俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

30 / 71
#30「美は見られる事で素晴らしさが増すのだ」

「よし、プリンですわ!」

「ご飯の後にしなさい」

 

 ファルフナーズが口を尖らせながら、手をパタパタとさせて抗議する。

 エサをもらえなかった小鳥か。

 

 帰りにコンビニに寄った時のファルフナーズの喜びようときたら。

 黄色い声で「プリン祭りですわー!」を連呼してた。

 

 流石に店内の注目を浴びて焦ったぜ。

 

 プリンだけに目が行って、他のスイーツに気付いてなかったから良かった。

 あのコーナーが全て甘味だと知ったら、きっと全部買うまで駄々をこねたな。

 

 

「よし、金属バットさんを強化もしたし、ステータス画面の確認を頼む」

『差し出がましいようだが主よ、強化の巻物が2枚あると思うのだが』

 

「そうだった。先に使っておくか」

『よろしく頼むのである』

 

「お前ばかり強くなりやがって、このヤロー」

『我は主の体の一部と言ってるであろう。第一、我は女だ』

 

「ははは、冗談も程々に――えっ? バットに男とか女とかあんの?」

『あるぞ。バットに限らぬが主の影、つまり番(つがい)として主の異性になるもの也』

 

「だって、無茶苦茶おっさんボイスじゃん」

『金属の振動によって音を出しているせいである。お望みとあらば女性らしい声にもできるが、かなりの高音になる』 

 

「やってみて、やってみて」

『ワガアルジヨー コンナ コエガ オコノミカー』

 

「わははは、女声というより九官鳥みたいだな」

『とんだ羞恥プレイである』

 

 …

 

「あっ、こいつ静かだと思ったらプリン食ってやがる!」

「頂いておりますわー んふふっ」

 

「ふっ、まあいい。食後の一時、優雅にプリンを楽しむ俺の姿を指を咥えて見てるがいい!」

「プリンはまだあるのですわ」

 

「待て待て、ファルフナーズが2個食べるのが前提なのはおかしいよね?」

「昨日の結果、今は私がプリンを2つ頂く事になっているはずですわ」

 

 こいつ……いいだろう。

 そっちがその気なら、第2次プリン戦争を起こしてやる。

 

「血で血を洗う闘争がお望みとあらば地獄を見せてやるぜ。だが今はこっちが先だ」

 

 

 机の上に放置しておいた強化の巻物を2枚を取り出す。

 

『思えば、先にこれを使っておけば修理の必要も無かったかも知れぬ』

「確かになー けど、前回これで火傷したから慎重に行こうと思って」

 

 これ、貼り付けると燃え上がるんだよな。

 

「よし、ファルフナーズ。風呂場でやるか」

「あむっ……ふぁ。もう少々お待ちいただけますでしょうか」

 

 ああん、プリンに夢中なのね、このお姫様。 

 ちょっと甘やかし過ぎか……?

 

 まあスライム頭から被ったり鉄の像に叩かれたりと、ここ数日は大変な目にあってたからリフレッシュしてもらわないとな。

 

 プリン1つに30分かけ、満足したファルフナーズが重い腰をあげた。

 あんな細い腰つきのくせに、根でも生えたように動かないとはな。

 そのうち1度、きつく締めてやらねばなるまい。

 

 こう、キュッと。あるいはわきわきと。

 

 

「マサト様、その妙にいかがわしい手つきは、一体……」

『いかがわしい妄想に違いないのである』

 

 金属バットさんをベッドの下にコロコロ~

 

『酷い仕打ちである』

「うっせー、主の不利になる証言をかますようなバットはベッドより下じゃー」

 

 自分で言ってて訳が分からない。

 ちょっと埃っぽくなった金属バットさんを抱えて風呂場へ向かう。

 

「明日はベッドの下も掃除しますのですわ」

「別にいいよ。ま、ダンジョン探索して時間が余ったら、な」

 

 お姫様の割には家事に積極的。

 決して上手でも慣れてもいないが。

 それも姫巫女の修行と考えて、熱心なのかね。

 

「おし、じゃあ貼るぜー。2枚貼っちゃうぜー」

「消火準備やよし、ですわ」

『我は耐食性が悪く錆びてしまう。水をかけるのは構わぬが、良く乾かして欲しい』

 

「1枚目、おりゃー」

 

 ペタッ

 

 ボワッ!

 

 前回と同様に青白い炎を上げて巻物が燃えていく。

 

「水、かけましょうか?」

「このくらいなら大丈夫だろ」

『何やら一際、体の内側から湧き上がる力が増したのである』

 

 火が消えてからも少し待つ。

 熱くて貼り付けられないかもしれないからな。

 

 

「よーし、じゃあ2枚目いくぜ! どりゃあ!」

 

 ペタリ

 

 

 ドゴーォン!

 

 

「うおあーっ!」

「燃えっ! 燃え上がりましたわ!」

『漲(みなぎ)ってきたのである!』

 

 金属バットさんが炎上した!

 

 貼った巻物が青白く燃えるのではなくて、バット自体が燃え盛っている!

 

『明日はホームランだ!』

「うるせえ! 火を消せぇ-!」

「水っ! 水ですわ!」

 

 ファルフナーズもパニクってしまい、水を満たした洗面器を手に持っている事を忘れてる。

 金属バットさんは高さ1mにもなる炎を上げて燃え続ける。

 

 くそっ、仕方無い!

