俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#3「お前の世界、滅亡の危機迫り過ぎじゃね?」

「よし、じゃあダンジョンだ」

「はいっ! マサト様」

 

 あれからいくつか説明を聞いたが、正直さっぱり分からない。

 魔法の王国からやってきたお姫様の修行という事だけは理解できた。

 

 俺の部屋のフスマをダンジョンの入り口と定め、覚悟を決めた。

 右手には押入れから取り出した金属バット(少年野球用)。

 

 こうなったら、さっさとこのお姫様を送り届けて、元の体に戻してもらうしかない!

 

 いざ!

 

 フスマをスラッ!

 

 プギョルルルルルッ!

 

 スパーンッ!

 

「近い! 近いよ!」

「目の前でしたわ……」

 

 うっかり開けっ放しにしたら、こっちの世界に凶悪モンスターが解き放たれちまうよ!

 俺はその場で、米軍の特殊部隊が俺の家を包囲して爆弾を投下するシーンまで妄想した。

 

「ファルフナーズさん」

「はい。マサト様」

 

「無理です。ムリムリ」

「同感ですわ……」

 

「第一、何でアイツら常に殺気立ってるの? 常時襲い掛かるのがデフォなの?」

「ゴブリンは人間の子供程の大きさですが、凶暴性と残忍性だけはどんなモンスターにも負けませんわ」

 

「しかも常に複数いるんだよなあー」

「いましたわね……」

 

 ファルフナーズをチラ見して、まあ万が一と思って聞いてみる。

 

「実はファルフナーズは武術とか剣の腕に覚えがあるとか……?」

「申し訳ございません。私は姫巫女としての修行しか経験が無くて」

 

「姫巫女の技ってどんなの? 魔法っぽいの?」

「雨を降らせたり止ませたり、土壌を豊かにしたり、疫病を抑えたり……それから」

 

「もういいです」

「すみません……」

 

 

「よし、作戦だ。名付けてリセット・マラソン作戦」

「はい……よろしければ、どんな作戦かお聞きしても?」

 

「うむ。連続でこのフスマを開け閉めする。狙い目はモンスターが居ない通路かゴブリンが1匹の所だ」

「なるほど! マサト様、それは名案でございますわ」

 

 小柄なゴブリンと一対一なら俺の金属バットで何とかなるかもしれない。

 

「よし、いくぜ!」

「はいっ!」

 

 スラッ! ドラゴン! パタンッ!

 

 スラッ! 鉄の牛! 「ゴルゴンですわ」 パタンッ!

 

 スラッ! 炎の人! 「ファイヤーゴーレム」 パタン!

 

 スラッ! 黒い角人! 「メジャーデーモン」 パタンッ!

 

 スラッ! 不定形の人 「不貞にして不定、不安定なる旧神」 パタンッ!

 

「えっ 神!?」

「はい」

 

「情報聞けば良かった」

「交信を試みると、高次元の意思エネルギーを浴びて発狂させられるそうですわ」

 

「しなくて良かった」

「はい」

 

 スラッ! 髪の毛が蛇の女 「メデューサです」 パタンッ!

 

 スラッ! 一つ目巨人 「サイクロプスですわ」 パタン!

 

 スラッ! 虹色に煌く鱗! 「おそらくリヴァイアサンの体表と……」 パタン!

 

 スラッ! 宇宙だ! 「空間情報生命体メタトロン」 パターン!

 

 スラッ! メカ軍隊!! 「不死なる旅団ブリゲードです」 パタン!

 

 スラッ! 金属惑星! 「暴走せし魔神星ビッグクランチ」 パタン!

 

 …

 

「まともな敵がいなーい!」

「伝説の勇者が束にならないと勝てない相手ばかりですわ……」

 

「って、言うか。お前の世界、滅亡の危機迫り過ぎじゃねえ?」

「そうでしょうか」

 

 雨乞いしてる場合じゃ無い気がするぞ。

 

 

「どうやら……同じ場所を開けていると、高レベルモンスターの居る場所を引き当てやすいようだ」

「なるほど! 素晴らしきご慧眼ですわ!」

 

 絶世の美少女ではあるが、この際褒められても一銭にもなりゃしない。

 フスマはもうダメだろうから、今度は部屋の入り口の扉だ。

 

 ガチャッ!

