Dr.ゲムデウス   作:(´鋼`)

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第10話 聖なる日はspeciallyに!

 12月24日。この日は子どもたちにとって待ちに待ったクリスマス……というよりクリスマスイヴである。まぁ子どもにはそんな些細なことは関係ないだろう。

 

 クリスマス。それは子どもがサンタ(両親)からプレゼントを貰う日、そして非リア充にとって()()()()()()の日。何はともあれ、この日は人の往来も多くなるこの季節。

 

 勿論リア充であるカップルたちには、この日は告白などの日にちとして、うってつけな日である。勿論既に結婚や交際をしている2人にとっても良い思い出として残る日である。

 

 そして……この4人も同じ様にクリスマスイヴ当日は出歩いていた。ただ、今回は高山と藍原が住む支給された家でパーティーを行うため準備として何時ものEONに来ていた。

 

 

「えーっと……シチュー、チキン、フライドポテトにetc。宅配で頼んでも良いんですけどねぇ」

 

「残念ながら無理そうだぞ。それに……」

 

 

 高山と共に食品売り場を見て回っている茅場が前方を指差す。それを見てみると藍原が何故か手招きをしていたので、高山はカートを押して藍原と神代の元まで歩いた。

 

 

「どうした優美?」

 

「明、これ!」

 

「ん?」

 

 

 指差した物を見ると、丸々鯛一匹が鎮座していた。恐らく藍原は今回の料理にこれを使って作れというらしい。

 

 

「ふ~む……鯛かぁ。カルパッチョか、パエリアか、はたまたフライか」

 

『よく思い付くな』

「よく思い付くよなぁ」

 

「何時も家庭科の料理実習じゃ満点でした」

 

「これを主夫スキルというのだな」

 

 

 結局、悩みに悩んだ末にパエリアに決定したので魚を購入。シチューをキャンセルして買い物に(いそ)しむのであった。

 

 会計を済ませて支給された家へとバイクを走らせて向かっている高山。高山のバイクは2人乗りであるが、茅場は今回タクシーで向かっている。因にであるがプレゼントは既に用意されており、今日はお互いにプレゼントを3人分渡すのだ。

 

 そして家に到着するなりいそいそと料理の支度していく高山と神代。茅場はリビングでゆっくりとしてもらい、藍原は試験のこともあるので部屋で勉強をしてもらっている。勿論、茅場と藍原が介入すると厄介だからというのもある。

 

 担当としてパエリア、ミートパイなどは高山。その他は神代という風に調理を開始する。

 

 そんな中、リビングの机の上に置いてある高山のスマホから1本の着信が入る。電話の様だ。

 

 

「あー……すみません神代さん、ちょっと外しますね」

 

「あぁ高山君、私が出るよ。流石に何もしないというのは些かね」

 

 

 茅場が高山のスマホを手に取り着信に出る。

 

 

「はい、どちら様でしょうか?…………あぁ失礼、今高山君は取り込み中でして……緊急ですか。でしたら少し時間を下さい」

 

 

 茅場が電話を離すとスピーカーのボタンを押して机の上に置いて、話を続けた。

 

 

「では御用件をお願いします」

 

『あぁ』

 

「日向審議官!?」

 

 

 スピーカーによって音が大きくなっており、高山に日向審議官の声が聞き取れたことによって驚いた高山。日向審議官は特に何の反応も無く話を続ける。

 

 

『お取り込み中すまないが、高山君。今すぐCRへと向かってくれるか?』

 

「…………どの様な御用件ですか?」

 

『バイラスバグスターの出現だ』

 

 

 それだけを聞くと高山の雰囲気が変わった。バグスターの出現、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()バグスターの出現であった。

 

 

「分かりました。どちらまで行けば宜しいでしょうか?」

 

『1度CRに来てくれ。患者の容態の確認も兼ねて』

 

「了解しました。すみませんが、茅場先輩」

 

 

 茅場は高山のスマホの通話を切り、高山は既に形を整えさせていたミートパイをオーブンの中に入れて設定させると手を洗って斜め掛けバックを持って外へと出ようとした。

 

 しかし予めに神代に少し頼んでからバイクに乗ってCRへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖都大学附属病院に到着した高山はバイクを駐輪場に停めておき、ヘルメットを外して直ぐ様CRへと向かう。到着した先には黎斗神が頬に打撲痕を残して両手を組んで、それの上に頭を乗せて俯いていた。

