月日が経ち、最前線である44層のフィールドで1人背丈以上ものハンマーを振り回しモンスターを薙ぎ倒していくプレイヤーが居た。その目は何かを目指して、ただひたすらに我武者羅に突き進んでいくような錯覚を与える。
「しぃっ!」
背丈以上ものハンマーを
最後に残った8体の植物系モンスターを倒しきると、ファンファーレと共にデウスの目の前にレベルアップを知らせる画面が現れる。上昇したのは計560以上の数に見合わない1レベルのみ。それでもデウスは漸くといった様子で1つの安堵を覚えていた。
「(黎斗さんからゲーマドライバーのデータは貰った。今ので僕の使えるガシャットも増えた……これなら)」
『……本当に呆れるな、この異常な行動力は──っ!』
「ッ!?」
デウスの体が一瞬仰け反るが、すぐに体勢を元に戻してハンマーを仕舞う。表に出ているのはデウスではなくゲムデウスであるので何とかこの仮装体を保てているのだが、操作するのは傷付いた体である故に多少補強しなければすぐにでも崩れそうである。
「“ソルティ”────全く、この身体強化を使わねば敵と戦うどころか、帰路にも着けんとはな」
『──ごめん、いつも迷惑かけて』
「自覚があるなら気を付けてほしいものだがな」
『うん──』
「何か不満か?……まぁ宿主の考えも分からんでもない、心境を知らないという訳でもない。だが些か度が過ぎる、自分を労われ宿主」
『────終わったらね』
「ハァ……もう良い、帰るぞ」
ゲムデウスが夜のフィールドを横断し、主街区まで歩く。転移結晶なり何なり使えばすぐに終わるが、デウスが使用することを渋るのでゲムデウスとて無理に使おうとは考えなかった。
夜遅く、午前2時ぐらいになってゲムデウスが帰宅する。まだ部屋に着くまではゲムデウスが身体強化で補強しなければ体が思うように動かないので、その提案にデウスは甘えて、体がベッドに着いた途端眠ってしまっていた。
そして気が付けば午前11時という時刻にまで迫っていた。やり過ぎたと過去を思い出してほんの少し後悔するも、先ずは診療所の方をしようと体を動かす。戦闘によって節々や身体機能の一部が悲鳴を上げているが、自分のことより他人の方を優先するデウス。
多少の無茶が効く体とはいえ、限度というものだってある筈なのに……全く体の不調に対して見向きしようともしない。1階の診療室に赴こうとすると、既に起床していたユウキとラン、ヒースクリフがリビングに居た。というより待ち構えていたといった方が良いのだろうか。
「随分と遅かったじゃないか、デウス君」
「先輩……おはようございます」
「おはよ、先生!」
「おはようございます」
「…………うん。まぁそれより──通りたいんだけど」
「「「 ダメだ/だよ/です 」」」
「…………うん?」
そう言うやいなや、デウスの両腕にユウキとランが組み付きヒースクリフが背後へと移動して逃げ道を失わせる。何やら逃れられそうにないと思うのも束の間、ユウキとランに連行されて用意していたソファに座らされる。一体自分をどうするのだろうかと疑問に思ったが、目の前の3人はにこやかな笑みから一転し真剣な表情へと変わった。
「デウス君、何か私達に隠していることがあるんじゃないのかい?」
「────隠し事……ですか?」
「しらばっくれてもダメ。最近先生、夜に出かけてるでしょ?」
「何の事かな? これでも23時には寝てるんだけど」
「ユイちゃんが寝ぼけて降りてた時に、玄関の方に先生が居るのを目撃しています」
「…………見間違い、っていう訳じゃないのかな? ほら、夜暗くて誰だか分からないし」
「台所からこっそりと覗いていたアスナさんの証言もありますよ」
「あら〜?」
デウスは完全に追い詰められた。というよりも先程の反応で確かなものとなってしまったので墓穴を掘ったとも言える。そんな反応を見せたデウスに、追撃と謂わんばかりの口撃が繰り出されていく。
「夜中にレベル上げなんて感心はしないがね。だがまぁ、デウス君は何も考えずに無謀な真似はしないと分かってはいるんだが」
「あ、それって前言ってたガシャットのレベル制限ってヤツだったよね。先生のレベルって今は……」
「────あぁ、もう。わかった、わかりました。僕の負けです」
「「「宜しい」」」