 

プギョルルルッ!

 

「来た! ゴブリン1匹ぃ! いくぜファルフナーズ!」

「かしこまりました!」

 

「くたばれー! うおおお!」

 

 

 カーン!

 

 俺の金属バットが小さいゴブリンの棍棒で防がれる。

 意外に、というか俺と同じくらい力が強くて押し切れない!

 

「くっ! ファルフナーズ! 援護を! コイツをぶん殴れ!」

「はっ、はいー! えいっ! えいっ!」

 

 ファルフナーズが貸し与えた木製のバット(少年野球用)でゴブリンを殴打する。

 

 キュイン! キュイン!

 

 変な電子音じみた怪音波が響いて、ファルフナーズが殴った場所の空間が歪むような映像になる。

 

「いけません! 私ではゴブリンに干渉できないようです!」

 

 そんな感じの音だったよ!

 それどころか、ゴブリンにはファルフナーズが目に映っていないかのように視線すら向けていない。

 

 直感的に分かった。

 ファルフナーズがダンジョンでは何も出来ないか、扉を開ける程度の限定的な行動だけなんだ、と。

 

「そ、それよりも、もう腕の力が……ッ!」

 

 こんな小柄なゴブリンにスタミナすら勝てない!

 流石ニートの俺!

 

 プギョールル!

 

 ゴブリンの叫びと共に金属バットを跳ね飛ばされて、手から離してしまう。

 慌ててそれを拾おうと転げると、後頭部に爆発的な痛みが――

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

 

 

「うっ ひくっ ぐすっ マサト様、マサト様ぁ」

 

 目を覚ました。

 ベッドの上に布団も被らず横たわっている。

 

「うう……ファルフナーズが助けてくれたのか」

「いえ、マサト様はお亡くなりになられました。ベッドの上で自動的に蘇生なさったのです」

 

 涙で鼻声になるファルフナーズが教えてくれた。

 

 マジかー

 後頭部あたりを殴られて意識が飛んだからさっぱり分からない。

 

 

「マサト様は後頭部をゴブリンの棍棒で強打されて意識を失いました」

「お、おう……やはりそうだったか」

 

「その後もゴブリンはマサト様の頭部を殴り続けて、しまいにはグシャッと……」

「ふぁ、ファルフナーズさん?」

 

「マサト様の頭からはみ出した××をゴブリンが美味しそうに音を立ててすすり……それだけでは足りないのか服を破ってお腹の所へ牙を」

「ストップ! ストップ! それ以上俺の解体踊り食いショーの実況は聞きたくない!」

 

 

 ファルフナーズにティッシュ箱を手渡してやりながら考えた。

 

「くっそー 俺の実力じゃあゴブリン1匹にすら勝てないのか」

「私のためにこんな目に……真に申し訳ありません」

 

「だが、生き返られるのは幸いだ。あれで何もかも終わりだったら浮かばれねえ」

 

 かと言って楽観的はなれない。

 あの痛みは覚えてるからな。

 もっと生殺し風の死に方だったらと思うと、やはり二度はゴメンだ。

 

「金属バット以上の攻撃手段が要るな。銃が理想だが……入手方法が無い」

 

 俺がニートじゃなければ海外へ行って銃を入手してそこで……

 いや、ダメだファルフナーズを連れていく手段が無いや。

 

 エアガンを違法に強化改造したものをネットで、と言うのはどうか。

 いや、それにも結構な大金を積まねば、か。

 

 無い知恵を必死に巡らせて考える。

 

 いっそ家族に正直に話して参戦してもらうとか。

 非情な手段だが店とかの扉からダンジョンを開いて囮(おとり)として知らない人を……

 

 いやいや足が付く。

 囮なら野良犬とかでも十分かもしれない。

 

 

 

「あ、マサト様」

「ん?」

 

 

「私、攻撃魔法が使えます」

 

「……」

「……」

 

「先に言えよおおおおーッ!」

 

 

 俺の魂からの叫びは近所中に響いた。


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