俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

56 / 71
あらすじ:マサト達、ダンジョンで稼ぐの事。


#56「労働にはちゃんと対価が支払われないとな」

「よし、今日はダンジョンでガッツリ稼ぐぞ!」

「マサト様、その意気でございますわ」

 

 食い扶持が増えたからな。

 後ろを振り返るとファルフナーズの後ろに3人の神様が。

 彼女達を食わせてやらねばならぬのだ。

 

 

「おーし、じゃあまずはフスマを」

 

 スラリ

 

「こわっ! 大量の西洋人形が!」

「スプラッター・ドール! レベル80の群体ですわ!」

 

 扉の向こうを埋め尽くす大量の西洋ドールがいっせいに振り向く。

 

 パタン!

 

 あー心臓がバクバクいってる。

 

 

 気を取り直して、リビングの扉をカチャ

 

「巨大な足だ」

「タイタン。レベル推定140ですわ。身長57m――」

 

 バタン。

 

 

 無理無理。

 無理とか言う前に入る隙間も無い。

 

 

 トイレのドアをガチャー

 

「お、静かなダンジョンだ」

「モンスターは見当たらないようですわ」

 

 よし、突入してみよう。

 

「いつもの石壁通路だな。両側に伸びている」

「どんなモンスターが待ち受けているのでしょうか」

 

 慎重に辺りを見回す。

 松明が壁にかかっている以外に何も無い。

 長年放置されたような埃っぽさがある。

 

 

「ハーちゃんも頑張りますって!」

「マサトの敵はワタシが全て倒す」

 

「……」

「……」

 

「なぜ入って来た?」

 

 神様達は俺とファルフナーズのダンジョン探索を手伝ってはいけないルールなのだ。

 そうでないと、招かれる神から外宇宙からの侵略者になるとか何とか。

 

「お役立ち、ですって!」

 

 ハーちゃんが勢いよく手を上げて言う。

 手を上げるたびに、ぷるんと揺れる豊かな双丘に目を奪われる。

 

「助太刀無用に願います。部屋で待っててくれ」

 

 役には立つのは間違いないが……

 毛根を毟り取られるか、マッチポンプかに違いないのだ。

 

 大体が触っただけで毛根をドレインしてくるハーちゃんだ。

 大立ち回りする隣に置いておけるはずが無い。

 

 

「しょもーん……ですって」

 

 肩を落としてすごすごと部屋に戻っていた。

 

「デスノ、お前もだ」

「ワタシはマサトと夫婦。いつでも一緒」

 

 意地でも付いていくとばかりに俺の服の裾を掴んで離さない。

 

「病める時も死んでる時も離れない」

「そこは病める時も健(すこ)やかなる時も、でお願いしたかった」

 

 死神の鑑(かがみ)だね。

 見てるだけ、と約束させて同行を許可しておく。

 

「さて右と左、どちらから行くか」

「マサト様! 右側からモンスターが来ますわ!」

 

「ファルフナーズの妖怪センサーが反応したか!」

「そんなものはございませんわ。足音が」

 

 ピンク髪のお姫様は右通路の奥を指差す。

 人影のような物が複数、松明の明かりに揺れている。

 

 

 オゴロロロォー!  

 

 獣じみた叫びが響いた。

 

「なんだあれ、モジャモジャ灰色の毛むくじゃら人だ!」

「バグベアですわ! レベルは15前後、子供をさらって食べてしまう怪物ですわ!」

 

「じゃあ安心だな」

「なぜでしょう? お聞きしても?」

 

「だって俺20歳超えたおっさんだもの」

「別に大人が襲われない訳でもないのですが……」

 

 やっぱり?

 

「ファルフナーズ。お前は未成年だからさらわれて来い! その間に少しずつ倒していこう」

「バグベアにさらわれる程、子供では無いのですわ!」

 

 ポコポコと背中を叩かれる。

 西洋人は未成年扱いを嫌がるってのは本当なんだなー

 

 バグベアがどんどん近づいてくる。

 しかしこれは、かなり――

 

「おい、結構デカいぞ!?」

「2メートルほどの身長でゴブリン族の上位種ですわ」

 

 子供をさらう、なんて言うから小人サイズかと思ったのに!

