俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:姫にもふもふ犬耳が生えた



#65「これを勝利の方程式と名付けよう」

「よし、見間違いで聞き間違い、だと言う事にしよう」

「何がでございますかワン?」

 

 てか今時、語尾にワンて……

 

 いや、突っ込まない。突っ込まないぞ!

 

「あっ、こちらにも牙が落ちているのですワン」

「……」

 

 前屈みになりドロップ品を集めるお姫様。

 その光沢のあるニーソとドレス・アーマーの絶対領域の間に……

 

 ふりふりとリズミカルに揺れるそれが。

 

 

 ああ

 

 

 ピンクのふわふわ尻尾だ。

 

 

「突っ込まない。突っ込まないが……」

『よせ主、それは――!』

 

 

 いいや、限界だ。

 

 触るねッ!

 

 

 にぎっ

 

 

「――ッひゃうんっ!?」

 

 

 空気が凍った。

 

 

「……」

「……」

 

 

 ファルフナーズがわなわなと震えながらゆっくり振り向く。

 羞恥で真っ赤な顔を見せつつ口を開いた。

 

 絹を裂くような悲鳴が響く。

 

「きゃあああああ! マサト様のちかーーーん!」

「痴漢呼ばわりは酷すぎるだろぉ!?」

 

「どこがでございますワン! 私の大事なしっ――」

「しっ?」

 

 頭のピンクの毛に覆われた大きな耳がぴくぴくと動いてる。

 

「……」

「……」

 

「……なぜ私に尻尾が!?」

「ようやく気付いたか」

 

 

「ええええええーっ!?」

 

 動転して頭を抱えるファルフナーズ。

 その手に大きな犬っぽい耳が触れる。

 

 その感触に驚いて飛び跳ねる。

 

「みっ、みみみみみみみっ!」

「犬耳だな」

 

「マサト様、私は一体どうしてしまったのでしょう!? あ、ワン!」

「今絶対、無理矢理ワンってつけたよね!?」

 

 驚きの余りか、ピンクの尻尾がピーンと張った。

 大きな犬耳もぴくぴく動いて緊張が伝わってくる。

 

 

「体調が良くないとか熱っぽいとかダルいとかは……?」

「いえ、むしろ飛び跳ねて走り回りたい程に好調なのですワン」

 

 

 俺の頭の中で公式が瞬時に組みあがった。

 

 

 

 短いスカートのドレスアーマー

 

       +

 

 大きくふわっふわなピンクの尻尾

 

       ×

 

     犬の走り方

 

       =

 

    パンツが見える!

 

 

 チーン!

 

 完璧な数式だ!

 これを勝利の方程式と名付けよう!

 

 

 

「どうぞ、どうぞどうぞ。好きなだけ走り回って?」

「わぁーい! なのですワーン」

 

 

 わくわく

 

 

「……」

 

 

 トットットット……

 

 

「いつものお姫様走りだな」

『何を考えていたのかは想像に難くないのである』

 

「しかもいつも通り足が遅い」

『野性味ゼロなのである』

 

 

 お姫様は嬉しそうに手を振ってくる。

 

「マサト様ーっ! うふふっ、ですワン!」

 

 

 あっ、転んだ。

 てへペロっとかやってる。

 ちくしょー、可愛いな。

 

 あっ、また走り出した。

 

 

「何か意外と大丈夫そうだな」

『うむ、帰って神々に相談するのである』

 

 

 そうしよう。

 

 

……

 

 

 ドロップ品の牙と毛皮を拾い集めながらダンジョンを後にした。

 えらい時間がかかった。

 

 なぜなら、ファルフナーズが1個1個拾っては俺の元に持ってきたからだ。

 

 1つ拾っては俺に渡し、次を拾いに行く。

 別に俺が投げて、取って来いしてるわけじゃないんだがなー

 

 というか完全に犬の習性だ。

 大人しいおっとり姫様も、犬耳さえ生えれば狩人。

 

 いや、あの調子では子猫一匹捕まえられまい。

 拾ってくるのを待っている間に両替機で換金しつつ戻った。

 

 本日の収穫、18万7280円也。

 かなり美味しい結果となったな。

 これならシャルりんの身の回りの品もそろえてやれるだろう。

 

 

「ただいまー」

「ただいまなのですワン」

 

 そんな事を考えつつダンジョンを無事退去。

 シャルりんが赤い髪を揺らして俺の腹めがけて抱き付いてきた。

 

「にーに! ファル姉様おかえりーっ!」

 

