俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#22「魔法の巻物、一枚ふわり」

『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』

 

「よし、レベルアップだ」

「ぐすん、マサト様のいけず。おめでとうございますわ。くすんっ」

 

 褒めるかけなすか泣くかのどれかにして。

 

『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』

 

「うおっ、2回鳴った」

『相打ちだったとは言え、第2層を一気に突破しているからであろう』

 

「素晴らしいですわ。いけずなマサト様のおバカー ずびっ」

 

 訳が分からん。

 ティッシュ箱をファルフナーズに差し出す。

 

 死に戻ったら、まずファルフナーズにティッシュ箱を差し出すのが恒例の儀式になってきた。

 

「よし、ファルフナーズ。ステータス画面を確認よろしく」

「はひ、了解しましたわ。くすん」

 

 ダメージ引き摺ってるなー

 今回は無理もないか。

 スライム頭からもろ被りだからなー

 

「頑張れファルフナーズ!」

 

 意味も無く応援してみる。

 

「ファイト、オー! ですわ」

 

 涙を振り切り笑顔を作ってみせた。

 ……案外ノリが良いな。

 

 この分なら大丈夫だ。

 まあ、ただステータス画面を確認するだけの事なんだが。

 

 ファルフナーズがステータス画面を読み上げ始める。

 俺自身が見ることができればいいんだけどなー

 

「マサト・オコノギ 20歳 慎重161cm 体重79kg」

「また痩せた……嬉しいような、先行き不安なような」

『まだまだ適正体重には程遠いであろう』

「うっせうっせ」

 

 

「特性【臨時戦士】のらりくらりで日銭稼ぎとは良いご身分ですね」

「うっせー!」

「ひんっ!」

「あいや、ファルフナーズに言ったんじゃない」

 

「レベル5、ダンジョン放浪者」

「放浪者って……あれな人みたいで嫌だなあ」

 

「命中点6+10(【知的な】パワフル金属バット):オリンピック級」

「はっはー! ついにオリンピック級か! メジャーリーグ行き確定だな!」

『少年野球用の我がメジャーの基準を満たしてるとは思えぬが』

 

「打撃点6+10(【知的な】パワフル金属バット):オリンピック級)」

「いい……ような、金属バットさんの成長率の高さに嫉妬するような……」

『我とて主以外に使われれば、ただの子供用バットに過ぎぬ』

「ま、そーゆー事にしておこう」

 

「防御点6+6(素敵なプロテクター)+3(素敵なマスクとレガース):名人級」

「こっちも地味に上がってきてるな。よしよし」

 

「体力点12:超頑丈なサンドバッグ並み」

「何が何でも意地でもサンドバッグで例えたいのか!?」

 

「まあ、マサト様、また新たな項目が追加されていますわ」

「ほほー? 新しい能力値か。どんなの?」

 

「幸運値:99(ハッピー人生)」

「おー! ようやく俺にも取り得が出来たのか! しかも超幸運!」

「マサト様、おめでとうございますですわ」

 

「よし、ちょっくら宝くじ買ってくるか」

「宝くじとは何でございましょう?」

 

「あー……説明が意外と面倒になるな。まあガチャでお金を当てる感じだ」

「納得致しました。そして戻ったらガチャを回させて頂く約束を思い出しましたわ」

 

 しまったヤブヘビ!

 あー俺の馬鹿。

 くっそくっそ!

 

「ステータス画面は以上でございますわ」

「分かった。ありがとう。良い感じになってきたなー、順調順調」

「この調子で進んでいきたいですわね」

 

 ボスルームは2回とも引き分け突破だけどな。

 第3階層でどんなダンジョンと敵になるやら。

 

 …

 

 ん?

