俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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トイレ話です、苦手な方は読み飛ばしてください。具体的にはヒロインおしっこ回
1話に押し込んだために長い回でもあります(7400文字程度)


#43「注文の多いレスト・ルーム」

「よし、一通り買ったし、雨が降り出さないうちに帰るかー」

「おー 家に帰ったらワシのセクシー生着替えショーを魅せてやるのじゃ」

「見たくねー 10年分歳をとったら頼む」

 

 予報では結構な確率でこれから雨模様だ。

 さっさと帰るに限る。

 

 

「む、マー君。ジュース飲んだらおトイレに行きたくなったのじゃ」

「神様なのにトイレするの!?」

 

 えらく超特急だなあ。

 股間を押さえて内股になるのは、はしたないからやめなさい。

 

「いくら神とは言え、摂取したもの全てを消化できるわけが無かろー」

「ま、いいや。実は俺もそろそろトイレ行きたかったし」

 

 

 ここのシマムラは2階建ての店舗で、トイレは屋上3階の駐車場へ出る踊り場に設置されている。

 

 エレベーターのボタンをスクルドに押させ、降りてくるのを待つ。

 俺が押したら開いた途端ダンジョンになるに違いないからな。

 

 チーン

 

「お邪魔しますのですわ。大きな鏡まであって、清潔で素敵なトイレですわ」

 

 ファルフナーズが丁寧にお辞儀をする。

 良く出来たお姫様だけど、ここはまだトイレじゃないよ、エレベーターだよ。

 

 スクルドが3階のボタンを押し、上昇のための独特の荷重を味わう。

 

「きゃっ」

「ははは、ファルフナーズはこの上昇感覚に慣れてないからな」

 

 よろめいたファルフナーズの肩を支えてやる。

 小声で礼を述べ、照れて顔を背けてしまった。

 

 あれ、ちょっと良い雰囲気……

 ……だったのだが、鏡に反射したスクルドのニヤけ顔と目が合って冷めた。

 

 

 ガゴン!

 

「きゃあっ!」

「おっと! 大丈夫か、ファルフナーズ。今のは普通の揺れじゃないな。地震でも起きたか?」

 

 ヒュウウゥン……

 

 どうやらエレベーターが緊急停止してしまったようだ。

 落ち着け。

 

 

 よし、落ち着いてる。

 なぜなら、不死身の俺と無敵のファルフナーズと神様のスクルドだ。

 建物が倒壊した所で怖くも何とも無い。

 

 俺だけ痛い事にはなるが。

 

「どうやらただの故障だな。スクルド、そこの受話器マークのボタンを長押ししてみてくれ」

「これかのー?」

 

 遠くでアラーム音が聞こえる。

 恐らくエレベーターの動力・電源周りで異常を感知したんだろう。

 

 

 外からも人の声が聞こえてきた。

 どうやら俺達に向かって呼びかけてる声だな。

 考えてみれば、それほど物々しく大きなエレベーターでも無いし、フロアとフロアにも大きな隙間は無い。

 大声出せば届かない事も無いのか。

 

「中にお客様は居られますかー?」

「いまーす! 3人でーす!」

 

「ただ今、修理の業者さんを呼んでおりますー 今しばらくお待ちくださーい。怪我人や病気のお客様はいますかー?」

「大丈夫でーす!」 

 

 しばらく閉じ込められる事になってしまったな。

 

 

 …

 

 

「しかしエレベーターの故障なんて生まれて初めてだぜ」

 

 元ヒキニートだからエレベーターに乗る機会自体が少なかったけど。

 

 

「マー君。実はワシ、割と限界が近くてな」

「言うなスクルド。俺も出来ないとなると限界を感じやすいタイプなんだ」

 

「マ、マサト様……私、良く状況が飲み込めてないのですが、どのくらい待てば良いのでございましょう?」

「そーだなー、来るのに30分、修理に1時間として、まあ1時間半くらいか」

 

 ファルフナーズの顔が蒼白になった。

 何か不味い事でもあるのか!?

