俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:ガチャを、回そう。

ニコイチ:事故車なんかを修理する際、他の同型中古車を寄せ集めて1台にまとめるやり方。
 2個を1つに、でニコイチ。一見まともでも意外とフレームが歪んでたりする怖さ。
 複数の住宅が1つの建物になっているのも二戸一って言うらしいよ。




#68「今度は限定ガチャだそうですわ!」

「よし! マサト様、ガチャを回してもよろしいですね? ナデナデ~」

「おまっ! それは卑怯~~くぅうん。らめぇ。いいけどらめぇ~」

 

 ビクンビクン。

 

 

「このままではファルフナーズのやりたいだけガチャを回されてしまう」

「うふふっ、昨晩のお返しなのですわ~ えいっえいっ」

 

 あっあっあっ

 

 また漏れちゃう。

 

「わっ、分かった。回していいから、マジやめて! いや、やめないで」

 

……

 

 

「や、やっと治まった……嬉し死にするかと思ったぜ……」

「お粗末様なのですわ」

 

 お粗末様、じゃない!

 

 ツッコミたかったが、またナデナデされたらたまらん。

 犬耳は危険過ぎた。

 

 ファルフナーズにも犬耳があるから、お返しにナデナデ地獄をリベンジ返ししてもいいが……

 きっと復讐は何も生まない。

 

 

「では早速! とおおぉおぅう、ですわー!」

 

 久しぶりのガチャに変なテンションの上がり方を見せてるな。

 空中に向かってお姫様の華奢な指が突き出された。

 

 ビリリッ!

 

 後頭部に痺れるような痛み!

 

 いや、もうここ、後頭部と言える場所か……?

 

 俺の毛根と引き換えに、空中にドラム・リールが出現し回転を始める。

 

 

 ドゥルルルル……デデーン!

 

『スーパー・レア』

 

 

「き……ッ! キマシタワー!」

「やったぜ!」

 

 

 いきなり最高レアを引き当てた!

 

「……」

「……」

 

「で、アタリは何だったっけ?」

「確か……はて、私も失念してしまいましたわ」

 

 

 スーパー・レアの文字が消えると後光と共にアイテムが降りてきた。

 

「ああ、思い出した。篭手だ篭手。確か多機能何とか」

「そうでございましたわ」

 

 銀色の金属板を重ね合わせた、重厚な感じの篭手が俺の手元に納まった。

 

 感動だ。

 

 まともな装備を手に入れたのが無限ソード以来の気がする。

 

「で、どんな機能があるんだろう? 無限ソードみたいにしょっぱい性能ってオチはご免だぜ」

「では確認しましょう。ええと、多機能ガントレット・覇者の篭手の性能ですが……」

 

 ファルフナーズは空中に向かってパントマイムのように手を動かす。

 お姫様にだけ見える、謎のステータス・ウィンドウがあるらしい。

 

「まずは命中点+30、打撃点+30、防御点+30」

「よしよし、なかなかの装備値だな。確かな満足」

 

「装備効果【豪腕】重量物を持ち上げたり動かす事が出来る」

「割と普通だな。力持ちになるって事だな」

 

 試してみるか。

 俺の後ろから、ツルツルになった後頭部を撫でるのに夢中な死神少女デスノの腰を掴む。

 

「マサト大胆。でも2人きりになれる場所でして」

 

 何をかな?

 

 気にせず……ひょい。

 

「おお、軽い! デスノくらいなら重さを感じないほどだ!」

 

 こうなると、限界を試してみたくなるな。

 

「ファルフナーズ、部屋と玄関の扉を開けてくれ」

「かしこまりましたわ。ご褒美に例の甘味屋でございますね?」

 

「ないわー。ガチャ回してご褒美とかないわー。ちょっとおっさんの車でも、と」

「残念ですわ。頑張りましたのに」

 

 頑張ったのは俺の毛根達だよ?

