俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

69 / 71
あらすじ:ガチャ、それは沼に例えられる。
 今、マサトと姫がその沼へと自ら踏み入ったのだ…


#69「賭けましょう! 私の毛根を!」

「よし、限定ガチャだ!」

「マサト様の覚悟、しかと受け止めましたわ!」

 

 ファルフナーズの目がらんらんと輝く。

 水を得た魚のようだ。

 

 ガチャを得たお姫様。

 

「はーああああッ、ですわーっ!」

 

 良く分からない気合を込めてタメを作っている。

 それで何か変わるものかね。

 

 だがこの際、気合でもジンクスでも神頼みでもいい。

 毛根への被害が最小限で済むのならね。

 

 チラッと横目で部屋の住人、いや、住神魔達を振り返る。

 

 うん、ダメだな。

 神頼みは。

 

 絶対アテにならない。

 

「今、マー君が大変無礼な事を考えたのじゃ」

 

 スクルドが何かを悟った。

 くっ、見た目は銀髪10歳児のくせに鋭いな。

 

 

「とおーっ! ですわっ!」

 

 ファルフナーズが指を前に突き出した。

 俺の頬を掠めて尻尾がピンと逆立つ。

 

 突き出す方向にもう少し気をつけてくれ!

 

 

 ドゥルルルルル……

 

 

「あれ? ドラム・リールが2つ出たぞ」

「1度に2つ賞品が出るのでございましょうか?」

 

 んな馬鹿な。

 

 

 デデドン!

 

 1つ目のドラム・リールが先に停止する。

 

『姫巫女』

 

「えっ?」

「えっ?」

 

 ファルフナーズが賞品なのか?

 新しい姫巫女でも出現するのかも知れない。

 

 デデドン!

 

『コモン』

 

「きゃあっ!」

 

 ドラム・リールの2つ目が停止すると同時にファルフナーズが悲鳴をあげた。

 

「どうした!」

「ひ、額にチクチクとした痛みが……」

 

「見せてみろ。ライカンスロープ病でも悪化──」

 

 ぶふっ!

 

 こ、こらえろ。

 

 笑ったら終わりだ。

 

 

「マサト様……? 傷口は酷いでしょうか……?」

「い、いや。深刻なような、そうでもないような」

 

 ファルフナーズが怪訝けげんそうな表情で腰元のアイテム・バッグから手鏡を取り出した。

 

 見てしまった。

 己の身に降りかかった災厄を。

 

 ガチャの代償として捧げられ、完全に失われた──

 

 

 左の眉を。

 

 

「マ、マサト様。わたく……私の左眉が……?」

 

 

 プルプルと震えながら俺の方へゆっくり振り向く。

 目線が泳いでぐるぐる目みたいになっている。

 

 

 パタッ

 

 

 糸の切れた操り人形みたいに、お姫様が気を失った。

 

……

 

 

「気が付いたか、ファルフナーズ」

 

 ベッドの上で目を覚ますお姫様の顔を覗きこむ。

 眠り姫ならぬ気絶姫。

 

「あ……悪い夢を見ておりましたわ。私の左眉が……」

「残念だが、それは──」

 

 俺の隣にいたシャフりんが元気良く手鏡を突き出す。

 

「大丈夫よファル姉様! あたくしが綺麗に引いておいたわ!」

 

「や、やはり現実だったのですね」

 

 ファルフナーズが肩を落とす。

 これは深刻なダメージだな。

 

 シャフりんの化粧スキルが高かったおかげで、完璧に綺麗な眉が描かれているが。

 

「地球には良いメイク道具がいっぱいあるから心配すんな」

 

 慰めになるような、ならないような言葉を投げ掛けておく。

 

「マサト様は毎回、これだけ辛い思いをされていたのですね」

「あ、ああ。だが、流石に今回のはヘビー過ぎるな。限定は惜しいが、ここまでに――」

 

「いいえっ! なればこそ、ですわ!」

「えっ!?」

 

 

 あれぇ?

 

 

 ここでガチャの恐ろしさを知って、もう控えようねって流れに持っていきたいのに。

 ヤバい感じにスイッチが入ってしまったようだぞ。

 

「マサト様が覚悟されているのに、私だけ甘えている訳には参りませんわ!」

「えっ、いや、別にそこまでの事じゃあ……」

 

 元はスケベ心から決めたガチャだし。

 

「ゴーなのですわ! 賭けましょう! 私の毛根を!」

「えええ~~……」

 

 そりゃ状態異常耐性のアイテムはダンジョン探索にとても役立つだろうけども。

 眉毛落としてまで欲しいものじゃあ無いぞ。

 

「いやぁ、やはり毛根は一生ものだよ? 特に女性にとっては」

「お気遣いは無用なのでございますわ! スーパー・レアを引き当てるまで回す覚悟ですわ!」

 

 わー

 

 出るまで回す理論、出ちゃったよ。

 

 沼る、ってヤツだぞこれ。

 

「眉は化粧で何とでもなるのですわ!」

 

 化粧もそこまで万能じゃないぞ。

 

 マスカラやブローペンは眉毛を濃く塗るものであって、地肌を塗るものでは無い。

 完全に無くなった眉の跡地にかくのは、やはり少々違和感が出る。

 

 ……むしろ子供っぽさが抜けて、美人度が増した気もするが。

 シャフりんの化粧術が凄すぎるだけだ、と思い込みたい。

 

 プリンセス・パワーメイクアップ

 

 祈ろう。

 トリピュロン王国が月面にありませんように。

 

 

「いきますわ! とおおーうっ!」

「マジかー!」

 

 ドラム・リールが2つ出る。

 

 デデドン!

