ゼロ達が40層に到着した途端、低い場所から小さな腹の虫が鳴った。4人全員がユイの方を見てみると、ほんのり頬を赤く染めて照れていたユイの姿があった。様々な心境などを考えず
「ぁぅ…………」
「……そういや、昼飯まだだったわな」
「もうそんな時間だったのね……ねぇ、2人もどうかしら?一緒に」
「それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらおっか、えーくん」
「ちょっ、まっ!ユナ、それは不味いって!」
「おーう、お惚気ごっそさん。先行っとくぜー」
「の、惚気じゃない!」
「えーくん……私のこと、きらい?」
「えぇっ──あー……何でそうなるのかなぁ?」
ゼロはシノンとユイを先に連れて適当なレストランへと向かい、それをユナとノーチラスが追いかけるの構図が出来上がっていた。ゼロとシノンに付いているユイは駆け足ながらも2人の歩幅に合わせながら、ゼロの顔を見ていた。
その視線に気付いたゼロは、ユイを見る。少女であるが故に体格差などを考慮せず歩き続けていたゼロは少しだけ後悔すると、足を止めてユイの目線に合わせるようにしゃがんだ。
「……ユイ、つったっけか?」
「……うん」
「……背中、乗るか?俺らと合わせてると疲れるだろ」
「……良いの?」
「良いぞ」
「ん…………」
「ほれ」
ゼロはユイに背中を向けると、両手を後ろに回す。ユイは自分よりも大きなゼロの背中に乗り、自分の目線が高くなっていく様子に新しい発見をした無邪気な子どもの反応を示した。
ゼロも17歳になる。あのメンバーの中で未成年ではバダンしか同じ歳の
そのキラキラとした目が、今のゼロには眩しく見えていた。こんな無邪気な、それでいて初々しい反応をこの世界に来てから感じなくなっていたゼロにとっては。この世界から抜け出すために多くのプレイヤーの“希望”となってきた1つの責任の重さが、無意識に苦しめていた。
それにゼロは気付いていない。自分では分からないのが1つだけあるとすれば、それは意外にも自分自身の心であるのだが、ゼロは今そんな状況に陥っていた。だからこそ気付ける存在が必要であった。
だが気付ける存在がいたとしても、人数が少ない。それでいて、1人はウルトラマンを知りウルトラマンとしての宿命を教えられた。1人は仮面ライダーとして活躍し、この世界から人々を救うことを厭わない。ウルトラマンとなったゼロはその身を犠牲にしても戦うことを知らず、またウルトラマンとしての宿命も理解していなかった。
ウルトラマンであることがゼロの苦しみとなり、その苦しみを表に出させたのがあの時の出来事であった。悔やんでも悔やみきれない辛さがゼロに無力さを痛感させていた。
そんな時、地面が揺れた。轟音を立てながら主街区が揺れる異常性に全員恐怖へと駆られる。そしてその轟音の正体を、ゼロは知っていた。
「ッ────!まさか……」
「──ゼロ?」
「シノン、ユイを頼む!」
「って、ちょっと!」
ゼロはユイを降ろしシノンにバトンタッチすると、2人から離れていく。向かうは主街区とフィールドの出入口であり、その門から見えるものに対して、ゼロは【Planet ark】を操作する。
「ォオオオオオオオオ!」
ウルトラマンへと変身し、50m近くにまで巨大化したゼロは不意打ち気味に顎へのアッパーカットを【Beast the one】へと振るう。だがその拳を払いのけたザ・ワンは尻尾の攻撃で横へと吹き飛ばす。
「デュオッ!?」
「『馬鹿が!2度も同じ手が通じる訳ねぇだろ!』」
受身を取ったウルトラマンは怒りを顕にするかの如く、両拳に赤黒い炎のようなものを纏わせるとザ・ワンに接近して穿つようにして殴りつける。
「デュアッ!」
「『ごぉッ!?』」
「ジュオッ!」
「『ゴアッ!?』」
「デュオアアアッ!」
「『ガッ!……貴様ァ!』」
拳の3連撃がザ・ワンの腹部と顔面に当たると、威力の高さに堪えて苦痛の声を上げた。だがすぐに反撃の準備へと取り掛かるザ・ワンは、その場で超音波にも似た音を出した。
