女性はちーちゃんの存在に気づいたようで、愛想笑いを浮かべて優しい声で話しかけてきた。
「あらあら、この子のお仲間さん?それとも妹さん?」
年配の女性は傷んだ黒い髪を縛ってあり、よく表情が見えるおかげで嘘偽りが無い愛想笑いだと察せた。
彼女なりの優しい対応だと分かれば、ちーちゃんも相応の態度で言葉を返した。
「あ、いや…。姉妹ではないけど、その子とは……友人かな」
「そう…、友人。つまりは親しい人ということね。あぁ、ところで貴方の名前を訊いてもいいかしら。ちなみに私はアキホと言うの」
「アキホ……。私はチトだ。それでその食べ物の熱中している失礼な奴がユーリ」
「チトちゃんとユーリちゃんね。あ、私が何か変な事を言ったらごめんなさいね。私、ずいぶんと長い間一人で過ごしていたものだから、うまく会話ができないの。ごめんなさいね」
謝るのが癖のように聞こえるのは、単に会話が苦手ということだろうか。
ちーちゃんはそう思いつつ、ユーについてアキホへ言及した。
「それよりユーリが勝手に他人の食糧を食べているように見えるんだが、大丈夫なのか?なんなら私が叩いてでも止めるけど」
「いいの、大丈夫よ。私……料理が好きでね。それで、いつか誰かに手料理を食べて欲しいと思っていたの」
「はぁ……、そうなんだ」
ちーちゃんには、よく分からない感覚だ。
せっかく作った物を横取りされて、何が嬉しいのか分からない。
しかも貴重で大事な食糧を。
そんな感情と考えが先に来たから彼女は怪訝な表情になりかけるが、アキホと名乗った年配の女性は手料理を勧めて来た。
「チトちゃん。貴方も食べるでしょ?ちょうど調理と一緒に下準備を済ませた所で、まだまだ沢山あるのよ」
「……んー、なら言葉に甘えて」
ユーが楽しそうに食べている様子を見る限りだと、毒を仕込まれている問題は無いかと判断した。
なんて理性的な考えは建前で、おいしそうな匂いとユーの恍惚とした表情を見ていると我慢しきれなくなっただけだ。
あまりにも強く食欲をそそられてしまい、空腹の問題ではなく、食べてみたいという好奇心が
ユーの座っている向かい側に椅子を用意され、ちーちゃんは恐る恐る座って料理が置かれているテーブルを前にする。
近くで料理を見ると、かなり手を加えられているのが分かる。
どうも繊細な調理法を施されているようで、彼女達からすれば充分に未知の技術と言えた。
ついつい眺めてしまう。
対してユーは料理を食べ続けながら、ちーちゃんに手当たり次第で勧め始めた。
「すごいよ、ちーちゃん。どれもこれも初めての味だよ。何か凄い。やっぱ、パーっとすると幸せになれるのは事実だったね」
「言っておくけど、こうして食糧を口にできるのは今回っきりだぞ。あくまでアキホの好意に過ぎないんだから」
「もう、好意なんだから気にせず楽しもうよー。ほら、食べて貰うのが幸せだってアキ…?なんとかが言っているわけだしさ」
「アキホ、だろ。本人の目の前で名前を忘れるなんて失礼極まりない奴だな」
「そんなこといいから、早く食べてみてって。これは独り占めにするのを気が引けるほど凄いよ」
ユーが食い意地を張った上で勧めていると思うと、どこまで凄いんだと考え込みたくなる。
とにかく味を見てみなければ分からないことなので、ちーちゃんはアキホから手渡された食器を使って食事を始めた。
主に小麦や芋を使った料理なのだが、どいうことか華やかな見た目のものが多かった。
スープに入っている具だって小麦を練ったものらしいのに、わざわざ形を作ってあって見ていて楽しい気分にさせられた。
味だけではなく、見て楽しむ。
それと匂いで楽しむ。
食糧で空腹以外の気持ちを満たそうとするなんて、想像もつかなかった。
「はー……。これは凄いな…」
