俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:帰宅して一息。そして下着の事。


#55「強いて言うならランジェリー」

「さて、無事戻ったぞ。確かにボーナスステージではあったな」

「1日に2柱もの神様をお迎えされてしまうなんて、流石マサト様ですわ」

 

 ファルフナーズがパチパチと軽い拍手と共に賞賛してくれる。

 

 んー、そうだろそうだろ。

 もっと褒めてもいいよ。

 

 2人とも向こうから押しかけて来ただけの気もするけど。

 

「ここがマサトの部屋。マサトはここで育ったのね」

「お、おう」

 

 デスノ、つい先程迎え入れた死神少女が部屋を眺め回しなが言う。

 やだ、何か初めて彼女を部屋に連れ込んだ時の台詞みたい。

 

 ……自称、俺の嫁らしい。

 

「それは違う。マサトがワタシの嫁」

「デスノが何を言ってるのか分からない。あと心読まないでもらえる?」

 

「読んでない。以心伝心、夫婦の絆」

「俺にはデスノが何を考えているかさっぱり分からな――痛い痛い、ファルフナーズさん、つねるの止めて?」

 

 本当はさっぱり痛くないのだが。

 アピールしておかないと、どんどんパワーが上がっていくかも知れないし。

 

 

「と、とりあえず座って……と言っても、この人数だと足の踏み場も無いな」

 

 床に散らかしておいた漫画やら服やらをどかしてスペースを作る。

 あった。

 進撃の5巻を押入れの奥にポイッ

 

「悪いな、狭い部屋で。当分ここを自分の家だと思って自由に使ってくれ」

「大丈夫なのじゃー。ワシらは空間をもっとフリーダムに活用できるのでのー」

 

 スクルドが浮いて俺の頭の上に座る。

 

「人の頭の上に座るのはやめなさい。あと髪の毛垂れてきて顔がくすぐったい」

 

 その内、天井に本棚とか据えつけそうだなあ。

 そんな引っ張り強度が天井にあるとも思えないが。

 

「ではではっ、ハーちゃんはこちらの壁を頂きますね、って!」

 

 ソロモンの悪魔ハゲンティこと、ハーちゃんが俺の部屋で唯一、開けていてポスターなんかを貼ってあった壁面に座る。

 俺の某カロイドのポスターが……

 

 ハーちゃんは器用に(?)壁に向かって垂直に正座して座った。

 

「重力とは何だったのか。見ているこっちがおかしくなりそうだ」

「マサトさんもこっちに座りましょう、って!」

 

 神や悪魔の所業には付いて行けないな。

 

「重力操作か慣性制御が出来るようになったらお邪魔するよ」

「でしたら今なら毛根1万本で!」

 

 余裕の無視。

 壁に座るために全頭皮の8%を捧げられるか!

 

 

「好きに使って良いけど、両親の前ではなるべく大人しくしてくれよー。どんなバグり方するか分からないからな」

「了解です、って! ハーちゃんはマサトさんのお姉さんですね、って!」

 

 あれ?

 妙に釈然としない。

 

 外見は完熟ナイスバディの金髪美女ではあるが、中身はアホの子だからな。

 姉と言われると妙な違和感を覚える。

 

 ぽふんっ

 

 振り返ると、デスノが俺のベッドに飛び込んでいた。

 シーツを引っぺがして、それにくるまったぞ。

 

「これがマサトの匂い……すうっ」

 

 明らかにこちらもダメな子でした。

 俺よりレベル高いな、デスノ。

 

 やるなとは言わないから、せめて本人の居ない所でやれ。

 懸命に呼吸を繰り返し顔を赤らめている。

 

 モジモジと足をくねらせるその姿は……

 何だろう、目の毒だ。

 

「夢にまで見た光景。今、ワタシはマサトに包まれている」

「本人が目前に居るんだけどな」

 

 そこへスクルドが割り込む。

 手をかざして念力っぽい何かでデスノをくるんでいたシーツを剥がした。

 

「ええい、ベッドの上はワシの聖域なのじゃー。自重せい、死神」

「誰かと思えば北欧の。久しい」

 

「今更気づいたのかえ……」

「ワタシのシーツ返して」

 

 俺のです。俺の。

 

 

「ほら、デスノ。せっかくの服がしわくちゃになるぞ。着替えた方が良いんじゃないか」

「降臨したばかりだから服はこれしか無い」

 

「デスノとハーちゃんの服も買わなきゃならんなー。やれやれ、金がかかる」

「マサト優しい。好き」

 

 すっかり元の無表情に戻って真顔で言ってくる。

 そういう言葉は照れながら言ってください。

 

「やはりデスノも自分じゃ服を作れないんだろ?」

 

 スクルドが以前、そう言ってた気がするし。

 

「作れる。材料さえあれば」

「材料って?」

 

「人の魂」

「ダメなやつだこれ」

 

