俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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お姫様がポコポコ叩かれる話ですので
(完全無敵なので痛みも衝撃も感じてません)
苦手なお方は読み飛ばしてください

※この姫は特殊な訓練を受けています。危険ですのでこれを読んでいるお姫様は決して真似しないでください。


#25「強制スクロールなのである」

「よし、じゃあ通路の先を見てくるからファルフナーズはそこで待っててくれ」

「そんなあ! マサト様、置いてかないでくださいまし!」

 

「無理無理、下手に手を出したら俺まで危ない」

「怖いです! 置いていかれるのはとても怖いです!」

 

「いやいや、ちょっと先を見てそれからつっかえ棒を部屋から取って来るから」

「置き去りは嫌ですわ! マサト様ぁ~」

 

「すぐ、すぐ戻ってくるから、な?」

「嫌ですわ! 嫌ですわったら!」 

 

「うーむ……これは困ったな」

『主よ、やはり何とかして姫を助け出すしかないのでは?』

 

「そうは言うがな、迂闊にファルフナーズを引っ張り出そうとしたら、俺の手首がポロリだぞ」

『代わりのつっかえ棒が必要なのである』

 

「マ、マサト様が私をここに置いていくと言うのでしたら……」

 

 ファルフナーズが両手を前に突き出す。

 まずい、あれは【炎の矢】の構えだ。

 

「置いてかない! 置いてかないよ! だからその手を下ろすんだ。」

 

 怖えー。

 

 確かに死に戻りすれば2人とも部屋にワープするが、何かある度に自爆させられたらたまらん。

 命を大事に、だぜ。

 

「さて、どうしたもんか」

『下から主が我を使って持ち上げてみる、というのはどうか』

 

「なるほど。少しでも押さえつけてる力が弱まれば、ファルフナーズが動けるかもしれない」

『試す価値はあろう』

 

 重量挙げのポーズで両の手に金属バットさんの端と端を握る。

 剣に対して垂直に金属バットさんを当て……持ち上げる!

 

「ふんぬーっ!」

 

 

 分かっちゃいたが、ビクともしない。 

 

「ど……どうだー。ファルフナーズ、動けるか?」

「無理でございますわ。うんとも寸とも」

 

「ぐぎぎぎ、全力全開フルパワー!」

 

 ただし元ニートの。

 

「駄目ですわ。お助けくださいましー」

 

 

 ぐにょり

 

「げえっ! 金属バットさんが折れ曲がった!」

 

 くの字に、ブーメランのように折れてしまった!

 

『我、金属バットは中身がウレタン故……瞬間的な衝撃に対しては強いのだが』

「へえ、空洞じゃないんだー。豆知識だな」

 

 …

 

「俺のせいで金属バットさんが犠牲に……ありがとな相棒。また来世で会おう」

『勝手に殺さないで頂きたい。元より血肉無き身、折れ曲がった程度で変わり無し』

「わ、私のせいで……金属バットさん様お許しください」

 

「修理に出さないと駄目だなー」

「あのマサト様、僭越かとは思いますが、その件はともかく先に私のほうを……」

 

「おお、そうだった。もうひとつ試してみるべき事があった」

『今日の主は冴え渡りすぎなのである』

 

「どんな方法を試されるのですか? マサト様」

「押しても駄目なら引いてみな、って言葉があってな。金属バットさん、折れ曲がったついでだ。修理前にもうちょっと乱暴にさせてもらうぜ」

『存分に。使われてこその道具也』

 

「ファルフナーズ! ちょっと荒っぽくいくぜ! 怖かったら目ぇつぶってな!」

 

 大きく振りかぶって、折れ曲がった金属バットさんで鎧像の剣の先端を叩きつける!

 

 そう、上から!

 

 ガンガンガン!

 

「ひぃぃぃ! マサト様、一体何をーー!?」

「第2層でお前は壁にめり込んで、再度近くに湧き上がって来た! つまり、だ!」

 

「ひんっ! 同じ事をしようとしてるのですね!?」

「その通り、だが床にめり込むには逆に鉄像のパワーが足りてない! だから! そおい!」

 

「マサト様! 毛ほども衝撃を感じないのですが、必死なマサト様の顔が怖いですわ!」

「毛と顔の事は言うなー! お前の足がすでに床に潜り込んでいる! あと一息だ!」

 

 ガンガンガン!

