2023年5月17日。今日この日、遂に……!
「ホームゥ…………きたああああああああああ!」
「長かった……!漸く、漸く広々とした部屋が使える!」
「おっしゃあ!今日はとことんまで飲むぞォ!」
「「「「いよっしゃあ!」」」」
「何だこれ?」
「男の子の……テンション?」
「まぁた何かやってると思ったら……」
「たまには良いと思うがな」
この月夜の黒猫団のホームで仕切っているのは何故かゼロ、そしてここに集まったのは月夜の黒猫団メンバーとゼロ、キリト、バダン、そしてシノンの4人。シノンがここに居る理由、ただ単に3人が何をしているのか見てきたというだけ。
本音はゼロの姿が見えなかったのでゼロを捜しに来ただけなのだが。見てきてみればこの有様、紅一点のサチを置いてけぼりにして男だけで盛り上がっているではないか。そしてシノンはサチに様々な意味で注意の対象として見ているのは誰も知らない。
まぁたまには、こんな空気も悪くない。ここ最近ピリピリしていたりドンよりとした空気感が何とも面倒だと思っているシノンは、この月夜の黒猫団から垣間見える和やかな雰囲気を味わっていた。
ゼロの破天荒ぶりに思わずサチとキリトが苦笑する場面も見受けられたりと、あの場よりかは明るかった。それがホッとしていて……気が付けば午前0時を回っていた。酒……を模した
「ほらゼロ、もう帰った方が良い時間よ」
「おぁ?…………おっとこりゃ不味い、わりぃなお前ら。俺ら帰るわ」
「オッケー、じゃあな」
「おやすみー」
「失礼する」
「ふぁ…………ねむっ」
こうして1行は22層のギルドホームへと帰って行った。暫くしてギルドホームに到着すると、静かにこっそりと中へと入り、それぞれの部屋で眠りに向かった。
そのゼロ達が部屋に入った時、診察室になっている部屋の椅子で座りながら眠っていたデウスが目を覚ました。時間を見れば午前0時過ぎ、しかも眠気が中途半端に無くなっているので、デウスは台所へと向かい蛇口を捻って水を出して顔を洗う。
洗い終わった水はポタポタと下へと落ちていき、やがてポリゴンへと変わっていく。その様子をずっと見ていたデウスは、顔を上げてまた診察室へと戻っていく。だが足元が
そんな時、後ろから手を引っ張られて無理やり姿勢を元に戻される。ふらつきながらも後ろの人物にぶつかると謝りながら振り向く。
「ご、ごめんなさい。急に…………って、優美……」
「……明、大丈夫?」
ここ最近時間を作っていない2人、プライベートな会話はこれが久しく思えてくる。心配そうに見つめる
「眠れなかった?」
「ううん、違うよ」
「だったら……用事済ませたら、早く寝てね。僕は……まだあの子の傍にいて様子を見なきゃ」
「……明、無理してる。明こそ、ちゃんと寝ないと」
「分かってるよ。僕なら……ちゃんとしてますから」
別れる前にリーゼを少しだけ抱きしめるデウスは、少しだけ穏やかな表情を取り戻して一言だけ言って診察室へと帰って行く。ただ、その時のデウスの感情を、リーゼだけは何故か
辛い、苦しい。でも、デウスにはやらなきゃならないことが一杯ある。自分の身を削ってまでも、やらなければならないことがたくさん。
後日、何故かゼロだけがサチにお呼ばれしていた。18層のフィールドで捜索と偽って
「そこ!スイッチ!」
「うん!やぁあああ!」
槍SS【トリプル・スラスト】を発動させ、突属性の攻撃が効きにくい敵モブを最後の一刺しで倒した。ふぅ、と一息吐くゼロとサチは、お互いを見やって笑った。笑って、2人が少しだけ収まると、サチから話していく。
「ははっ、何でこんなに笑っちゃうんだろ?」
「さぁねぇ?俺が知りたいわ」
「そっか。……ねぇ、ゼロ」
「んぁ?どしたよ」
「…………ううん。ただ、改めて凄いなって思って」
「俺がか?」
「だってあの時、ハーモニカを吹いて皆を落ち着かせたでしょ?あの音色、綺麗だったのよーく覚えてるから」
「あぁ……まぁ、あれはバダンのギターか無かったら出来ねぇ音だぜ。俺なんぞバカみてぇに突っ走ってるだけだわ」
「あ、バカだって自覚はあったんだ」
「そうそう俺ってホントバカ……っておい!」
和やかな雰囲気に包み込まれて、サチとゼロはまた笑いだした。この殺伐とした世界で和やかな空気になっている2人の間は、誰もが見ているだけで気持ちのいい物になっていた。しかし気になることが1つだけ、ゼロはそれを聞いてみた。
「なぁサチ」
「ん?何かな」
「あのさぁ……お前は何で俺に頼んで、態々レベリングに?生産職はどうしたよ?」