デウス個人は“ちっとも宜しくないのだけど”、と内心毒づくものの逃れられないので自身のステータスを可視化モードにして3人に見せた。
画面にはレベル50、にも関わらず50よりも遥かに上のステータスが映し出されている。そもそもレベル1の時点でレベル35相当のステータスであったのだから、成長しても加算されていくのは別に不思議なことではない。
だがこのステータスの異常性は、既に攻略組トップに君臨することの出来るものだ。このステータスであれば、本来なら70層以上まで通用する。だがそんなステータス任せで進んでいけば、クロノスによる妨害工作も介入する可能性とてある。
しかしながらデウスには、このレベルにまで
「そうですよ────僕の使用するガシャットは全てレベルが高いもの。自分のレベルを上げなきゃ使う事さえ危うくなるものですから」
「……確かに先生のレベルは他のプレイヤーよりも上昇率が著しく低いですけど、それでもステータスの強さがある。仮面ライダーには今のところ私とユウキ、それにリーゼさんが変身できますし、Mさんだって居るんですよ?」
「足でまといには成りたくなかっただけだよ。それに、医者は患者や他人のために精力的に尽くすのが使命だしね」
「本当は
「────絶対分かってて質問しましたね、先輩」
「当たり前だ。あんな様子になった彼女を、私とて今まで見たことがない。そんな状態になっている彼女を放っては置けないのは予想できた」
ため息のようなものを1つ吐き、ヒースクリフはデウスに訊ねた。
「何故、私達を頼ろうとしない?」
「────」
「私達とて力になれることだってある筈だ。それこそ、暴走している彼女を止めてくれ。ということも言えた筈だ」
「──────」
「付き合いは君と彼女の2人と比べては、私と君の関係は短いのかもしれない。だが1人で抱え込んでしまうほど、私という人間との関係は信用できないか?」
「───────ホンット、先輩には敵わないなぁ」
疲れた様子となってソファにもたれ掛かるデウス。その様子をただ伺う3人であったが、デウスの口からポツリポツリと発せられる言葉に耳を傾ける。
「先ず、巻き込ませることに罪悪感がありました。
昔っからこうでした。怪我した時も、小さな交通事故にあった時も、誰からも迷惑をかけないように。
まぁ結局、両親にバレるか自分で告白する結果になるんですけどね。ははっ…………。
先輩のこと、信用してない訳じゃありませんよ。
寧ろ逆で、先輩の手を煩わせたくなかった。それは何者であろうとも……僕自身で解決しなければならないと躍起になってました」
「でと、こうなって秘密や胸の内を話していることってさ……先生がやっと助けを求めてるってことだよね」
「────助け、か。あってるかもね……」
「かも、じゃなくて“あってる”んですよ。先生」
「──そうだね。ッあぁ〜!何か話したらスッキリしてきたなぁ……!」
「ふむ、それならば良い。どれ、たまにはレベル上げから離れてラーメン屋でも」
「ラーメン擬きですよね、あれ。それと担々麺が無かったのは辛かったです」
「意外に君、辛党なのか」
「以外〜」
「僕だって辛いもの食べてテンション上げたくなりますよ。最近アスナちゃんと作るホットサンドが唯一辛いものですし……やっぱり激辛ラーメン作ろっかな?」
「臭いがキツそうだな」
「そりゃあ、辛いものなんですから当たりまe」
突如会話の横槍として、デウスにメッセージが届く。差出人はキリトとあり、何事かと思って開けば……デウスの表情が一変して驚愕の表情となり、すぐに画面を閉じて外に出ようとする。
「ちょっと、先生!? どうしたんですか急に!?」
ランが声を荒らげて止めた。すぐにデウスはその場に留まり、3人に告げた。
「リーゼが────1人でエリアボスに挑んでいると」
何を馬鹿なことをしているのだろうかと、この場に居たら問い詰めてしまうことを告げられた3人は、すぐに顔を見合わせて準備を始めた。
「デウス君、君は先に。後から私達も行く」
「分かりました」
3人にお辞儀すると、デウスはギルドホームから飛び出していく。全ては何を馬鹿なことをしているのかと、恋人に問いただして…………その後、
……短くなったなぁ(´・ω・`)