ダンジョンに出会いを求めたら黒の剣士に会いました? 作:アーズベント・ウィッカ
ミノタウロスの咆哮が迷宮に轟く。それを合図に俺達は駆け出した。
左右から迫る俺達を見て、ミノタウロスは距離が近いベルに斧を振り下ろす。それを余裕を持ってベルが回避する。流石の敏捷だな。ちなみに、ヘスティア様にステータスを更新して貰ったら、俺達はその結果を勝負していたりする。力は俺で敏捷はベルがそれぞれ大差で勝ってる。他のはどっこいどっこいだ。
ベルに当たらなかった斧は地面にクレータを作った後、元の高さに戻り、今度は俺に向かって振り下ろされる。
「ッ!」
俺もベルと同じ様に回避するが結構ギリギリだった為、髪が何本か空を舞ってしまった。
二人に続けて躱された事ことで、ミノタウロスはむきになり、俺達に向かって何度も斧を振り下ろす。まるでモグラ叩きの様だ。もっとも、むきになった分、余計な力が入って振り下ろし自体は拙いものになっている。
だが、長身に加え、長い腕と斧のリーチでミノタウロスの攻撃射程は俺達のものより断然広い。こう矢鱈滅多に攻撃してくるんじゃ、迂闊に近付けない。
このまま、躱し続けるのにも限界がある。そう思った時、ベルが目で合図を送ってきた。ミノタウロスに接近するつもりらしい。確かに、避けるのに精一杯な俺より、余裕があるベルの方が接近しやすいだろう。
なら、ベルがやりやすい様に、ミノタウロスの意識を俺に向けなくては。
「こっちだ牛野郎!」
俺は、足下の石を数個拾い。ミノタウロスに向って投擲する。ダメージこそ期待出来ないが、うざったらしいことこの上ない筈だ。何回か繰り返したら、俺に対して明らかに攻撃回数が増えてきた。成功だ。だけど、やばい。回避がヤバイ。段々、当たりそうになってくる。只でさえ、ギリギリだから躱すのではなく走り続けることでやり過ごしているのに。
だけど、ベルが突撃するにはまだ足りない。もっと致命的な隙を作らなけば。ここは勝負だ。
覚悟を決めて俺は走るのを止め、ミノタウロスの一撃を二本の剣をクロスさせ受け止める。
「クロス・ブロック!」
武器が重なった瞬間、途轍もない衝撃が俺を襲う。ミノタウロスの見た目通りの馬鹿力が武器を通して腕に伝う。
…本来ならレベル2が相手する相手だ、いくら、力のステータスが高いと言っても所詮はレベル1。普通ならミノタウロスの攻撃を受け止める事だって難しい筈だ。それがなんとか出来ているのは、スキルの剣技補正のお陰だろう。
saoのソードスキルを使うと補正がつく仕様みたいで、普通の攻撃よりも威力、防御力どちらも高い。それと武器による所も大きいと思うのだが…何となく、前より性能が低下している気もするが多分気のせいだろう。
俺とミノタウロスの武器の押し合いは徐々に、俺が押し負けていく。
(…流石に返しきることは出来ないか…。)
ジリジリと後ろに引いていく俺を見て、ミノタウロスは愉快そうに吼える。斧を受け止めた時に、ニタリと笑ってやった事へのお返しだろうか。
…だけどな、俺に集中しすぎだミノタウロス。
意識を完全に俺に向けているミノタウロスは気付かない。すぐ後ろに、既にベルがいる事を。ベルはミノタウロスの背中に飛びつく。何事かとミノタウロスが背中を確認しようとするが、それより速く、ベルがミノタウロスの右眼にナイフをねじ込む。
高い硬度をもっているミノタウロスも、流石に眼球は柔らかいみたいだ。…というかベルの奴何気に酷い事を。
『ブゥモオオオオオオオーーーー!!!』
「ナイスベル!」
「キリト、スイッチ!」
ベルの一撃によって、片眼を潰されたミノタウロスは半狂乱になり、四方八方に斧を振り回す。このチャンスを逃す訳には行かない。ベルの交代宣言に頷き、前に出る。
ベルはナイフ抜き取り、一旦距離を取っている。ミノタウロスがベルがいた所を重点的に攻撃しているからだ。
暴れ回るミノタウロスの懐に飛び込んで、俺は二刀流の上位攻撃を発動する。
「スターバーストストーリーム!!!」
二刀流で行う最大十六連撃の大技だ。ベルが作ったチャンスを無駄にはしない。
ミノタウロスの躰にどんどん傷が増えていく、このまま押切ろうとした時、ミノタウロスが反撃を仕掛ける。それは、只の殴りかかりだが、このままでは当たってしまう。
ミノタウロスの攻撃が当たってしまえば、状況が一転してしまう。何とか避けるため、スターバーストストリームを中断する。
それでも、間に合わない。目前に迫る拳に思わず目を瞑る、すると予想とは違う方向から衝撃が来る。ベルだ。
またもや、体当りで俺を救ってくれた。他に手段は無かったのかと軽く思うが口には出さない。
『フゥフゥ』
ミノタウロスが落ち着き始めた。片手で負傷した眼を抑え、もう一つの眼で俺達を睨めつける。
お互い距離が離れた為、相手の挙動を探っているが。状況はあまりよろしく無い。確かにミノタウロスは満身創痍だ。だが、それは俺達にも当て嵌まる。目立った傷こそ少ないが、小さな傷や打撲が所々にあり、何より格上相手の戦闘だ、精神的な披露が酷い。さっきので仕留めきりたかった。
だが、負けた訳じゃ無い。今度こそ倒す。そうベルに言おうとしたら、ミノタウロスに躰に一線が走った。
『ヴォ?』
「は?」
「え?」
その線はミノタウロスの躰を次々に走り抜け、やがてミノタウロスだったものは只の死体へと変わった。
「あの…大丈夫、ですか?」
現れたのは、金髪の少女だった。