 

『ダンジョン・オープナー』

 

 俺だ! くそっ!

 ここでスーパー・レアを出してくれ!

 

 デデドン!

 

『コモン』

 

「ああーっ! 脇が脇がーっ!」

 

 右脇が燃えるように熱い!

 

 寝巻き代わりのトレーナーをまくって脇を確認!

 

「腋毛が……消えた」

「まぁ、ご愁傷様なのでございますわ。どうか気を落とさずに」

 

「これで一生腋毛を見れなく……いや、考えたら別に腋毛なんて無くていいな」

 

 実質ノーダメージだ。

 助かった。

 

 足元に小瓶が転がり落ちた。

 

「そういえば、さっきも小瓶だったな」

「魔法の回復薬ですわ」

 

「……」

「……どうかされまして? マサト様」

 

「これで犬耳病、治るかなって」

「あっ!」

 

「よし、丁度1本ずつある。飲んでみよう」

「かしこまりましたわ!」

 

 キュポン

 

「あっ」

「あっ」

 

 植物っぽいトゲ付きの茎がニュルニュル~

 

 

 やらかした……

 

 

「トリフィド、20レベルですわ。ご愁傷様なのですわ……」

「くうっ、バタバタしてたせいで、すっかり気を抜いていたぜ。同じミスを2度してしまうとは」

 

「マサト様、こちらを……どうぞですわ」

 

 ファルフナーズが自分の分をそっと差し出してくれる。

 

「いや、いいよ。ファルフナーズが飲みな。どうせまた出るだろうし、死に戻りすればついでに治るだろうし」

「マサト様には少しでも良い状態で居て頂かないとですわ。こう見えても、私はマサト様のメイドなのですから」

 

 ファルフナーズ……

 

「そ、それに将来を、その……」

 

 そ、その件はまだみんなには内緒だ!

 

 誤魔化すために大げさに小瓶を受け取る。

 

「ありがとう! ファルフナーズの気持ち受け取ったぜ!」

 

 一気に回復薬を飲み干す。

 今回のはリポビタンDみたいな味だな。

 

 炭酸無いけど。

 

 耳がムズムズして、元の位置の元の耳に戻っていく。

 ピュッと尻尾が引っ込む感覚はちょっと忘れられないな。

 

「どうだ? 完全に元通りになったかな?」

「はい。元通りの凛々しいお姿に」

 

 相変わらずこのお姫様の美的センスはダメだ。

 

 どうも同情やお世辞ではなく、本当にそう思っているフシがある。

 

 

「さあ、3度目の正直、ですわ!」

「何でも良いけど、日本の慣用句とか良く知ってるな」

 

「気にしてはいけませんわ! とおおおーーうッ!」

 

 ドゥルルルル……デデドンドン!

 

『姫巫女』 『コモン』

 

「きゃあっ!」

「大丈夫かっ!?」

 

 ファルフナーズが顔を押さえてうずくまる。

 

「今度は右の眉でしたわ」

「お、おう」

 

 

 スチャッ!

 

 シャフりんがドヤ顔で立ち上がった。

 両の指いっぱいに無数の化粧道具を挟んで手をクロスさせている。

 

 デキるオンナ風だ。

 

 可愛い唇から八重歯がコンニチワしてなければね。

 

「ファル姉様! あたくしに任せて頂戴」

「せっかくだけどシャフリーン、私自身でやっても良いかしら?」

 

 今後のためだから、とシャフりんを説き伏せた。

 

 ションボリ顔で納得するシャフりん。

 甘えたがりの性格で、眉を描くファルフナーズにまとわりついている。

 

「うふふっ、シャフリーン。手元が狂うからそんなに揺らしちゃダメですわ」

 

 

 ──ズバッ

 

「あっ」

「あっ」

 

 

 太目のブローペンシルがファルフナーズの右眉を横に、一閃。

 

 

 こ、これは……堪えきれない!

 

 

「わはは! 超目力! 右眉が! 右眉だけで怒ってるぜ! わははは!」

「もっ、もーっ! マサト様ってば! ひどいですわ! ひどいのですわ!」

 

 右目だけ超怒ってる。

 左目は普通なのに。

 

 しかもごん太眉で。

 

「笑うのでしたら、せめて最初の時に笑ってくださいまし!」

「わはははっ! 怒るな怒るな……右目だけで。ぶふーっ!」

 

 

 右目と眉で俺を笑い死にさせるプリンセス。

 

 ビーム出そう。




感想とか眉毛とかお待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。