俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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あらすじ:後始末とプリンとサラダ油


#50「聖なるサラダ油」

「よし、風の精霊王は倒したぜ!」

「流石ですわ、くしゅん…ひっく、マサト様のおバカー」

 

 死に戻りで自室のベッド上にて目覚め、飛び起きながら叫んでしまった。

 

 今回はとびきり疲れたなあ。

 死に戻りが便利だと思ってしまうほどに疲れたよ。

 

 戦闘機に飛び乗って、台風と同化した風の大精霊を倒してきたんだ。

 失敗すれば日本の地表が暴風で吹き飛ぶ程度には大仕事だったさ。

 

 

「しかし本当にバグった人達は、元通り普通の生活に戻ってくれたんだろうな? この珍事件の事も綺麗さっぱり忘れてくれただろうか……」

「問題ないはずじゃ。ただの大型台風だったと記憶して、これまでと変わらぬ日常生活を送ってるじゃろう」

 

 スクルドが太鼓判を押してくれる。

 見た目は宙に浮遊する銀髪の10歳児でも、中身は紛れも無く神様だ。

 信じて間違いない。

 

 

「ほれ、壊された壁も直しておいたぞい」

「あっ本当だ、直ってる。スクルド偉いぞ! 頭を撫でてやろう」

 

 わーい、と喜び勇んで俺の胸に飛び込んで来た。

 ……本当に神様だよな?

 

 みぞおちの辺りに神様ヘッドが直撃する。

 やや青ざめた顔になりながら頭を撫でてやる。

 

「いやー、助かる。夏場は虫が飛び込んで来るからな」

「ただし、直したのは家の壁だけじゃ。外壁は流石にマー君が何とかせいー」

 

「外壁の修理っていくらかかるんだろう……ネットで見積もり出せるかなあ」

「その戦利品の黄金ランプを処分するのじゃ。良い値でさばけるじゃろー」

 

「そうだな……とりあえず飲みものでも……っと」

 

 

『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』

 

 

 おお、レベルアップのファンファーレだ!

 そのままファンファーレを更に4回繰り返し、計5レベル上がった事を教えてくれた。

 

 

「えっらい沢山レベル上がったな!」

「強敵じゃったからのー 追放された精霊の王、とか言ってたかの」

 

『我の攻撃が役に立たずに申し訳なかったのである……紐付き鉄球にまで見せ場を奪われるとは、屈辱の極み』

「バットだけに空を切る、と言う感じの敵だったな」

「下手な駄洒落なのじゃー」

 

 金属バットさんの残念そうな声が響く。

 しゃべれる上に炎をまとったり、大きさを変えられたりと便利なヤツだが、煙の体を持つ敵とは相性が悪かった。

 

 しかし爆砕ボーラにまでライバル意識を持つのはどうかと思うぞ。

 

 ……鉄球がついてるからか。

 玉に対して対抗意識を持つのがバットの性(さが)

 という訳か。

 

 

「ともかく修理代を捻出せねば。ファルフナーズ、両替機を出してくれ」

「くすん、かしこまりましたわ。マサト様の意地悪ー」

 

 まーだ泣いてる。

 何も意地悪をした訳では無いのだが。

 

 せっかく南方の海まで出向いたのに、死に戻りで一瞬にして家に戻ってしまったからなあ。

 約束した現地でのご褒美スイーツを買ってあげられなかった事を責めているのだ。

 

 涙目で頬をぷくっと膨らましながら、両替機をアイテム・バッグから取り出してくれる。

 そういう表情をするから、俺に子供っぽいと思われてしまうのだ。

 口には出せないが。

 

 

「代わりに同じくらい美味しい甘味をご馳走するから、機嫌直し――」

「かしこまりましたわ!」

 

 あら、いい笑顔。

 

 早い! 圧倒的変わり身の早さ!

 ちょろいな、このお姫様。

 

「では早速、いつもの甘味屋へ参りましょうー!」

「コンビニな、コンビニ。ご飯とか雑貨も買ってるだろ」

 

「そうでしたわ。では参りましょう」

「待て待て、まずは軍資金を……さあ黄金のランプを換金だ!」

 

 

 両替機に黄金のランプを乗せる。

 見た目こそ炊飯器に漏斗(じょうご)をくっつけたような奇妙なアイテムだが、どんなものでも換金してくれる凄い奴だ。

 

 

『魔法のランプ を換金します。 1)金貨100枚 2)100万円』

 

 

「き、来た! 大儲けだ!」

「おめでとうございます、マサト様! 金貨100枚分のプリンですわ」

 

「そんなに食べられないよ!? 何個買えると思ってるんだか」

「決死の覚悟ですわ!」

 

 頑張りどころの方向音痴だ。

 

「ま、まあ浮かれるのはまだ早い。外壁の修理見積もりを出してからだ……」

「そうでしたわ。失礼しました。次はドラゴンの襲撃にも耐える外壁に致しましょうね」

 

 ブロック塀です、ブロック塀。

 外壁だけ頑強にした所で、家が壊されてちゃ意味が無い。

 

「では防御兵装として、煮えた油を入れる大釜を備えつけたい所ですわ」

「なにそれ怖い。つか、ファルフナーズの城はそんなに外敵に攻められてるのか!?」

 

「そもそも城壁の無いお城でしたので、一度目にしたいと思いまして」

「それはそれで無用心だな。どんな所に建ってたお城なのやら」

 

 

「空中ですわ」

「風通し良さそうだな」

 

 