「死神だし」

「ですよねー」

 

 服ひとつ作り出す度に人死に出してらんないしなー。

 

「マサト好みの服を一着作る。どんなのが好き?」

「どんなのって……そりゃあやっぱり露出多くて大事な所だけギリギリ隠した……強いて言うなら」

 

「下着」

「うん。我がならダメな人間だと思った」

 

「分かった。下着作る」

「いやちょと待て。その手に持ってるのは何だ!?」

 

 気が付くとデスノが手の平に青白く燃えてる火の玉みたいのを持っていた。

 

「魂。借りた」

「誰の!?」

 

 デスノが窓の向こうを指差す。

 修理中の壁の隙間から、タクシーが止まっているのが見える。

 そのボンネットに突っ伏すように人影が。

 例のタクシーのおっさん、暮井寺宅志(くれいじ たくし)さんだ!

 

「おっ、おっさああああああん!」

 

 

 

「おう、呼んだか兄ちゃん」

「部屋の中からおっさんの声が!?」

 

「目の前にいるだろぉ?」

「火の玉がしゃべった!」

 

「召還されたり、魂抜かれたり、俺の人生も忙しいったらありゃしねえ!」

「なんで嬉しそうに言うんだ」

 

「で、どうすんだ!」

「どうすんだ、って……」

 

「黒のレースがいいのか! ピンクのフリフリが良いのかって事だぁよ!」

「おっさんが変化するのかと思うと、どちらもゴメン被りたいよ」

 

 この期に及んで変身する気でいやがる……

 これだからファンタジー風にバグらせるのはダメなんだ。

 

「デスノ、ちゃんと返しなさい。キャッチ・アンド・リリース」

「分かった」

 

 無造作に魂をおっさんの体に向かって放り投げた。

 

 

 ガチャン!

 

「窓ガラスが割れた!」

「魂が強いと物質に影響を与える事がある」

 

 やる前に教えて欲しかった。

 タクシーのおっさんは起き上がると、こちらに向かってピースサインをした。

 

 そのまま何事も無かったように車内に戻る。

 帰らないのか……売り上げ大丈夫?

 

「ちくしょー、ガラスの交換代はデスノもちだからな」

「分かった。お金持ってないから働く」

 

「神様が働くのか……どんな仕事できるの?」

「暗殺者」

 

「やめなさい」

「分かった」

 

 ダメだ。

 神様に労働とか金稼ぎをさせてはならない。

 

 ハーちゃんが勢い良く手を上げて言ってくる。

 壁に垂直に座ってるから、俺の頬を手刀のようにかすめて危ない。

 

 デビルチョップは毛根死滅。

 

「はいはいっ! ハーちゃんなら錬金術で金とか銀とか作れちゃいます、って!」

「その度に俺の毛根が消え去っていく訳だが」

 

 ガックリと倒れ込み、床に手を付くハーちゃん。

 だがそこは床ではなく壁なので、俺から見たらハイハイで壁を登っているようにしか見えない。

 

 ファルフナーズが部屋に戻ってきた。

 静かだと思ってたら退出してたのか。

 

「夕飯の用意が出来たのですわ。皆様、食堂へ」

「おー」

 

 出来たメイドさんだ。

 現役のお姫様なのに、とても甲斐甲斐しい。

 

 

 

「……で、これは何だ」

「プリン・ディナーですわ!」

 

 訂正。

 

 ダメなメイドでした。

 ダメイド・プリンセス。

 

 目の前には皿に盛られたプリンと彩りのサラダ。

 それにご飯とお味噌汁。

 

「ご飯でプリンが食べられる訳ないだろ!」

「私は平気ですのに」

 

「今日もコンビニ飯だな」

「では、責任を持ってこれは私が」

 

 あっ、このお姫様。

 ひょっとして、最初からそこを狙ったな!?

 

「くそー、出費がかさむ。明日はダンジョンでバリバリ稼いでやる」

「マサト様がやる気になってくださって、何よりなのですわ」

 

 ファルフナーズが手の平を合わせてキャッキャと喜んだ。

 明日はお前にも滅茶苦茶働いてもらうからな!

 

 同じ手を使われないように、プリンをデザート以外で出す事を固く禁じた。

 

 その隙に……

 

「これとっても美味しい、ですって!」

「美味。御代わり」

 

 ハーちゃんとデスノがプリン・ディナーを平らげていた。

 5人分全部。

 

「わ、私のプリンが……」

「好評で良かったじゃないか。策士策に溺れる、だな」

 

 

 夕飯おあずけプリンセス。

 

 

 そこには、泣きながらコンビニへと走るお姫様の姿があった。

 

 

 帰りには甘い物満載のビニール袋を引っさげてご満悦でしたが。

 

「で、俺の弁当は?」

「――あっ」

 

 

 お姫様を一人でお使いに出してはいけない。




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