ちーちゃんは一口食べた後、どことなく嬉しそうな顔で大きく溜め息を漏らした。
まともな材料なんて無いだろうに、どうやって味付けをしているのかも謎だ。
甘くなくて、ちょっとしょっぱいけど何か味わい深いといった感じだろうか。
不思議なことに心が温められる。
ちーちゃんは懸命に食べる手を進めながら、次の料理を持ってきたアキホに質問した。
「アキホ。この料理はどう作っているんだ?できれば教えて欲しいな」
「うーん、困ったわねぇ。別に秘密と言うわけでは無いのだけど、とても言葉じゃあ伝えきれないかしら。とにかく自分の舌で味を確認して、気づいたらこの味に落ち着いたって経緯だから。ごめんなさいね」
「じゃあ材料。どんな材料を使っている?」
「材料は……、そうね。ちょっと栽培しているものがあって、それを使って所かしら。豆というものなんだけど、手を加えれば色々な味付けに使えていいのよ」
「豆……。え、これ豆なのか」
ちーちゃんは豆なら知っているし、食べことあるから尚さら驚愕した。
まさに自分が認識している事実とは大きく違うものだと言いたげだ。
更に豆が料理に貢献している事と、ちょっとしたしょっぱさで彼女にはピンと来るものがあった。
「もしかして、これは古代人が伝統にしていた料理の再現になっているのか…?いや、まさかね……」
古代人の文化について書いてあった本で、似たような料理が存在していた事を思い出した。
何でも甘みとは別に、旨味という謎のものを追い求めた料理だとか。
実際どうなのか真実は不明だが、文明だって元は人間が考えて造り上げたものに過ぎないから、料理において限定すれば同じ結果に至るのはありえるかもしれない。
本当に同じなのか分からないのが、脳内に保存できる知識の限界だ。
本に記入されている内容が絶対に合っていると限らない以上、どうやっても確認はできない。
「あー……おいしかったー。この飲み物も、すっごいうめー」
一通り料理を堪能した後、ユーはアキホに出して貰った飲み物を飲みながらまだ味を楽しんでいた。
幸せいっぱいなのは、ちーちゃんも同じだ。
体の芯が温まる。
続けてユーは飲み物を飲み干し、自信満々に言い切った。
「やっぱりさ、お腹が満たされると暖かくなるよ。ちーちゃんも寒さが吹き飛んだでしょ」
「それは温かい物を食べたからじゃないかな。でも……、確かに暖まりはしたかな。いつもの食事とは違った、ような気がする」
言葉では言い表しづらい感覚が胸の内に残っている。
美味しさと満腹から来る満足とは違うような、違わないような曖昧な気持ちだ。
幸せなのに心なしか
考えれば考えるほど、ただの食糧に過ぎないだろうになんて無粋なことを思う。
「アキホ、凄く料理おいしかった。久々にお腹いっぱいになれて満足できた」
ちーちゃんは無愛想ではあるが、彼女なりにアキホへ感謝の気持ちを送った。
この言葉にアキホは心底喜び、笑顔で言葉を返した。
「本当?それなら良かったわ。実は他の人に振舞うなんて初めてのことだから、味が大丈夫なのか心配だったのよ」
「本当においしかったから、もっと自信を持っていいと私は思う。けど、こんなに私達ばかり食べて良かったのか?はっきり言って何も礼なんて返せないし、食糧が貴重なのはアキホも同じことだろ」
「そうね…。備蓄されている食糧は決して多くないわ。でも、いいのよ。ここにいるのも私が望んだことで、これが私の幸せだったから」
「幸せ、か……。不思議だ」
ちーちゃんは目を伏せ、素直に気持ちの内側を言葉にして呟いた。
アキホは強調して言っているぐらいだから、本気で本人は幸せだと思っているのだろう。
それでも、やはりちーちゃんには理解できない幸せの感じ方な気がした。
