俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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ヒマだったので書いてしまいました。
良かったら読んでください。

※特別編なので、直前までの物語とは話が繋がっておりません。
 読み切りとしてお楽しみください。


#特別編「決戦! 銀世界のトナカイ・レインジャーズ!」

「よし! クリスマス仕様ダンジョンへ行くぜ!」

「はて、クリスマスと言うのは何でございましょう?」

 

 おや?

 

 お姫様はクリスマスをご存知無い?

 

「キリストという聖人の誕生を祝う行事なんだが、トリピュロン王国には無いのかー」

「日本の固有の聖人なのですね」

 

 日本の聖人じゃないんだが。

 来た事があるとしても、せいぜい青森くらいじゃないかな?

 

「ケーキ食べたり、プレゼントを贈ったりする楽しいイベントだぞ」

「ケーキ! こっちの世界にもケーキがあるのね! にーに! あたくしも食べたいわ!」

 

 ファルフナーズの妹姫、シャフりんが飛び上がって反応して俺に抱き付いてきた。

 

「もちろんだ。だが、少し懐が寂しくてな。ダンジョンで稼いでからな」

「分かったわ! あたくしが全力でサポートするわ!」

 

……

 

 

 どこでも扉を据えつけて……ガチャッ

 

「おあー、雪国だ」

「一面の銀世界だわ!」

 

「……」

「……」

 

「なぜシャフりん?」

「なによー?」

 

「いや、ダンジョンはファルフナーズとペアで……」

「クリスマスだから気にしないのよ!」

 

「いやいや、シャフりんと潜れるようになるのは、まだ先の話で」

「メタな台詞はダメよ!」

 

 シャフりんが俺の背中を勢い良くはたく。

 

 メメタァ

 

「仕方無いな……まあお祭りみたいなもんだし、今回はいっか」

「ケーキのために全力でサポートするのだわ!」

 

「サポートって何ができるの?」

「……お、応援とか?」

 

「チェンジで」

「仕方無いじゃない! まだ作者が決めてないんだから!」

 

 メタな台詞はダメなんじゃなかったっけ。

 

 ただ無敵なだけの12歳児を引き連れてダンジョンかー

 変な敵が出てこないといいなあ。

 

 

「やはり雪はいいもんじゃのー このくらいが快適ってもんじゃてー」

「あれ、スクルド。お前もダンジョンに来ちゃあダメじゃないか」

 

「いいのじゃ。個人的な恨みがあるからのー」

「恨み?」

 

「ワシらはこやつらキリスト勢に駆逐されて地球を追い出されたようなもんじゃからー」

「あー…俺の知らない過去の怨恨を持ち込まないように」

 

「わかっておる。アストラルの仮想ダンジョンでくらい、憂さを晴らしたいってだけじゃー」

「まあヤブヘビにならないよう、それ以上は突っ込まないでおこう」

 

 雑談じみた事を話しながら雪原を踏み進めていく。

 あたりは夜だが、満月と星明りでとても明るい。

 

「雪がわずかな明かりも乱反射するからの。晴れてれば夜でも案外明るいのじゃ」

「へー……あれ? シャフりん?」

 

 静かだと思って後ろを振り返ると……

 

 シャフりんの手だけが!

 

 

 雪に沈んで埋もれてるー!?

 

 

「大丈夫か!」

 

 慌ててシャフりんの腕を掴んでゴボウ抜き。

 

 スポーン

 

「ぴゃーっ! た、助かったわ、にーに!」

「新雪は侮れないな。子供くらいすぐに埋もれてしまう」

 

 かく言う俺も膝上まで埋もれてる。

 濡れた足が凍えそうだ。

 

「こんな時の浮遊靴だ。シャフりんはおぶっていこう」

「にーに大好き!」

 

「敵が来たら雪に放り投げるけどね」

「にーにのバカー」

 

 分かり易いな。

 

「でも背負ってたら手が使えないし」

「根性でしがみつくわ!」

 

 流石シャフりん。

 割と何でも根性で済ますタイプだな。

 

 

 ヒュンッ!

 

 凄まじい一陣の風が俺達の側を通り抜けた。

 だが俺には見えた!

 

 あれは風じゃない! 敵だ!