 

 CRの緊急診療台には患者が居ないことから、恐らく治療室に運ばれているのか今はそこには居なかった。高山は1度辺りを見渡した後、黎斗神に話しかける。

 

 

「黎斗神さん……その怪我は」

 

「……バイラスバグスターとの戦闘だ。レベルが上がっているのは承知の上でだ。今のところ私と君、九条貴利矢でしかウィルスを抑制できないが……予想が甘かった」

 

「レベル0のウィルス抑制効果があまり効いてなかった様なんです」

 

「宝生さん……」

 

 

 バグスターのレベルアップ。こればかりはどうしようも無い問題の1つである。黎斗神の様子からして多少厄介になっているのは容易に想像できた。

 

 そして次に、患者の件について。まぁ此処に黎斗神以外のライダーが来ているのであれば、既に分かりきったことだが。

 

 

「……失礼ですが、患者はどちらに?」

 

「僕の担当になってるよ。まだ10歳の子どもだからね」

 

「そうでしたか。では宝生さん、お願いします」

 

「了解しました」

 

 

 何時も通りの挨拶をこなし、永夢の後を付いていく高山。その途中、ゲムデウスが話しかけてくる。

 

 

『おい宿主』

 

「(何の用?ゲムデウス)」

 

『バグスターのレベルアップの件を踏まえて言うが……勝てる見込みが少ない』

 

「(…………随分と消極的だな)」

 

『この説明は部屋に着いてからだ』

 

「(そうかい)」

 

「高山さん、此処です」

 

 

 病室の前に到着した2人。その病室の名札には『桐ヶ谷和人』と書かれている。

 

 永夢が扉をノックして、入ることを伝えるとスライド式の扉を開けて中に入る。高山は小さく一礼をして中へと入った。

 

 備え付けのベッドには、まだ幼さの残る男の娘……失礼男の子が上半身を起こして窓の方を見つめていた。しかし扉の開く音によって視線は扉の方へと向かわれた。

 

 永夢は患者である和人に高山を紹介していく。

 

 

「和人君、具合の方は大丈夫?」

 

「……ふざけてるんですか?」

 

「あー……ご、ごめん。あ、そうそう!紹介したい人を連れて来たんだ」

 

「初めまして、こんにちわ。僕は高山明」

 

「……何で白衣着てないんですか?医者じゃないのに居ても良いんですか?」

 

 

 かなり辛辣な言葉を並べるので永夢と高山のメンタルに鋭い槍の様な言葉が突き刺さる。しかし、ここでへこたれては大人としての威厳が崩れてしまう。

 

 

「じ、実はね。高山さんも“ライダー”なんだ」

 

「……ライダー?あの“ドクターライダー”ですか?」

 

「僕の場合は緊急時が頭に付くけど、一応僕もライダーさ」

 

 

 その話題になると桐ヶ谷和人は上半身をベッドに倒して永夢と高山に背を向ける様にして横になった。小さく「あれ……?」と呟いた高山の声は桐ヶ谷和人に聞こえていたのか……

 

 

「早く帰ってくれませんか?うざったいたりゃありません」

 

 

 この言葉の槍が高山と永夢のメンタルを貫き、少し声を掛けて外へと退出した。永夢と高山の2人が同時に項垂れると、2人ともCRへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「かなり効いた…………」」

 

『お前らなぁ……というか宿主、お前精神科希望だろ。これしきの事でへこたれるんじゃあない』

 

 

 ゲムデウスからの言葉も今は少しも心に響かない。それどころか、かなり信念を揺さぶる結果となってしまう。

 

 そして2人は机に突っ伏した状態にあった。だが2人に慈悲は与えないかの様に緊急コールが鳴り響く。高山と永夢は直ぐに立ち上がり場所を確認する。一応永夢もあのバグスターに対して対策が無い訳ではないが、かなりのオーバーキルに成りかねない。そんな理由もあるが、今回ばかりは仕方ないと割り切り現場へと向かうのであった。

 

 因みに高山の乗るバイクに永夢も乗り、現場へと赴いている状態である。

 

 

 

