ダンジョンに出会いを求めたら黒の剣士に会いました?   作:アーズベント・ウィッカ

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怪物際その2

窓から漏れる太陽の光を浴びて、目を覚ます。

寝起きはいい方なので軽く身体を伸ばしたら、毛布から抜け出し、顔を洗う。

 

僅かに残ってた眠気も冷水で吹き飛ばし、そのまま頬を数回叩く。

そして、完全に醒めた目で神様が何時も寝てるソファーを覗く。

 

「神様…。」

 

そこに神様の姿は無い。

神の宴とやらに行った神様はまだ帰って来ていないようだ。元々、何日か留守にすると聞いていたから問題は無い。けど、寂しさは感じてしまう。

 

「キリトはっと」

 

次いで、相棒の様子を確かめる。

まだ寝てるようで、毛布に包まって浅い呼吸を繰り返している。

何時もは飄々とした顔をしている相棒だが、寝顔はやけに幼く見える。

 

「朝だよ、キリト」

 

そんな相棒を起こす為、トントンと肩を叩く。

二度三度叩いても反応は無く、毛布をはいでも起きない。

今日は一段と頑固な様だ。

この状態のキリトを起こすのは面倒なので放置する。

 

寝坊すけな相棒は放っておいて、自分の支度を整える。

 

今日は、怪物祭の日。

何時ものダンジョン攻略は休みで祭りを楽しむ事になっている。

この日の為に、お金を貯めていたので財布にはそこそこの額が入っている。軽くリッチに成った気分だ。

 

如何にも駆け出しって感じの、何時もの服に着替えると、傷だらけの防具がやけに目立っていた。

防具だけで無く、服にも無数の擦れ跡や切れ目が見受けられる。

 

(そろそろ、新調しようかな)

 

服を変えるには随分と早いけど、このままじゃ使い物になら無くなってしまう。単純に今攻略してる階層にこの防具じゃ耐えられない。普通なら真っ先に変えるべきなのに、僕もキリトもあまりモンスターの攻撃を喰らわなかったからうっかりしていた。

 

(うん、今日ついでにバベルに寄って防具を見てみよう)

 

身支度が終わり、朝ご飯を作っていたら匂いに釣られてかキリトが起きてきた。

ボヤーとしてるキリトは、眠そうな目を擦りながら片手を挙げて挨拶をしてくる。

 

「ふぁー。おはようさん」

 

「おはよう」

 

起きたキリトは身支度を整え、テーブルに腰掛ける。

 

「確か今日が怪物祭だったよな」

 

「そうだよ。これ食べたらもう行く?」

 

今日の朝ご飯は、スクランブルエッグとベーコンとパン。

料理が微妙な僕にも簡単にできて美味しい完璧な朝食。

というか朝は、大抵がこのメニューだけど。

 

パンを頬張りながらキリトが頷く。

 

「そうしよう」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「待つニャそこの白と黒の頭達ー!」

 

怪物祭のメインイベントである、モンスターの調教が行われるコロシアムに向かう途中。獣人の少女に呼び止められる。

 

その少女の服装には見覚えがあった。豊穣の女将亭の給仕服だ。

 

「はい、これニャ」

 

近付いてきた少女に財布を渡された。

 

「これは?」

 

「シルに渡してニャ」 

 

「シルさんに?」

 

だとしたら、この財布はシルさんの物なのだろうか?

財布と少女を交互に見ながら首を傾げていたら、少女の後からエルフの女性が現れた。こちらも豊穣の女将亭の給仕服を着ている。

 

「アーニャ。それでは設定不足です。お二人も困ってーーー」

 

「あー。さてはアレだな、怪物祭に行ったはいいが財布を忘れてたと」

 

エルフの女性が言い終わる前に、キリトがぽんっと手を叩いて自分なりに納得のいく答えを言う。

そうニャそうニャと頷く少女とは対象的に、エルフの女性は少しムスッとした。どうやら、その通りだったらしい。

 

「そんな訳でして、シルに財布を渡しては貰えないでしょうか? 私達はお店の方があるので。あの子も、折角お店を休んで行ったお祭りで無一文は可哀想なので。」 

 

「そういう事なら、喜んで。シルさんには美味しいお店を紹介して貰ったのでこんぐらいは問題ないです。」

 

「それに、俺達も怪物祭を見に行くから丁度いいっちゃ丁度いいからな」

 

「ありがとうございます。シルに貴方達のような友人がいて良かった。」

 

「シルを見つけたら、お土産沢山っていっといてニャ。」

 