 トリピュロン王国の人間は狭い所に長時間居ると発狂でもするのだろうか。

 

「どうした、ファルフナーズ。顔が真っ青だぞ」

「い、いえ……その……」

 

「まさか、ファルフナーズもトイレか?」

「なっ、違っ! お、王族の姫はトイレなんて行かないのですわ!」

 

 

 図星か。

 いくら俺でもここを問い詰めようとは思わない。

 

 しかし参ったな。 3人とも限界水域か……

 

 

「やはりワシが権能を使った影響じゃろうかのー」

「ゴッド・パワーは周囲にも不思議現象を引き起こすのか?」

 

「ワシらの権能の根源が因果と意思の融合じゃからのー 機械的な物には影響が出ることもあるじゃろうて」

「ふ、ふーん……」

 

 さっぱり分からないから聞き流そう。

 

 ……

 

 …

 

「マー君、何とかして欲しいのじゃ」

「むしろスクルドの権能が役に立つんじゃないのか? 機械に強いんだろ」

 

「仕組みと構造がさっぱりじゃてー」

「動力や構造はともかく、原理なんて昔ながらのロープと歯車だと思うぞ」

 

 神様でも尿意には逆らえない。

 あれから30分、俺もパンパンだぜ……

 ファルフナーズもそわそわと体を揺さぶっている。

 

 こいつはダンジョンなんかより、よほど試練かも知れん。

 

 …

 

 スクルドが前屈みになり始めた。

 分かる、分かるぞ。

 これは本気の限界直前な合図だ。

 

「マ、マー君……」

「よ、よし、緊急事態だから許される。そこの隅っこにしてしまえ。大丈夫、笑わないから」

 

「マー君も一緒にしてくれるかの?」

「いやあ……俺はもうしばらく我慢しようかと」

 

「ずるいのじゃー! 一緒に漏らすのじゃー!」

「漏らす言わないでくれー!」

 

 今日は精神ダメージが大きかったんだ。

 ここでお漏らしまでしてしまったら、本気で立ち直れないぜ。

 

 スクルドが涙目で唇を噛んでいる姿は見てられない。

 確かに誰もこの状況なら笑いはしないが、やはり「した」跡を見られるのは恥辱の限りだ。

 

 

 証拠が残らないようにすれば、あるいは……

 

 

 駄目だ、そんな上手い方法なんて――いや、あるぞ!

 

 

「ここでするのが嫌ならダンジョンでしてしまえばいいんだ! ファルフナーズ! アイテム・バッグから『どこでも扉』を取り出してくれ!」

 

「おお! マー君、冴えたアイデアじゃ! その方法があったのじゃ」

「い、今、取り出しますわ!」

 

 あっ、長いフレア・スカートで分からなかったけど、ファルフナーズも内股でキュッとしてる。

 お姫様も限界突破か。

 

 

 ファルフナーズから最小化済みのどこでも扉を受け取る。

 この枠の端をもって引っ張れば

 

 この通り!

 

 人が通れるサイズまで拡大だ。

 

 

「よし、スクルドいくぞ!」

「おー! ゴッド・トイレじゃ!」

 

 

 なんだそれ。

 俺とスクルドは我先にとダンジョンへ飛び込んだ。

 幅と高さ2.5m程度の、石壁の通路が左右に分かれている。

 

 

「流石にワシでも恥ずかしいのじゃ。マー君はちょっと離れてして欲しいのじゃー」

「もちろんだ。スクルドはそっち、俺はこっちだ」

 

「ま、待つのじゃ! 怖いから後ろを守って欲しいのじゃー! モンスターが出たら怖いのじゃ!」

 

 神様のくせに、夜中にトイレを怖がる子供か!

 俺も限界だってのに。

 

「分かったから早くしろ。見守っててやるから」

「見られるのは恥ずかしいのじゃ! 向こうをむいてくりゃれ」

 

 注文の多いトイレだ。

 気の抜けた返事をして背を向ける。

 

 

 さて、高原を流れる爽やかな小川のせせらぎをイメージしよう。

 

 ……

 

 …

 

 

「もーいーかーいー?」

「……」

 

 返事が無い。

 そんなに恥ずかしいのか。

 

 

 ……いや、変だ。

 

 

 高原を流れる爽やかな小川のせせらぎサウンドがしない!

 

「スクルド! 大丈夫か――!」

 

 

 俺は見た。

 

 薄い青色のゲル状の物体――巨大なスライムがすっぽりとスクルドを覆い尽している、その姿を。

 

 

「く、食われてるーッ!?」 

 

 まずい! 確かスライムは飲み込んだら、あらゆる物を溶かしてしまうんだったか!

