「よし、神様だか悪魔だかも迎えたし、部屋に戻るか」
「マサト様のスケベさにも困ったものですわ。結局、殿方はパンツなのですねっ!」
さっきは胸って言ってたじゃないか。
見た目は完璧な金髪美女をゲットだぜ。
「はいっ、これからヨロシクお願いします、ですって!」
ソロモンの悪魔ハゲンティ、ことハーちゃんが俺に飛びついてくる。
「あぶなっ! 触るな! 禿げる!」
「そんなあー、親愛のハグ、ですってー」
くっそー、お触りOKの金髪セクシー美女だってのに。
触ったが最後、毛根をドレインされてしまうのだそうだ。
綺麗なバラにはトゲがある。
いや、ハゲがある。
むしろ禿げ上がる?
「しかしこう大所帯になると、いよいよ部屋が足りなくなってくるなあ」
「マサト様のご両親に用意して頂いた部屋ではいけませんのですか?」
ファルフナーズが不思議そうに訊ねてくる。
「あの四畳半部屋はファルフナーズとスクルドでもう一杯一杯だろう」
「私でしたら構いませんのに」
「お姫様の割にはパーソナルスペースを主張しないんだな。ファルフナーズは」
「私は3人姉妹の長女でしたので、やはり賑やかなのが好みなのですわ」
「ほー、初めて知った。だが、残念。更に年下の妹かー」
「マサト様の欲望は底なしなのですわ。このままトリピュロン王国にお連れしていっても良いものかどうか、不安になって参りましたわ……」
話が逸れたので戻そう。決して誤魔化すわけじゃないよ?
「まあ、寝るだけとしても四畳半に三人は無理だろう。日替わりでリビングに布団を敷いてもらうしかないかな」
「マサトさんっ、わたしのデーモン錬金術で空間も練成できちゃいますって!」
ハーちゃんが身を乗り出して提案してくる。
反射的に軽くバックステップで距離を取りつつ回避しておく。
30cm以内は毛根死滅ゾーンだと見ておくべき。
セーブ・ザ・毛根
「その気持ちは有り難いがな、代償が用意できなくてな」
「今なら毛根3000本で快適四次元ルームが貴方のものに、ですって!」
「でもお高すぎるでしょう」
「はいっ! そうおっしゃるだろうと思いまして、今回は特別になんと! バス・トイレ付きの部屋をご用意させて頂きました! って!」
「通販番組か!」
「回転ベッドの方が良かったですか? って」
「良くないよ。ラブホかよ。しかも昭和か」
「空も飛べるベッドですのにーって」
「天にも昇る気持ちーって? 物理的に天に昇るのは困る」
「誰うまー、ですって」
手をパタパタと叩いて喜ぶハーちゃん。
その度に超世界級の胸がぷるぷる揺れている。
ワールドカップ。胸だけに。
「そもそもハーちゃんは今日までどこに住んでたんだ?」
「どこにも住んではいなかったのですって」
「ずっとここに居たのか?」
「いえいえー、この体はマサトさんがダンジョンを作り出すまで存在しなかったんですって」
「俺が? ダンジョンを? 作る?」
「はいっ、ですって」
「ダンジョン・オープナーの能力ってそういうモンだったのか」
「はいー、カオスの海から形あるものにして掬い
「つまりこのナイスバディのハーちゃんも、実は産まれ立て、と……」
「神や悪魔はカオスの海にも普遍的な存在として漂っていますから、厳密には肉体だけですが、って」
「難しい事は分からん。ともかく家や部屋を用意する必要があるのだけは理解した」
「わたしはそちらのスクルドさんのように一級神ではありませんので、お気遣いは無用、ですって」
「そりゃ有り難いね。って、スクルドって偉い神様だったの!?」
「……今の今までワシを何だと思っておったのじゃ」
スクルドが呆れながら手を腰にやって踏ん反り返る。
「マンガを読み散らかして昼寝をする神様かと」
「そりゃただの暇つぶしなのじゃー!」
盛大にコケたかと思うと、俺の頭にかじりついてきた。
暴飲暴食の神に違いない。 悪食だなあ。
「こう見えても運命や因果を紡ぐ、有り難い神なのじゃぞー」
「じゃあハーちゃんに触っても禿げないで済む運命を紡いでくれ」
「その願いを叶えるために、マー君の毛根は全滅するから無駄な願いじゃのう」
「なんでスクルドまで俺の毛を狙ってくるんだ!?」
「そりゃ寿命や命以外でマー君が持ってる、最も価値あるものじゃしー」
「神の世界ってどれだけ毛が大事なんだよ……神だけに髪なのか」
……
「あのあのっ、わたしでしたら部屋はマサトさんとご一緒で構わないのですって」
「マジか! 問題解決だな!」
そうだ、触るのがダメでも、見て楽しむ事はできる。
同室ならそんなチャンスが多いのは確実。
しかもハーちゃん、どう見てもアホの子……もとい、隙が多いタイプ。
「そんなはしたない事はダメなのですわ!」
ファルフナーズに大声で制止された。
良識プリンセスめー
「じゃあ、どうすりゃ良いんだよー ファルフナーズが俺と一緒の部屋になるか?」
「えっ、いえっ、私は別にそのっ……はっ、恥ずかしいのですわ。でも、マサト様がそうおっしゃるのでしたら……」
おや、まんざらでも無いご様子。
ハーちゃんよりやや顔つきが幼いものの、ファルフナーズは間違い無く絶世の美少女だ。
「よし、じゃあファルフナーズと俺でいいな。流石に布団くらいは別々で勘弁してやろう」
「は、はい……不束者ではございますが、どうかよろしくお願い致しますのですわ」
俯むいたままモジモジと手を腰元で重ねるファルフナーズ。
これはこれで。
ハーちゃんが来てくれたおかげで、日常生活が更に潤う。
いや、捗る!
