俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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ポーカー:トランプゲームの一種で、5枚の手札を任意の枚数交換し、数字や図柄をイイ感じにそろえて役を作る。
 豚肉とは特に何の関係も無い。


#37「ゴールデンタイム・ババア」

「よし、勝負してやるぜ。カードでも何でもかかってきな」

「マサト様、頑張ってくださいませ」

 

 さっき神様のほう応援してたよね、君。

 

「ウルズ、ワシは疲れた。後は任せたぞい」

「任されようぞ。では勝負はカード、種目は何にするかのう……」

 

 何だよ。婆ちゃん似じゃない女神が相手か。

 ますますテンション下がるぅ

 

 あ、スクルドが身を震わせた。

 また勝手に俺の心を読みやがったな。

 

 よし、奴に俺の最高のスクネ婆ちゃんのイメージを全力で押し付けよう。

 お前はスクネ婆ちゃんだ。 お前はスクネ婆ちゃん……お前は……

 

「ええい! やめよやめよ! 卑怯じゃぞ!」

「どっちがだ! 俺のこの熱い思いを受け取れ! 俺色に染まれ!」

 

「御神様相手に、一歩も引かないマサト様なのですわ」

『下手に神格に飲まれるよりはマシ……と良い方向に解釈しておくのである』

 

 3老婆、もとい3元老婆のウルズが苦笑いをしながら語りかけてくる。

 

「よ、良いかの……? ワシらがおぬし心を読んだのは勝負向きのカードゲームを知っているかどうかを調べるためじゃ」

「理由は何でもいいけどな。俺はこの勝負の間にスクルドを婆ちゃんのイメージで洗脳してみせる」

 

「神に連なるワシらに精神侵食を試みるとは、流石ダンジョン・オープナーじゃのう……哀れなスクルドじゃ」

「ははは、元ニートの一念、神をも変えてみせる」

 

 スクルドは涙目でヴェルザンディとか言うのの後ろに隠れてしまった。

 ちくしょー、見た目が子供に戻ったからって、行動まで子供っぽくしやがって。

 婆ちゃんらしくしろ、婆ちゃんらしく。

 

「どうやらポーカーで勝負するのが一番のようじゃな。チップは無しの一発勝負を3人としてもらうぞい」

「オーケーだ。細かいルールを聞いておこうか?」

 

「山札からカードを配って1回チェンジ、それで勝負じゃ」

「なるほど」

 

 

「おぬしがワシらに勝つたびに、何でも好きな願いを1つ叶えてやろうぞ」

「……マジで!? 俺が負けたら?」

 

 

「特に無いがの。ただし、3人の誰にも勝てなかったら、一度強制送還じゃ。再びここに来た時、まあ恐らくワシら以外の何者かとの勝負になるじゃろう」

「何かずいぶんと気前がいいな」

 

 んー……何か引っかかる。

 言い方もおかしかったしな。

 

「マサト様、必ず1勝してくださいませ。これほど寛大に接してくださる御神も珍しいのでございますわ」

 

 確かにそうだ。

 再入場したら、次は意地悪な邪神が出てきたり、意思疎通が不可能な神と戦うハメになるかも知れない。

 

 何はともあれ、必要なのは勝つプライドだ。

 

「ではこのワシ、ウルズが最初の相手じゃ!」

 

 どこからともなく取り出したカードのデッキ封印シールを破いた。

 こ慣れた手つきでカードをシャッフルしている。

 手強そうだが「やるしかねえ」と、言い聞かせるように呟つぶやいた。

 

 滑らせるように交互に手札を配る。

 金属バットさんに目配せをして……

 

『大丈夫である。我の目にもイカサマは感じられぬ』

「当然じゃ。神に連なる者がそのような下衆な真似をするものか」

 

 手札をめくって確認……

 スペードの8、ハートの8、ハートの5、ダイヤのJ、クラブの7

 

「確認だ。絵柄(スート)はスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に強い、でOK?」

「良かろう」

 

「よし、じゃあ俺は3枚チェンジ」

「ワシも3枚チェンジじゃ」

 

 賭けチップ無しの一発勝負だからな。

 正直、読みの要素はほとんど無い。

 降りる、掛け金を釣り上げるという選択肢が無いから。

 

「ヒッヒッヒ……ワシらは神に連なる者ぞ、心が読める事を忘れておったのがおぬしの敗因じゃ」

「汚ねえ! 下衆な真似はしないとか言っておいてそれかよ!」

 

「ヒッヒッヒ……どれどれ、おぬしの手札は……」

「正面からの堂々イカサマとは恐れ入ったぜ」

 

 くっ!