 ドゴォ

 

 ぐへー

 

 明らかに狼に噛まれるより痛いんだこれが。

 

 

「おかえりなのじゃ」とスクルド。

「おかえりなさい、ですって!」とハーちゃん。

「無事で良かった。死に戻りしてもいいけど」と死神のデスノ。

 

 シャルりんにお腹をグリグリされて、やや気持ち悪くなりながら挨拶を返す。

 

「お土産はこちらでございます」

 

 ファルフナーズの肩を掴んでみんなの前に差し出す。

 犬耳あたりに手を添えて。

 

 ふるふるっ、とお姫様のピンク耳が震えた。

 シャルりんが驚きの声をあげる。

 

「ファル姉様に耳が!」

「お、おほほほほ……」

 

 

……

 

 

 

 スクルドがしきりに頷きながら言葉を紡ぎだす。

 自分自身を納得させながらしゃべっている感じだ。

 

「――つまり、その吹雪のブレスに混じって変身病に感染してしまったのじゃな」

「変身病? 狼男じゃなくて?」

 

「獣人化病(ライカンスローピィ)、通称変身病は狼男に限らぬのじゃー」

「へー。じゃあファルフナーズも全身毛むくじゃらになるの?」

 

「それは絶対に嫌なのですワン!」と叫んで枕を頭に被るお姫様。

 

 それ俺の枕なんだけど。

 

「そのダンジョンで満月が出ていたのじゃろう? ならばピークが今の状態じゃろうてー」

「つまりこれ以上もっさり生えないのか」

 

「なんじゃ? まるでマー君はもっとモジャモジャになって欲しいように聞こえるのう」

「いや、だって。全身毛むくじゃらなら頭の毛根も……」

 

「なるほど。でも抜けてしまった毛根には影響せんのじゃなかろうか」

「禿げ散らかした狼男とか、最悪だな……」

 

 夢に出そう。

 

 頭をしきりに振って切ない妄想を追い払った。

 

「ま、ともかくじゃ。姫の体調不良とシステムの不具合が重なった偶然の出来事じゃ」

「狂犬病とかじゃなければいいや。別に耳がどんな形してようとファルフナーズはファルフナーズだ」

 

「しばらくすればシステムが姫の体内の獣人ウィルス? とやらを駆逐するじゃろうてー」

「どのくらいだろう? 1時間くらい? それとも1日?」

 

「さー、どうかのー そのシステムはワシが関与してるものじゃないからのー」

「流石の神様でもそこまでは無理か」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろすファルフナーズを横目に、ベッドに寝転がる。

 手に握っていた金属バットさんを手放し、床に転がす。

 

『たまには手入れをして欲しいものである』

 

 

 するとファルフナーズが金属バットさんを拾い上げ、俺に手渡してくる。

 

「お、おう……そこに置いといて」

「かしこまりましたワン」

 

「……」

「……」

 

「な、何かな? お姫様」

「いえ、私、今日はいっぱい拾いましたので」

 

「そうね」

「……」

 

 何かを期待するように正座して俺を見つめている。

 今の犬っぽいお姫様は……

 

 やはりご褒美が欲しいのだろうか。

 

「ナ、ナデナデですか?」

「はい、ナデナデなのですワン」

 

 ほっ、ナデナデで良かった。

 甘い物を大量に要求されたらどうしようかと思ったぜ。

 

 ファルフナーズの頭を優しく撫でる。

 

 正直、お姫様の頭を気安く触るのもどうかと思うが。

 本人が望んでいるのだから仕方無いね。

 

 ナデナデ

 

「はふぅ~、ですワン~」

 

 お姫様は目を細めて口元をにへら~、と緩めている。

 犬状態のくせに、ちょっと猫の口っぽくなってるし。

 

「よ~しよし、よぉ~~し、よぉ~~~し!」

「ふにゃあ~、ですワン」

 

 ニャーなのかワンなのか。

 

 

 

 ……はっ!?

 

 このファルフナーズの蕩(とろ)けきった表情。

 ちょっとエロ……うむ。

 

 

 これはいける!

 

 

 だが、ここでは人目が、ついでに神の目もある。

 ここは上手くファルフナーズと2人きりになる口実を作って……

 

 

「あー、疲れたから風呂入りたくなってきたなー」

「はふ~ぅ。かしこまりましたワン。ではお風呂を沸かして参りますワン」

 

 

 よし来た!

 

 魅惑のバスタイム2、はじまるんだぜ!




感想とか犬耳っ娘とかお待ちしております!

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