だからこそ、彼女は不思議だと口にしてしまったのだ。
それから彼女達はアキホが手作りした固形食料と水を貰い、何だか暖かく感じられる雪景色の外へと出てケッテンクラートに乗り込んだ。
当然ちーちゃんは運転席で、ユーは定位置の後部にある荷台だ。
アキホとの別れの挨拶はほどほどにして、彼女に見送られながら少女達は車を走らせ始める。
「ユー。アキホの料理、おいしかったな」
まだ感動が残っていて、改めてちーちゃんは話題に出した。
しかしユーから返ってくる言葉は、少し生返事だった。
「んー…」
「なんだ?一番騒いでいた癖に、満腹になったらノスタルジックになるんだな。今度は眠いのか?」
「いや…あのさ、ちーちゃん。私、建物から外へ食糧を運ぶのを手伝っていたでしょ?」
「そうだな。お前に荷台の整理なんて任せられないから、整理と管理は私の役目みたいなものだ」
「うん。それで運び終わった後に建物の中を覗いてみたんだけど、他の食糧が見当たらなかったんだよね」
「……どういうことだ?」
意味が分からないが率直の感想で、ちーちゃんは訊き返す形になっていた。
この疑問にユーはありのままに答える。
「どういう事というか、そのまま。なんか残っていた食糧全部を貰った気がするんだよね」
「そんなことないだろ。きっと他に保管している場所があるはずだよ。栽培しているとも言っていたし」
「そうかなー。それでも貰い過ぎなくらいだし、アキホって人は何か満足していた顔だったんだよね。何も食べていなくて、本当は空腹だっただろうにさ」
「何も食べていない……、か。………アキホがどういうつもりで親切にしてきたのか分からないけど、本人は他の人に手料理を食べて貰うのが幸せだと言っていたんだ。それが彼女にとって一番の目的だったなら、もう料理を作る意味が無いんだろうな。おそらく…」
「ふーん。変なのー」
「お前にだけは言われたく無いんじゃないかな。でも正直、変なのというのは私も少し………、ほんの少しだけ同意するよ」
あの後、アキホがどうしたのか、ちーちゃんは深く考えずに車を進めることにした。
仮に全ての食糧を差し出しているのなら、アキホは当然の末路を辿るに違いない。
それが幸せなのか、本当に不思議だ。
想いに
「息がおいしい匂いする……。幸せだ」
一体何が幸せなのか、ちーちゃんには一番意味不明だった。
雪の世界にて。
ユーリ「ちーちゃん、運転って楽しい?」
チト「楽しいとかそういうのは無いから、あえて言うなら普通だな。わざわざ言葉にする感想はない」
ユーリ「そう。でも、ちーちゃんが運転している後ろ姿ってカッコイイよ。すごくいい」
チト「なんだ、ユー。いきなりだな」
ユーリ「いやいや、私は前から思っていたんだよ。ちーちゃんの後ろ姿はカッコイイ。とてもね」
チト「……言っておくけど、おだてられても食事にしようなんて言い出さないからな」
ユーリ「うーん、別に下心なんて無いんだけどなぁ。あとさ、ちーちゃんの顔って可愛いよね」
チト「ば、馬鹿っ…!本当にどうしたんだ、ユー」
ユーリ「ん…、もしかして耳赤くなってる?寒いの?」
チト「寒くなってない!…い、いや寒いから赤くなっているだけだ!」
ユーリ「おぉ…、大声だ……。まぁ寒いなら暖めてあげるよ。ほら、私は体温が高いから、おいで」
チト「今はいい!その、今は変に意識しそうだからな……。それと、もう変に褒めるのは禁止だ!」
ユーリ「不条理だなぁ。ま、いっか。そういう所も可愛いから」
チト「うぅうぅ…!!」
ユーリ「ちょっ…、運転が荒いよ、ちーちゃん。いつもより凄くスピード出てるし、よく分からないけど落ち着きなよー。ちゃんと後で暖めてあげるからさー」
チト「遠慮する!!!」
このあと、メチャクチャ暖め合ったりしたかもしれない。