 こんなセコいイカサマ女神に負けるのか!?

 スクネ婆ちゃん! 俺を守ってくれ!

 

「ヒッヒッヒ、手札は……スクネ婆ちゃん、スクネ婆ちゃん、スクネ婆ちゃん……お前の頭の中はそれだけか!」

「う、うっせー! いいからお前もスクネ婆ちゃんの姿になれ!」

 

『神をも欺く我が主の煩悩なのである』

「ある意味凄い能力なのですわ……」

 

 

「まずは見事と言っておこうかの……じゃが、ワシは過去の運命により未来を紡ぐウルズ。過去の全ての事象を見通す能力をもってすれば……」

「一発勝負のチェンジ1回で、過去が何か関係あんの?」

 

 

「……ないのう」

「ですよねー」

 

「勝負だ! スペードの8とハートの8でワンペア」

「役無し(ブタ)なのじゃ……」

 

 

 勝ちぃ!

 まずは最低限のクリア確定だぜ!

 

「流石ですわ! マサト様!」

『相手が自滅してくれたのである』

 

「スクネ婆ちゃんが俺を守ってくれているのだ。ははは」

 

 またスクルドが身を震わせた。

 よーし、その調子だ。

 お前はスクネ婆ちゃんになるのだ!

 

 …

 

「ならばお次はこのワシ、ヴェルザンディが相手じゃ」

「よし来い! 1回は勝ったから、残りはボーナスステージだぜ」

 

 

 おや、1敗した割りには随分余裕の表情だな。

 やはり試験官的な立場で、余興代わりに楽しんでるだけなのかね。

 スクネ婆ちゃんの加護がある限り、負けてやる気も無いけどな。

 

 手元にはスペードのA、ハートの5、ダイヤの6、ダイヤのQ、クラブの2が配られた。

 

 また心をスクネ婆ちゃんで一杯にして、手札を読まれるのを防ぐ。

 

「シシシ……それでワシの能力は防げぬ。ワシは現状の変化による未来を紡ぐヴェルザンディ。現状を見渡す力で、おぬしの手札は丸見えじゃ」

「これまた汚ねえな! 神ってのはイカサマやり放題かよ!」

 

「分かってしまうのじゃから仕方無いのう……シシシ」

「スクネ婆ちゃん、どうか俺に運を!」

 

 手札は完全にブタ。 役無しだ。

 どれを残し、どれを変えるか、完全に運頼み!

 

 だが掛けチップ無しの1回チェンジなら向こうも運次第。

 ならばスペードのAを残して……

 

「4枚チェンジ」

「ならばワシは3枚チェンジじゃ」

 

 頼むぜ、スクネ婆ちゃん! 見ててくれ!

 

 

「勝負だ。役無し(ブタ)」

「……ワシもブタなのじゃ」

 

「この場合はどうなるのでございますか?」

『我が主の勝ちなのである。最も強いカード、スペードのAを残していた故』

 

「ありがとうスクネ婆ちゃん!」

「ぐぬぬ……見通す力があっても、カードを引き寄せるとは限らないのじゃ」

 

 よっしゃ、2勝頂きっ!

 

 

「さあ、最後はアンタだぜ。スクネ婆ちゃん!」

「や、なのじゃ」

 

「何で!?」

「ワシの権能は希望により未来を紡ぐ。勝負をすればおぬしのその希望に近い精神に侵食を許して、勝ち負け以前におかしくなるのじゃ」

 

「つまり……」

「おぬしの勝ちで良いのじゃ。ワシにとっては勝負したら負けの状態じゃ」

 

「あっけない幕切れ……だが、これもスクネ婆ちゃんが俺を守ってくれたおかげだ! やはり婆ちゃんは神より凄かった!」

「変態には神も敵わぬ事があるのじゃ」

 

「おめでとうございます! マサト様! 全勝ですわー!」

『我が主ながら、ここまで勝負強いタイプだったとは、意外であった』

 

 

 よし、今日からお婆ちゃん教を立ち上げよう。

 

 宇宙は婆ちゃんで出来ている、くらいの勢いで。




ぐだぐだな勝負に勝ったマサト。しかしそれこそが試練であったのだ。
次回#38「俺の暮らしがラグナロク」お楽しみに。

感想とか豚肉とかお待ちしております!

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