その音に耳を塞ぐウルトラマンや他のプレイヤー達。しかしその音に集まるようにして他のモンスターがザ・ワンへと集っていく。集まっていく全てのモンスターは、
やがてザ・ワンの体に集まった飛行系のモンスターは、ザ・ワンの体内へと入り込む。やがてザ・ワンの体が青く光り始めたかと思うと、その姿が変わり始めた。
肩の顔が鼠から鳥へと変わり、ザ・ワンの背中に翼が生えた。その音が聞こえなくなると、ザ・ワンは生えた翼を羽ばたかせて飛び立つ。その風圧は今のウルトラマンでも耐えるのが精一杯であった。
ザ・ワンが空へと飛び立つと、ウルトラマンに青いエネルギー弾を何度も放つ。一方的な攻撃になりつつも、頭にある2つのスラッガーを投げ付けるも弾き落とされる始末。それによりウルトラマンは攻撃をくらい続け、ついに胸のタイマーが鳴り、点滅を始めた。
その点滅速度と音も次第に早くなっていき、ウルトラマンの両手にあった赤黒い炎は消えつつあった。
「『コイツで…………トドメだァ!』」
「!デュァア!」
口からの青いエネルギー弾がウルトラマンに直撃し、主街区方面へと倒れていく。だが背中に当たる前に変身が解除され、街は壊されずに済んだ。しかしザ・ワンの脅威はまだ去っていなかった。
「『これで漸く……人間どもを絶望に叩き落とせられる!滅びろォ!』」
フィールドに降り立ったザ・ワンは、その巨体で地面を揺らしフィールドに居るプレイヤー達の脅威となっていた。その脅威は何れ、この主街区にもやって来る。
変身を解除されたゼロは、体の痛みによって充分に動けない状態にあった。それでも何とか体を起こそうとしては、腕の力が抜けて地面に伏せることになってしまう。
「ッ────!くそ、がっ!動け……動きやがれ!」
そう願っても、ゼロの体は疲弊し過ぎて体を起こすことも難しくなっていた。体に鞭打とうが、その肉体拒否していた。
「ゼロー!どこに居るのー!?」
「シノン──ッ、不味い……!」
また起き上がろうとするが、立てない。シノンは辺りを探していくと、左の路地裏らしき場所に倒れているゼロを付いてきた
「!あっち!」
「っ、ゼロッ!」
ゼロの元まで駆け寄ると、シノンは肩を借しゼロを支えようとする。STRの低さが仇となっていたが、そんなことお構い無しにゼロを助けようと必死になっている。
「しっかり……して!大丈夫!?」
「あぁ……俺は、平気だ。ってか、お前ら何で……?」
「ゼロが勝手にどっか行くからでしょ!早く……ここから逃げないと!いつあの化け物がここに来るのか分からないのに……!」
「悪いシノン、ちょっと用事が終わってねぇんだわ」
「っ、こんな時に何を言って────!」
ゼロは左手に握られた【Planet ark】の感触を確かめて、シノンの支えを手放しフィールドへと向かおうとする。だがその足取りは重く、すぐにシノンにとめられてしまった。
「ちょっと…………、ゼロ!そんな体でフィールドに行こうとしないで!あの化け物がここに来る前に早く!」
「──それじゃあ、アイツを倒すのは……誰になるんだよ?」
「倒すって……ゼロ、貴方何を────」
シノンは視線を下げて、ゼロの握っていた【Planet ark】を見てしまった。まさかと思い、シノンは驚愕の表情を浮かべゼロに訊いた。
「ゼロ──まさか……それって…………!」
「──分かったんなら、そこを退け。アイツを……っ、倒さなきゃ……いけねぇんだよ…………!」
ゼロは足を引きずる様子を見せながら、シノンを無視して行こうとした。だが今度はゼロの脚にユイが抱きついて止めた。
「──ユイ、離せ。俺がアイツを」
「ダメ!いっちゃヤダ!」
「ッ─────!お前…………!」
「しんじゃうのやだー!」
「アイツを止めなきゃいけねぇのは!俺しか居ねぇんだよ!ユイ!」
「ひっ───」
急に発せられた怒声がユイに小さな悲鳴を挙げさせた。その怯えた姿を見てまた後悔したゼロは、すぐに顔を俯かせて左手の【Planet ark】を握る力を増やす。