 

「マー君、トナカイのモンスターじゃ!」

「おいでなすった!」

 

 気が付いた時には囲まれていた。

 トナカイ達に。

 

「8匹いる。なんて動きの早いモンスターだ」

「レインジャー・レインディアーよ! レベルは30!」

 

 シャフりんが俺の首につかまりがら叫んだ。

 耳がキンキンするので、もう少し小声でお願いします。

 

 って言うか、向こうにもいるモンスターなのか。

 

「赤く光る鼻を持つトナカイで8匹1チームで行動する、森の狩人よ!」

「ふ、ふーん……」

 

『ククク、ここから先は通さないぜ。俺はダッシャー!』

「こいつらしゃべったぞ!」

 

 トナカイ達は次々と名乗ってきた。

 聞いてないのに。

 

 残りはダンサー・プランサー・ヴィクセン・ドンナー・プリッツェン・キューピッド・コメット、だそうだ。

 

 

「シャフりん、戦い辛いから降りて降りて」

「雪が冷たいから嫌よ!」

 

 シャフりんは長く細い足で、器用にも俺の腹をホールドしてきた。

 やりづらくてたまらないな。

 

『おのれダンジョン・オープナー、子供を盾にするとは!』

「背中にいるのに盾も何も。そもそも姫巫女の姿が見えるとは」

 

『そこらの邪悪なモンスターと一緒にしてくれるなよ? これでも神の眷属だ』

「また変なのを引き当てたのか……」

 

「またとは何じゃ、またとは」

 

 スクルド様がお怒りだ。

 

「我が神スクルド様が怒り心頭ぷんぷん丸だぞー 邪教のシモベたちよー」

「マー君に対して言ったんじゃがのー 余計な軋轢を生むものではないぞえー」

 

 あっ、そうだった。

 

「悪い悪い。じゃあそっちはそっちでヨロシクやってくれ。こっちはこっちで……」

『今更はいそうですかと退けるものか! やれ! ドンナー! コメット!』

 

 ヒュンッ!

 

「は、早いッ!」

 

 あっという間に背後を取られた。

 振り向く間もなく攻撃を──

 

「きゃー! にーにー! 助けて!」

「お、おいよせ! シャフりんに手を出すのは反則だろッ!?」

 

 2匹のトナカイが2足で立ち上がって──どこかで見た光景だな──前足でシャフりんを俺から引き剥がそうとしている。

 

『ふんっ! ハナから貴様なんぞ相手にしておらぬわ! 我らの目的はその姫巫女のみよ!』

 

 バランスを崩したシャフりんの両手をそれぞれ引っ張るトナカイのモンスター、ドンナーとコメット。

 体を反転させ、シャフりんの足を掴んで引き寄せる俺。

 

 謎の綱引きバトル状態だ。

 

「くっ! 離せゲテモノのトナカイめっ!」

『貴様こそ離せ! ロリコン・ヒキニート!』

 

 ろろっ、ロリコンちゃうわ!

 

「にーに! 何だかえっちだわ!」

 

 ”!?”

 

 ……確かに、気が付けば。

 背中にしがみついていたシャフりんを、振り返って足を引っ張っている状態だ。  

 トナカイに渡すまいとシャフりんの大きく開かれた足を引っ張って……

 

 股間が……いや、体が密着しているこのポーズはちょっとエロい。

 

「楽しんでいる場合かーッ!」

 

 意識させるな!

 このままでは本当にロリコンになってしまう!

 

「スクルド! 援護を!」

「こっちも手一杯じゃー」

 

 見るとスクルドも他のトナカイと肉弾戦を繰り広げている。

 直接ゴッド・パワーを使わないのは、やはり本気で戦うと軋轢とやらが生まれてしまうからだろうな。

 見た目通り、きっとプロレス的なルールありきドラマ優先の戦いなんだろう。

 チョップとかジャンプキックで戦い合ってるし。

 

 まあ押さえ込んでくれてるだけでも有り難いというもの。

 

「にーに……ちょっと、流石に痛くなってきたのだわ……」

「くっ、もう少しだから我慢して──」

 

 また台詞が何かエロい……じゃない。

 

 仕方無い。

 手を離そう。

 

 手と足を力の限り引っ張られるなんて拷問だからな。

 シャフりんは姫巫女だから無敵だけど。

 それでも痛くなってきたっていうのだから、今かかっている力は並みの人間なら体が千切れてもおかしくない程のはずだ。

 

 手を離した途端、2匹のトナカイの力で10m以上もすっ飛んでいき2匹と1人は雪の中に転がった。

 

 

『そこまでだッ! 双方、手を止めよ!』

 

 

 新たなるトナカイがそこに立っていた。

 光って輝いている。

 

 ──赤く。

 

 鼻が燃えるように光っているトナカイが2本足で立って腕、もとい前足を組んでいる。

 ガイナ立ちってヤツだ……

 

 8匹のトナカイ達はその場で伏せた。

 と言ってもトナカイなので座っているようにしか見えないが。

 

『ルッ、ルドルフ様!』

「……わけがわからないよ?」

 

『私の名は”赤鼻の”ルドルフ。ダンジョン・オープナーよ、貴様の行い、しかと見せてもらったぞ』

「何で上から目線なの?」

 

 8匹のトナカイが口々に申し立てる。

 

