俺が開けた扉は全てダンジョンになる件   作:っぴ

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どうかお読みください!


#1「姫が我が家にやってきた」

 ヒキニートの朝は遅い。

 出勤する家族と顔を合わせたくないし。

 マサト、それが俺の名だ。

 

 それより今、大変な事になっている。

 突然、部屋の中に侵入者が出現したんだ!

 

 しかも、すっごく可愛いピンクの髪の女の子だ!

 

 だが、ヒキニートの聖域に足を踏み入れる奴は、誰であれ怒鳴り散らして追い返してやる!

 

「お、お前……どこから入って来た……のですか?」

 

 言ってやったぜ!

 ……いや、全然ダメだなこれ。

 

 しかしこの女の子、何か光り輝いてる。

 後光なの? 後光が射してるの?

 しかも浮いてた。

 足を踏み入れてませんでした。

 

 女の子は長いピンクの髪を揺らして首をかしげる。

 俺の目を見据えて透き通った声で語りかけてきた。

 

「私の姿が見えるの、ですか?」

「き、聞いてるのはこっち! 質問に質問で返しちゃ駄目……ですよ」

 

 くっ、家族以外には強気に出れない。

 部屋の内側ですらこんな有様だ。

 よもや、ここまで俺の人間強度が落ちているとは。

 

 白いドレスに身を包んだ女の子は、優しそうに微笑んだ。

 

「私はファルフナーズと申します。貴方様にメイドとして仕えるべく、魔法の世界からやって参りました」

「……ふぁい!?」

 

 一体何を言ってるんだ、この子は!?

 ファルフナーズと名乗ったピンクの髪の女の子は満面の笑顔になり、俺の手を両手で包むように握った。

 暖かい……そして、柔らかい。

 ついでに良い香りもする。

 

 心臓が飛び跳ねるように踊った。

 

「貴方様のお名前をお伺いしても?」

「え、ああ、マサトだけど……」

 

 ちょっと恥ずかしそうに微笑むその仕草に裏表があるとは思えない。

 顔立ちも日本人に近くて……いや、これは多分、かなり若いのか。

 俺よりかなり年下かもしれない。

 いや、でも細い体つきの割に、肩出しドレスから覗く凄い豊満な……その胸。

 超国際級。眼福。感謝。超ハッピー!

 

「マサト様、お話を。ご説明させて頂いても良いでしょうか?」

「あっ、はい! どうぞどうぞ」

 

 俺の視線に気付いた彼女が、苦笑しながら両手で胸を押さえるようにして隠して言う。

 

「私の国トリピュロンでは王族の血を引く女性が特別な巫女となるために様々な修行を受けなければなりません。その神聖なる修練のひとつが異世界で出会った人に仕え帰還のアストラル探索を……」

「ふぁー……」

 

「……」

「……」

 

 俺とファルフナーズはきょとんとした顔でお互いを見詰め合ってしまった。

 

 彼女が何を言ってるか分からない。

 彼女はなぜ俺が理解できないのかが分からない。

 

「ああっ、失礼をしました。申し訳ありませんっ 私はトリピュロン王国の姫の一人、ファルフナーズと申しまして……」

「あ、うん。そこだけは分かる」

 

 そんな国は聞いたこと無いけれども。

 お姫様だったのか……確かにひらひらで真っ白なドレスは高価そうだが。

 

「王族の姫は神々の御力を授かり、姫巫女と呼ばれる特別な階位に就かなければなりません」

「ははあ、大変ですねえ」

 

「そのためには、いくつもの試練を受けねばならず、修行のためにこの世界に訪れました」

「この世界?」

 

「はい。トリピュロン王国とこの世界はアストラルを隔てた別の次元階層に存在しているそうです」

「んー、分からない。アストラルって何なの?」

 

「ええと、私もまだ勉学中の身でして、上手くお伝えする事が難しいのですが。宇宙と宇宙を隔てる空間のようなもの、だそうですわ」

「正確には理解できないけど、イメージは何となく伝わったかなあ。用は別の世界から来たって事か」

 

 ヤバい。

 ややこしいぞ。

 

 何が目的だかさっぱり分からない。

 俺に仕える、って言ってたけど、その姫の修行と関係あるのかな?

 

 ところで……

 

「そろそろ手、離してもいいんじゃないかな」

「え……あっ! 私ったら。非礼のほど、お詫び申しあげます」

 

 ファルフナーズは顔を赤らめてうつむいてしまった。

 手を組んでモジモジと押し黙っている。

 

 こんな可憐な少女が実在しているとは。

 いや、別の世界だか宇宙って言ってるから、実在してたのとは少々違うかもしれない。

 

「ともかく込み入った話のようだから、まずはお茶でも出すよ」

 

 俺にしては最高に気が利いてる。

 招かれざる客とは言え、この可憐な美少女にお茶のひとつも出してやらねば。

 

 部屋の扉を開けるためにドアノブに手をかけた所でファルフナーズの声がする。

 

「あっ、マサト様」

 

 扉を開けながらファルフナーズの方へ振り返る。

 

「ん?」

「お気をつけ下さい。マサト様は今――」

 

 廊下から生温くてカビ臭い風が漂ってくる。

 その異臭に顔をしかめて廊下へ振り替え直すと……

 

 

 扉の外は見知らぬ空間だった。

 

 

「なん……だ、これ?」

「マサト様は今、ダンジョン・オープナーの力を宿してしまっています。迂闊に扉を開けませんよう」

 

 ダンジョン・オープナー!?

 廊下が全く別の空間に変わってしまっているぞ!

 いや、このカビ臭くて暗い石畳の通路がずっと続いている!

 廊下が変わったんじゃなくて、扉が別の所へ繋がっているのか!

 

 

 ブギョルルル!

 

 

 通路の奥から赤い光がちらつき、ケダモノのような声が響いた。

 

「うわっ! 何だこの音!?」

「ゴブリンです! マサト様、扉を今すぐ閉めてくださいませ!」

 

 赤い光は生き物の目か!

 ゴブリンって!

 ゲームのモンスター、あのゴブリンか!?

 

 咆哮がいくつも重なりどんどん大きくなる。

 赤い光も大きくなって来てるのは、これこっちへ走ってきてるのか!

 緑色の人が飛び掛ってくる!

 

 こわっ!

 

「う、うわああっ!」

 

 バタン!

 

 慌ててもつれる手で扉を閉めた。

 途端に空気を切り裂くような大音量の咆哮がピタリと止んだ。

 

 足がすくんでその場にへたり込んでしまう。

 

「何だったんだ、今のは」

「マサト様は私と出会った事で、ダンジョン・オープナーの力を宿してしまったのです。マサト様が開ける扉は、全てダンジョンへと繋がってしまうのですわ」

 

「は!? 俺が扉を開けると、どこでもあのカビた石畳の廊下に出るの!?」

「その通りですわ。出る場所は様々ですが、必ずアストラルの仮想空間化したダンジョンへ――」

 

 ファルフナーズの言葉の後半は俺の耳に届いていなかった。

 扉を開けたら全部ダンジョンだって?

 

 じゃあ俺は今日からどうやって外に出ればいいんだ。

 いや、ヒキニートだから外には出れなくてもいいが……それよりも

 

 

 風呂は!?

 トイレはどうすればいいんだ!


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