 通信コールのあった現場である住宅前に到着する。かなり和風な家造りの玄関前に、目標であるバイラスバグスターは居た。しかしバイラスバグスターもバイクのエンジン音で気が付いたのか、高山と永夢の方を見る。

 

 高山と永夢はバイクから降りて腰にゲーマドライバーを装着し、用意したガシャットを起動させる。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

【マキシマムマイティX!】

【ハイパームテキ!】

 

 

 高山はゲーマドライバーにガシャットを差し込み、永夢は大型ガシャットを差し込んだ後、ゲーマドライバーのレバーを開く。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

【マキシマムガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルマーックス!】

 

 

「患者の運命は……俺が変える」

 

 

 永夢はそう言い終えたあと、両腕で『ム』の字を作り構える。高山も両腕を交差させてXの文字を作り構える。

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

「ハイパー大変身ッ!」

 

 

 高山はゲーマドライバーのレバーを開き、永夢はもう1つ特殊なガシャットを先程のマキシマムガシャットの横に差し込み、両手を拳にさせてガシャットの2つのボタンを押す。

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

【パッカーン!ムーテーキー!】

【輝け!流星の如く!黄金の最強ゲーマー!ハイパームテキ!エグゼーェイド!】

 

 

 高山はゲムデウスと別れXLとXRの姿となり、永夢は最強の無双ゲーム『ハイパームテキ』を使用したハイパームテキゲーマーとなっていた。永夢の手には、かなり特殊な形状の剣が装備されているが、分かるだけで斧の様な刃も存在している。

 

 XLとXRはお互い右腕と左腕を交差させ、永夢は右手を左に差し出す様なポージングを取りながら決め台詞を吐く。

 

 

「「これより製薬実験を開始する!」」

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 

 XLがキメワザスロットホルダーのボタンを押してゲームエリアへと移動させる。

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 場所は開けた工場跡地の様な地面ばかり。しかし何の隔たりも無いのでバグスターの姿を見失うことはなかった。

 

 

「永夢さん!先手は頂きますよ!」

 

「ここは我らの出番だからな」

 

 

 XLとXRは先にバイラスバグスターへと向かい、お互いに左手と右手を突き出して青い粒子をバイラスバグスターに向けて放つ。

 

 勿論バイラスバグスターは苦しむ姿を見せるが、その隙を狙いXLとXRは蹴りとパンチを浴びせ距離を離れさせる。

 

 しかしここからバイラスバグスターが予想しなかった状態へと移った。

 

 

 間接部位が嘴の様に長くなり、開いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「関節がッ……!」

 

 

 突如バイラスバグスターの全関節が嘴の様に開かれる。つまる所レベルアップによる()()の影響が現れているのだ。そして全関節が開かれたということは、あの場所からウィルスが散布されるということ。

 

 

「下がるぞ!」

 

「序でだ!」

 

 

 XLとXRが同時に後退しワクチンを散布しながらバイラスバグスターから距離を取る。しかし全関節から散布されるウィルスの量に対しワクチンの量が足りず、ワクチンが消え去りバイラスバグスターの周りに多くのウィルスが漂っていた。

 

 2名が後退すると、その場所に永夢が駆け付ける。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「僕らは大丈夫です。けど……」

 

「奴さんのウィルス量が前回より増している。先程散布させたワクチンも量の差で負けた」

 

「恐らく攻撃しても……ウィルス抑制効果の体をもってしても量で負ける可能性がありますね。宝生さんは大丈夫だと思いますが」

 

 

 永夢のハイパームテキゲーマーはあらゆる効果を一切受け付けない正に最強のゲーマー、攻撃するとウィルスの散布は行われるか至近距離でもダメージを喰らわないのだ。

 

 逆に高山とゲムデウスのXLとXRの場合、ウィルスの抑制効果はゲームエリアに展開できるもののバグスターが生成するウィルスの量によってワクチンの効果が薄れてきている。

 

 

「ちょっと……行ってくるよ」

 

「宝生さん……お願いします」

 

「此方からも頼む。出来る限りのサポートは……どうだろうか?まぁ必要となればだが」

 

「そうだね。その時は頼るかも」

 

 

【ジャ・ジャ・ジャキーン!】

 

 

 そう言って永夢はバイラスバグスターに向けて走り出す。未だに関節は開かれたままであるが、それでもバイラスバグスターは戦闘体勢を取る。

 

