俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#7「捨てちゃうおじさん」

「よし、お湯だ! 蛇口をひねってお湯を出すんだ」

「こ、これを回せば良いのですか?」

 

「うむ! だが、そのままではファルフナーズが水びたしだ」

「ううっ……」

 

「俺はそれでも構わんが、脱がなくて良いのか?」

「まっ、マサト様ぁ~」

 

 水に濡れて透けたドレスが体に張り付き魅惑のボディラインを露わに……想像だけで萌える。

 

 だが

 

 ……ま、これ以上は可哀相か。

 

「今日はこの辺で勘弁してあげよう」

「じょ、冗談でしたか……マサト様もお人が悪いですわ」

 

「今日は、だけどね」

「ひーん」

 

「まあ、ともかくこちらの風呂用具の使い方を教えなければならないからな」

「左様でございましたか……私はもうてっきり……」

 

 てっきり、何だろう?

 

 シャンプーやらリンスやら、シャワーの出し方止め方と次々と教えていく。

 

「はー……こちらの世界のお風呂はまた随分と素敵ですわ」

「ところで、ファルフナーズはお姫様らしいけど、一人でお風呂入ったことあるの?」

 

「それが恥ずかしながら、今日が初めての経験でして」

「大丈夫か? このシャンプーとか、目に入ったら滲みるぞ~?」

 

 シャンプーを眺めて息を呑むファルフナーズ。

 

「さあ選べ。一人で目に滲み滲み地獄を味わうか、恥ずかしくても俺と入るか」

 

 冴えてる! 俺!

 スケベ根性は俺の知能をブーストする。

 

 いや、俺だけじゃない。

 人類はこうやって発展してきたに違いないのだ。

 

 偉大だなあ、スケベ心。

 お姫様は俺とシャンプーを交互に見つめる。

 

「止むを得ません。き、決めましたわ……!」

 

 

 おお!?

 これは……?

 

 

「お母様! お母様ー! 本日はお風呂をご一緒しませんかー?」

 

 

 ですよねー

 

 

 ファルフナーズが一枚上手だった。

 上手く2択しかないと、誘導できたと思ったのになー

 

 

 イタズラのツケでたっぷり一時間以上待たされるハメになった。

 タオル1枚腰に巻いたままの姿で。

 

 

 

「あれっ、服が違う。そんなピンクのドレスもあったのか」

「はい、着替えましたわ」

 

「どこに服を隠し持ってたんだ?」

「こちらに……」

 

 腰元をごそごそとやってると、にゅるりと言った感じで前の白いドレスが出てきた。

 

「うおっ? 何か今、腰から生えるように出てきたぞ?」

「はい、アイテムバッグでございますわ。マサト様は所持しておりませんので?」

 

「んなもん無いわ。要はドラえもんの四次元ポケットか」

「ドラ……? いえ、ドラゴンでは無く、スピリットの霊体構造を利用した言わばサブマテリアル化だそうで――」

 

「あー分からん分からん。知っても仕方ない」

「これは失礼を」

 

「で、それって何でも入るの? 大きな物とか生物とか」

「私のは良い物をしつらえて頂きましたからサイズと重量はかなり大きな物まで可能ですわ」

 

「ほほー、具体的にはどのくらい?」

「合算で大きさはマサト様の部屋くらい、重量は全部で大人15人分くらいまでです」

 

「6畳半、1トンって所か。便利だなー」

「生き物を中に入れる事は可能ですが、強制的に霊体化されるので生存の為の術式無しでは即死してしまいます」

 

「逆に殺菌とかできそうだな」

「サッキン……? 私を解雇されるのですか!?」

 

「へ?」

「あら?」

 

 何だか会話が通じなかった。

 まいっか。

 

「つまり、荷物持ちとして優秀な事は分かった」

「いえ、あのー……」

 

「何?」

「既に私の生活用具で一杯でして」

 

「どんだけ荷物持ってきてんだよ!」

「ベッドにソファにクロゼットなどが……」

 

 お姫様サイズのかー

 俺の部屋にそれを出す余地も無さそうだ。

 

「よし、片っ端から捨てよう!」

「そ、そんなあー!」

 

 ファルフナーズが身を引いて体をよじり、頭をふるふると振って拒否する。

 

「このクソ狭い家に、お姫様専用の家具を展開するスペースなぞ無い!」

「で、ですが、これは私にとって大切なものでー!」

 

「いや、むしろ売ろう! 異国風家具としてプレミアが付くかもしれない」

「どうかご容赦を。私の思い出の品なのです」

 

 あらー、じゃあ仕方ないか。

 まあ異国どころか異世界に単身赴任じゃあ心細くもなろうもんだ。

 

 家から出ないヒキニートの俺からしたら恐ろしい経験にも見える。

 

「仕方無い。その代わり家具は外に出すなよ。絶対家が壊れるから」

「あ、ありがとうございます! マサト様の寛大なお心に感謝を」

 

「細かい身の回りの品とかは出してもらおう。ダンジョンで少しでも荷物を持ってもらいたいから」

「あ、はい。了解しましたわ」

 

 ……

 

 まー、出るわ出るわ。

 どんだけ着替えたいんだよって位、服を次から次へと。

 化粧品やらブラシやら俺の知らないコスメグッズもあれやこれや。

 

 途端にファルフナーズの手が止まってこちらをチラチラ見ながらモジモジとし始めた。

 ピンと来た。

 ここからがお楽しみだ。

 

「どうした? 続けて」

「あっ、あのう……私も一応、女の身ですので、殿方にお見せしづらい品もございます」

 

「ほーう? 例えば?」

「あっ、しっ、下着とか……です。 はい」

 

「俺は気にしないよ? 続けて?」

「マッ、マサト様ぁ~!」

 

 腕組みして沈黙を支配する。

 不動の構えでファルフナーズの羞恥に身をよじる仕草を堪能だ。

 

「こっ、これでご勘弁くださいっ!」

 

 でっかいカボチャパンツを突き出すファルフナーズ。

 ドロワーズとか言う、パンツの上から履くやつだなー

 これがそんなに恥ずかしいのか?

 

 ファルフナーズが両手で顔をふさいで固まってしまったので今回はここまでだ。

 

 考えてみれば、腰にタオルを巻いただけの格好だった。

 

 くしゃみをひとつ。

 ドロワーズをファルフナーズの肩に被せ「体を冷やすんじゃないぞ」

と、意味不明な言葉を残し風呂へ向かう俺だった。

 

 なぜか雰囲気に流されたのか、ファルフナーズは涙目でお礼を言っていた。

 騙されやすいお姫様をからかうのも程ほどにしないとなー

 

 ……

 

 …

 

「あ、ファルフナーズさぁ~ん? お風呂の扉開けてもらえますー?」

 

 イタズラのツケか、風邪をひいた。

 バッドステータス。


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