 ファルフナーズが虚空に向かって怒っている。

 何やら目の前をパンパンと叩いてるようだ。

 

「ファルフナーズ、どうしたん?」

「あっ、いえっ、何でもありませんわー! オホホー」

 

 またウソをついてる言葉遣いだ。

 問い詰めよう。

 

「ファルフナーズ、メイドが主に隠し事はいかんなあ」

「メ、メイドにだって秘密の1つくらいありますわ」

 

「分かってるぞ? ステータス画面に何か変な事が書いてあるんだろう?」

「存じませんデスワー」

 

「さあ読み上げるんだ。ゆっくり、はっきりとした発音で」

「……マサト様の意地悪ぅ」

 

 口を尖らせて文句を言われてしまった。

 だがその程度では俺のアルカイック・スマイルは突破できないぜ。

 

 作り笑顔のまま沈黙。

 口だけ笑って目は穏やかに。

 穏やかな目でも瞳だけは笑っていない。

 

「ひーん、わかりましたわ……実は」

「うんうん、実は?」

 

 よし楽勝。

 

「私にも1つ、ステータス項目が」

「ほほー、どんなの? いくつ?」

 

「こ、幸運値で……その、数値が……0です……はい」

「ソウデスカ」

 

 笑うな。

 堪えろ。

 ここで笑ったら絶対スネる。

 

 

 うん、無理。

 

 

「わーははは! 幸運がゼロ! 不幸なプリンセス! 薄幸じゃなくてステータス的に不幸! ひー!」

「いやあああ! マサト様のおバカバカバカバカ! 不幸じゃありませんわ! 不幸じゃありませんわったら!」

 

 ファルフナーズが両手で顔を塞ぎながら肩ごと首をふるふると左右に振り回して恥辱に耐える。

 

「もう頭に来ましたわ! 遠慮なく回させて頂きますわ!」

「ひっひっふぅ、あー腹がよじれそう。回すって何を……」

 

 ファルフナーズが虚空に向かって指を――

 

「わーっ! 待って! 待ってくださいませファルフナーズ様! 悪かった! 謝る! 許して!」

「今更謝っても遅いのですわ!」

 

 ポチッ

 

 ビリリリッ!

 後頭部に引きつるような刺激が!

 

「うわあああ! 何て事をおおお!」

 

 ドゥルルル、デデドン!

 

『コモン』

 

 まずい! コモンはドアが降ってくる可能性!

 

 やっぱりだ!

 どこでも扉が猛スピードで降って来た。

 

 ガッ!

 

 ギリギリで回避した。

 毛根達だけじゃなく、俺自身が殺されそうだ。

 

「ふーっ、危ねー。ファルフナーズ、許可無しに回すのは酷すぎ――」

 

 ポチッ

 

「なあーーーッ!?」

 

 バリバリッ!

 

「い、今、後頭部から駄目な感じの痛みが! ちょっとヤバいぞ、シャレにならんて!」

 

 ドゥルルル、デデドン!

 

『コモン』

 

 ポトッ

 

 魔法の回復薬。

 

 慌ててキャッチ成功。

 落としたら割れそうだしな。

 

 いや、そんな事よりだ。

 

「ファルフナーズ、2回も回すなよ! 酷すぎるにも程があるぞ!」

「レベルアップのボーナスで2回とも半額でしたわ」

 

 言うだけ言って、そっぽを向いてぷくっと頬を膨らませる。

 ちーくしょー、可愛いからって何でも許されると思うなよ。

 

「第一、トラップに掛かっての事だから不可抗力だろー?」

「私を置き去りにして逃げようとしましたわ」

 

「ちっ、違うぞ! 逃げようとしたんじゃなくてスライムを利用して――」

 

 ポチッ

 

「あああーーッ!!」

 

 後頭部に高圧電流を浴びたような痛み!

 高圧電流浴びたら痛みどころじゃないけど!

 

 ドゥルルル、デデドン!

 

『アンコモン』

 

 魔法の巻物、一枚ふわり。

 

 

「俺の……毛……根……」

 

 ガクリ

 

 ショックの余り気を失った。

 

 

 ……

 

 …

 

 

 ポンポン

 

 ああ……優しく起こしてくれる。 

 そうだ、ファルフナーズ、ようやく機嫌を直してくれたのか。

 

 ん……? 何その棒?

 

「マサト様、いい加減起きて頂けませんと、箒がけの邪魔ですわ」

 

 

 酷い。


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