俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#21「ゆるふわ人生設計」

「よし、探索続行だ」

「やる気に満ち満ちておられますわ」

 

「そうだろ、そうだろ。職業戦士である俺に任せたまえ」

『あくまで姫を送り届けるまでの、言わば臨時職業だがな』

 

「……」

「……あの、マサト様?」

 

「そうだな。無理は良くない。今日はこの辺にしておくか」

「はい!? マサト様、突然どうされたのですか?」

 

『我には分かる。主は今、皮算用をしたのだ。程々に日銭を稼げるなら牛歩で探索を進めよう、と』

「マ、マサト様ッ!」

 

「な、何の事かな? この金属片が言う事を真に受けるのかね、ファルフナーズ君」

 

 

 ちっ、金属バットさんめ。

 俺のぬるま湯&バラ色人生設計をばらしやがって。

 

 ああ、ファルフナーズが疑惑のジト目で睨にらんでいる。

 

「や、やっぱりもうちょっと探索を進めようかなー、なんて……」

「よろしくお願い致しますわ」

 

 

 あー、何か足取りが重い。

 やる気出ないなー

 

 今日はもう十分働いたんじゃねえかな。

 

『姫、これは駄目だな。主の士気が完全に無くなっている』

「困りましたわ……」

 

 聞こえてるぞ。

 

 だが、そうは言うがな。

 ニートである俺が初めてありついた、いわば商売だ。

 

 この時代に短時間で1万円稼げる方法とあらば、手放したくなくなるのは当然の道理。

 ファルフナーズには悪いが、じっくりぬるま湯ペースで進めさせてもらうぜ。

 

 

「あ、そうですわマサト様」

 

 ファルフナーズがポンと手を打つ。

 

「んー? なーにー?」

「私がトリピュロン王国に帰還した際には、マサト様に報奨金が支払われます」

 

「ほほー、つまり退職金か」

「私の国では並みの家族なら、一生遊んで暮らせるはずの額ですが」

 

「マジか。金貨でいくらだ」

「金貨でなら10万枚程かと……」

 

 ほほう。

 銀貨が10枚ちょっとを換金して1万円だったから……

 銅貨との比率を考えれば、金貨は1枚1万円かそれ以上。

 両替機の換金で8掛けくらいになるとしても――

 

「さあ! 1秒でも早くクリアしよう! 時間は有限だ!」

『浅ましい』 

「ま、まあそれでやる気を出して頂けるなら……」

 

 ファルフナーズは苦笑している。

 

 浅ましかろうが何だろうが良いのだ。

 庶民にゃ庶民の暮らしと経済があるのだ。

 

 快適なニート人生を歩めるのであれば、早くクリアすればするほど良い!

 

「目指せ超アーリー・リタイア!」

『リタイアも何も、始めずに終わろうと言う計画の気もするのである』

 

「うっせー、俺の人生設計に口出しするなんて、お前は俺の奥さんか」

『似たようなモノである。バットは主の相棒であるからして』

 

「即離婚だ、んなモン」

『酷い』

 

 さあ行こう、輝かしき人生のビクトリーロードを!

 

 …

 

「む、あれは……また扉か」

「結構な距離を歩きましたから、第2階層の終端でしょうか」

 

「かも知れない。直線1kmは歩いたからな」

 

 山ほどのトラップに引っかかりながら、だが。

 言うとファルフナーズがしゅんとするから黙っていよう。

 

「本来なら死にまくりのデストラップ・ロードをファルフナーズが一手に引き受けてくれたからな。物は考えようで幸運だったわけか」

「複雑な心境でございますわ……」

 

 ただ、ファルフナーズは俺の後ろを歩いて全てのトラップを発動させていたが。

 黙っておいてあげよう。

 

 

「よし、扉を開けてくれ、ファルフナーズ」

「かしこまり――」

 

 カチッ

 

「げえっ! ここでトラップかよ!」

「ひぃん! 申し訳ありません!」

 

 ヴーン! ヴーーン!

