ウルトラマンとしての零治君の在り方とは。
第40層にまで攻略が進んでいく攻略組。その背景にはユウキの発見と攻略組への返り咲きが大きかったりもしている。当のユウキは参戦していたリーゼに驚いて、攻略組の反応を一々確認していなかった。
そしてユウキが戦線復帰したことで、ランもまた戦線へと復帰した。その活躍ぶりはユウキが失踪する前よりも凄味があったといえる。時折ランがユウキに抱きついていく場面を見て一部のプレイヤーがタワーを作っていたが、それは別の話し。
そんな中唯一自身の秘密をバラしてはならない状況で、尚且つ自らの過ちによってサチを殺してしまったゼロ。未だに自責の念によって追い詰められている最中、何を思ったのかシノンがギルドホームのある22層を巡ろうと誘った。というより強制して付き添わせた。
ゼロ自身気分転換がしたかった、ということはない。自分みたいなのが外に出て危害を加えてしまったならば、それこそ多くの犠牲者が出てしまう恐れがあったからだ。これがゼロに課せられた1つの壁、ウルトラマンという存在として今を生きるゼロの
2人は巡り終わって、22層の主街区の転移門前まで来ていた。シノンが様々な場所を案内し終えたところで、提案された。
「ゼロ、久々に2人で攻略……行く気はないかしら?」
「攻略……か」
暫く思案するゼロ。何かしら思うところでもあったのだろうかと疑問に思って首を傾げるシノンだったが、溜め息のような息を1つ吐くとゼロはシノンの方を見て答える。
「──行くか、久々にな」
しかし、シノンはゼロの覇気の無さに疑問を抱いた。
ゼロは攻略へと向かう際に、胸に手を当てて眉を
そうして現段階で最上層の第40層に到着し、そのまま迷宮区へと入ったゼロとシノンであったが少々トラブルが起きた。『ノーチラス』と名乗るプレイヤーが助けを求め、ユニークスキルによって身体能力が強化されているゼロが向かい『ユナ』というプレイヤーと1人の少女を救ったという出来事。
ゼロはノーチラスの助けを聞いた瞬間、彼が示した部屋へとすぐさま突入して2人を連れてモンスターの群れから離脱した。戦うのではなく、離脱という選択肢を選んだのだ。
シノンは益々訳が分からなくなっていった。シノンが見ていた普段のゼロは、もっと好戦的で、バカで、明るくて────あの時の“朝田詩乃”という少女にとっての光そのものであった。希望であったのだ。
だが今はどうだ。希望とは言い難い、不安を抱えた姿が今のゼロにあった。そんなシノンの考えは、徐々に1つに纏まっていく。
「───だいじょうぶ?」
「…………っ、何かしら?」
「おねえさん、おかおがこわかったから……」
しまった、と内心毒つく。今は他にもプレイヤーが居るのに、ましてや小さな子どもまで居るのにも関わらずゼロのことに意識を集中させすぎた。当のゼロはノーチラスと話しをしているみたいだ、その内容が何なのかはシノンは知りえなかったが。
「強くなる方法……か?」
「教えてほしいんだ。僕はどうしても、それが知りたい」
ノーチラスとゼロは、どうすれば強くなれるのかという議題のもと話し合っていた。なんでも、ノーチラスはモンスターと戦闘しようとして体が動かなくなったと、ゼロが聞いたことも無い状態にあることを聞かされた。
あの時ノーチラスはユナを救おうとした。だが体が、手が、剣が──ピクリとも動こうとしなかった。そんな時、助けを呼んだゼロの活躍が、自分にも出来ればと心底後悔していたらしい。
だからこそ強くなりたい。モンスターに立ち向かえるほどの強さを持って、ユナを守りたいと願いゼロに聞いた。何か強くなる方法を持っているのか、ただそれだけを聞くために。
「────俺が知りてぇよ、そんなもん」
「えっ────?」
返ってきたのは予想外の答えであった。ゼロは虚ろな目で上を見上げて何かを堪えているようにして、握り拳を作る。
「俺だってな…………守りてぇモンを、守れなかった──いや、違うな。俺が殺したといっても良いぐらいだ」
「それは……何で…………?」
「あん時、俺がヘマしなけりゃ……アイツは生きていたのに。
あん時、俺がアイツをキチンと守ってやれば──死なずに済んだ筈なのに。
あん時、それが全く出来なかった。