 永夢は右手に装備している【ガシャコン・キースラッシャー】のブレードモードでバイラスに攻撃を与える。それに合わせて体からウィルスが散布されるが今のムテキゲーマーには効いていない。

 

 しかし妙なことが起こっていた。永夢が攻撃しているのにも関わらず、ウィルスは辺りに散布されなかった。それどころかバイラスバグスターに纏わり付いているウィルスの多さが増している。その証拠にウィルスの量が多くなってバイラスバグスターの体が黒い(もや)によって見え隠れしていた。

 

 そしてまたしても異変が続く。そのウィルスの量が均衡に保たれていた。それは永夢が攻撃を続けている最中でも起きていた。

 

 

「宝生さん!一旦退いてください!」

 

「た、高山さん!?」

 

「お前と話をして攻略を円滑に進める為だ!さっさと来い!」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 永夢はバックステップと同時に攻撃し、キースラッシャーの黄色のボタンを押してジャンプする。

 

 

【ズキュ・キュ・キューン!】

 

 

 ジャンプと同時に銃口をバイラスバグスターに向けて攻撃し、威力任せに後退し高山とゲムデウスの元に到着する。

 

 

「永夢さん」

 

「何で呼んだのかは想像が付くよ。相手が怯む様子すら無かったんだ、何かある筈でしょ?」

 

「恐らくウィルス量の増加に基づいたレベルアップの影響か。考えられるのは……回復」

 

 

 未だにバイラスは立ち続けており動きもしない。出方を伺っているのか、はたまた別の考えがあるのか。何にせよ未だに()()()()()()()この事実に直面しなければならなかった。

 

 ハイパームテキはあらゆるゲームの頂点に立つゲーム。つまり攻撃力も防御力もライダーゲージも全てのゲームを越えている代物。しかし目の前のバイラスはウィルスを纏い続け動かないが、それが逆に不気味さを与えている。

 

 

「回復かぁ……多分ウィルスで」

 

「恐らくな。何れにせよ、あのウィルスをどうにかせねばなるまい」

 

「……あー、お話の所悪いけどさ。バイラスの周りのウィルス、減ってる」

 

「「ほっ?」」

 

 

 間抜けた声を出しつつ、高山が示したバイラスの変化を知るために2名は見た。すると高山の言い分通り、バイラスの周りのウィルスが減っているのだ。視覚からは黒い靄が薄くなっている様に見えるが、ウィルスなので減っているが正しい。

 

 つまり“ウィルスによる回復”説は概ね当たっていると考えて良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………や゛だ」

 

 

 ふと何処からか声が聞こえた。しかし永夢のでもゲムデウスのでも高山のでもない。呟いた記憶すらない。

 

 なら自ずと決まってくる答えであった。

 

 

「誰……か、だれ……か……」

 

「宝生さん、ゲムデウス」

 

 

 バイラスから発せられる悲痛な言葉。しかしこれは()()()()()()()()だったとしたら?高山の方を見ずに耳を傾けて聞いている2名。しかし思考は同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たす……げ…………て…………」

 

「救いますよ、()()()()()

 

「そう言うと思っていたわ」

 

「僕は医者だからね、患者を救う責任がある」

 

 

 永夢はキースラッシャーの青いボタンを押してブレードモードにさせ、高山とゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じると軽快な待機音声が鳴り響く。

 

 

【ジャ・ジャ・ジャキーン!】

 

【【ガッチョーン】】

 

 

「「Mark XX、変身」」

 

 

 高山とゲムデウスはレバーを開き、別形態へと姿を変える。ムテキゲーマーをベースとした白いムテキへと。

 

 

【【ガッチャーン!ダブルアーップ!】】

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX!】

 

 

 何と気の効いた事か。後から発生する音声が鳴らなかった。しかしレベルXXへと変貌を遂げた高山は武器を出さずに徒手空拳で挑もうとする。

 

 

「先手、また貰いますよ」

 

「訳があるなら、構わないよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 高山はライダーゲージそのものであるヘアーを回転の勢いに乗せて伸ばしバイラスを掴む。捕らえられたバイラスだが攻撃でも無い為ウィルス散布は行われなかったが、関節からのウィルス散布は再開されていた。

 

 

「散布してもダメ……なら直接はどうかな!」

 

 

