俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#18「総額おいくらハウマッチ」

「よし、お金を鑑定だ」

「はいっ」

 

 ファルフナーズに紙幣と貨幣を手渡す。

 小首をかしげるお姫様。

 ツヤのあるピンク髪がさらりと肩から流れ落ちる。

 

「マサト様、私お金の真贋(しんがん)は分かりかねますわ」

「なんだ、無理かー。メイドなら出来ると思ったのに」

 

「マサト様の世界のメイドは優秀ですのね……」

「ははは、そんなまさか」

 

 ポカーンとした表情になるファルフナーズだった。

 

「あら、マサト様、やはりこのお金は本物だそうですわ」

「んん? どこで判別できた?」

 

「両替機のアイテム説明の文章に、転移魔法で物質同士を入れ替えているので金銭が不当に生産される事は無い、と」

「うわ、難しっ。分かりやすく頼む」

 

「はい、今の換金ですと、どこかで誰かのお金がマサト様の銅貨と入れ替わったので、この紙のお金とコインは両替機が魔法で作り出した訳では無いのですわ」

「分かったような、分からないような……まあ本物なら良いや」

 

『本物だ。その千円札の番号は唯一のものだ』

 

 くっ、バットに紙幣の真贋を教わる日が来るとは!

 

「ま、まあ偽造品でなければ、細かい事は良いよ」

 

 

 ピーン!

 

 

 突然気が付いた。

 

「ファルフナーズ、さっき<何でも両替機>って言ったよな?」

「はい、仰せの通り正式名称が<何でも両替機>ですわ」

 

「オーケー、じゃあコインや紙幣じゃなくても換金してくれるかも知れない」

「まあ! そんな所にお気づきになるとは、流石マサト様ですわ」

 

『意地汚さの賜物だな』

 

「ほほう、いいだろう。ならば、まずはお前から換金してやるぜ!」

『主、落ち着け。死ぬほど落ち着け』

 

 落ち着いてるさ。

 キンキンに頭が冴え渡っている。

 

「換金のボタンさえ押さなければ交換される事は無かった。

 つまり、物の価値を計るだけならタダってわけだ!」

 

 金属バットさんを両替機の上に乗せる。

 

 

 出た出た。

 

『【知的な】素晴らしい金属バット を換金します。 1)金貨10000枚 2)1億円』

 

「おっしゃあ! 大金持ち確定!」

「マサト様! 落ち着いて! 落ち着いてくださいまし!」

 

『なんたる屈辱』

 

「くくく、分かっているな、金属バットさん。俺がこのディスプレイに触れればお前は1億円だ!」

 

 今、金属バットさんの命は俺の指先にかかっているのだ!

 

『主、話し合おう。我々には会話が必要だ』

「冗談だ。売らない売らない。お前がどれだけ希少か知りたかっただけだ」

 

 ははは、誰に主導権があるか思い知らせたぜ。

 我ながら悪い性格をしている。

 

「じゃあ罪滅ぼしに、俺自身を……お値段公開!」

 

 両替機の上の漏斗に俺の手を載せる。

 どうせ銅貨3枚とか言ってくるんだろうな、ここは。

 

 お約束お約束。

 そこでクスリとしてもらってめでたしめでたし。

 

 

『マサト・オコノギ を換金します。 1)金貨70枚 2)691074円』

「――よし、この両替機壊そう」

 

「マサト様!? どうか冷静に」

「落ち着いてるぜ。たかが両替機のクセにおちょくりやがって」

 

「それほど悪いお値段でも無いように見えますが……」

「値段の問題じゃない。これは語呂合わせでロクデナシと言ってるんだよ」

 

「ま、まあ……」

『主にしては勘が良い』

 

 ファルフナーズは下を向いて震えている。

 笑いを堪えているのがバレバレだ。

 

「くっ、ファルフナーズ、笑っていられるのも今のうちだ。次はお前の番だ!」

「えっ!? いっ、いやあああ!」

 

 ファルフナーズのか細い手を握って両替機の上にぺたっ!

 

「み、見ないでええええ!」

「わはは! さあお姫様の時価総額おいくらハウマッチ!」

 

 

『お金で買えない価値がある。プライスレス。でも、換金できるものはこの両替機で』

 

 ガンッ!

 

 蹴っ飛ばしてやる、蹴っ飛ばしてやる。

 

「汚された思いですわ……マサト様、あんまり過ぎます」

「悪い悪い。どうせお姫様だから国1個分の値段は出してくれるはずだと思って」

 

 許せませんわ、と連呼しながらファルフナーズがポコポコ叩いてくる。

 もうちょっと肩側を頼むぜ。

 

「さて、じゃあ通路にあったボロボロのゴブリン剣と服も試してみるか」

 

 歩きながらも俺の背中をポコポコ叩き続けるファルフナーズが可愛い。

 

 …

 

 意外、あんなボロボロだというのに全部で銅貨10枚になった。

 

『銅貨10FFZ を換金します 1)銀貨1枚 2)700円』

 

「銅貨の質によって目減りするのな。換金率がバラつく」

「はい。なかには混ぜ物をして水増し偽装する犯罪組織もありますので」

 

「ふーん……あれ? そう言えば、このFFZって何だ?」

「さ、さあ……私には分かりかねますわー オホホホー」

 

 ん?

 ファルフナーズの言動がおかしいぞ?

 

 これはウソをついてる声だぜぇ~

 

 

「ファルフナーズ、隠し事をするとは許せないな」

「何のことだか、さっぱりなのですわー」

 

 両手の指先同士をちょこちょこと合わせながら目を背ける。

 流石、純粋無垢なお姫様。

 ウソがつけない。

 

「ファルフナーズ、俺の目を見て、正直に答えよう?」

「――……~~くぅ。実は……」

「実は?」

 

 

「私が生まれた時に、貨幣鋳造(ちゅうぞう)技術が進歩しまして」

「ふむふむ」

 

「大層お喜びくださったお父様が、記念にと……」

「ほうほう?」

 

 いや、もう分かったけどね。

 笑いを堪えねば。

 

「新しい王国の貨幣単位を私の名前から、ふぁ、ふぁ……ファルフナーゼニーと――」

「ぶふーーッ!」

 

 我慢できねえ!

 お金の単位が自分の名前とは!!

 

「がはは! 自分の名前がお金に!! 街中で連呼されまくり!!」

「ひどいですわ! ひどいですわー!」

 

 ファルフナーズが顔を真っ赤にしながらぺちぺちと叩いてくる。

 びゃーびゃーと涙目で。

 

「マサト様のおバカバカ! 私がとても恥ずかしい思いをしてますのに! してますのに!」

「わ、悪かった。っく、笑わないからそれ以上何も言うな」

 

 必死に笑いを堪えて平静を保とうとするが――

 

「親戚の叔父様叔母様が訪れる度に、ご利益ご利益と頭を撫でられる私の気持ちがー!」

「ぶふーーッ!」

 

 俺を笑い死にさせたいのか。

 これ以上は勘弁してくれー

 

 

 お姫様、愛されすぎ。


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