俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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#12「可愛さとキュートさを前面に押し出して!」

「よし、【魔法の盾】【炎の矢】コンボ作戦だ」

「はい! 頑張りますわ」

 

 俺は手に握った〈魔法の回復薬〉を見つめる。

 どこから手に入れたかは聞くな。

 

 グッバイ、マイ毛根フレンズ300。

 靖国で会おう。

 

 ファルフナーズの方を振り返ると、サッと目線を逸らされた。

 いや、別に怒ってないから。

 

 ……そんなには、な。

 

「今回はゴブリン以外でも頑張ってみようと思うんだが、敵の大体の強さって分かるの?」

「ええ、大まかにでしたら私にでも分かりますわ」

 

「分かりやすく一瞬で俺に伝えられる?」

「でしたら、目安となるレベルではいかがでしょう? 例えばゴブリンがレベル1で――」

 

「いいね。モンスター見たらレベル素早く教えてくれる?」

「かしこまりました」

 

「よし! いこう!」

「はいっ!」

 

 部屋の押入れをスラッ! 青白い巨人

「フロストジャイアント。レベル50」 スタンッ!

 

トイレのドアをパカン! 石像の通路?

「ガーゴイルです。レベル20」 パタン。

 

 玄関の扉をガチャリ! 巨大な蛇?

「ワイアームです。 レベル70」 バタン!

 

 風呂場の扉をパタン! 灰色の肌した大男

「トロルです。レベル8」

「これだ! 行くぞ!」

 

「トロルは再生能力があって多少のダメージでは怯みもしません! お気をつけて!」

「オーケー! 【魔法の盾】と【炎の矢】、速攻よろしく!」

 

 こちらへ駆け出してくるトロル。

 うわっ、思ったよりデケぇ!

 

 とにかく1撃避けなければ。

 回避専念だ!

 

 俺も2mほど前進してトロルの攻撃に備える。

 トロルが武器にしている枯れ木の棍棒は俺の胴体ほどもある。

 ブロックすれば吹き飛ばされるか潰されるかだ。

 

 見ろ、見ろ、見ろ。

 トロルが振りかぶった!

 

「ガアーッ!」

 

 ここだ! 右へ!

 

 ドカッ!

 

 トロルの棍棒が石畳の床を殴る。

 回避成功!

 だが勢いよく飛びのいたせいで壁に体をぶつけてしまった。

 

「【魔法の盾】!」

 

 俺の体に青白い膜のようなものがかかる。

 よし、あと1撃避ければ――

 

 ぶおんっ!

 

「うおっ!?」

 

 振り下ろした棍棒をそのままに、左手の拳だけで俺を裏拳で殴ってきた!

 咄嗟にしゃがんで、いや、床にへたり込んで回避。

 

 体勢は崩れたが、これで俺の勝ちだ!

 

 

「【炎の矢】――!」

 

 トロルが最後の抵抗で俺を握りつぶすために両手で掴んだ。

 へへっ! もう遅いんだぜ!

 蒸発して消えな!

 

 

 ――あれ!? 凄い熱い!

 

 

 全てが白く染まる中、魔法の盾がパリンと割れる音を聞いた。

 

 ような気がした。

 

 ……

 

 …

 

 

「ひっく、えっえっ、ぐすん、マサト様ー!」

 

 見慣れた天井。

 ベッドの上。

 

 4度目の蘇生を果たした。

 

 

「うん……まあ、あれだ」

「はひ……ぐしゅ」

 

「【魔法の盾】より【炎の矢】の威力が遥かに上って事だわな」

「そのようです……」

 

「桁違いの威力だよ! 熱いと思ったらもう死んだよ!」

「ひいっ! すみませんすみません!」

 

「ひょっとして【炎の矢】は禁断の業なのではないか……初級魔法みたいな名前しやがって」

「使用を控えたほうが良いのでしょうか?」

 

「いやー、あれが無かったらまだゴブリン複数にすら勝てるかどうか」

「そうですわね……」

 

「もうちょっとこう、威力を加減できないのー?」

「ど、どのようにすれば調節できますでしょうか?」

 

「え? うーん……そうだな、勇ましく『ほのおのやー!』って言わないで可愛く言ってみる、とか?」

「可愛らしく、ですか?」

 

「そうそう、メイドとはいえお姫様なんだから可愛らしく女子力全開で、ほら」

「……マサト様は姫にどんなイメージを抱いてらっしゃるのですか」

 

 あっ、微妙に呆れたという表情が漏れてるぞ。

 

「可愛さとキュートさを前面に押し出して、さあどうぞ」

「あっ、えっと……ほっ、ほのーのやっ」

 

「いいねいいね、その調子でもっとコケティッシュに!」

「ほーのーおーのーやあーっん(ハート)」

 

「グゥーッド! これなら行ける! いけるよ!」

「……多分、無理だと思いますわ」

 

 ファルフナーズ真顔。

 

「でっすよねー」

 

「……」

「……」

 

 

 一応、翌日試してみた。

 

 5回目の復活を果たすハメになった。

 

 

 威力は増したそうだ。


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