 非常識すぎて付いていけない話だ。

 もう適当に合わせて済まそう。

 

「ええ。ですが冬場の寒風がとても辛くて……」

「お城を地面に降ろせば良いのに」

 

「その手が! 流石はマサト様ですわ! トリピュロン王国に戻った暁には、すぐお父様に進言致しますわ」

 

 日常会話で浮遊城の撃墜に成功。

 攻めないけど。

 

 …

 

「わはは! 100万円ゲットだぜ! 見ろ、札束が縦に置けるぞ!」

 

 ――あれ、ファルフナーズもスクルドも感心が薄い。

 

 ぽやんとした表情で俺の言葉を聞き流している。

 

 そうか、紙幣に馴染みが無いからこの凄さが分からないのか……

 ファンタジー世界のお姫様と神様だからなー、仕方無いか。

 

 PCを立ち上げてネットで外壁と設置のお値段を検索する。

 どうやら壊される前のと同じ、ブロック塀1面で最低でも50万は覚悟せねばならないな。

 正直、台風のせいだとすっトボける事も出来るが、やはり後味が悪い。

 元ニートが初めて稼いだお金だ。

 家のためにバーンと使ってやろうじゃないのさ。

 

 

 ニート、外壁を建てる。

 

 

「と、なると…70は家と諸々の修繕費に当てるとして、残り30」

「鉄の壁になりそうですわ」

『鉄壁とな……!? 我のジェラルミンの体でも打ち砕けるかどうか』

 

 しないよ。 打ち砕かないよ。

 血の気が多いな、君達。

 

「あとはファルフナーズとスクルドの身の回りの雑貨だなー 10ずつとっておこう」

「マサト様、そこまでお気遣いを……」

 

 ファルフナーズが目を潤ませて感動し始めた。

 両親からすれば気付かないが、居候が2人増えてるからなあ。

 先日も2人の服代とか出してもらったし、少しは俺も家計に貢献せねば。

 

 俺の膝の上にいたスクルドが元気に両手を上げて言う。

 

「じゃあこの『こち亀』の残りの巻が欲しいのじゃー」

「買わないよ!? 生活用品代だからな」

 

 残りの巻がどんだけあると思ってるんだ。

 値段より先に生活空間の危機が訪れるに違いない。

 

 

 ファルフナーズがはっと気付いたように手を上げた。

 

「あ、マサト様。私も備えておきたい物がございまして」

「何? 食べ物とか漫画じゃなければ良いよ」

 

「先ほどの話で思い出したのですが、聖別するための油が欲しいのでございますわ」

「聖別って何だ?」 

 

 ファルフナーズが微笑んで首を軽く傾ける。

 ピンクのきめ細かい、艶やかな髪がさらりと肩から流れた。

 

「姫巫女が道具や場所を清めて聖なるものとするための、触媒的に用いる油ですわ」

「清める……ほーん、聖水みたいなもんか」

 

「まあ、良くご存知で。その通り、聖水と同じ効力を持つものですわ」

「じゃあ聖水でいいんじゃないの? 水道から、じゃーっと」

 

「残念ですが、清らかな水源のすぐそばの水からでないと聖水を作れないのですわ」

「なるほど。でも油ならその辺のものでもOK、って事か」

 

「はい。純度さえ高ければ油はどんなものでも構わないのです。聖水は保管にも清めた瓶が必要で何かと不便なのですわ」

「オッケー、じゃあちょっと台所へ行こう。良い油がある」

 

 

 流し台の下の扉を開けてもらい……あった、あった。

 

 ドンッ

 

「これでどうだ」

「まあ! こんなに大量の油を。しかもこれほど澄んでいて綺麗な……とてもお高いのではありませんか?」

 

 日精サラダ油、徳用1.5リットル400円程度です。

 

「いや全然。使いかけだけどな」

「サラダ……油、と書いてありますわ」

 

 ファルフナーズが小首をかしげて不思議そうに白いボトルを見つめた。

 人差し指を顎に添え、深い青の瞳でボトルの周りをしげしげと……

 

 

「何か変か?」

「いえ、あ、はい。サラダ油というからには、どんなサラダから絞られた油なのでしょうかと……」

 

「……キャベツかな? いや知らんけど」

「謎の野菜から搾られた油なのですね」

 

 後でネットを見て調べよう。

 

「ともかく、その油で聖別とやらが出来そうか?」

「はい、ありがとうございます。これなら素晴らしい聖油ができそうですわ」

 

 聖なるサラダ油(使いかけ)、ゲットだぜ!

 

 

「では早速、今夜から仕込みに入るのですわ」

「仕込み? どんな風に仕込むの?」

 

「私の体に油を少しずつかけて……はっ!? おっ、乙女の秘密なのですわ!」

 

 なにそれ! 見たい!

 体に油を……だって!?

 

 今晩絶対覗きに行こう。

 

 

「マサト様、絶対に覗きに来てはダメなのですわ!」

「な、何も言ってないだろぉ!?」

 

「マサト様はえっちな事を考えると、すぐに顔に出るのですわ!」

「あー……主としてはだな。メイドの仕事を――」

 

「言い訳ご無用ですわ! マサト様ったらフケツ!」

 

 ぷりぷりと怒りながらキッチンから逃げ出していった。

 サラダ油を大事そうに抱えて。

 

「お肌の手入れにも使えそうなのですわ」

 

 んなバカな。

 

 所帯じみた油プリンセス。




感想とかサラダ油とかお待ちしております!

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