「…………聞きたい?」
「……んまぁ、な」
勿体ぶっている様子でサチがどうしようかと悩んでいる様子を見せる。やがて暫くして漸く決めたのか、サチは笑顔でゼロを見て一言。
「なーいしょっ!」
「んだよそれ……」
困惑したゼロの表情を見て、益々和やかになるサチ。出来ることならば、この時間を少しでも味わいたいと願っていた。そう、願っていた。
突如地面が大きく揺れだし、バランスを保つのが難しくなっていく。サチやゼロ、その他のプレイヤーも同じような状態に陥っている中、ゼロは1人空を見た。
それは1度戦いながらも、撤退していった
目の前に怪獣が現れると、人が見ていないのを確認すると【Planet ark】を取り出し、上部を回してスイッチを出現させる。【Planet ark】を天に掲げてスイッチを押すと、辺りに視界が真っ白に塗り潰される程の光が満ちる。
「デュォアッ!」
「『ぬぐぉおッ!?』」
下から姿を変えて巨大化した
マウントを取り頭から2つの
「デュォオ!?」
「『チイ……よくもやりやがったな畜生が!』」
ザ・ワンが吹き飛ばされ体勢を立て直したウルトラマンに接近する。ザ・ワンの右フックを両手で防ぎ、次に来る左フックを蹴りで防ぐ。だがザ・ワンの右手が離れた瞬間、尻尾攻撃がウルトラマンに直撃する。モロに受けたウルトラマンは体を回転させて仰向けに倒れる。
「デュオッ!」
「『おらよッ!そらッ!』」
「デュオッ!デュアッ!」
何度も踏みつけられるウルトラマン。そんな時、ザ・ワンがこの戦いの場であるものを見つけた。
「『……人間発見、こりゃあ面白くなりそうだなァ!』」
「ッ!ジュアァ!」
ザ・ワンの足を無理やり退かせ、回転して離れるウルトラマン。だが体勢を戻したザ・ワンは、この戦いの場に居たプレイヤー……『サチ』に向かってエネルギー弾を発射した。
ウルトラマンはサチを守るようにして背を向けてエネルギー弾を請け負った。目を瞑って怯えていたサチは、一向にエネルギー弾が来ないことを知って恐る恐る目を開けると、ウルトラマンが守っていたことを知る。
しかしウルトラマンの両足首に何かが巻かれた感覚を覚えた。
「デュ!?デュォア!」
「『オラ、大人しくしろってんだよ!』」
ザ・ワンはウルトラマンを背負い締めし、動きを固定させる。そして口にエネルギーを溜めていく。必死に藻掻くウルトラマンであったが、ビクとも動かない。そして……エネルギー弾が発射されると同時に、ウルトラマンの拘束を解く。
瞬間、エネルギー弾に当たったウルトラマンは落下していき…………
一瞬なのか、はたまた長い時間なのかは定かではなかった。その光景を、サチが小さな物言わぬポリゴンの破片となった瞬間……ゼロは…………
『…………………あっ…………
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!』
言葉に出来ない怒りと、後悔の渦に呑み込まれた。その叫びに乗じてザ・ワンが嗤う。
「『こりゃあ良いぜ!お前の使命とやらが潰された瞬間だ!』」
『ぉおおまぁあぇええええええ!』
怒りに呑み込まれたゼロが、ウルトラマン態の右腕に赤黒い炎のようなものを纏わせる。跳躍力に任せて思いっきり上へと飛ぶウルトラマン。そのウルトラマンを拘束しようと仕掛けるザ・ワンであったが、ウルトラマンがスラッガーを投げたことで別の場所へと逸れた。
そして真上からその拳を叩き付けるようにして、ザ・ワンの体に食い込ませる。力任せにザ・ワンを捩じ伏せて地面に叩き付けると、今度は足に先程のと同じ力を纏わせ何度も踏み付ける。
胸のタイマーが危険を知らせる為に赤く点滅する。しかしそれには気にも止めず、力ある限りザ・ワンに“暴力”を振るい続けていくウルトラマン。そして何時しか、ウルトラマンの胸のタイマーが色を無くしゼロへと戻っていく瞬間、ザ・ワンも消えた。
元に戻ったゼロが最初に言った一言は、悔やんでも悔やみきれない自責の念が込められていた。
「サ……チ…………」
───不思議……ゼロと居ると、何だかとても安心してくる。何でだろ?知り合って間もないのに……いや、あの1層の時も、ゼロは自分なりに頑張っていたんだろうなぁ。
───……その頼り甲斐が、安心するのかな?ふふっ、何でだろ?私、ゼロとは接点なんて無いのになぁ。
───でも……もしゼロが居てくれたらって思うと、どれだけ楽しい時間を過ごせたんだろうかなぁ。
───…………ゼロに、また会えるかな?
───また、一緒に狩りをして……一緒に楽しみたいな。