 

 玄関から表に出ると……いたいた。

 

「おっさん……仕事は大丈夫なのか」

「おう兄ちゃん! 乗るのか! ガチャやってたって事は強化に行くのか? それとも合成か?」

 

「強化と合成って何か違うの?」

「そんな事も知らねぇのか!」

 

 知ってるわけが無い。

 言葉で大体想像がつくけど。

 

「装備を鍛えるのが強化。合成は装備と装備を1つの装備にして便利にするぜ。ニコイチってヤツだな!」

「ニコイチはまた別の言葉だと思う」

 

 そんな事が出来たとは。

 

「そう言えば無限ソードを持て余しているな」

『ぜひニコイチして欲しいのである』

 

 合成ね、合成。

 金属バットさんが悪い言葉を覚えた。

 

 

「ともかく、車でチャレンジだ」

 

 タクシーの下に手を入れて……

 

 ぐっ

 

 おっ、何か力が車全体に均一にかかる不思議な感じ。

 

「ふんぬっ!」

「凄いのですわ! マサト様がタクシーという鉄の荷車を!」

 

 お姫様が拍手して賞賛してくれる。

 

「正直っ、タクシーでっ、ギリギリって、感じだなあっ!」

 

 腕がプルプル震えてきた。

 壊さないようにゆっくりタクシーを下ろす。

 

「あーこりゃ、明日は絶対筋肉痛だな」

 

 しかしこれは凄い。

 1トンほどもある重量物を持ち上げられるとは!

 

 怪力ニート。

 

 また以前の鉄の像みたいなのが出てきたら、このパワーで無理矢理どかす事もできるかも知れない。

 単純な能力だけに用途は多いに違いない。

 

 満足しながら自室に戻る。

 

「で、次の装備効果でございますが【手首回転】手首を回す事が出来る、だそうですわ」

「なんだか当たり前のような……ほいっと――うわっ! キモい!」

 

 ぐりゅん!

 

 手首をひねると綺麗に一回転して元に戻った!

 

「同じ方向に手首が無限に回せるぞ! これはキモい!」

「便利なような、無意味なような効果ですわ」

 

「……冷静に考えるとそうだな」

「あっ、申し訳ありません。失言でしたわ」

 

 いや、確かに。

 手首が回るからといって役に立つ事なんて、ぱっと思い浮かばない。

 関節技をかけられたら、これを利用して抜けられるかも知れないが。

 

 あまり回転早くないし、回してる間は力もあまり入れられないし。

 

「あら、追加表記で、魔力を込める事によって回転力を高める事ができるそうですわ」

「ほほー、どれどれ」

 

 魔力オン、手首へゴー。

 

 

 キシュイイーーーン!

 

「ますますキモい! だが面白いなこれ!」

 

 足元にあった雑誌、週間ジャンプに指を当てて……

 

 キュイイイィイー!

 

「わはは! おもしれー、穴が――開い……たッ!?」

 

 やらかした!

 

 俺が何かを「開け」たら、そこはダンジョンへ繋がる!

 

 

 ヒュゴオオーッ!

 

 

 慌てて指を引っこ抜いた瞬間、暴風が起きて穴に引っ張られた!

 

 

 キュポン

 

 

 俺の指が再び雑誌の穴に吸い込まれて納まった。

 

「どうしよう……めっちゃ吸い付かれてる」

「いきなり突風が吹き荒れたのですわ!」

 

 部屋の中が滅茶苦茶だ。

 本やら布団やら、神様やらが散乱してしまった。

 

「なんじゃなんじゃ。何が起きたのじゃー」

 

 俺の布団の上で二度寝をしていたスクルドが起き出す。

 

「マサトさんが真空ダンジョンを開けちゃった、ですって!」

「何と。はた迷惑なダンジョンを作ったものよのー」

 

 ハーちゃんが畳から起き上がり、顔面スライディングを決めて赤くなった鼻を撫でながら言った。

 

 

「作りたくて作ったわけじゃないんだが。とりあえず指を迂闊に抜けない」

「なんじゃー、そんなモン。別のダンジョンに捨ててまえばよかろうもん」

 

「……それもそうだな」

 

 どこでも扉でダンジョンを開いて……

 

 ポイッ!

 

 ヒュゴォォォ!

 

 バタン。

 

 吸い込まれる空気の勢いで扉が閉まり一件落着した。

 

 

「ふう、助かった」

「はっ!? しまったのじゃ。これも探索の手伝いをしてしまった事になるんかいのー」

 

 神様は招待される立場なので、俺達のダンジョン探索を手伝ってはいけないルールらしい。

 

「えー、こーゆーのくらい、いいんじゃないのー?」

「念の為、代金としてお菓子を所望するのじゃー。貸しだけに菓子なのじゃ」

 

 ぐぬぬ

 

 そう言われては断れまい。

 

「またサクサクしたヤツが食べたいのじゃ」

「スクルドの正体はお菓子を消滅させる、限定的破壊神に違いない」

 

「マー君は失礼じゃのー。こうなったらマー君の耳を食ってやるのじゃ」

「北欧の。ワタシは右耳をもらう」

 

 スクルドとデスノ。

 神様2柱に両耳をはむはむされる。

 

「やめっ! くすぐったい。デスノも舐めるな、舐めるな!」

 

 今の俺は犬耳。

 耳が弱点なのだ。

 

「くっ! そっちがその気なら、新しくゲットしたこの篭手で耳かきのお礼をしちゃうぜ」

 

 

 キュイイイィーン!