『ルドルフ様! 我々はいたいけな子供を邪悪なダンジョン・オープナーの手から救い出そうと……』

「滅茶苦茶言ってやがる。シャフりんは俺の仲間だぞ」

「むしろ義妹よ!」

 

 ああ……そういえば、危惧していた事は本当になってしまったなあ。

 シャフりんはこのままいけば、俺の義妹になるのだ。

 

 しみじみ。

 

『ルドルフ様! 正義は我らにこそ在り! 姫巫女は我々が保護するべきです!』

『ええいッ! 黙れッ! この私には一目瞭然ッ! 姫巫女はダンジョン・オープナーのものだ!』

 

 ものとか言うな、失礼な。

 そもそも最初から一緒に行動してたんだし。

 

『なぜですルドルフ様! 姫巫女を勝ち取ったのは我々ですぞ!』

『愚か者どもめ……なればこそ、だ!』

 

 あ、もう分かった。

 

『姫巫女が痛みを訴えた時、ダンジョン・オープナーは即座に手を離した。これこそ家族の情愛!』

『そ、そんな……ルドルフ様』

 

『我らトナカイは子供の味方。子供の痛みを無視して己が功を誇るなぞ、トナカイの風上にも置けぬ! 去れいッ!』

『へ、へへーーッ!』

 

 8匹のトナカイは方々に逃げ散っていった。

 

『これぞトナカイ裁き。これにて一件落着ッ!』

「するか!」

 

 金属バットさんでパッカーン!

 

『痛い……せっかく綺麗にまとめたのに』

「うっせー、クリスマスだクリスマス! 時代劇やりに来たんじゃねえぞ!」

 

 脇腹を金属バットさんでド突かれたルドルフと名乗った赤鼻のトナカイが謝罪した。

 

『許せダンジョン・オープナー。我らトナカイは子供を守りたいという本能が働いてしまうのだ』

「どう見ても拉致しようとしてたよね」

 

『すまぬ……近頃の子供は夢が無くて……久々のえも──良き子供の来訪に浮かれていたのだ』

「今、獲物って言いかけたよね?」

 

『この先にボス部屋がある。これは褒賞として受け取ってくれ』

 

 ブチイッ!

 

 赤い鼻が差し出された。

 

「それ、取れるんだ!?」

『ランク・ベリーレア相当のアイテムです。持っていると防寒保温、永久光源、冷気・氷耐性が獲得できます』

 

 また営業口調だ!

 

「凄いわにーに! トナカイをやっつけたわ!」

「やっつけたのかな……? 勝手に芝居打ってただけのような」

 

 逃げ去ったトナカイ達の後に金貨がそれぞれ落ちている。

 計9枚、赤鼻の光に反射して見つけられた。

 

「よし、なかなか美味いな。じゃあボス部屋へ向かうか」

「ケーキまで、あと少しよ!」

 

 再びシャフりんを背負って歩き続ける。

 

「わあ……にーに、見て! 雪が降ってきたわ!」

「はは、ホワイト・クリスマスだな」

 

 満点の星空なのに、雪が降ってきている。

 遠くに見える山から風で運ばれてきたのだろうか。

 

 ……いや、そもそも仮想空間みたいなダンジョンだし、そこらへんの理屈は適当なんじゃないだろうか。

 まあでもシャフりんが喜んでいるから良いか。

 

 スクルドも飛び回って雪と戯れている。

 雪やこんこ、神は喜びダンジョン飛び回る。

 

 楽しそうで何よりです。

 

 

 平原が登りのなだらか丘になってきて、その上に一軒の小さな家が見えてきた。

 窓からは明かりが漏れていて、煙突から煙が立ち上っている。

 

「あれがボス部屋に違いない」

 

 ヒュウウウウゥ!

 

 突風が吹き荒れ、途端に吹雪き始めた。

 

「にーに、視界が悪くなるわ! 早く家に入りましょう!」

「同感だ! いきなりボスが居るかもしれないから気をつけろよ!」

 

 玄関のポーチで体に積もった雪を払い落とす。

 

「シャフりん、扉を開けてくれ」

「わかったわ! あたくしに任せて!」

 

 シャフりんが扉を開けると、扉の内側に付けられていたらしいドアベルが大きな音を立てた。

 

 カラコロコローン

 

 音に釣られて扉の上を見ると、扉の上には看板がかかっていた事に気付く。

 

「ようこそ、ペンション・シュプールへ」

 

 何でペンションなんだろう?

 そう思いながらも、俺達はペンション風ボス部屋へと足を踏み入れていった。

 

「クローズド・サークルじゃな……」

 

 つぶやいたスクルドの言葉がなぜか俺を不安な気持ちにさせた。




ペンションでマサト達に襲い掛かる悲劇と喜劇!
クリスマスは血に塗れる! (モンスターの血に)

次回、クリスマス特別編、後編「かまいたち達の夜」お楽しみに!

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