 

 

「……いや、スライムの中を泳いでる。さっすが神様。すげーすげー」

 

 

 スライムも必死に体を流動させ、スクルドを逃すまいと押し込める。

 

 おっ、スクルドが早い。

 平泳ぎで顔だけスライムの外に出たぞ。

 

 

「スクルド頑張れー」

「マー君、助けてなのじゃ! 流石のワシでも3日は持たぬ!」

 

 

 3日までは持つのか。

 

 

「すまん。金属バットさんは家に置いてきてしまったんだ。素手じゃどうにもならない。神様の権能で何とかしてくれ!」

 

 スライムの中を泳ぎながら、手でバツの合図を送ってくる。

 こりゃあマズい。

 ゴッド・パワーが使える状況じゃないのか。

 

 しかし俺にはスライムにダメージを与える手段が無い。

 少しでも触れれば俺もスライムになってしまう、らしい。

 

 

 思った以上にピンチだぞ!

 

 

 ファルフナーズを呼んで一か八か、【炎の矢】を打ち込むしか無いか!?

 だが、あのダメージにスクルドが耐えられるかどうか。

 【魔法の盾】はこれだけ離れてても使えるだろうか。

 

 焦る俺はおろおろと周囲を見回す。

 

 

 そして天啓を得た!

 

 

 足元、スライムが床一面に広がっているように見えるが、1箇所だけ不自然に形を変えて避けている場所に気付いた。

 

 そう、ほんの少量だけ出された、スクルドの御小水。

 

 

 つまり、おしっこだ。

 

 

「スクルド、良く聞け! そいつはおしっこが弱点だ! 残りを盛大に出せッ!」

 

 

 流石のスクルドも顔が一瞬で真っ赤になった。

 何かを叫んでいるが聞こえない。

 

 

 ゴボゴバガボ!

 

 

「死ぬよりマシだ! いいから出せ! 責任は取ってやるから、俺を信じろ!」

 

 スクルドが八重歯をむき出しにして何か言ってるが伝わって来ない。

 スライムの中だから分からないが、涙目で悪態をついてる、という所か。

 

 

 何かこっちに向かって指差している。

 

 しまった、まさかスライムがもう一匹!?

 

 

「挟み撃ちか!? 扉を確保――あれ?」

 

 だが、振り向いた先にはダンジョンの通路が広がるばかり。

 何も居ない。

 

 スライムが這い出して来そうな亀裂も見当たらない。

 

 

「スクルド? スライムも何も居な――」

 

 

 振り向いた俺の目に映ったその光景。

 

 それはそれは神々しいものであった。

 

 

 10歳程度の銀髪少女がこちらに向けて、いわゆるM字開脚。

 

 つるりと曲線を描く少女の秘密の花園を丸出しであった……

 

 

 やがて淡いブルー色のスライムの中央で少女の秘部周囲をレモン色に染めていく。

 その、ある種の諦めと安らぎと開放感に満ちた表情の潤んだ瞳が……

 

 

 俺の呆気にとられた視線と交わった。

 

 

 どうしよう。

 とりあえず、死を覚悟しよう。

 

 

 スライムはスクルドの御神水(ごじんすい)を浴びて弾ける様に雲散霧消(うんさんむしょう)した。

 

 

「……」

「……」

 

 

 そこには立ち尽くす俺と、M字開脚のまま残りの御神水の水溜りを床に広げるスクルドだけが残された。

 

 小脇には買ったばかりの紫しまパン。

 

 いつの間に履いてたんだ。 そして脱いだんだ。

 

 

「マー君のバカーッ! これ程の辱めを受けたのは誕生して以来じゃあー!」

「お、俺のせいじゃないだろ! むしろ機転を利かせて助けただろぉ!?」

 

「じゃから、あっちを向いてくりゃれと合図したじゃろうがー!」

「ああ! あの指差しはそう言う意味だったのか。てっきり、向こうを警戒しろという意味かと……」

 

「見られたのじゃ! 乙女の秘密を見られたのじゃあ!」

「死ぬよりマシだと思って、こらえてくれ。頼む」

 

 

「うあぁん! 責任取ってくれるまで許せないのじゃあー」

 

 

 責任、ったってなあ……神様に対してどう償えと。

 仕方なくパンツを履かせてやり、手を引いてダンジョンを出た。

 

 

 スクルドは泣きながらポコポコと俺の背中を叩き続けている。

 まあ、神様が本気で怒ったら想像もつかない恐ろしい目に合わせられるだろうから、これは許してくれている内に入るのだろう。

 

 

 と、思っておこう。

 

 

「お詫び代わりに俺のおしっこシーン見せてあげるから」

「御免こうむるのじゃ! お詫びどころか罰ゲームなのじゃ!」

 

 

