俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#6「俺の妹がこんなにお姫様なはずがない」

「さて、金属バットが俺の生命線になってしまった」

「マサト様に実にお似合いですわ」

 

 ……いや、ファルフナーズに他意は無いのはわかる。

 俺とて2度の死線をくぐり抜け――られ無かったのだが、まあいい。

 気にしない。

 

「だがあれだ。攻撃だけじゃ駄目だって事が分かった」

「と、申しますと?」

 

「防御だよ。ディフェンスだよ。まずは落ち着いて一本、防具を入手せねば」

「なるほどですわ! 流石マサト様」

 

 ……いや、うん。

 ファルフナーズに悪気は無いんだ。

 馬鹿でもない。

 世間を知らないだけなのだ。

 

「だが防具をつけて、また今度は防具が俺より成長したらプライドがズタズタになる気もする」

 

 でもこの際プライドはいっか。

 いくら生き返りができるからって、やっぱ死にまくるのはちょっとな。

 俺が認識してない、未知のペナルティがある可能性も捨てきれ無い。

 

「よし、防御になりそうな装備を揃えよう。やっぱりスポーツ用品がいいか」

 

 財布を開けてみると……2千円と小銭。

 何か買える手持ちじゃないな。

 

 するとネットで中古品探しか。

 俺は思案にふけっていた。

 

 ……

 

 …

 

 ガチャ バタン!

 

 ん? なんだ?

 

「おう、帰ったぞ。マサト生きてるか」

 

 

 !!

 

 しまった、忘れていた!

 もう家族が帰ってくる時間だったのか!

 

「まずい、ファルフナーズ隠れろ!」

「えっ、あっ、はいっ!」

 

 辺りをおろおろ見回すファルフナーズ。

 

「……マサト様、ど、どこへ隠れればよろしいですか?」

 

 隠れる場所がなーい!

 

 押入れは俺のオタクグッズでぎゅうぎゅうだ。

 ベッドの下か、ドアの脇か…!?

 

 ええい駄目だ。

 

「必殺! ダンジョンオープナー!」

 

 押入れのフスマをスラッ!

 

「飛び込め! ファルフナーズ!」

「えっ!? マサト様、ご冗談ですわよね?」

 

「冗談じゃない、大マジだ!」

 

 ファルフナーズの背中を押してダンジョンへ押し込める。

 

「い、いやーーっ! マサト様、お許しを! いやあああ!」

「うるさい! 今見つかったら大変な事になるだろ!」

 

「お慈悲を! マサト様、ダンジョンからゴブリンが! いやーー!」

「お前は敵に認識されないから大丈夫だ! 安心して隠れてろ!」

 

「い、嫌です! ゴブリンと一緒に暗い通路なんて嫌ですわ! どうか堪忍してくださいまし!」

「うるせー! 非常事態だ! 早く、早くっ!」

 

「いやあああああ! ゴブリンが目の前に! ゴブリンの臭い息があああ!」

 

 プギョルルル!

 

 

 

 ガチャ!

 

 

「おう、マサト。今日はえらい騒がしいな。引き篭もりやめる気になったか?」

 

「うわっ! オヤジ! いきなり開けるなっていつも言ってるだろ!」

 

 お、終わったかもしれない……

 

 せめてもの抵抗でファルフナーズを俺の背中に隠す。

 

「お、オヤジこれはな……」

「なんだ兄妹喧嘩か? お前らはホント仲良いな」

 

 

 ……

 

 …

 

 

「はい?」

「えぐっ、ひっく、マサト様、ご無体過ぎます……」

 

「ちゃんと妹には謝っておけよ? でないと引き篭もりから家無しにジョブチェンジさせんぞ」

「え、あ、うん……」

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

「――つまり、俺がダンジョン・オープナーの能力を知らずの内に宿したように」

「はい……恐らくは」

 

「俺の家族は、ファルフナーズを家族だと認識するように記憶を改ざんされる訳か」

「私もそこまでは聞かされておりませんでしたわ」

 

 って言うか、不死身の死に戻りの事も後から教えてくれたよね。

 

「まあ、下手に隠したりしなくて良かったのは助かる」

「ゴブリンがトラウマになってしまいましたわ……恐ろしい」

 

 ほっと胸を撫で下ろし一息ついている間に母親も帰宅した。

 父親の呼び声が聞こえる。

 

「マサト達ー、メシだぞー」

「マサト様、お呼び立てですわよ? いかれませんの?」

 

「いや俺ヒキニートだから。この部屋からは滅多に出ないのだ」

「では私もこちらに」

 

「いや、お前は行って食って来いよ」

「そんな、私はマサト様のメイドですわ。第一、こちらの世界の作法を何一つ学んでおりません」

 

 ぐっ、仕方無い。

 あまり我を通せる状況ではないか。

 

 

 

「おお、マサトが食卓に顔を出すとはな! 良い傾向だ」

「……別に。気が向いただけ」

 

 父親は大きく何度も頷いている。

 母親は目の端を拭いている。

 涙ぐんだのだろう。

 

 ファルフナーズが俺の椅子を引き座らせてくれる。

 

「……サンキュ」

「いえ、私はマサト様のメイドとして仕えさせて頂く身」

 

「なんだぁ? さっきケンカしてたのに、もうイチャイチャか?」

「うっせ」

 

「ん? ファルフナーズも座りなよ。食べらんないだろ」

「いえ、私はマサト様の給仕を……」

 