まとまりかけた所でスクルドが乱入。
「待つのじゃー! ワシがマー君と同室になるのじゃ!」
「なんで!? せっかく良い感じにまとまってたのに」
「マー君の部屋に住んでれば、いちいちマンガを取りにいかなくて済むのじゃー!」
「取りに来なくても、いつも俺のベッドの上に陣取って読んでるよね?」
「マー君のベッドこそワシの理想郷
「神様が理想郷を求めないで欲しい。提供する側たれ」
そこへハーちゃんも割り込んでくる。
「でしたらでしたら! わたしもマサトさんと親交を深めるためにご一緒したいんですって!」
「親交は信仰。やはりハーちゃんとにするか」
「わたし、頑張っちゃいますからー、って! 膝枕で耳かきとかサービスしちゃいます、って」
「速攻で禿げるから遠慮しよう」
その張りのある太ももは惜しいが、毛根には代えられない。
「マサト様! 耳かきでしたら、このファルフナーズが得意ですわ! 妹達に大好評で耳かきプリンセスと呼ばれたものですわ」
ファルフナーズが挙手して宣言した。なぜ挙手?
地味な称号だなあ。
呼んでる妹もプリンセスだし。
「耳かきならワシも得意中の得意なのじゃ! 因果律を操作して耳垢を2度と出ないようにしてやるのじゃ!」
「それもう耳かきじゃないよね!?」
女神と悪魔と姫様で謎の言い合いが始まってしまった。
いち男子としては嬉しい光景だ。
なんだか良く分からないが、俺もここまで到達したのだという達成感に満ちていた。
――
静かになったと思ったら、ファルフナーズがコホンと咳払いをして一言。
「結論として、部屋と耳かき当番は日替わりで、という所に落ち着いたのですわ」
「……俺の意見は?」
「決定事項でございますわ」
「さいですか」
参ったな。
毎日耳かきされたら血が出そうだよ。
……
「じゃあそろそろ外壁の工事も終わった頃だろうし、部屋に戻るかー」
三人がそれぞれ返事をする。
「かしこまりましたわ」
「凱旋帰国じゃー」
「お邪魔します、ですって!」
ダンジョンの通路を歩きながらしみじみと感慨にふけってしまう。
「しかし大所帯になったなあ。オコノギ家にファルフナーズが来て、スクルドが来て、ハーちゃんが来て……4人か」
『我の事も勘定に入れて欲しいのである』
腰につけていた金属バットさんが振動して主張した。
「悪い悪い。静かだったから忘れてた」
『酷いのである。戦いも無い上に毛の話となると、金属ボディの我には口を挟むタイミングが無かったのである』
「金属バットさんを含めて4人と1本、増えに増えたものだ」
『感慨深いのである』
スクルドが俺の顔をまじまじと見つめて言葉を漏らす。
「なんでじゃ? 5人と1本、じゃろう?」
「えっ? 俺、ファルフナーズ、スクルド、ハーちゃん、金属バットさん。4人と1本じゃないか」
「なんじゃ、あやつは勘定に入れてやらぬのか。まあオコノギ家には住んでおらんしのう」
「誰の事? タクシーのおっさんとかスポーツ用品店のおっさんとか言うなよ?」
「おっさんなんぞ知らぬわー。あれほど懇
「ね、ねんごろ……? 一体、誰の事を言ってるんだ」
「ほれ、アレじゃアレ。やたら寄り道してはアレコレしてる……名前は何じゃったっけ」
「誰!? そんな知り合い居ないぞ?」
…
「思い出した。あやつの名は――」
誰だ?
「死神じゃ」
「……」
「……」
ええええええ!
感想とか同居してくれる美少女とかお待ちしております!
登場人物が増えたので…
マサト:一人称、俺。語尾、だぜ。
ファルフナーズ:一人称、私(わたくし)。語尾、ですわ。 マサトを…「マサト様」
スクルド:一人称、ワシ。語尾、のじゃ。 マサトを…「マー君」
ハーちゃん:一人称、わたし。語尾、ですって。 マサトを…「マサトさん」
金属バットさん:一人称、我(われ)。語尾、である。 マサトを…「我が主」
タクシーのおっさん:一人称、俺。語尾、だろぉ。 マサトを…「兄(にい)ちゃん」