俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#17「ほめて無いんだけどね?」

「よし、ダンジョンだ」

「……」

 

「悪かった。もう言わない。許せファルフナーズ」

「……マサト様のバカぁ」

 

 可愛いスネ方だ。

 恥ずかしい話をお互いに明かしあったのだ。

 

 俺のほうが根掘り葉掘り聞きだした気もするが。

 思い出として都合よく美化してしまうぜ。

 

『ダンジョンも良いが、我が主よ、我に名付けをだな……』

「忘れてた。でもピンと来る名前が無いから、もう少し考えさせてくれ」

 

『やれやれだ』

 

 どんな名前にしてやろうか。

 バットン将軍、撲殺バット斎、バットばつ丸……

 名前で性格か何か変わるのかね。

 

「マサト様、ダンジョンに集中してくださいませ」

 

 おっと、そうだそうだ。

 出会い頭に死にたくはないぜ。

 

「じゃあいつものようにリセマラ作戦だ」

「かしこまりましたわ」

 

 どこでも扉をガチャ

 

 あれ?

 

「モンスターが居ない」

「まあ本当ですわ」

 

 慎重に入場して辺りを見回す。

 やはり何も居ない。

 

 ちょっといつものカビ臭い感じとは違う匂いだが。

 

 

「あれ? この剣と服は先日のコボルドの遺品か?」

「確かに見覚えが……」

 

 先に進むと、やはり見覚えのあるアーチ状の扉に当たった。

 ただしボロボロに焼け焦げて崩落している。

 部屋の中が丸見えだ。

 

「完全に同じ所だな。コゲ臭いのが何よりの証拠」

『激しい戦いであったな』

 

「いや、お前何もしてねーから」

『酷い』

 

「木の扉がこれだけ焼け崩れるなんて、ファルフナーズの【炎の矢】、威力強すぎ」

「それほどでもございませんわ」

 

「いや、褒めて無いんだけどね?」

 

 また頬をぷくっと膨らませてそっぽを向いた。

 何だこの可愛い生き物。

 その内、押し倒してしまいそうだ。

 

 部屋に入ると消し炭状態の遺体が複数あった。

 

 ちょっ、ま……

 じゃあこのうち1つは俺の……!?

 

 考えないようにしよう。

 部屋の向こう側の壁にも同じような扉がある。

 そちらは消し炭になっていないのが不思議だ。

 

 扉に近づいて調べてみよう。

 

 ジャリッ

 

「あっ! ファルフナーズお前、俺を踏んだな!」

「えっ、ええっ!? どういう事でございますか?」

 

 成仏してくれ、前の俺の体。

 だから少しずつ痩せていくんだな……くわばらくわばら

 

「死ねば皆仏、という言葉が俺の国にあるが……」

「……はい!?」

 

「6回死んでる俺は、既に神なのかもしれない」

『我が主よ、発想が飛躍するにも程があると思うのだが』

 

「今日のマサト様は一段と訳が分かりませんわ」

「って、普段から訳分からんと思ってるって事だな」

 

 睨むようにファルフナーズの方へ振り向く。

 ついっと目を逸してすっとぼけられた。

 

 にゃろう、帰ったら見てろよ。

 

 小声で悪態をつきながら扉に触れる。

 

「きゃあっ!」

「どうしたファルフナーズッ!?」

 

「いえ、突然目の前に<第一階層クリア!>という文字が」

「ファルフナーズにだけ見えるステータス画面か」

 

「いきなりでしたので驚きましたわ……心の臓が止まってしまうかと」

「心臓マッサージなら任せてくれ」

 

 わきわきと差し出した手をペチンと叩かれた。

 

「もう! マサト様ったら! それより第一階層突破おめでとうございます」

「おお、そうだった。もっと褒めてくれ!」

 

『これも我の力あっての事』

「お前さっきと言う事逆じゃねーか」

 

 だが、なるほど。

 扉に触れたことで第一階層とやらを突破したと認識されたのか。

 前回は相打ちだったからな。

 