「いやいや、給仕も何もコンビニ弁当だ。フタだけ開けてくれれば後は良いよ」

「はい、では……」

 

 ファルフナーズがうやうやしくコンビニ弁当のフタを開けようとする。

 

「あっ、そこはテープで止まってるからな。それを剥がしてからだ」

「テープとは、この透明の封印ですね? 何か特別な術式を施されたお食事なのでしょうか」

 

 んー説明するのめんどい。

 パスパス。

 

 4人での食事が始まる。

 やはりと言うべきか、ファルフナーズは箸を使えない。

 一応教えてみたが無理だった。

 箸立てにあるスプーンとフォークを使わせる。

 

「オヤジ、娘の名前言えるか?」

 

 イタズラで問うてみる。

 

「ふぁ、ファルフ……ナーズ?」

「なんで疑問形なんだよ」

 

「うるさい、ど忘れする事くらいあんだろ」

「漢字で書ける?」

 

 ファの漢字もファルの漢字も存在しないからな。

 当て字しか無いんだぜ。

 

「カタカナでいいじゃないか」

「『いいじゃないか』って……」

 

「そもそも何でそんな名前をつけようとしたんだ?」

「と、父さんは実はロシア人とのハーフでな」

 

 あかん、バグってきてる。

 

 アンタ出身秋田だろ。

 そしてファルフナーズはロシア名じゃねえ。

 

「マサト様、あまり軽々しく突つかれますと……」

「そうだな。これ以上バグられても困るし」

 

 ファルフナーズは幕の内弁当のオカズを1つスプーンで持ち上げるたびに嬌声をあげている。

 何がそんなに嬉しいのやら。

 まあお気に召したようで何よりか。

 

「そうだ、オヤジ。実は欲しいものがあって……」

「なるほど、久しぶりに食卓に顔を出した目的はそれか。何だ、言ってみろ」

 

「プロテクターの類なんだが」

「野球か。それともスノボか? まさかバイクじゃあ無いよな」

 

「スノボやバイクにもプロテクターがあるのかー」

「知らなかったのか。って事は野球のだな。ついにマサトが表に出る日が来るのか」

 

「いや、そういう訳じゃ……」

「ん? じゃあ何目当てだ?」

 

 む、まずった。

 暴漢がファルフナーズを付け狙ってる、とでも返すか?

 

「い、いや。そうだ。野球がキッカケになるかな、なんて」

「よし分かった。すぐコンビニで下ろして来てやる」

 

 妙な空気になった。

 母親は涙が止まらなくなってるみたいだし。

 

 やべーな。

 こりゃ本当に野球をやらなくちゃ駄目かもしれん。

 もうちょっと下調べをしてから切り出すべきだったか。

 俺としては剣道の防具を想定していたのだが。

 

 父親はものの10分でコンビニを往復し、俺に10万円をポンと渡してくれた。

 すまねえオヤジ。

 ヒキニートを辞めるつもりは無いが、今は生きるか死ぬかのレベルなんだ。

 というか、2回死んだ。

 

 許して。

 

 ……

 

 …

 

 微妙な空気となった晩餐会からさっさと逃げ出した。

 

「よし、今日はもう休んで明日、店が開く時間に駅前のスポーツ用品店にいくか」

「はい、お供しますわ」

 

 うっ、不安だ。

 ヒキニートとは言え、コンビニやオタク系ショップには通っていたから出歩く事自体は問題無いが。

 

 ファルフナーズを連れて歩かねばならないんだった。

 でなければ店の扉を開けられない。

 

 まあ何とかなるさ。

 今はそのための気力を補充する時だぜ!

 

「さて、就寝前のバスタイムだ!」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

「んん? ファルフナーズ、何を言ってるんだ。お前が居ないと俺は風呂の扉を開けられないんだぞ」

「失念しておりましたわ。申し訳ございません」

 

 着替えを持って風呂場へゴー!

 ウッキウキだぜ。

 

「さて、服を脱がせてもらおうかな!」

「ええっ!?」

 

「トイレでズボンのジッパーを下ろしたらダンジョンだったからな!」

「そ、そうでしたわ……」

 

 ファルフナーズは手を組んでモジモジとしながら視線を逸らす。

 これこれ、この反応が見たかった。

 

「で、では、失礼して……」

「お? おお」

 

 本当に脱がせてくれるみたいだ。

 あー 役得。

 

 ダンジョン・オープナー、悪い事ばかりでもないな!

 

 正直、開ける動作が危ないだけだから、服を脱ぐのは大丈夫なはずだけどな。

 ボタンを外す所はちょっと危険な気がするが、脱ぐ動作自体は問題無い。

 

 いや、万が一があるからな!

 仕方無いね!

 

 あー 癒される。

 こーゆー甘い一時があってこそ、死亡イベントを乗り越えられるのだ。

 

 すっぽんぽんになって、タオル一枚を腰に巻いた状態になった。

 ファルフナーズが風呂場の扉を開けてくれる。

 

「では、私は脱衣所で控えておりますので……」

「いやいや、ファルフナーズも入るんだよ」

 

 ……

 

 …

 

「ええっ!? そそそ、そのような事、わわわわたくしゅわ……」

 

 噛んでるなー

 

 

「だって仕方無いんだ。この水道、蛇口は『開ける、開く』ものだから!」

 

 

 

 魅惑のバスタイム、はじまるぜ!


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