 ですよねー

 

 

 背中を叩かれながら俺も済ませた。

 手にかかりそうだったぜ……

 

 …

 

「二度とダンジョンには入らないのじゃ!」

 

「マサト様、ダンジョンの中で一体何が……?」

「いや、まあ色々あってな。モンスターに襲われたりしてたんだよ」

 

 エレベーターの中で待っていたファルフナーズが、まあ!と驚いた表情になる。

 しかし、すぐに前屈みになった。

 頬を一筋の汗がつたう。

 

 こっちも限界オーバーか。

 一緒に入れば良かったのに。

 

 だがファルフナーズは年頃の乙女。

 しかも王族の姫。

 

 やはり俺が気を使ってやらねばなるまいか。

 

「ファルフナーズ。無いとは思うがダンジョンの中に忘れ物があるかどうか、一応確認してきてくれるか?」

「は、はい……あの、出来ればマサト様もご一緒に……」

 

 

 それじゃあ気を使った意味が無いだろう?

 

 

「その、やはり独りで中に入るのは怖くて……」

 

 ぐう、そうだった。

 

 数々のモンスターとトラップのせいで、ファルフナーズは俺抜きだとダンジョンはトラウマなんだった。

 モンスターに襲われた、なんて教えてしまったし、恐怖もひとしおか。

 

 

「分かった。一緒に行こう」

 

 

 中に入って、少し前方へ進む。

 スクルドの……御神水、そう御神水を通り過ぎて少しした所で止まる。

 

「よし、先を少し見てくるから、ファルフナーズはここで待っててくれ」

 

 気遣いの出来る元ヒキニート、それがこの俺マサト様だ。

 ガラスのハートは壊れやすいって事を良く知ってるのがヒキニートなんだぜ。

 

 ファルフナーズは顔を赤く染めつつ無言で頷いた。

 

 少し早足で先へ進む。

 

「マ、マサト様! それ以上離れてしまうと怖いのですわ!」

 

 わずか5mも歩いてないが……分かった、とだけ返事をする。

 ついでに、わざとらしく伸ばした手の平を額の上に当てて、やや前屈みになり前を探っているような仕草もしておく。

 

 静かなダンジョンに、スルスルという衣擦きぬずれの音がわずかに響いた。

 思わず生唾を飲み込む。

 

 

 落ち着くんだ、俺。

 

 いかに絶世の美少女とは言え、ファルフナーズはまだ16歳の小娘。

 俺が相手にするような女性じゃない。

 

 確かに胸は超ワールド級の大きさと素晴らしさだが。

 いや、腰つきも見事な砂時計的くびれだが。

 お尻と太ももはもうちょっと大きくて良いが、これも素晴らしい。

 

 

「マサト様、あまり静かですと、その……」

 

 消え入るようなか細い声で気付かされる。

 音を聞かれたくないのか。

 

 えーと……何か話しかけられても恥ずかしいだろうし……

 よし、歌だ。 俺が一番好きな歌と言えば、そうだな。

 

 

 まんが日本昔話のエンディング・テーマかな。

 

 

 …

 

「~~♪」

「――なぜお尻を出すと一等賞なのでございますかー!」

 

 

 しまった、歌詞がまずかった。

 2番にしておけば良かった。

 

 

 鼻歌で熱唱開始。

 

 

「ふふふふ ふふふふん ふふふんふ~ん」 

 

 

「マ、マサト様ぁ~……」

「もういいかー?」

 

 

「振り向かず、そのままでお聞きくださいませ」

「お、おう……?」

 

 

「今、私の目の前に、その……うっすら青いスライムが」

「何だとっ!? まだ倒しきれてなかったのか!」

 

「振り向かないでくださいませッ! 今、振り向かれたら私、どうにかなってしまいますわ!」

「お、俺にどうしろと! 金属バットさんは家で留守番だぞ!?」

 

 

 徒手空拳で、しかも振り向かずに倒せるはずが無い!

 

 

「ファルフナーズ! そいつはスクルドのおしっこで撃退できた! だからお前も――」

「無理! 無理ですわ! 床に落ちるだけでかけることなど……って、そんな事言わせないでくださいまし!」

 

「スライムに飲まれたら出せばいい! それでスライムは溶けて無くなる!」

「お、お許しください! もうスライムを被るのは嫌なのですわ!」

 

 

 そうだった。 先日、トラップで頭からスライムを被って、これもトラウマになってたんだ。

 メンタルよえー!

