何か複雑になってきたし……これ完結するかな?
「はーい、皆注目ー!」
「「うるさっ」」
「「我慢しなさい」」
広場に集まったプレイヤーの視線の先には青髪の盾持ち剣士である『ディアベル』が大きく叫ぶが、ゼロとユウキが目を細めて小さく呟いた。それに対して保護者的立ち位置になりつつあるランとシノンが注意した。案外ゼロとユウキは似た者同士なのだろうと考えるMとデウスであった。
さて、この広場に集まったプレイヤーの目的といえばだが……たった1つしかない。第1層のフロアボス攻略、ただ1つだけである。ゼロとバダンは何か揉め事が起きた場合のみ対処する方針で行くそうだ。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺は『ディアベル』!職業は気持ち的に【ナイト】やってまーす!」
「あの青髪はデフォなのか」
「先輩、そこ気になるのは分かりますけど……」
「散々髪で弄られまくったんだろうね……多分」
「リーゼ?」
もうこの様なやり取りはヒースクリフ デウス リーゼ・ロッテの中では最早普段と変わらない。1人居ないことを除けば特に変わりようのない普通の会話であった。
「今日皆に集まってもらったのは他でもない!第1層のボス部屋を発見したからだ!そのことについてなんだが」
「ちょぉ待ってんか!」
突如会議の進行を妨げる関西弁の言葉遣いの声が響く。その声に全員が注目してみれば、刺々しい頭の持ち主が。あれでよくナーヴギアが被れたなと内心思う者は2人居る。
「その前にワイから言わしてもらいたい事がある!」
「意見は歓迎するよ!でもその前にプレイヤー名を名乗ってからにしてくれ!」
その関西弁口調の男は今居る場所から1段ずつ勢い良く降りて行き、オーバーリアクション……ある意味ロールプレイの一環なのだろうが無駄が有りすぎる。
広場に降りた男は顔を上げて自身を指さしながら発言を続ける。
「ワイは『キバオウ』ってもんや!こん中にも今、詫びをいれなあかん奴がおる筈やで!」
「その詫びっていうのは……誰が誰に対してだい?」
「決まっとるやろ!この1ヶ月弱で死んでしもうた
その発言を聞いていた広場に居るプレイヤー全員が注目する。しかしバダンはゼロに視線を向け、ゼロもバダンに視線を向けてアイコンタクトを取る。ゼロが静かに頷くとバダンは瞼を閉じて立ち上がった。
「すまない、発言をしたいのだが……」
「お前……あん時のギター弾いてたプレイヤーか」
「バダンという。名乗った所で早速だがキバオウとやら……
「んなっ……!?」
そのバダンの言葉に、この場に居たゼロ以外のプレイヤーが驚愕の視線を向ける。たった700人程度という傍から見れば多すぎる命が失われたのにも関わらず、このバダンというプレイヤーは平然とした態度で言い切った。
「お、お前自分の言ったこと理解しとんのか!?」
「あぁ勿論だとも。だが私が理解できないのは、その700人で喚き散らすお前の言っている事が理解出来ん」
「何やて!?」
「まさか死んでいった者が全員ニュービーだと思ったか?いいや違う。旧知の友の発言で希望が宿ったプレイヤー達だが、それでも時の流れには逆らえん。プレイヤーに宿った不安要素というのは必ず出てくる。例外なく誰でもな、元βテスターでさえも。
それに元βテスターとはいえ、プレイヤーは
バダンを言い表すならば、“冷徹” “達観” “第3者視点”。傍から見れば血も涙もない冷えきってしまった人間として捉えられる。実際バダンは人間であるが、そもそもバダンは地球人というカテゴリーに入っていない。
その冷徹さは、バダンの性格を知らない者にとっては憤慨ものでしかないのだが……バダンは地球人でないが故の、地球人の核心を突く。
「それにだ、お前はその700人全員と知り合いだったか?違うだろう?知らないプレイヤーばかりだ、なぜ気にかける?お前には関係無いだろう?人間というのは関係の無い他人が死んでも、
バダンの冷徹な、それでいて地球人の核心を突く物言いにキバオウが押し黙る。他のプレイヤーも同じだ。結局は他人事であって、自分には関係ないと無視を決め込む。
βテスターも同じような心境だったのだろう。自分には関係ないと決め込み、何もしなかったのだろう。ビギナーも誰が死のうが誰が生きようが関係ない、そもそも他人の事なのだから。
「んまっ、バダンの言うことにも一理あるわな」
「っ……お前、あん時ハーモニカ吹いてた」
「バダンの言ってた旧知の友人にして、元βテスターのゼロだ。因みにバダンもβ上がりな」
