「よし、第3階層だ」
「はい! この所、大変順調ですわ」
「そうだろそうだろ。もっと褒めて」
「流石マサト様ですわ」
無邪気にはたはたと拍手までしてくれるファルフナーズだ。
気分が良いので、帰ったらプリンでも食べさせてあげよう。
確か冷蔵庫に賞味期限が3日オーバーしたヤツがあったはず。
「さあ扉を開けてくれ。今度はどんなダンジョンだ?」
第2層の扉をくぐり、階段を昇る。
ファルフナーズが第3層の入り口を開けると――
「割と普通だ。通路に明かりが点いてる」
「それにご覧下さい、マサト様。奥のほうに像が2体ありますわ」
これまでの地下通路のような感じは無くなった。
巨大な建物の内部という雰囲気だ。
100mほど歩くと像の目の前に辿り着く。
2体の全身鎧に剣を構えた、2mを越える像が向かい合わせに立っている。
「立派な鉄の鎧ですわ、剣を構えております」
「ははあ、もう分かったぞ」
「何をでしょう? 宜しければ私にもお教え頂けませんか?」
「もちろん。このパターンは2つに1つだ」
「と、申しますと……?」
「1つ、これは動く鎧のモンスター。もう1つはここを通ろうとすると剣が振り下ろされる罠だ」
『我が主の言う事が正しいであろう。我もそう考える』
「流石ですわ、マサト様。本日は冴えに冴え渡っておりますわ」
「んー、そうだろうそうだろう」
「では、像への対処法は……?」
「やっぱり、先手を打ってぶち壊すに限る」
『同感である』
「じゃあブッ叩くぜ! 派手に行くぞ、金属バットさん!」
『応である。存分に参られよ』
勢いをつけて……おりゃ!
ガアアアーン!
金属同士のぶつかり合う派手な音が通路に鳴り響く。
ぶおんっ!
「うわおっ!」
鉄の鎧像の剣が振り下ろされた!
「下がれ!」
素早く後ろに飛びのく。
「えっ!? あっ! は、はいっ!」
ファルフナーズが3呼吸は遅れてパタパタと歩いてくる。
台無しだよ。 台無し。
だが像は振り下ろした剣をまた構え直しただけで、それ以降は全く動かなくなる。
「やっぱりだ。魔法か何かで反応を見ていて、刺激があればこのように剣を振るわけだ」
『そのようである』
「はあ~、今日のマサト様は本当に人が変わったように冴えておりますわ」
いや、感心してるんだろうけどさ。
普段の俺をややディスってるよ、それ。
「よし、罠であるという結論が得られた。こちらから殴ったダメージはどんなんだ?」
『かなり手応えはあったが破壊には至ってないようだ』
殴りつけた腰元を確認すると、べっこりとへこんで歪んでいる。
だが壊れてはいない。
「かなり頑丈だな。こりゃ簡単には壊せないぞ」
『屈辱である』
「ま、全身をぶっ壊す必要は無いさ。要は稼動部の右手を叩き折ってしまえば良いだけだ」
『我が主よ……何か知恵の実のようなものでも食したのか?』
「褒めるなら素直に褒めろよなー」
『これは失敬。ともかく感服した』
さあ鎧の右手首を集中攻撃だ!
…
10回ほども全力で殴りつけると、鎧像の手首がポロリと落ちた。
手首と握られた剣が床に落ちてガランガランと派手な音を立てる。
「お、終わりましたのでございますか?」
ファルフナーズは金属の打ち合う耳障りな騒音に目と耳を塞いでいた。
どうも、この手の音が苦手なんだろうな。
「終わったぞ。これで安全に通れる。もう少し進んでみるかー」
「かしこまりましたわ」
ぶおんっ!
キュイーンッ!
「なっ!?」
「マ、マサト様~っ」
「ファルフナーズさん、何やってんの」
「いえ、その……何と申しますか」
像は向かい合わせで2体あった。
片方を壊したのだから、通路のそちら側を歩けば良いモノを。
俺の脇にいたまま真っ直ぐ歩き出したため、壊してない像の剣に殴られたのだ。
抜けちゃいけない所が抜けているお姫様だ。
「まあ、お前は無敵だから助かった。先に進むぞー」
「お、お待ちくださいマサト様ー」
ファルフナーズがその場で手をパタパタと前に振っている。
「どしたー?」
「う、動けないのでございます! 床と剣に挟まれているようでしてー」
「……」
「……」
なるほど……
剣は振り下ろされきっていない。
まだファルフナーズに振り下ろす力が加わり続けているのか!
「なあ、ファルフナーズ。俺の国、日本は地震が多い国でな」
「い、今、その事とこの状況に何の関連性がございますので……?」
「多少の地震でも家具が倒れないように、天井とタンスや棚なんかの間に程好い長さの支え棒をつがえたりするんだが……」
「お待ちください、マサト様。それ以上は……お許しください」
「……」
「……」
「今日からお前のあだ名は『つっかえ棒プリンセス』な」
「いやぁーーーん!」