俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#33「そんな怖い考えはやめよう?」

「よし、ガンガン進むぜ! 3000円!」

「その調子ですわ、マサト様」

 

 この第4層、鉄像迷宮はかなり広大だ。

 

 100m程進むと左に直角に曲がる。

 そこからまた遠くまで通路が続いており、真ん中に鉄の像が向かい合って立っている。

 

「いたいた。3000円」

『日本語文化の敗北を感じるのである』

 

 バットに言われたく無いなあ。

 俺の分身、影の人格とか言ってるけど……

 こんなにツッコミ性質で説教臭いのが俺の分身とは到底思えない。

 

「よーし、じゃあ再び3000円ゲットだぜ」

『鼻先にニンジンを吊るされた馬のようである』

「それでやる気になってくれるのでしたら、私は、まぁ……」

 

 ははは、何とでも言うがいい。

 世の中稼いだ者勝ちなのだ。

 ゼニが無いのは発言権も無いのと同じじゃ。

 

 ……とか言うと、つい先日までの自分に跳ね返ってくるから黙っておこう。

 

 そもそも今だって借金状態だしな。

 

 …

 

 鉄の像の罠を突破し、再び小銭をゲットする。

 

「よし、次の3000円を求めて進むぜ」

『階層突破の目的すら……』

「お、おほほほ……」

 

「突き当たりは再び左右に分かれてるな。じゃあ宣言どおり右手沿いで」

「かしこまりましたわ」

 

 おっと、せっかく持ってきた方眼紙に地図も書いておかないとな。

 メモメモ……

 

「それにしても広い迷宮ですわ」

「迷わせて気力体力を奪うための物だからなー」

『3000円迷宮である』

 

 日本語文化、ここに完全敗北だぜ。

 

 ……

 

 …

 

「よし、飽きた!」

『早っ! 我が主にしても早すぎるのである』

 

「私も歩き疲れましたわ」

『姫まで……』

 

 あれから迷宮を右、右……と、分岐点がある度に右に曲がりつつ進んできた。

 3000円、もとい鉄の像の罠も10数体破壊している。

 やはり全部を殴り倒してたら体力が尽きてた所だ。

 

『借金完済の目処が立った途端、これである』

「いやいや、朝からもう何Kmも歩いたしなあ。ほら、一応風邪気味だし」

 

 昼飯も食べてないし。

 この距離を歩いて帰ればもう夜かな。

 

「じゃあ次の角を曲がってチェックしたら、今日は終わりにするかー」

『主よ。入り直したらまた1からやり直しな事をお忘れなく』

 

「そうだった……次からはキャンプ体勢も整えなければダメかな」

「まあ、私ベッド以外で眠れるか自信がありませんわ」

 

 ま、次の階層がさらに広くなったら本気で考えよう。

 それよりも今日中にこの階層をクリアする事に専念したい。

 

「書いた地図から推測すれば、ぐるっと半周した感じだ。曲がり角が本当に直角ならば、だが」

 

 微妙に直角ではない造りでマッピングを狂わす、なんて高度な迷宮だったら怖いな。

 やや不安を覚えながら角を曲がる。

 

「マサト様、突き当たりで扉がありますわ!」

「おお、ようやくボス部屋か。帰りの道のりがこれ以上長くなったらどうしようかと」

 

「どうしても帰路が労苦でしたらマサト様が死亡して――」

「お姫様!? そんな怖い考えはやめよう?」

 

 やだ怖い。

 いくら不死身で死に戻り可能だからって、帰りのタクシー代わりに死ぬのは嫌過ぎる。

 

 これが王族の思考法か!

 

「扉の手前にまた鉄の像があるな。さあ金属バットさん、炙ってくれ」

『この能力はガス・バーナーではないのだが……』

 

 硬い事言うなよー

 無限に出せるエコロジーなパワーなんだからさ。

 

 ……エコノミーだっけ?

 

 追加の3000円をゲットして扉まで通路の安全を確保する。

 聞き耳を立ててみるも……何の音もしない。

 

「よし、ファルフナーズ、扉を開けてくれ」

「かしこまりましたわ」

 

 ギッギッギッ……

 

 相変わらず力無いなー

 パワフルなお姫様ってのもイメージ崩れるから良いのだけど。

 

 

 ヴーン! ヴーーン!

 

「しまった!」

『また警報の罠である』

 

「避けようが無いとは言え迂闊だった」

「ど、どうしましょう。マサト様」

 

 扉は半開きのままだ。

 部屋の中にはどんなモンスターがいるか……

 

 ガション! ガショーン!

 

 遠くで金属の板が重なり合うような音がした。

 ――部屋ではなく後方から。

 

「後ろからモンスターが来る! ええい、ままよっ!」

 

 扉を蹴飛ばして部屋の中に踊りこんだ!

 

『空部屋である』

「ボス・モンスターが居ない!?」

 

 第3層までの部屋より遥かに広い。

 バスケが2試合は同時に出来そうな広さだ。

 壁には狭しと松明が取り付けられているが、部屋の床にも天井にも何も見当たらない。

 

「トラップが仕掛けてあるのか!? それとも見えないモンスターでもいるのか!?」

「分かりませんわ。でもモンスターな気配は感じません」

 

 

 ガシャリ! ガシャッ!

 

 

「なるほど……もう分かった。ファルフナーズ、部屋の中に入ってろ」

「かしこまりました。ですがマサト様、どうか状況のご説明を」

 

「階層のボスは最初から『居た』んだ。見ろ! 鉄の像が来る!」

「まあッ!」

 

 金属の音を立てながら歩いてくる2体の鉄の像。

 そして片方は右腕が無い。

 

 

「最初に俺は像を見た時、罠かモンスターのどちらかだと思い込んだ。だが実際はその両方だった」

「でしたら、像はあの2体だけではなく……」

 

「およそ迷宮の外周だけを半周して20箇所に2体ずつ。もう半周の分と内側の通路の分を合わせたら……」

『20箇所 × 2体 × 通路2倍 + αの内側で100体は確実である』

 

 

 100人斬り、ならぬ100体壊しが今、始まる――

 

 100体にボコられる未来しか見えない気もするけど。

 最悪、ファルフナーズの【炎の矢】で道連れだ。

 何とでもなるな。

 

 金属バットを構えて100体相手に大立ち周り。

 

 なんて、昔のケンカ映画みたいだ。

 

 

 でも主役は元ヒキニートだよ!




次回、ボス戦。 #34「逃げ戦なら百選練磨である!」お楽しみに。

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