「いやー、ようやく達成感を得られたな。というか、ここ階層制だったのか」

「あっ! マサト様、階層突破ボーナスがあるそうですわ」

 

「ほほー、何をくれるんだろうな。武器か? 次の姫か?」

「まあ、私が居りますのに、次の姫なんて来るはずがありませんわ!」

 

「いやいや、どんどんメンバーが増えて戦力増強、みたいな展開とか素敵じゃん?」

『我が増えたではないか』

 

 床に転がす、カランコローン

 

『酷すぎる』

「もっとこう! 美少女に囲まれてキャッキャウフフ的な、さー!」

 

「フケツですわ、マサト様……」

 

 呆れ顔のジト目でにらまれてしまった。

 階層突破に浮かれて、己を解き放ち過ぎてしまったかー

 

「そ、それより突破ボーナスって何なんだ?」

「そうでしたわ。では、えいっ」

 

 ファルフナーズが虚空に向かって人差し指を突き出す。

 俺には見えないステータス画面のボタンをタッチしたのだ。

 

 カラーン、コローン

 

 鐘の音と共に、子供天使が2人出てくる。

 2人で四角いタワー型PC並みの大きさの箱を投下――

 

 いや、投げつけてきた!

 

 ゴッ!

 

 片足で飛びのいて、シェーのようなポーズで何とか回避した。

 

「殺す気か! お前ら本当は悪魔だな」

 

 転がしておいた金属バットさんを拾ってジャンプ攻撃。

 くそっ、逃げられた。

 

「次にあいつ等が出てきたら速攻で一発殴りつけよう……」

「マサト様、子供相手ですから手加減を」

 

「できるかー! いくら俺が復活できるからってあんまりだ」

『殺伐とした天使である』

 

 まあ本物の天使とは限らない。

 ただの映像的エフェクトである可能性もあるけどな。

 

「んで、これは何の箱だろう? 落とされて壊れてないかな」

「ただ今、説明文を読み上げますわ」

 

「頼んだー」

「ええと……何でも両替機、正式名称エクストラ・エクスチェンジャー・エックス。通称ゼクセクス、だそうです」

 

「無駄に洗練された無駄なネーミング・センスだな。両替機で良い、両替機で」

「かしこまりましたわ。両替機と呼ぶ事にしますわ」

 

「両替機と言うからには……よし、この銅貨を換金してみよう。何になるかな?」

「銀貨になると思いますわ」

 

 前にコボルドを倒したドロップ品の銅貨を取り出す。

 40枚ほどあった。

 重くて邪魔臭かったんだよなー

 

 四角い箱型の両替機は上部に漏斗(ろうと)のような部分がある。

 胴体部にはディスプレイ画面のような部分もあり「ヘイラッシェイ」って書いてある。

 

 何語だ。

 

 下はスロットマシーンの出口みたいになっている。

 ここから換金されたコインが出てくるんだろう。

 

「銅貨投入! わはは、貴重な銀貨になれい!」

 

 チャリチャリと音を立てながら銅貨は両替機に飲み込まれた。

 

 

 おや?

 ディスプレイ画面に表示が。

 

『銅貨46FFZを換金します。1)銀貨4枚 2)3320円』

 

 なっ!!

 

「すげえ! この両替機、円にも換金してくれるのか!」

「ただの両替機ではなく、魔法の両替機なのですね」

 

「これはマジでボーナスアイテムだなー よし、もちろん円だ!」

 

 ディスプレイの円の所に触れる。

 

『毎度有難うございました』

 

 下から千円札4枚と貨幣で320円が!

 

「今日から俺は大金持ちになるかもしれない!」

「おめでとうございます、マサト様」

『我が主に相応しい財源を得たな』

 

 だが……

 

 いや、でも。

 

 でも、だよ?

 

どうかされましたか? マサト様」

「これってさー……」

 

 

 通貨偽造の犯罪じゃね?




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