 

 

「ぴぎゃー! マー君に耳を犯されるのじゃー!」

 

 スクルドはキャッキャと喜びながら布団にくるまって逃げるフリ。

 デスノは目を潤ませながら俺の膝に飛び込んで来る。

 

「マサト。先に耳からだなんて意外とヘンタイ」

「ええーい、話が進まん! ファルフナーズ、次だ、次!」

 

「えっ? あっ、はい」

 

 お姫様はさっきの真空で散らばった部屋を片付けていた。

 マメだなあ。

 

 ステータス・ウィンドウを操作しながら

「家具の隙間のホコリも掃除できたのですわ」

 と、つぶやいていた。

 

 ポジティブ思考プリンセスだな。

 

「ええと、最後の装備効果が【防護膜】飛来・射出・放出型の攻撃を緩和する盾状の力場を作る。10秒で魔力を1消費する。だそうですわ」

「マジか。凄い直球でまともな効果だ!」

 

 手の平を前に突き出して魔力を込める!

 

 シュパンッ!

 

 ほぼ透明なレンズみたいな何かが確かに出た。

 

「こりゃいいや。視界も遮らないし。多機能の名に相応しい」

『強力なライバルの出現に我の立場も揺らぎつつあるのである』

 

 そんな大げさな。

 金属バットさんは心配性。

 

 

 

「覇王の篭手の装備効果は以上ですわ」

「ありがとう。いや、これは良いものだ」

 

「次の景品が楽しみなのですわ」

「これだけ最高レアを引き当てればもう十分だろー」

 

「えー、なのですわ」

 

 お姫様は口を尖らせながらパントマイムでウィンドウを脇へ。

 

「まあ、マサト様! 今度は限定ガチャだそうですわ!」

「ほーん……」

 

 ちっ

 

 限定という言葉に人間は弱い。

 実に弱い。

 非常に弱い。

 

 案の定、ファルフナーズの目がらんらんと輝き始める。

 

 あの手この手でガチャさせようとしてくるな、このステータスの中の人。

 人が居るのか居ないのか知らんが。

 

 

「賞品入れ替えまであと3日、だそうですわ! 今すぐ回しましょう!」

「いやいやいや。勘弁してくれ!」

 

 聞いても無いのに、ガチャの項目を読み上げ始めやがった。

 

 何が何でも阻止せねば!

 

「今回はランダム部位ガチャだそうですわ」

「へー」

 

 気の無い返事で軽くスルー。

 寝っ転がって無視無視。

 

「そしてスーパー・レアの品が……状態異常に強力な耐性が付く珊瑚(サンゴ)の首輪、だそうですわ!」

「ふーん」

 

 全力スルー!

 鼻をホジホジ。

 

「様々な状態異常を軽減してくれるのだそうで……ええと、毒、睡眠、麻痺、石化、魅了、死の光線、変身、獣化──」

 

 ピクッ

 

 このライカンスロープ病も治るのか。

 いや、ダメだ。

 

 それにどうせ、死に戻りすれば犬耳も解除されるに違いない。

 

「──そして継続ドレインに耐性」

「ッ!?」

 

 ドレインだって!?

 

 ガバッ

 

 起き上がってソロモンの悪魔ハゲンティことハーちゃんを凝視する。

 

 あの人間の限界ギリギリを極めた超巨乳。

 目の前にあるのに触ることすら叶わぬのは、ひとえに──

 

 ハーちゃんが自動で毛根をドレインしてくる悪魔だからだ。

 

 だがドレイン耐性が付けば……!

 

 俺の熱視線に恥らうハーちゃんが身をよじる。

 

 

 たゆんたゆん……

 

 

 誘っている。誘われている。

 

 酸っぱいブドウが今……

 

 

 完熟!

 

 

「ファルフナーズ」

「は、はいっ!?」

 

「ゴーだ! 俺は毛根を賭けるッ!」

「……マサト様からとてつもない邪気を感じるのですわ」

 

 呆れ顔のスクルドがため息を漏らす。

 

「神々もびっくりの手のひら返しなのじゃー」

「その為の【手首回転】機能だ!」

 

 

 キュイイイーン!

 

 

 手の平返し放題。




感想とか限定ガチャ……には気をつけましょう……
感想お待ちしております!

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