 高山はブレードヘアーを媒介にゲムデウスワクチンを直接投与させる。するとバイラスは苦しみ始め、同時に関節が元に戻っていく。しかも最強ワクチンの直接投与はかなり効くので実質弱体化に成功している。

 

 周囲に漂うウィルスはバイラスに取り込まれていくが、それによる回復も無意味な状態にまで陥らせる。高山は頃合いだと感じたのか、回転をつけてブレードヘアーをバイラスごと回し地面へと叩きつける。バイラスのウィルス散布はワクチンにより停止されているので、これ以上増えることは無い。

 

 つまり今ならダメージは無い。そう考えた2人の行動は早かった。

 

 先に高山からゲムデウスへと人格を変え、バイラスを殴り付ける。するとバイラスの横にレベル表示がされ70から68に減った。攻撃によるレベルダウン効果を見つけたことでゲムデウスは攻撃を続ける。

 

 バイラスの右フックを接近して避け両手を合わせて掌打を叩き込む。それによりレベルが2減少した。バイラスが仰け反り離れると、ゲムデウスは上半身を地面と水平にさせる。そこから永夢がゲムデウスを踏み台代わりとしジャンプした後バイラスに一撃入れる。

 

 レベルダウンの効果、ゲムデウスワクチンの影響、そしてハイパームテキゲーマーの攻撃力。これによりバイラスはふらふらとしていた。それを見計らってか、ゲムデウスは高山へと人格を変えレバーの開閉を行った。永夢はムテキガシャットのボタンを2度押す。

 

 

【ガッチョーン キメワザ】

【ガッチャーン!】

 

【キメワザ!】

 

 

【DoCTER MIGHTY CRITICAL STRIKE!】

 

【HyPER CRITICAL SPARKING!】

 

 

 高山は左足に青いエネルギーを、永夢は黄金のエネルギーを右足に纏わせ飛ぶ。

 

 

「「ハアアアアア!」」

 

 

 2人の蹴りが炸裂し、バイラスを仰け反らせる。

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【GREAT!】

 

 

 バイラスから多くのダメージが入りエフェクトが多数出現する。

 

 

【【PERFECT!】】

 

 

 そして終に大きくエフェクトが入るとバイラスは爆散し、ゲームクリアの合図であるエフェクトが登場した。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 高山と永夢はガシャットをゲーマドライバーから引き抜き、レバーを閉じて変身を解除する。それと同時にゲームエリアから現実へと戻される。

 

 

【【ガッシューン】】

 

 

 ふと高山はバイラスが立っていた家の前まで歩み家を眺める。この家が誰の家なのか知りたいという気持ちもあった。そして高山は表札を見て納得した。

 

 『桐ヶ谷家』。そう書かれていたからだ。

 

 不意に高山は近付いてきた永夢に尋ねた。

 

 

「……永夢さん、桐ヶ谷君は何故ゲーム病に?」

 

「……守秘義務もあるけど、家族問題だよ」

 

 

 永夢は桐ヶ谷家を見上げ、口を開いた。

 

 

「ここからは僕の1人言だからね。桐ヶ谷君は本来桐ヶ谷家の子じゃなくて、従兄弟夫婦の子だったらしくてね。でもその夫婦は今は居なくて2歳の頃に引き取られたらしいんだ。それを知ったのが今日で、突然の事を聞かされて信じれずに過度なストレスが貯まって……さ。黎斗さんが対処したけど、レベルアップによる苦戦を強いられて1度撤退。1回の治療で治せなかったから僕ら医者に当たりが強くなってるんだ」

 

「……やはり子どもか。八つ当たりではないか」

 

「こんな事は普通にあるんだよ、ゲムデウス。それにまだ成熟してない精神で真実を告げられて、そしてバグスターを倒せなかった。無理もないよ」

 

 

 そう言う永夢の雰囲気は何処と無く大人びていた。ゲムデウスは高山へと人格を変えて、高山は口を開く。

 

 

「でも……あの子の本心は違った。人を信じたい、でも信じられずにいる。歯止めが効かない状態に居る」

 

「それが分かれば……後はメンタルケアの方だけど。高山さん、僕良い案が思い付いたんですよ」

 

「奇遇ですね、僕もです」

 

 

 そんな2人の表情は柔らかかった。お互いの顔を見合わせてクスリと笑い、行動に移した。

 

