俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#20「空も飛べるはず」

「よし、ちょっとさー」

「はい?」

 

「ファルフナーズが1人で先まで歩いて行って、全部のトラップ引っ掛けて来いよー」

「そ、そんな恐ろしい事、無理ですわ!」

 

「この期に及んでまだ怖いとか言うか! 無敵の天丼プリンセスめ」

「怖いものは怖いのです! マサト様こそ不死身のダンジョン・オープナーでございますわ!」

 

「いや、俺がトラップで死んでダンジョン入り直したら、罠も全部復活するだろう」

「くうっ……確かにその通りですわ」

 

 

 まあ温室育ちのお姫様に、あまり無理強いもできないかー

 

 よし、ここはひとつ。

 

 中腰になってファルフナーズに背中を向ける。

 

「さあ、おぶされファルフナーズ」

「なにゆえですの!?」

 

「お前は歩くトラップ発動機だ。ならば俺が背負ってしまえば良い」

 

 合法スキンシップ。

 ばっちこーい!

 

 

「そ、そんな……私、流石に恥ずかしいですわ」

「駄目かぁ~ ま、いいや。重くて疲れそうだし」

 

「重くありませんわ」

「いやいや、いくら痩せ型小柄な女の子と言ってもね?」

 

「重くありませんわ!」

「あ、うん。軽いね。軽い軽い。」

 

「重くありませんわったら!」

「はい。軽いです。背負ったら空も飛べそう」

 

 異世界でも女性に体重の話は厳禁。

 ひとつ賢くなった。

 

 …

 

「ホームセンターで台車かカートを買ってくるべきか」

「台車? カート? ……それはどんな物ですか?」

 

「荷物乗せる手押し車だ。まあ乳母車代わりだな」

「ますます以もって恥ずかしいですわ!」

 

「ははは、どっちがメイドか分からんな」

「第一、荷車で運ばれても罠を回避できませんわ」

 

「それもそうだー 単に絵面が面白いと思っただけだしな」

 

 頬をぷくっと膨らませてポコポコ叩かれた。

 王様ー、お宅の娘さん、最近暴力的ですよー

 

 その内ダンジョン慣れして野生化するに違いない。

 

 …

 

 カチッ

 

「また踏んだな」

「本当に申し訳ございません……」

 

 これはアレだな。

 俺のダンジョン・オープナーの能力みたいに、呪いに近い何かかも。

 

 あまり気負わせないようにしてやらないと、またトラウマになってしまうかもなー

 

 

「あんま気にすんな。それより罠はどこだ」

「向こうから何か音が聞こえますわ」

 

 何やら地鳴りのような低い音がだんだん大きくなる。

 

 ヴーン、ヴーーン

 

 虫の羽ばたきに似たこれは……

 

「アラームですわ! すぐにモンスターが現れます!」

『主、我を構えて敵に備えようぞ』

 

「よし、ファルフナーズ【魔法の盾】を頼む! 次にいつでも【炎の矢】を出せるようにな!」

「かしこまりましたわ!」

 

 ドスドスッ

 

 鈍い足音が聞こえてきた。

 

「あの姿は確か――」

 

 【魔法の盾】を発動させたファルフナーズが叫ぶ。

 

「トロルですわ! レベルは8! 複数いますわ!」

「複数か! ここは後退からの撤退だ。追いつかれるようなら【炎の矢】を頼む!」

 

『否、我が主よ。敵はどうやら2匹、ここは応戦の一手だ』

「無理だろ! 2匹は勝てねえ」

 

『我を、主の力を信じよ』

「お前の事はともかく……」

 

『む?』

「自分の力が信じられたらニートなんかやってねえ!」

 

『確かに。これは愚問』

「金属バットさま! そこで丸め込まれないで下さいまし!」

 

 だが……これは迎撃しかないか。

 ファルフナーズの足が致命的に遅い。

 

 トロルを警戒して後ろ向きに走ってる俺より遅い。

 両手を肩まで上げて走っている。

 絵に描いたようなお譲様走りだ。

 

 しかも戻るにしても踏み逃した罠が残っている可能性もある。

 