 

「つーか、凄えマッチョだ。しかも数が多い!」

「10匹ほどでございますわ!」

 

 金属バットさんを構えて迎撃体制を取る。

 

「燃えろ金属バットさん! 奴らの灰色毛玉をこんがり焼いてやれ!」

『応である。久しぶりの出番に武者震いを禁じ得ないのである』

 

 そんなに久々だったかな?

 はてさて……

 

 子供用の小さい金属バットさんだが、俺が命じると長さを自在に変える。

 1.2m程の大きさになり、俺がこの通路で振り回すのに程良い長さに。

 更に炎を上げて燃え始める。

 素手で攻撃してくる奴らは迂闊にバットに触れやしないだろう。

 

 

「ファルフナーズ! 【魔法の盾】を! 先手必勝ッ!」

「かしこまりましたわ!」

 

 ファルフナーズが詠唱に入る。

 俺は一番先頭のバグベアに向かってフルスイング体制を取る。

 

 引き付けて、引き付けて――今だ!

 

 スパァーーン!

 

「ジャストミートだ!」

『クリティカル・ヒットなのである!』

 

 バグベアの左腰元にヒットして横壁に叩き付けた。

 

 骨が砕ける感触だ。

 立ち上がれまい!

 

 すぐ後ろのバグベアを巻き込んで壁にぶつかった。

 殴られたバグベアは全身が炎に包まれる。

 

「良く燃える体毛のようだな! ざまあみろ!」

 

 先頭のバグベアを見て、後続の仲間がたじろぐ。

 警戒と恨みの混じった唸り声を上げた。

 

 グゴォ……オロロゥ

 

 奴らの突撃は完全に止まる。

 勢い任せで蹂躙しようったって、そうは行かないぜ。

 

「毛充は死ね!」

「毛充、とは何でございましょう?」

 

「毛がふっさふさに充実している奴の事だ」

「バグベアのこれは頭髪ではなくて、体毛だと思うのですわ……」

 

 毛がたくさんあるからケモノって言うんだ。

 今やこいつらは俺の天敵だぜ。

 

『逆恨み補正なのである』

「うっせー。ケモノはいてもNo毛者になりつつある俺も居る」

 

 自分で言っててワケが分からなくなってきた。

 

 壁に叩き付けられ燃え上がったバグベアは動かなくなった。

 巻き込まれて倒れた一匹に炎が燃え移る。

 ラッキー!

 

 だが、体に火が燃え移ったバグベアが狂乱し、転がって俺の前へ!

 

「うおっ! く、来るな!」

 

 咄嗟の事で回避し損ねて、足を取られて転んでしまう。

 

「熱っ! 離れッ……あーーッ!」

 

 これを好機と見た後続のバグベアが、火達磨ひだるまの奴を蹴飛ばして俺の上にのしかかる!

 

「マサト様! 大丈夫ですか!」

 

 返事してる余裕も無い!

 なにせバグベアが3匹で俺に覆い被さりながら殴る蹴る。

 もみくちゃだ!

 

 このままでは――

 

 

「……と、言う程も無いか」

 

 

 不思議だ。

 

 ファルフナーズの【魔法の盾】のおかげか。

 あるいはプロテクターとマスクのおかげか。

 

 見た目は巨大な腕で殴られ、太い足で蹴られているのに。

 

 ダメージはほとんど受けていない!

 

 

 ならば、あとはタイミングを見て……

 

「振りほどくッ!」

 

 足がフリーになる一瞬を見計らって、バグベアを蹴り飛ばす。

 

 ガシガシッ!

 

『ただのヤクザキックである』

「うっせー! こっちだって必死なんだ」

 

 何とかバグベア達を蹴飛ばして遠ざける事に成功。

 金属バットさんを振り回し、その炎をアピール。

 何とか起き上がる事ができた。

 

「奴らのダメージはショボい。体勢さえ崩されなきゃこっちのモンだ」

「一時はどうなる事かと思いましたわ」

 

 後ろでファルフナーズが拍手している。

 お姫様は敵から認識すらされない無敵状態だから呑気にしていられる。

 その代わり2種類の魔法を使う事でしか干渉もできないのだが。

 

 回りこまれる事と、圧()し掛かられる事だけ注意すれば大丈夫だ。

 あとは殲滅していくだけ!

 

 黙々とバグベアを倒していく。

 

――

 

 残り2匹!

 

 

「あー疲れる」

『地のスタミナが無いのである』

 

 無茶言うな。

 2mもある巨体のモンスターを10匹も殴り倒すんだぞ。

 息も上がるわ!