 確かな思いを、本心を吐き出させる為に。そして患者を救う為に。高山と永夢の考えは何処か似ている様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山と永夢が病院へと戻ってきた。高山の操縦で駐輪場にバイクを置き、ヘルメットを仕舞い病院内に入っていく。2人の目的はCR、そこへと向かっていた。

 

 エレベーターで地下へと降り、さらに階段を上る。見えた先の光景には黎斗神が何時ものアーケードタイプのゲーム機に紫の電子牢獄に入れられている姿であった。

 

 

『ご苦労だった……永夢ゥ、高山ァ』

 

「何でそんなネットリとした物言いなんですか?」

 

「ほら、あれじゃない?何で僕が最初からバイラスにハイパームテキで行かなかったのか……だし」

 

『要は……嫉妬か?』

 

「嫉妬ねぇ……近いかもな」

 

『ゲムデウスと話をするなァ……そして嫉妬なんぞするかァ!』

 

「んなこと言えねぇだろーが」

 

 

 階段からの足音が響くので高山と永夢はその場から離れて机の近くまで歩く。階段から出てきたのは貴利矢と飛彩の2名であった。

 

 

「神よぉ……今まで作ったゲーム誰からの案か、俺知って『さて2人とも、バイラスを倒してくれて良かったよ』この変わり身よ」

 

『……何か異様に知りたいのだが』

 

「言うな。それに……な」

 

 

 高山が永夢の方を見ると、純粋な子どもの様になって知りたがっていそうな天才ゲーマーMその人となっていた。かなり当初の目的からずれているので、先ずは軌道修正していこう。

 

 

「宝生さん、宝生さん。ちょっと準備に取りかかりますよ」

 

 

 高山が永夢の肩を数回叩いて意識を現実に戻させる。ハッとした様子で意識を引き戻すと、永夢はカルテの準備をする為に先に向かって行った。

 

 高山は両手を合わせて何か行動しようとしている。そこは飛彩が疑問を投げ掛けた。

 

 

「何処に行くんだ、医学生。小児科医も何故か早足で何処か行ったが」

 

「何々?面白そうな予感がするんだけど?」

 

「あー……そうですね。具体的には最初のメンタルケアですよ」

 

 

 高山が上を見ながらそう答えると、今度は黎斗神から質問が投げ掛けられる。

 

 

『永夢が担当している患者のことか……だが何故慌ただしいんだ?』

 

「少しだけ……考えがあるんですよ。それでは!」

 

 

 高山は早足で向かいCRから退出していく。それを見届けていた飛彩、貴利矢に黎斗神は高山の早足の速度に感嘆していた。

 

 

「……いや、まーさかゲムデウスウィルスでか?あれ」

 

『そうとしか考えられん。そしてそれを容易く使う程の器……高山明ァ、素晴らしいではないか。だがそれも私が作成したゲムデウスウィルスによるものだぁ!つまり大元を作った私はk「あ、俺ちょっち明ん所行くわ」サエギルナァ!』

 

 

 貴利矢は自身のバグスター体を利用してデータとなって高山の方まで行くことにした。残された飛彩は机に座り黎斗神と話をしていく。

 

 

「所でだ、檀黎斗」

 

『檀……黎斗神ヨォ!ワタシノナヲマチガエルナァ!』

 

「お前には幾つか聞きたいことがある。俺の質問に答えろ」

 

『…………フゥ。それで?鏡先生が私という神にお尋ねしたいこととは?』

 

「前々から気になっていたのだ」

 

 

 飛彩の以前から気になった内容、それは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「医学生の適合は本当に()()()()なのか?」

 

『…………ふむ』

 

 

 高山のゲムデウスウィルスの抗体、それに対応した過剰適合者。この今まで例を見なかったものでもある。過剰適合者故の培養体質、そして意思を持つウィルスとの対話。

 

 しかし飛彩が引っ掛かったのは()()()()()()()()()()()()()。そこであった。

 

 

「小児科医がゲーム病であり、尚且つパラドという人格を持っているのを知っているからこう思えた。あれは本当に適合しているのか、と」

 

『……だが実際に適合反応はあった。それは私が確認したからこそ断言できる』

 

「その適合が()()だったとしたら?」

 

『何……?』

 