「アイツの暴虐を止められんのは、俺しか居ねぇんだよ……同じ大きさになって、アイツと同等の力を持ってる俺じゃなきゃ、絶対にアイツは止められねぇんだよ……」
「ゼロ……貴方は…………」
「だから────アイツは俺が、絶対に……殺す!完膚なきまでに叩きのめして、アイツを────」
不意にゼロの両頬に暖かみが伝わる。その暖かみは、シノンの手の暖かさであった。そしてそのシノンは、愛おしそうにゼロの頬を撫でながら───
「ゼロ…………貴方が気負う必要は、ないのよ」
バダンやデウスの言葉を否定した。その言葉はゼロの心に響いてはいなくとも、それでもとシノンは言葉を綴っていく。
「貴方は、そんな重荷に囚われなくて良いのよ。ゼロ。
それに……私は今の貴方に、戦ってほしくない。
ましてや、今の貴方に、あの化け物に勝てるなんて思わない」
「──ッ!じゃあ、どうすりゃあ良いんだよ!?今アイツを止められるのは俺だけなんだよ!仮面ライダーでも無理なアイツを、俺しか止められるのが居ねぇアイツを、野放しにしろってのか!?ふざけんなよシノン!」
「貴方こそふざけないで!ゼロ!」
「ッ────!?」
「貴方が今までどんなに辛かったのか、どんな思いで戦ってきたのかは分かった。確かに貴方しか、あの化け物を倒せるのは居ないのかもしれない。
けど!アイツと戦って、貴方が死んでしまうことだってあるでしょ!貴方が死ぬことは……私が耐えられないのよ…………!
父親を亡くして……お母さんを亡くしそうになった時、貴方が救ってくれた!もしかしたら、あそこで私の運命が違う物に、私があの殺人犯を殺そうとしてたかもしれない!私を救ってくれた貴方が居なかったら!
でも今!貴方は自ら死にに行こうとしてる!
…………それだけは、嫌なのよ。
貴方が死んだら、私は…………!もう、生きる力が持てない…………!」
「シノン…………お前…………」
話している途中で、シノンは涙を流していた。怖さがあった。例えそれが、この世界を滅ぼす結果となろうとも、
「お願いだから……!貴方は、戦わなくても良いの……!」
こんなシノンを見るのは、初めてだった。どうすれば良いのか悩みに悩んだゼロであったが、体は無意識にシノンを抱きしめていた。ゼロはシノンの耳元で、本音を語り始めた。
「──サチが、死んだだろ」
「──うん」
「──あの時、俺がヘマしたせいで……俺のせいで死んだんだよ。サチは」
「サチなら、そんなこと絶対に言わない」
「──辛かった。苦しかった……誰にも話せないのが、しんどくて…………!」
「もう、背負わなくて良いのよ」
「もしかしたら、また俺のせいで殺してしまいそうで……怖かったんだ…………!でも、アイツだけは俺が……倒さなきゃ…………!」
「────そっか。でもゼロ、もう無理はしないで」
「……あぁ」
「必ず、帰ってきて。無事で」
「っ…………あぁ……!約束する……必ず…………!」
暴虐の限りを尽くす【Beast the one】の居るフィールドに、そんな死地へと赴く真似をするバカが居た。けれどその表情は、自ら死にに行こうとする表情ではなかった。
必ず倒して、戻ってくるための決意をした顔であった。
「──シノンには助けられたな、随分と」
左手の【Planet ark】が鼓動するように光を発する。それを見て1つ頷いたゼロは、胸に近付けて目を瞑りながら誓う。
「もう、誰かを死なせるのもごめんだ。
誰かが死んでいくのだけはごめんだ。
だからよ、もう一度力を貸してくれるか?
俺が、俺であって、ウルトラマンであるために」
────乗り越えたか、光の子よ。
────ならば、この力を貸そう。共に、倒すぞ。
「あぁ…………行くぞ!」
〔名称変更。変身シークエンス起動します〕
ゼロは【Planet ark】の上部を回転させてボタンを出現させると、掲げてボタンを押した。先端から100万Wのような眩い光が辺りに包まれる。
〔【ウルトラマンラーク】起動します〕
光が広がり、そして消えていく。だがそこには新たな光が待っていた。