俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#27「意外とノリノリな姫である」

「よし、金属バットさんを修理に出そう」

「お出かけ、楽しみですわ」

 

 ファルフナーズが腰元のアイテム・バッグをごそごそし始めた。

 服をいくつも取り出し始める。

 

 ……

 

 …

 

「あの、ファルフナーズさん?」

 

 廊下に追い出された俺は自室をノックする。

 自分の部屋に入るのにノックが必要になるなんて!

 

「はぁ~い、もう少々お待ちくださいませ~ こちらの方が良いかしら」

「もうお昼になっちゃったんですけどー 午前中丸潰れなんですけどー」

 

 鼻歌まじりの陽気な返事がかえって来る。

 

 そりゃ良い天気でお出かけ日和かもしれないけど。

 俺が見た限りどれも綺麗なドレスだ、以外の感想は言えない程度の差しか無いのだが。

 あれは何なのだろうな?

 

「困ったな。金属バットさんが修理できるかどうかも、まだ分からないのに」

 

 ネットで調べた限りでは、どうも金属バットは修理するものではないようだ。

 だが、それはあくまでも野球用としてのもの。

 俺は戦闘用だからな。

 掛け合ってみる価値はある。

 

「なーあー ファルフナーズ~。まーだー?」

「ふ、服は決まりましたわ。後、靴とメイクと……」

 

 ぐへぇー

 

『主も、もう少し身だしなみに気を使うのだ』

「何だよ、お前は俺のかーちゃんかよ」

 

 …

 

 死ぬほど急かしてようやく外へ連れ出す事に成功した。

 

「まだ顔を作っておりませんのに」

「何だよ、顔作るって。変装とかするのか?」

 

『メイクする事をそう言うのだ』

「し、知ってたし? ちょっとツッコミを入れてみたかっただけだし?」

 

 面倒な言い回しするなよなー

 日本人じゃないんだから。

 

「だいぶ出発が遅れたな。タクシーでも……」

「車は駄目ですわ!」

 

「じゃあバスで……」

「かのような恐ろしい物に乗ってはいけませんわ!」

 

 トラウマ背負ってしまったか。

 仕方無い。 歩くしかないか。

 

 

 パッパーッ!

 

 車のクラクションだ。

 

「よう、兄ちゃん。乗りな。安くしとくぜ」

 

 こないだのタクシーのおっさんだ……

 まだバグったままなのか。

 

 ファルフナーズが立ちくらみを起こした。

 

「大丈夫か。ファルフナーズ、傷は浅いぞ」

「わ、私の遺言で……タクシーなるものだけは駄目、と……」

 

 ファルフナーズの肩を支えつつ、手でタクシーのおっさんを追い払う。

 しっしっ

 

「分かった分かった。車は乗らないから。休むか? 歩けるか?」

「大丈夫ですわ。先を急ぎましょう」

 

 ファルフナーズがよろよろと歩き出すのを支えてやってるのだが……

 タクシーのおっさんが徐行速度で着いてくる。

 

「おっさん、今回はいいから。向こう行ってくれ」

「おっさんじゃあ無え。俺の事は暮井寺卓志(くれいじ たくし)と呼びな。個人タクシーだぜ」

 

 聞いてないです。 俺ですらカタカナなのに生意気な。

 パイプか葉巻でも吹かしださない内に退散だ。

 

「よし、休憩がてらにそこのファミレスに入ろう。飯もまだだし」

「お気遣いに感謝致しますわ、マサト様」

 

「兄ちゃん、またいつでも呼びな! 電話番号は――」

 

 結構でございます。

 下手に親しくなったら、ダンジョンにまで着いて来そうだ。

 

 ……いや、それはそれで良いかもな?

 

 トロルの群れをタクシーで蹴散らす姿を想像してちょっと愉快になった。

 

 いややっぱ駄目だろ。

 タクシーでモンスターを蹴散らしながら金属バットでヒャッハーとか。

 どんな反理想郷(ディストピア)だ。

 

『それはそれで』

 

 あっ、こいつ。

 俺の心を読んだな!?

 顔に出てたかな……

 

 …

 

「さあこのメニューの中から好きな物を選ぶんだ」

「ではこちらのコースを」

 

 いや、それコースじゃないから。

 そんなパスタばかり5品も6品も食べられないだろ。

 

「では……このプリン・ア・ラ・モードなるものを」

「先にご飯にしなさい」

「ひーん」

 

 子供か。

 そんなにプリンがお気に召したか。

 

「仕方無い。俺が決めてやろう。このミートソースパスタでいいな」

「マサト様のお勧めならば喜んで。では食前酒は……」

 

「オーノー! お姫様、日本じゃあお酒は20歳からって決まってるんだ」

「まあ、そうでしたの」

『ダメ、絶対』

 

 それまた別のモノ。

 って言うか金属バットさんは表でしゃべらないで欲しいのだが。

 

 しかし何も考えずに抜き身で、しかも折れ曲がってる金属バットさんを持って来てるのだが。

 誰も変な目で見てこないのは、やはり周囲の人も謎の力でバグらされてるのだろう。

 

 そもそもピンクの髪でお姫様ドレス姿のファルフナーズが注目を浴びてない。

 白い手袋に宝冠までしてるのだから、普通は注目の的だと思うのだが。

 

 やっぱ、何か認識を阻害するようなバグなんだろうなー

 

 無難にドリンクバーを2つ注文してコーラを注いでファルフナーズに渡す。

 

「黒! 真っ黒ですわ! これは毒です!」

「いやいや、普通の炭酸ジュースだから」

 

「褐色の泡まで噴き出して……ああ、王国のお父様お母様、ファルフナーズは志半ばにして――」

「いいから飲めー 飲み放題だからな」

 

「あっ、はぁーい」

『意外とノリノリな姫である』

 

 姫様がお姫様ノリってどんな悪ふざけなんだか。

 あ、吹き出した。

 むせてる、むせてる。

 

 炭酸強かったかな?

 

「けほんっ、ドレスが台無しですわ……」

「なーに、大丈夫だ。洗濯機なら、洗濯機なら何とかしてくれる」

 

 そんな高価そうなドレスを洗濯機でどうにか出来る気はしないけど。

 紙ナプキンを手渡してやりながら、もう数枚のナプキンでテーブルを拭く。

 

「……噴水姫」

「もー! マサト様はいつも私が何かしでかす度にー!」

 

 手を出して叩こうとするも、テーブル越しだから届かない。

 ははは、距離の防壁だぜ。

 

 本当はむせこんだ時に、鼻からぴょろりと鼻水が出てた事を言おうと思ったが。

 これ言ったらガチギレされそうだからな。

 

 

 鼻汁姫、ぴょろり。


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