俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#34「逃げ戦なら百選練磨である!」

「よし、ファルフナーズ! 鉄の像のレベルは分かるか?」

「は、はいっ! リビング・スタチューの亜種と思われます。推定15レベルですわ!」

 

「15レベルか。勝てるかどうか……」

『5体や10体なら今の主と我の力で完勝できる。だが100体となると我の耐久が持たぬ』

 

「ですよねー 金属バットさんの耐久以前に、俺が疲れ果てるし」

「申し訳ありませんわ。私が最初にリビング・スタチューに思い当たっていれば、こんな事には」

 

 殊更わざとらしく、お姫様に向かってニヤリと笑って見せる。

 意気消沈した所で何も変わるわけでなし。

 

「じゃあ今晩のプリンは俺のだな! なあに、失敗しても死に戻るだけ。今度は100体全部3000円ずつ儲けてやるさ」

「も、もう……マサト様ってば」

 

 ファルフナーズも気を張って笑顔を作る。

 よし、それで良い。

 

 本当に全部の右手を切り落としてたら、何日かかるか分からないけどな!

 

「金属バットさん! 燃えろ! ファルフナーズは【魔法の盾】、かけ直しも準備!」

『応である!』

「かしこまりましたっ!」

 

 

 ガション! ガシャン!

 

 ガッシャンガッシャン!

 

 

 鉄の像の第1陣が目の前に迫る。

 

「うわ……第2陣は走って来てるぞ」

『トロルの時とは逆、部屋に入られて囲まれたら詰み、なのである』

 

 その通りだ。

 ここで食い止めなければ!

 

 金属バットさんを振るい、まずは剣を握ったほうの鉄像を殴り飛ばす。

 

 

 バキャッ!

 

 鉄の像はよろめいて2歩ほど後退する。

 ヒットした胸部はベッコリとへこんでいる。

 

 効果は抜群だ!

 だが……

 

「流石に一撃で仕留めるのは無理か!」

『我の不甲斐なさを痛感せざるを得ない』

 

 右手を落とされた鉄の像は俺を攻撃しようとはせずに、回り込んで部屋に侵入しようとする。

 慌てて殴り飛ばして通路に押し込んだ!

 

「こいつら! 結構知能があるぞ!」

 

 鉄の像は身長2mを越え、通路では2体しか並んで歩けない。

 後ろに次々と押し寄せて順番待ちのような様相を呈してくる。

 

「我が主よ! 倒そうとしては部屋に入られてしまう。押し込めることに専念せねば」

 

 そう言われましても。

 一杯一杯なんだよ!

 

 右手の無い像を抑えつつ、3発殴れば剣を持った鉄の像を倒せた。

 しかし完全に倒してしまうと、トロルとかと同じように淡く光って消えてしまった。

 

「倒せば次のがすぐ来るのか!」

 

 うわー、面倒臭いったらありゃしない。

 というか、1体抑えながら1体倒すだけで呼吸が乱れてきた。

 

 何せ硬い。

 フルパワーで殴っては押し込めないと一気に入り込まれる。

 

 通路は既にうごめく鉄の鎧で埋まりつつある。

 

 

 よし、無理だ。 死に戻ろう。

 

 

 諦めが早いのが元ニートの取り得。

 

 さっさと逃げ帰って風呂にでも……

 ん? 待てよ?

 

 

 逃げる……良い手だ!

 

 

「ファルフナーズ! 扉に向かって走れ!」

「はっ、はい!?」

 

「どうせ死に戻るなら試すんだ! ボスを倒せなくても次の扉を開けられるか!」

『その可能性に思い当たるとは! 流石は我が主! 逃げの人生なら百選練磨であるッ!』

 

 ははは、こいつぅ~!

 ……この階層に置いていこうかな。

 いや、両替機で売り飛ばすか。 

 

 ファルフナーズが勢い良く返事をして走り出す。

 

 パタパタ……

 

 

「やっぱりダメかもしれない……」

『こればかりは、我にもいかんとも』

 

 両手を肩辺りまで持ち上げての乙女走りだ。

 まるで花園を舞う天使のような。

 

 俺が早足で歩くより遅い……

 

「死ぬ気で走れえええ!」

「全力ですわー! はふはふ」

 

 必死で鉄の像を通路に殴り戻しながら、ファルフナーズが扉に到着するのを待ち焦がれる。

 頼む! 俺が走って逃げる余力のあるうちに!

 

「……」

『……』

 

 あっ! あのアマ~!

 

 立ち止まって休みやがった!

 

 手で胸元を仰いでいやがる!

 見せろ!

 じゃなくて。

 

「あと20mも無いだろォ! 走れー!」

 

 俺は聞いた。 鉄の像の騒音にまぎれてもハッキリと。

 

「人使いが、いえ、姫使いが荒いですわー」

 

 と……

 

 ちくしょー!

 戻ったら目の前で、凄く美味しそうにプリンを食べてやるからな!

 

 

「でましたわー! 階層突破の表示ですわー!」

 

 キタコレ!

 

「ならば鉄の像に用は無い! スタコラサッサだ!」

『逃げるが勝ち、である』

 

 きびすを返して走り出す!

 

 鉄の像が部屋に雪崩れ込んで来た!

 

「マサト様ー! 早く早くー、ですわ!」

 

 ガッシャガッシャ!

 

「はひっ、鉄の鎧像のくせに早いッ! うわあああ!」

『中身は空であるからして』

 

 そういう問題じゃねえ!

 くそっ! 突っ込みたい!

 

 鉄の像は見事なランニングフォームで、部屋を埋め尽くしつつ俺を掴もうとする。

 何年振りかの全力疾走!

 持ってくれ俺の心臓と肺!

 

「これで……はひっ、勝ちだッ!」

 

 ファルフナーズの足元に転がり込む。

 入れ替わりでファルフナーズが扉を閉めた。

 

 ギギギ……ガチャン!

 

「きゃあっ!」

 

 ガンガン! ガキン!

 

「マサト様! 扉が破られてしまいますわ!」

 

 

 オーケー

 

 じゃあ最後の一仕事だ。

 息を整えながら、ふらふらと立ち上がる。

 

 しゃべる余裕も無かったので、心配げな表情のファルフナーズに向かって笑顔だけ。

 ついでに親指だけ立てる、俗に言うサムアップのハンドサインを。

 

 幸いな事に、こちらから見れば引き戸、つまりノブを回して扉を引き開けるタイプだ。

 

 ノブに手を掛け、回せば――!

 

 ご覧の通りさ!

 

 

「ダンジョン・オープナー!」

 

 開いた扉の先は鉄の像が居ない部屋だ。

 

 

「その手が! マサト様! 流石ですわ!」

『たまに見せる主の知恵は素晴らしいのである』

 

 そう

 

 俺が扉を開ければ、そこはもうダンジョンの入り口。

 今、目の前に広がっているのは全然別のダンジョンだ。

 

 元の扉の裏側がどうなってるかは――

 ひとまず、神のみぞ知る。

 と言う事にしておこう。

 

 

 プギョルルルル!

 パカーン!

 

 扉の向こうから飛び出して来たモンスターに殴られた。

 ゴブリンだ……

 

『そこに新たなモンスターが居る可能性を忘れているのが、実に主らしい所である』

「ふふふっ、最後の最後で締まりませんでしたわね」

 

 

 ちぇっ




真面目回終了。次回、階層突破のご褒美でキャッキャウフフ
#35「勇ましくて素敵だと思います」お楽しみに。

感想とかパンツとかお待ちしております!

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