 立ち止まって金属バットさんを構える。

 

「よし、このあたりで迎え撃つぞ!」

『ようやく我の出番か。武者震いを禁じえぬ』

「はひ……はい……はあっはあ、分かりました……わ」

 

 

 息も絶え絶えだな。

 

 もうトロルとの距離は20mも離れていない。

 

「ファルフナーズ! 【魔法の盾】が切れたら再度魔法をかけ直してくれ!」

「はひ……かしこまり……ましたわ……でも、少し……息を整える時間を……」

 

 トロルが2匹並んで俺に殴りかかってきた。

 

「ファルフナーズ! 早く!」

「はひ……ただいま……」

 

 バカン! ドゴッ!

 

「ファルフナーズさーん! こっちが大変ですよー!」

「はふはふ」

 

 ドカドカッ!

 

「ファルフナぁーズ様ーーッ!」

「ああ、汗だくですわ」

 

 ドスッ! ガスッ!

 

 

 ブチイッ!

 

 こいつらムカつく!

 マジギレだ!

 

「ああ! もう! うるせえトロルだ! 好き放題パカスカパカスカ殴りやがって!」

 

 怒りの秘技、金的スマッシュ!

 

 ドムッ! ぐにゃあ!

 一匹が内股になりうずくまりやがった。

 ざまあ!

 

「こっちは取り込み中なんだ! てめーらもモンスターなら少しはターン待ちくらいしろ!」

 

 床に突っ伏して後頭部丸出しのトロルにとどめの1撃。

 

 バカーン!

 

 もう一匹が必死に丸太を振り回してくる。

 懲りない奴だ。

 

「痛て痛てっ! ファルフナーズ! まだかよ!」

「はっ、はい。ただ今」

 

 ああもう!

 邪魔臭い!

 

「狭い通路で暑苦しいんだよッ!」

 

 邪道小手砕き!

 バキン!

 

 トロルの右手首を粉砕。

 丸太を手放し膝を付いて呻き声を上げ始めた。

 

 ざまあみやがれ。

 さあ、これで安心して……

 

「いい加減にファルフ――どうした、真顔で?」

「いえ、その……勝ちましてございますわ」

 

「……」

「……」

 

 トロルは2匹ともうずくまって唸るだけで反撃能力を失っている。

 

「……お、ホントだ。勝てたな」

「素晴らしいですわ! おめでとうございます、マサト様!」

『だから言ったであろう。我と己の力を信じよ、と』

 

 

「はは、何だかんだで少しは強くなってたんだなあ」

『姫の魔法と我の尽力あっての賜物である』

 

「うっせー、お前の力は俺のもの、俺の力は俺のもの」

『とんだガキ大将である』

 

 2匹目のトロルにトドメを刺して勝利は確定した。

 トロルは光となって消える。

 棍棒代わりの丸太2本とボロ服、そして銀貨が10枚ちょっと残った。

 

「銀貨きた! お楽しみの換金タイムだ!」

「ただ今、アイテムバッグから両替機を出しますわ」

 

 全て換金すると、10920円となった。

 

「ついに万券ゲットだぜ!」

「おめでとうございますわ」

 

 ファルフナーズもパタパタと拍手して喜んでくれる。

 ああ、感動だ。

 この俺が戦いに勝って、お金を――

 

「待てよ? つまりこれは、俺が稼いだという事に」

『我らの助力もあっての事だがな』

 

「言わばこれは労働! ジョブ! 仕事! 職業!」

「そうとも言えますわね」

 

「つまり俺はもう無職じゃない! 金を稼げる男になったんだ!」

『職業戦士、という事であるな』

 

 感無量だ。

 額に汗水、を通り越して何度も死にまくりながらだが。

 ついにここまで辿り着いたのだ。

 

「いやー、金が稼げるとなれば、案外ダンジョン・オープナーの能力も悪くないな!」

『物は考えよう、主にしては良い発想転換だ』

「うっせー、このおしゃべりバットめ。ははは」

 

 

「むしろ、今まで無職だったのでございますね……薄々勘付いておりましたが」

 

 

 ファルフナーズがニートの意味を理解した。


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