元気に手を振る獣人の少女と軽く頭を下げるエルフの女性を背に僕たちはコロシアムに向う。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ベールーくーん!」

 

がしっ。そんな音が聴こえそう勢いで神様が抱きついてきた。

 

「てっ! 神様?!」

 

「やー数日ぶりのベル君だ。寂しかったぞチクショー!」

 

コアラの様に抱きつく神様が僕の身体に頭をグリグリと押し込む。

 

「神様、神様。俺も居るって」

 

からかうような声の調子でキリトが自己主張する。

 

「知ってるとも。君にも会いたかったぞ。頭を出しなさい、撫でてあげよう!」

 

「いや、こんな往来でそれはちょっと…。ベルだけで勘弁してくれ」

 

「キリト! また! また僕を見捨てるの!」

 

僕だって今の状態凄い恥ずかしいんだけど!

周囲の目が痛い! 

 

「見捨てるって人聞きの悪い。譲ってるだけだって。」

 

「騙されるか! 面白がってるでしょ! 目が笑ってる!」

 

「ああ。」

 

…切れそうになるけど、それより今は目の前の神様だ。

 

「神様、今日は怪物祭の日ですよ。一緒に観に行きませんか?」

 

「むぅ? 怪物祭? あー、モンスターの調教とかってアレ? うーん。僕としてあまり好きな物じゃないね。」

 

コアラ姿の神様が難しい顔をしたまま唸っている。

 

「なら、屋台の食べ歩きしませんか? この日の為にそこそこ貯めてたんでいたので奢りますよ?」

 

「おぉ! そいつは素晴らしい提案だベル君! 皆で食べ歩きしようじゃないか! どうせなら手を繋いで」

 

そう言って、僕から降り僕達に手を伸ばしてくる。

僕は多少の恥ずかしさを誤魔化しその手を取る。

キリトも恥ずかしいのか、照れながら手を取る。

 

「神様、俺はモンスターの調教にちょっと興味があるから、途中から別行動で良いか?」

 

「うん。それは勿論だよ。というか、確かに僕はモンスターの調教とかは観たくないけど、君達が観たいのなら観に行けば良いよ。眷属の趣向を否定する気なんて僕には無いからね。そんな器の小さな神じゃ無いさ。」

 

「わかった。ならベルはどうする? 神様と屋台回ったあと一緒に観に行くか? 元々観に行く予定だし。」

 

確かにモンスターの調教にはちょっと興味がある。神様がいいと言うなら僕も観ようかな。

 

「うん。僕も屋台の後、観に行くよ」

 

「ちぇー。そうかいそうかい君達は、僕とのデートよりモンスターのあんな姿やこんな姿が観たいのか」

 

「えっ、ちょ神様? 言い方言い方。」

 

「ベル、落ち着け。からかってるだけだ。」

 

「そうだとも。それより、モンスターの調教を観るなら早めに屋台回りをしとかないとね。さぁ、行こうか二人共。」  

 

そう言って神様は歩きだーーー転けた。

両手を僕達が握ってるせいでバランスを崩した様だ。

 

「………」

赤面する神様。

 

「「………」」

目を逸らす僕達。

 

『………』

周囲で見ていた通行人達。

 

何とも言えない気不味い空気が周囲を覆いそうになった時。

 

『キャーーーーーー』

 

甲高い女性の絶叫が辺りに響いた。

 

「キリト」

 

「ベル」

 

お互いに名前を呼び、臨戦態勢を取る。

絶叫は近くから聴こえた。

なら、直ぐに何が原因かは解る。

神様を庇いながら声の方向に気を向ける。

 

「原因はアレだな」

 

キリトが呟く。

 

「だろうね」

 

僕も続く。

 

視線の先にはモンスターの集団が居た。

種族はバラバラで統率の取れてない動きを見れば、群れでないことが解る。

実際にモンスターの集団は各々勝手に散らばっていっている。

 

最終的にこっちに向かってくるモンスターが四体。

それぞれ、レッドドッグ。ブルーバード。シルバーファング。ブラックファングって名前のモンスターだ。

 

正直、今の僕達じゃキツイ。

 

「…どうする?」

 

「やるしか無いよね」

 

戦って勝てる保証は無い。強さだって、数だって違う。

でも、だからって周りの人達を見過ごせ無い。

そして、何より。

神様の目の前で情けない姿は見せたく無い!

 

走って来る四体のモンスター。

僕達はそれを武器構えて待ち受ける。

 

 

 

 

 










モンスターの名前? 何それ美味しいの?

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