瞬時にプレイヤーがざわついた。ゼロ自身を指すβテスターの単語を言った途端これだ、実を言えばただβなだけあって色々と言われるのはゼロとて辟易している。バダンの冷徹さに対しては昔から耐性があるようで、バダンの発言を肯定する発言をした後にβテスターだと公言した。バダンを道連れに。
「キバオウ、残念だけど俺はバダンの意見に納得しちまったんだわ。アンタがいちゃもん付けてるにしか思えねぇ」
「…………」
「それとだ、今は攻略会議だぜ?ディアベルの言った“意見”とは殆ど関係ねぇだろ。ついでに言えば、ここは現実の命がポロリするんだぜ。色々あると思うがお互い助け合って行こうや、な?」
そうゼロが言ってから少しすると、キバオウはそそくさと自分の席に戻って座った。それが確認されるとゼロとバダンはディアベルに対し続けろとジェスチャーを出す。そこからは攻略会議が本当の意味で始まったと言えるだろう。
このメンバーでの話し合いの結果、選ばれたのはキリト、M、ヒースクリフ、ゼロ、バダン、シノンとなった。何故シノンが立候補したのかは理解し難いが、強情だったと言っておこう。
デウスは明日も見回りに向かい、リーゼ・ロッテとシリカとリズベットは始まりの街に戻るという。アスナ、ユウキ、ランはデウスのサポートをするつもりだ。
「お前やりすぎ」
「道連れしといてよく言う」
「お前お医者さん2人にこっぴどく叱られてただろ」
「怒ってたのはデウスが主だったがな」
デウスに内包されているジュージューバーガーガシャットからバガモンを呼び出して作ってもらったハンバーガーを、男2人外で並んで食している光景がそこにはあった。本人達からしてみれば誰得なのか、残念貴婦人方が得するのだよ。
頬を張らせてハンバーガーを味わうゼロと、このハンバーガーに対してかなりの興味を示しているバダン。そんな対比される関係と思えるのだが、妙なところで意見があったりする。2人ともハンバーガーを食べ終えると一息ついて、なぜか一斉に同じ場所に向けて指をさした。
「「 貴様見ているなッ! 」」
「君たち仲良いねホント」
現れたのはディアベルであった。両腕を上げて降参のポーズをとっているが単なるお遊びの範疇であったりする。そのディアベルはゼロとバダンの目の前に立った。
「で、用件でもあんのか?言っとくが文句ならバダンに言えよ」
「いや、文句を言える立場じゃないからね」
「ま、だろうな。アルゴに気付かれない様に動いたかいがあった」
「お前隠蔽とって何で次索敵なわけ?俺1人で良いだろうがよ」
「個人行動用にだ。別に構わんだろう?」
「流石、βテスターを15層まで導いた立役者様々だね」
「主にコイツは突っ走るばかりだったがな」
「お前は理屈で考えすぎだがな」
「もう少し頭を使え馬鹿」
「お前ちっとはすぐに攻撃しろよ頑固爺」
「単細胞」
「屁理屈製造機」
「残り僅かな脳細胞」
「頭でっかち」
「漫画でありがちなチョイ役」
「引きこもり」
「本当に仲良いね君たち」
人が居るのにこんな悪態を言う始末。しかしディアベルはそこら辺はスルーしている。というよりゼロとバダンは色々とβの間では有名なので、こんな口喧嘩は見慣れていて唯一安心出来る要素でもあったりする。
しかしディアベルも用がないのに来た訳では無い。咳払いをするとゼロとバダンがディアベルを見る。
「バダン、ボスの情報をありがとう。鼠に伝える前に教えてくれて」
「条件を呑むと言ったのはお前だ、ディアベル。お前の活躍はβ時代から目に掛けていたからな」
「それは光栄だ。お目に掛かられてたなんてね」
「んま、何かあったら言えよ?お互いにな」
「あぁ……そうさせてもらうとするよ。じゃあね」
ディアベルはそう告げて立ち去った。
「…………わかってる。そんなの自分がよく知ってるじゃないか」
ディアベルはバダンとゼロからある程度離れた場所で、そう呟いた。ディアベル自身はゼロと比べてカリスマ性は低いだろう。バダンと比べて冷静さは無いだろう。
だからこそバダンが頼んできた時、一瞬の迷いがあった。困惑したのも事実だ。なぜならバダンの方が適任であったからだ。そして思惑を聞いた途端、ディアベルの中で歪な感情も生まれた。
「僕には……彼の様なことすら出来なかったからね。でも……あぁ、くそっ」
ディアベルの抱える悩みやストレスは、本人にも知りえない。この思いは、この感情は……彼自身を蝕み続ける。
だがディアベルにも知りえないストレスは、誰にも気付かれないまま攻略が始まろうとしていた。