 

「警報アラームか!」

 

 まずいな。敵の種類を確かめてる暇も無い!

 

「ファルフナーズ、ここは一度下がって――」

 

 

 ――俺は見た。

 

 ファルナーズに降り注ぐ緑がかったゲル状の物体を。

 

 

 ドプンッ

 

 

 ファルフナーズはその液体を頭から被り、首から下まですっぽり覆われた!

 

「なーっ!?」

「ひッ――!?」

『主! これはかの有名なスライムだ!』

 

「今すぐ剥がして――」

『待て主、触れてはいかん。これは触れた物を全て溶かし同化する強酸の生き物だ』

 

 くっ!

 

 ファルフナーズだから何とも無いが、俺が触れたら溶かされるのか!

 

『ゼラチナス・キューブと同様。我のような魔法武器で切り刻むか、後は焼くしかない』

「くっそ!」

 

 しかもファルフナーズは驚愕と恐怖で固まって引きつけを起こしている。

 

 ドゴンッ!

 

「ッ!?」

 

 破壊音に振り返ると、木の扉が縦に真っ二つに壊された。

 

『トロルだ。3匹いる』

 

 壊された扉からトロルが3匹見える。

 その隙間から反対側に同じような扉も。

 

「ちいっ! 敵とトラップの合わせ技が第2層のボス試練ってわけか!」

『まあ、そうなるな』

 

 やるしかない。

 ファルフナーズがタイミングよく正気に戻って【魔法の盾】をかけ直してくれれば良いが。

 

 だがここは冷静な俺、もう初心者じゃないんだぜ。

 ファルフナーズとスライムの脇をすり抜け、後ろへと下がる。

 

「これが正解だ! スライムを盾にしてしまえばトロルには狭すぎて3匹同時には襲ってこれない!」

『良く見たな、主。正直感服せざるを得ない』

 

 目論見どおり、トロルはスライムの危険さを知ってるようで、それ以上進むのに躊躇始めた。

 

 ダンジョンのモンスターにファルフナーズは映らない。

 トロルの目には変な形でスライムが直立してるように映っているはずだ。

 

「さあ、一匹ずつ通路の隅っこを通って来な! 順番に殴り倒してやるぜ!」

 

 ここで最大の誤算。

 あっという間にファルフナーズが正気に戻った。

 

「――ッ、ひいぃ! マ、マサト様ぁ!」

「耐えろファルフナーズ! 今トロルを倒してやるから!」

 

「ヌルヌルが! トロルがーッ!」

「落ち着けってば!」

 

「い、やあああああ! 【炎の矢】ああああ!」

「ああッ! コイツ! ドサクサに紛れて【炎の矢】て言いやがった!」

 

 一瞬だけ赤く、そして白い光に包まれる。

 

 だが今回だけは大丈夫だ!

 俺はファルナーズの後ろにいる。

 

 

 そのままぶちかまし、て……!?

 

 

『主、駄目だなこれは』

 

 

 ゴオオン!

 

 

 俺は振り向いて飛びのいたが……

 

 むしろ爆心地から離れた分、全身を焼かれる苦しみをまざまざと味わった。

 

 

「アーーッ!」

 

 ……

 

 …

 

 

「ううっ……ひんっ……ぐしゅっ、マサト様のおバカーっ!」

 

「――バックファイヤと爆風があんなに広かったとは」

 

『迂闊うかつであった。あの威力を我が先に教えておくべきだった』

 

 

 7度目の復活をベッドの上で迎えた。

 あの魔法は絶対【炎の矢】なんてモノじゃない。

 もっとこう、地獄の爆弾とかインドラの矢とか、そーゆー禁断の業的な威力だ。

 

「確かに言っておいて欲しかったよ。矢そのものよりも爆風のほうが凄かった、だなんて……」

 

 

 2層目ボスルーム、またも引き分けでクリア。


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