「本来医学生が持つゲムデウスウィルスはコピー。そしてそのコピーが医学生の体に入り込んだ……ではどうやって逃げ出した?そして何故()()()()()()()()()()()()()?」

 

『…………成る程、確かに考えてみれば』

 

「幻夢コーポレーションから逃げ出した。つまり幻夢コーポレーションのセキュリティを熟知した人物が手を施したとしか考えがつかない」

 

『だからと言って私では無いがなァ!』

 

「他に思い当たるのは……可能性として考えにくい」

 

 

 2名は今の話の内容で思い当たる人物を1人だけだが思い出す。しかしその者は今は居ない。()してや、どうやっても存在しているのは不可能と断定できる人物。

 

 

 

 

 

 

「『檀…………正宗』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、永夢はカルテの用意を済ませ高山に電話をしたあと高山と何故か貴利矢が来ていた。

 

 

「あの、貴利矢さん。何で此処に?」

 

「明に付いていったらこうなった。しっかしまぁ、お前ららしいというか。何というか」

 

「宝生さんと意見が合ったので。それに……僕だって医者を志望してますから。それも精神科」

 

「ほぉ~……ま、こういうのが通用するのは今ぐらいだかんな。今の内にやりたいことやっとけよ」

 

「えぇ。そのつもりですよ」

 

 

 3名は横1列で左から見て高山、貴利矢、永夢という順である。向かう先は当然の如く桐ヶ谷和人の名札がある病室であった。

 

 到着すると高山はスマホを手に取り時間を確認する。確認し終えると永夢は高山の方を、高山は永夢を御互い見合わせてノックしてから病室へと入る。

 

 

「桐ヶ谷和人君、宝生永夢です。入りますよ」

 

 

 病室のスライド式のドアを開き中へと入る3名。桐ヶ谷和人は上半身を起こした状態であり、見知った2人と知らない1人を見て何処か不機嫌(寂し)そうな表情を浮かべる。

 

 それを知ってか知らずか、はたまた無視しているのか。状況を伝える。

 

 

「桐ヶ谷君、君の病気はもう治りました。でも先ずお話しなきゃいけないから、先にするよ」

 

「……はい」

 

 

 幾つかの質問、幾つかの注意事項、幾つかの談話。談話には積極的では無かった辺り喋るのが苦手とも取れる。

 

 しかし話の途中に桐ヶ谷和人は辺りを目で見回しており誰かを探している様な視線がチラホラと見かけられる。ここで永夢が仕掛ける。

 

 

「あぁそうそう。桐ヶ谷君の両親も今此処に来てもらっているんだ。これが終わったら着替えて準備をしてね」

 

「ッ…………」

 

 

 顔を俯かせて黙ってしまう桐ヶ谷和人。仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。だがそんな桐ヶ谷に高山が桐ヶ谷和人のベッドの側に座り、口を開く。

 

 

 

 

「そんなに会いたくないかい?自分の家族に」

 

「…………」

 

 

 桐ヶ谷和人は無意識なのかベッドのシーツを握りしめていた。しかし畳み掛ける……というのは誤解を招きそうだが、敢えて高山は言い続けた。

 

 

「ずっと病気のままで良いから、会いたくないの?」

 

 

 未だに黙ったままの桐ヶ谷和人。何も言わないことを確認した高山は続けざまに言い放つ。

 

 

「君はそうまでして、家族に迷惑を掛けたくないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さっきから家族家族って、何なんだよ」

 

「……と言うと?」

 

「何でそこまで家族って言うんだよ!?一言二言言えば次に家族家族って!俺とあの家族とは関係ない!」

 

 

 かなりの怒声を浴びせられる高山。しかし高山からは、ほんの少しの微笑みしかしなかった。

 

 

「ッ……!何がおかしい!」

 

 

 桐ヶ谷和人は高山に掴みかかろうとするが、高山は瞬時に立ち上がり、桐ヶ谷和人を抱きしめる。突然のことで一時的に硬直した桐ヶ谷和人は何が何だか分かりもしない。直ぐに意識を戻すが、既に抵抗しようとする気力も無い。

 

 

「あー、ごめんね桐ヶ谷君。でもさ、君の言ったこと可笑しい所があるからさ」

 

 