 

 折れ曲がった金属バットさんで、ファルフナーズの頭に乗った剣の先っぽを打ち付けている。

 事情を知らない第三者が見たら、俺の姿は明らかに狂人だな。

 何の儀式だよ、これ。

 

 ぶおんっ!

 

 意外。

 いきなり剣が上に持ち上がった!

 

「なんだ!? どうした!?」

『分かったぞ、主よ。姫が床にめり込み始めたせいで、剣が振り下ろされきったのだ。振り下ろされきれば、次は……』

 

「なるほど、再び振り下ろすために元の構え位置に戻るってわけか」

『然り』

 

「じゃあ、このままだと……」

『うむ。再び、な』

 

 キュインッ!

 

 再び鉄像の剣が振り下ろされ、ファルフナーズを打ち付ける。

 もちろん無敵だから衝撃すら全く感じてないのだが……

 

「マ、マサト様、この状況は一体……」

 

 

 酷い光景さ。

 

 キーンッ!

 

 鉄の像が剣を振り下ろしてはファルフナーズを打ちつけ、振り下ろしてはファルフナーズを打ちつけ……

 その度にバリアの役割をしているらしい青白い光が、剣とファルフナーズの間にポワポワと浮かぶ。

 

 

「あの、そろそろ助けて頂きたいのですが……」

「そうは言うがな。ファルフナーズも膝まで床にめり込んでるし。ますます迂闊に手が出せない」

 

 キーンッ!

 

「何とかしてくださいましー!」

「セルフサービスで何とかならない?」

 

 キーンッ!

 

「足が動かせませんわー!」

「俺が手を出したらバッサリいきそうだしなー」

 

 キーンッ!

 

「お、良く見ると打ち付ける衝撃で、少しずつ床に沈んで行ってるぞ! あと少しだ! 頑張れファルナーズ!」

「釘になって槌で打たれているですわ……」

 

 キーンッ!

 

『いや、主よ』

「ん? なんだ?」

 

 キーンッ!

 

『この場合、むしろ頑張るのは鉄の像殿ではないだろうか』

「確かに。頑張れ! 鉄の像! ファルフナーズをワープさせるんだ!」

 

 キーンッ!

 

「酷すぎますわ……」

「自業自得だけどな」

 

 キーンッ!

 

『ワープと言うより強制スクロールなのである』

「あー、マリオのあれな。ついでに最終階層までのワープとかしねえかな」

 

 キーンッ!

 

「……昨日寝る前に、俺が子供の頃遊んだっていうゲームやらせてあげたじゃん?」

「マサト様、それ以上はお止めくださいまし」

 

 キーンッ!

 

「もぐら叩きゲーム。面白がってたよな?」

「どうかそれ以上は堪忍してくださいませ」

 

 キーンッ!

 

「プリンセス叩きゲーム」

「言わないでとお願いしましたのにぃ!」

 

 キーンッ!

 

「待てよ……? ファルフナーズの足が埋まって動けないと言う事は……」

『主が悪い顔になっているのである』

 

 キーンッ!

 

「床に寝そべってファルフナーズの太ももから上を――」

「きゃあああ! マサト様! 私が困っている時になんて破廉恥を!」

 

 キーンッ!

 

「腿ももまでめり込んでるから駄目だな。もうちょっと早く気付いていればなあー」

「後で山ほどガチャを回させて頂く事にしましたわ」

 

 キーンッ!

 

「おっ、吸い込まれ始めた! いってらっしゃーい」

「どこへでございますかあああーーー!」

 

 

 ででぅででぅででぅ

 

 

「おかえり」

「……ただいま、ですわ」

 

 

 ファルフナーズが俺の真後ろから離れなくなった。

 ゲームの仲間キャラみたいに。

 

 ぴったり追尾。

 

 

 俺が落とし穴に落ちても、一緒に飛び込んでくれるかな?


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