「さっき魔法使えないって言ってたような?」
「あっ、申し訳ありません。正確には使えるようになってました。ですわ」
「なるほど……今なったのか、今気付いたのかのどちらか、なんだな」
「はい……」
ん?
ファルフナーズが虚空を見つめている。
フェレンゲルシュターデン現象かな?
パントマイムみたいに手も動かしている。
「何やってんの?」
「はい……何だか目の前に光る文字が浮かび上がって、そこに私が攻撃魔法を使える、と」
「ほほー、他に何が書いてあんの?」
「ええと、上にステータス画面という文字が」
おお! 良いじゃん!
「それでそれで、どんな事が書いてあんの?」
「はい……私の名前と詳細な情報が」
「読んでくれ」
「えっ」
「ん?」
「いえ、その……」
「んん?」
「は、恥ずか……しい、です」
ははあー、プライバシーか!
あーもー、そりゃあ是非とも知りたいねえ。
「んん、ゴホン。ファルフナーズ君、私は君の主人だな」
「はい」
「君はこのダンジョン攻略の鍵なんだ」
「はい……」
「俺の国にはこんな格言がある」
「はい?」
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。情報こそが力だ、という意味だ」
「はいー……」
「分かったら、そのステータス画面に書いてある事を読み上げてくれたまえ。一字一句漏らさず、な」
「そ、そんなあー」
ファルフナーズは羞恥のあまり両手で顔を覆ってしまう。
…
俺は腕を組んだまま微動だにせず、ファルフナーズを見つめてプレッシャーを与える。
耳まで真っ赤になったファルフナーズは震える声で仕方なく読み上げ始めた。
「ふぁ、ファルフナーズ・トリピュロン……じゅ、16歳です」
「ふむ」
ほう、16歳だったか。
やはり絶世の美少女とは言え、ちょっと幼い顔立ちなんだな。
「し、身長143cm……た、たいじゅ……」
「ふむふむ」
「マサト様、お許しくださいませ……」
「んんー、そーれは困ったなー。詳しい情報が分からないとなー」
とは言え、恥ずかしがるファルフナーズの可愛い姿も堪能したし。
このあたりが潮時か。
なあに、続きはいつでも楽しめる。
「ごめんごめん、冗談だよ。ちょっと意地悪過ぎたな。許してくれ」
ほっと胸をなでおろすファルフナーズだった。
「じゃあ差し障りの無い情報、主に戦闘なんかに関する情報を頼むよ」
「了解しましたわ」
可愛らしい咳払いをひとつ。
耳に心地よい甘い声でステータス画面とやらを読みあげ始めた。
「ええと、特性【オブジェクト化】:モンスターに干渉出来ず、干渉される事も無い、とあります」
「やはりか」
「職業:【プリンセスメイド】:姫巫女になるための修行中の身分。主と定められた者に絶対服従」
「ほっほーう」
絶対服従なのか。
なんて素晴らしい響きなんだ!
これは色々と捗るな!
「レベル1、見習いメイド」
「なるほど」
「スキル、攻撃魔法【炎の矢】1回/1日、絶対命中、矢の形になった炎が敵を貫く、だそうです」
「いいね。絶対命中とは有難い。1日1回だけとは言え、貴重な攻撃手段だ」
「今のところは以上です」
「分かった。ありがとう」
ファルフナーズがステータス画面を片付けようとパントマイムで虚空を右にずらす。
なんで俺には見えないんだ。
「あらっ?」
「どしたー?」
「マサト様の画面も出てきました」
「まじか! 読んでくれ!」
「え……よろしいのですか?」
「ん? いいよ?」
別に俺の体重やらスリーサイズなんて恥ずかしくもない。
まあお姫様育ちのファルフナーズには分からないだろうが。
「マサト・オコノギ 20歳 身長161cm 体重81kg」
「うんうん」
「特性【駄目人間】やる事成すこと全て駄目」
「やかましい」
「ひゃいっ! す、すみません……」
「あ、いや、ファルフナーズに言ったんじゃあ無いんだ」
誰だ、このステータス画面を書いた奴、発明した奴は。
出会ったら一発殴ってやらなきゃ気がすまねえ。
「職業:【ヒキニート】:うまくすればプロ趣味人になれるかもよ? 頑張ってみれば?」
「なんで語り口調で半疑問系なんだよ」
「レベル1、はじめてのダンジョン」
「はじダン。早くも死んだけどな」
「技量点1+1(金属バット):小学生並」
「金属バット込みで小学生並かよ!」
「体力点2:やや硬い豆腐程度」
「豆腐メンタルじゃなくて体が豆腐並みなのかよ……」
ふざけてんなー、このステータス画面。
くっそー、体力の衰えを認めざるを得ない。
「んで?」
「はい? 何でございましょう?」
「いや、続きを」
「以上ですわ」
「えっ、スキルとか攻撃技とか、何かそれっぽいのは無いの?」
「ええ、特に記入されておりませんが……」
ファルフナーズがしきりに画面を右へ左へとスライドさせて確かめている。
小首を傾げてるあたり、本当に何も追記されてないようだ。
「えらくシンプル。むしろ手抜きみたいなステータスだな!」
能力値が技量点と体力点の2種のみだなんて……どんなバランスしてんだ?