 シャワーのヘッドを持って蛇口をひねる。

 

 

 ニョロロロロロ

 

「なんだこれは!?」

「ローパーの触手ですわ!」

 

「しまった! ダンジョン・オープナーの力でシャワーがダンジョンの入り口に!」

『主よ! 我を持て! ローパーごとき、一撃で――』

「燃えてるバットに触れるか!」

 

 

「水! 水を! マサト様! ひゃあ! ローパーの触手が私の体にー!」

「お前が手に持ってるだろォ!」

 

 

「ヒノキのスノコに引火したァ!?」

「マサト様! 触手が! 触手が私の胸を!」

『こうなったら全てを燃やし尽くすまで!』

 

 

「やーめーろー!」

 

 ……

 

 …

 

「やっと収まった……」

「えっぐ、くすんっ、ひっ、うっく……マサト様のおバカぁ……」

『ガラにも無く興奮したのである』

 

 ファルフナーズから奪い取った洗面器でひたすら浴槽から水をかけた。

 水を汲んではバットにかけ、汲んではバットにかけ。

 

 合間、合間にシャワーヘッドの穴から出てくるイソギンチャクみたいな触手に絡みつかれるファルフナーズを引き剥がし……

 

 

「やれやれ、大変な目にあったぜ」

「マサト様のおバカおバカぁ……ローパーに胸をまさぐられましたわ」

 

「知能の無いモンスターに触られるくらい別にいいじゃないか。毎日下着やドレスに胸を触られてる、ってのと同じだろ」

「マサト様には乙女心の恥じらいが分からないのですわ。くすん」

 

「まあ俺、乙女じゃないしな」

『そういう問題でも無いのである』

 

 …

 

 ファルフナーズを引き剥がす時に触手を引きちぎったせいか、勢いの弱まった触手がニュルニュル動いてる。

 シャワーヘッドの穴から何十本も短い触手が蠢(うごめ)いていてキモい。

 

「で、このローパーって何なの?」

「無機物に擬態して獲物を絡め取るモンスターですわ。実体は不定形生物で獲物の体液を吸い尽くします」

 

「……ちょっとファルフナーズ、じっくり見たいからもう一回、絡まれてみて?」

「マサト様のえっちぃーー!」

 

 シャワーヘッドを頬に押し付けられ、ローパーの触手が俺の顔に吸い付く。

 

「いてててて! これ蛭(ひる)と同じだ! 超ジワーッとしみるように痛い!」

 

 頬に押し付けられた触手を剥がして鏡で確認すると、赤い日の丸のようになっていた。

 

 

『ははは、派手なキスマークなのである』

「うっせー あー、しみる」

 

「自業自得なのですわ」

「ごめんて」

 

「では、食後のプリンを頂く事で手を打つのですわ」

「まあ良いだろう。第2次プリン戦争は回避だ。1個ずつ食べるか」

 

 頬をぷっくり膨らませていたファルフナーズが笑顔に戻る。

 

 

「しかし慌てて火を消したから、水びたしのびしょ濡れだ」

『せっかく滾たぎっていたのに、残念である』

 

 ん……?

 このびしょ濡れ具合。

 

 良く見ればファルフナーズの姿も――

 

 いかにもお姫様な真っ白のドレスが水に濡れて、ファルフナーズの体に張り付いている。

 ゆったりと広がっているはずのドレスが今は彼女のボディラインをくっきりと浮かび立たせている。

 

 

 ドキドキする。

 

 そんな、まさか。

 いくら絶世の美少女とは言え、未成年の小娘にこの俺が……!?

 

 16歳の小娘かと思っていたが、その胸はとても豊かだ。

 日本人体型とは比べるべくもない。

 膨らみ、などと言う言葉では表しきれない、まさに双丘。

 いや、双球!

 

 冷えに身をすぼめた影響で両の腕に挟まれ、その双丘が柔らかさを主張するように縦にたわむ。

 その双丘を包み込む純白レースの下着が、透けて見える地肌を逆に強調している。

 

 その匂い立つかのような艶やかさが――

 

 

「マサト様ったら! どこを見ているのです! いやらしいっ!」

 

 スコーン!

 

 シャワーヘッドを投げつけられた。

 頭にコブが出来た。

 

 

「いいじゃないか。 減るものでも無し」

「減りますわ。貞操の価値とか乙女の尊厳とか色々減るのですわ」

 

「減らない減らない。芸術とか美とか、見られる事で素晴らしさが増すのだ」

『屁理屈だけは一人前なのである』

 

「減るのですわ。少なくとも……」

「ん?」

 

「今日のマサト様の分のプリンは確実に減って無くなりましたわ」

 

 

 あちゃー

 

 そう来たか。

 

 

「ちぇっ、そんなプリンばかり食べてると、胸がプリンプリンになるぞ」

「マサト様、お下品過ぎますわ! 少し反省なさると良いです」

 

 パタン

 

 あっ!

 

 風呂場に閉じ込められた。

 ダンジョン・オープナーの能力のせいで、自分で風呂場の戸を開けられない。

 

 

 くー、まさかこんなお仕置きの仕方があったとは。

 

「ファルフナーズさーん! 悪かったから出してくれー! このままじゃ風邪引いてしまう!」

「ほら、やっぱり減るのですわ」

 

「何が減るんだか」

「マサト様の寿命です」

 

 おそろしー

 

 

『むしろ錆びで我の寿命がマッハである』

 

 

 共に逝こう、友よ。

 

 プリンを食べる姿を、指を咥えて見てるのは俺の方だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。