守りたいものを、守れなかった。
それどころか、俺は奪ってったんだよ。人の命を。
それ以来、俺は俺自身が怖くなった。
もしまた俺のせいで死んでしまうことがあるのなら、そん時俺は……もう耐えられそうにないんだよ──」
ノーチラスは不謹慎だと思われることを覚悟しながらも、あの時の
もしもあの時、助けが居なかったら。もしもあの時、その場から動くことさえ出来なかったらと──そう思いつめて、ゼロの体験してきたことを頭の中で整理する。そうすると、ノーチラスも同じように心が痛んだ。
「だから悪いがよ、俺からは何にも教えてやれねぇ。
俺でさえも知りたいことなんだからよ」
そういって迷宮区から抜け出していく5人組、しかしその内の2人──ゼロとノーチラスは頭の中が霞みがかっていた。
漸く纏まった時間が出来たことで、ギルドホームの1室。デウスの部屋でストレアとヒースクリフ、Mとデウス本人が集まっていた。この集まりでの会話といえば──最早1つしかない。
「先輩、話しをしてもらえませんか。このストレアという【MHCP】について。そして、他の同じプログラムのことも」
「…………檀黎斗、彼には頭が上がりそうにないな」
ヒースクリフが鼻で息を吐いて1つ間を置くと目を瞑り、暫くして目を開いて話し始めた。
「先ずはこの彼女の説明からといこうか。彼女は──」
「MHCP制作番号2、名称【ストレア】 2番目に作られたプログラムだよ、よろしくね」
「うん、宜しくストレア」
「彼女の説明はこれで良いとして──次の問いだが、恐らく他にも何処かに居るはずだ。しかしバラバラになってしまった以上、誰が何処の層に居るのかは皆目検討もつかない。
が、名前なら覚えている。私が最初に作り出したプログラムの名は──────『ユイ』」
「ユイ……それがストレアの、いえストレア達のプロトタイプですか」
「少々予測が入るが、ユイだけはエラー蓄積量も多く何かしら機能していない可能性かあると考えている。もしも私達が見つけ出す前に消されでもしたら」
それだけは絶対に避けなければならないことだと、既に分かりきっている。ある意味、心のケアを行うシステムを消してしまえば……この精神状態の安定していない者達にとっては後々大きな痛手になるのだから。
話しが1通り終わって、ヒースクリフとストレアが退室していく。残っているのはMとデウスのみ。こうして2人して残っているのは、デウスがMと2人だけで話しがしたかったからだそうだ。
「それで、僕に話って?」
「…………Mさんにしか、言えないことです。ジャンルは違えども、同じ医者として、貴方に」
おもむろにデウスはアイテム欄から投げナイフを取り出す。何をしているのかとMは少々嫌な予感が頭を過ぎったのだが、それは正解であった。
勢いよく、デウスが自分の腕に投げナイフを差し込む。
「ぐっ!ッ────!ぎっ──!」
「何をしてるんですか!?」
Mが取り除こうとするが、それより先にデウスが抜き取る。苦痛の表情となって顔を歪ませているデウスであったが、息をすぐさま整えて何とかゆっくりとした呼吸が出来るまでに落ち着いた。
「ハァ───!ハァ───!ハッ──ハッ……っ、Mさん。
どうやら僕、この世界でも痛みがあるみたいです」
「!?……それって、まさかゲムデウスウィルスの……!」
「恐らくは……それと、これの影響でこの仮想の肉体も、ガタが来ているみたいで……」
「何でそれをもっと早く────!」
「こんな非常事態に……僕のことを言える機会が、無かったってだけです。漸く伝えることが出来た……今、この時に」
デウスの呼吸が漸く落ち着きを取り戻した。苦痛の表情に変わりはなかったが、これで多少なりと重荷は誰かに話せてスッキリした。
「出来ればですが、Mさん。僕の状態を、外見──他者の目から見た状態を伝えてほしいんです。まぁ、診察となんら変わりませんよ」
「──本当に、貴方は……!こんなになるまで、黙っているんですか……!手遅れになるかもしれない……そんな状態なのに…………!」
「何かを成すには、犠牲が居る。
だったら、その犠牲は自分で良い。
それが僕の、たった1つの思いですから」
次回、ゼロ君wake upします。