 

 

「マサト様! こちらから新たな敵が!」

 

 げっ

 

 敵を牽制しつつ振り返るとファルフナーズが後ろを指差している。

 

 グオロロロー!

 

「またバグベアか!」

「恐らく10匹程でございますわ!」

 

 まずい……

 正直、疲れている。

 更に10匹は相手にしていられない。

 囲まれて延々ボコられるに違いない。

 

 

『我が主よ、ここが踏ん張り所である』

「お断りだね!」

 

 面倒だから使いたくなかったが、おあつらえ向きな状況だ。

 仕方無い!

 

「ファルフナーズ! あ、デスノも。はひー……脇へ避けろ!」

 

 ジーパンのポケットからスマホを取り出す。

 良く壊れなかったな、と考えつつ短縮登録してあるそれをタップ!

 

 魔力を込める!

 

 プルルルル……ガチャ

 

「あ、おっさん? 来てくれ」

「兄ちゃん、ちゃんと召還しろよな!」

 

「うっせー、こちとら背中をモンスターにボコられながら電話してんだぞ!」

「3秒で行くぜ! 目標の正面を向いてな!」

 

 エンジン音がスマホのスピーカーを壊さんばかりに震わす。

 

「何、あれ?」

「マサト様の召還魔法でございますわ」

 

 デスノがファルフナーズに訊ねている。

 

 昔の神様は知るまい。

 現代魔法はスマホで楽々だ。

 

 格好はイマイチだけどな!

 

 

 スマホが俺の手を離れクルクルと空中で回転する。

 目前の足元に青白く光る魔法陣が現れた。

 

 俺をボコっていた背後のバグベアが悲鳴を上げて下がる。

 結界みたいな効果でもあるのかな? この魔法陣。

 

 タイミングを合わせて俺も叫ぶ。

 

「速攻召還! クレイジータクシー!」

 

 ガッシャーン!

 

 目の前の空間がガラスのように割れた。

 そこからタクシーが飛び出す!

 

「ヤーヤーヤー! 突貫すっぞおおおーッ!」

 

 タクシーのおっさんが叫びながらバグベアの群れに突っ込んでいった。

 ダンジョンの幅ギリギリなのでタクシーは壁に車体を擦こすり火花を上げる!

 

 ドグシャーーッ!

 

 タクシーに踏まれ、跳ね飛ばされたバグベア達。

 

 屈強なモンスターなのだろう。

 だが、車の重量は約1トン。

 鉄の塊であるそれを推定時速100kmで叩き付けられた日には――

 

 酷い絵面さ。

 

「ちっ、すまねえ。スペアだぜ!」

 

 ボウリングか!

 

 10匹ほどいたバグベアの後ろ2匹を倒しきれなかった。

 と、言いたいのは分かった。

 

 残った2匹のバグベアは通路の奥へ逃げていく。

 

「さて、残るはこっちの2匹か!」

 

 

 

――

 

 

「あー、疲れた! 大量の敵を相手にするのは疲れる」

「お疲れ様でございますわ」

 

 その場に胡坐(あぐら)をかいて座り込む。

 目の前のバグベアの死体が消えていく。

 

「死んだら消える事もあるのか」

「アストラルの生命は、あくまでも仮想ですので……」

 

 意味わからん。

 だが、消えたバグベアの後にはいくばくかの銀貨が落ちていた。

 

「これ、これですよ。労働にはちゃんと対価が支払われないとな」

 

 ホクホク気分で銀貨を拾い集める。

 10匹分で銀貨50枚ほどになった。

 

 確か魔法の両替機で1枚1000円くらいになったから……

 なかなか旨いぞ、バグベア。

 

 疲れるけどな。

 

「そうだ、向こうのバグベアの分も――」

 

 振り返ると、タクシーのおっさんが居た。

 

「なんだ、おっさんまだ居たのか」

 

 

 おっさんはニヤリと笑った。

 

 

「当然だろぉ? 労働にはちゃんと対価が支払われないとな。運賃730円な」

 

 

 そうでした。

 

 デスノが訊たずねてくる。

 

 

「マサトの召還魔法はお金がかかるの?」

 

「必要経費――いや、『触媒』ってヤツかな」

 

 

 現代魔法も楽じゃない。

 

 触媒、後払い。




感想とか触媒とかお待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。