 抱きしめられた状態で高山は桐ヶ谷和人の頭を撫でる。何故か本人は動かないままであったが、高山の言葉で高山を見上げる。

 

 高山も抱きしめるのを辞めて桐ヶ谷和人をベッドに戻させた後、口を開いた。

 

 

「君さ、君と桐ヶ谷家族と関係無いって言ったよね?」

 

 

 かなりゆっくりと、そして少し抵抗しながら頷いた桐ヶ谷和人。

 

 

「でもさ、それが本当なら()が可笑しいんだよ」

 

「……今?」

 

「そう、今。君は今、()()()()()()のにさ」

 

 

 桐ヶ谷和人が少し驚きながら、高山を見た。有り得ないという様な表情と、少しの知的好奇心から出た答え。

 

 高山は桐ヶ谷和人の目線に合わせて腰を低くし、口を開く。

 

 

「そっ、実はバグスターを倒した後に君の家に行って治りましたよって報告を宝生さんがしてくれたんだ。そしたら、どんな様子だったと思う?」

 

 

 高山はその時の様子を見ていて思い出したのか少しだけ微笑み、永夢も同じように思い出して少し笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「スッゴく喜んでたよ。妹さんが君の両親を呼んで大騒ぎしてたんだ。『お兄ちゃんが治ったよー!』ってさ」

 

「スグ……」

 

 

 桐ヶ谷和人の中で何か壊れた様な感覚が走る。しかしそれは何れ孤独になってしまう鎖を解かれたような感覚でもあった。

 

 

「本当にオーバーリアクションさ!何せ慌てて準備してきたからなのかさ、靴を履き違えてたりとか変な格好までしてたよ。時間を掛けて落ち着けさせたからそろそろ……」

 

 

 病室のドアが思い切り開かれる。貴利矢が突然の音に驚いていた。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「ほら、来たよ」

 

「ッ……!」

 

 

 高山が離れると小さなおかっぱの女の子は桐ヶ谷和人に飛び付こうとしていた。ジャンプすると同時に高山が少しフォローを入れて桐ヶ谷和人の元に案内させる。

 

 

「ねぇ何処も悪くないよね!?お兄ちゃん大丈夫だよね!?」

 

「あ、あぁ……だい……じょうぶ……」

 

 

 桐ヶ谷和人が自身の頬に異変を感じる。触れてみると暖かい水が伝わっていた。手を使って大元を辿ると目から出ていた。

 

 

「お、お兄ちゃん。大丈夫?」

 

「えっ……?」

 

「だ、だだって。お兄ちゃん……涙出てるし……」

 

 

 涙、それが流れていたのだ。桐ヶ谷和人は必死に拭おうとするが何度やっても止まらない。涙で濡れた裾を見ると何故泣いているのか分からなくなっていった。

 

 そんな桐ヶ谷和人に永夢は口を開いた。

 

 

「桐ヶ谷君、君を心配して来てくれたんだよ。もし関係無いなら、君のことで喜んだり大騒ぎしたり此処まで来なかったと思うよ」

 

「……母、さん。父……さん、スグ……」

 

 

 ちょうど良い頃合いに桐ヶ谷夫妻も到着していた。桐ヶ谷夫妻は人目も(はばか)らずに桐ヶ谷和人を抱きしめていた。その温もりを感じている桐ヶ谷和人は、涙を流し続けた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桐ヶ谷和人の案件は終わりを告げた。親子仲は普通となり何時もの生活に戻っていった。

 

 しかし高山にはまだ用事が残っている。そして現在、家の中に居る。

 

 

「神代さんありがとうございます!」

 

 

 土下座をしていた。今回はパーティーということで集まっていた4人だが、高山の帰りが遅くなるのを予想してパエリアを神代が作っていたのだ。

 

 

「良いんだよ別に。遅くなりそうだったからな」

 

「それよりもパーティーだ。君がそのままでは始まらないぞ」

 

「さぁさぁ明!早く早く!」

 

 

 藍原に連行され強制的に席に座らされる高山。今宵のパーティーは大騒ぎしたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!Dr.ゲムデウスは!

 新たな年に、新たな患者!

「まっさかの……かぁ」


 そして現れるのは……マキシマム!?

「レベル99……だと!?」


 対するのはゲムデウスの力の真骨頂!

「パワー増幅……ガットン!」


 『第11話 バグスターとのevolution!』

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