 

 

「じゃあ、もうこれしかない! いいか、ファルフナーズ! 俺は目を瞑ったぞ! 何も見えてないからな!」

「マサト様な、何を……!?」

 

 ファルフナーズを後ろから持ち上げる。

 膝の裏を抱えて。

 

 またもやM字開脚のポーズだ!

 今度は俺の腕の中だが!

 

 

「いやああ! マサト様あああ! お許しくださいませ!」

「大丈夫だ! 俺は何も見えていない! 早く! 早く出すんだ!」

 

 ウソです。

 ファルフナーズを抱えて、スライムに狙いを定めるために薄目を開けてます。

 しかしもう、これしか思いつかないんだから仕方無い!

 

「ファルフナーズ! 死にたくなければ出せえええ!」

「マッ! マサト様あああ!」

 

 ファルフナーズが両手で顔を覆った。

 

 

「んんっ……! はんっ……くぅ」

 

 

 羞恥心が意図せず抑え込むそれを、無理矢理放とうとする。

 その葛藤が苦しそうな喘ぎ声となってファルフナーズの唇から漏れる。

 

 

 それは見事な放物線だった。

 

 

 暗いダンジョンにかかげられた松明の光に反射し、まばゆい光の橋を描いた。

 

 白いニーソとガーターベルトの作る谷間からほとばしる、恵みの泉。

 

 

 シャワワワ……

 

 

 スライムは浄化された。

 

 

 ピチョーン……

 

 最後の一滴(ひとしずく)がダンジョンの石床に落ち、こだまする。

 

 

「お、終わった……のか?」

 

 

 ファルフナーズは両手で顔を覆ったまま、ふるふると震えている。

 薄目だったのをはっきりと開けると、スライムは影も形も無くなっていた。

 

「見ろファルフナーズ! スライムを倒したぞ! 助かったんだ!」

「ふぇ……むしろ見ないでくださいましー!」

 

 

 羞恥のあまりバタバタと足を激しく動かすファルフナーズ。

 このままだと転びそうなので、何とか降ろして立たせた。

 

 

「ぐすんっ、ひっく、マサト様酷いのですわ……」

「スライム被るのが嫌だって言うんだから、これしか無いだろー?」

 

「それは……そうですけれども。もう少しデリカシーとか……」

「急場のギリギリの所だったんだ。許してくれ」

 

 正直、褒められても良いくらいだとは思うけど。

 お姫様のトラウマだから仕方無いか。

 

 それに薄目ではあったが、凄いものを見せてもらったからな。

 おっと、これは絶対ファルフナーズには言えない。

 

 

 一生の思い出にさせてもらおう。

 

 

 …

 

「おかえり、なのじゃ」

「ただいま戻りましたのですわ」

 

「しかし激しいプレイだったようじゃの」

「プレイとか言うな」

 

 

 自分だけしっかり立ち直りやがって。

 

 

 程なくエレベーターは修理され、俺達は無事に脱出する事が出来た。

 お詫びと粗品を押し付けてくる店員さんに愛想笑いを返して、そそくさと家路につく。

 

「マサト様に乙女の、最も恥ずかしい姿を見られてしまったのですわ……」

「見てないって。角度的にファルフナーズを持ち上げてたら見えるわけないだろ?」

 

 

 本当はちょっと見えてたけどね。

 

 

「ワシなんか丸々見られてしまったんじゃぞー!」

「スライムの中でぐにゃぐにゃしてたから、良く分からなかったってば。大丈夫、大丈夫」

 

 

 本当はくっきり見えてたけどね。

 

 

 3人ともぐったりしながら家に戻った。

 部屋に辿り着いて3人ともへたり込んでしまう。

 

 

『主よ、おかえりなのである。買い物は楽しかったのであるか?』

「色々あって散々だった。大変な一日だったぜ」

「この上なく酷い目に合いましたわ」

 

『災難であったか。ともかく、無事に戻って良かったのである』

「ああ、今度からは金属バットさんも持って外出しよう……ん?」

 

『どうかしたのであるか?』

 

「戻る……

 死に戻る……」

 

 

 俺は得心して右の手の平を左拳でポンと叩いた。

 

 

 

「そうだよ!

 俺が死んでここに戻ってくれば、あっという間に脱出してトイレに行けたな」

 

 

「!!」

 

 

「マー君、なぜそれを今更……」

 

「マ、マサト様のえっちえっち、えっち! 変態おバカ、ですわーっ!」

 

 

 わざとじゃないんだからな!


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