dies in オーバーロード   作:Red_stone

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第4話 風呂

 そして、風呂に入ってリラックスしていたわけだが。

 

 ああ、ちなみに風呂とかそういう施設は一通りある。ドラマCDのギャグ版ヴェヴェルスブルグ城のノリで色々くっつけまくったからだ。あの時は素材集めに付き合わされて大変だったが、こうなってくると感謝するしかないな『獣殿』さん。

 

「水をたっぷり使う贅沢……ただのダイブじゃ絶対に味わえないこの至福……はぁ」

 

 俺が住んでたところでは風呂桶一杯の透明な水ですら庶民の手には届かない。大地や空気が取り返しがつかないほどに汚染されていたのだ。だから人が何人も入れるような風呂なんて、それこそ企業連の重役という天上の住人のやることだった。

 

「ああーーこれだけでももう、何もかもどうでもよくなるぅ」

 

 とろけそうだった。男のそんなん見ても需要はないだろうが。いや、藤井連は女顔だからあるいは……? 今は俺の顔だ、いやなことを想像した。

 

「しっかし、ここまではっきりと感じられる。考えられるのはーーこれが俺の阿片窟か」

 

 正田卿の信者ならば麻薬と聞いて思い浮かぶのは阿片と桃の香りであるはずだ。論理的に考えれば、一般のダイブ型ゲームでこの気持ちよさを表現するのは不可能である。こんなものを知ってはリアルに帰ってなど来られない。ならば、可能性があるのは幻覚だろう。文字通りの電子ドラッグでのトリップ。

 

 末路は廃人か、それとも実験対象としてどっかの研究機関の被検体にでもなるか。どこかの企業が流した、もしくは管理が甘くて拡散してしまったものだろうがーー運悪く引っかかればもう表世界に居場所はない。庶民の地位などそんなものだ。犯罪に巻き込まれれば、どこまでも堕ちて誰も助けてなどくれない。

 

 絶望的な気分になる。……けれど、こうあるべきと思うところまでは落ちていかない。絶望が薄い。そんなもんか、と思う程度。もしかしたら

 

「俺はここを受け入れ始めている……?」

 

 昔の小説に交通事故にあった人間が、夢の中で開発中だったゲームのリアル版で遊び続けるというのを見たことがある。そいつはリアルに帰りたかったのだろうか。それとも、自分の作ったゲームの中で遊び続けたかったのだろうか。

 

 ……俺はどうだ? 動き始めたNPCたちとともに、時の止まった黄昏の中で永遠にーー

 

「どきなさい、足引きBBA。藤井君はあなたの垂れ乳に興味ないのよ」

 

「ふざけないでよ、あたしの胸のどこが垂れてんのよゾーネンキント。あんたの貧乳こそ誰も興味ないわよ」

 

 声ーールサルカと先輩。え? これは、入ってくるつもりなのか。脱衣室にいるとは、そういうことだと容易に想像がついて。もしかして、女の人の裸見れるの。生で? え、まじ?

 

「残念でした。私は学園の裏ミスなので、私の裸に興味ある人はたくさんいるよ。見れるのは藤井君だけだけどね」

 

「はん。それを言ったら私なんて、数えられないくらいの人を相手してきたのよ? 蓮君だって満足してくれるはずだわ」

 

 雲行きが怪しくなってくる。背筋が寒くなった。おかしいなー温泉入っててぽかぽかのはずなのになー。

 

「中古ってことをそんなに誇らしく語られてもね」

 

「……ッゾーネンキント!」

 

「やだやだ。怒りやすいから、年増って」

 

 女の争いこええ。なんか脱衣所の方に黒々としたオーラが見える気がするよ。

 

「おいおい、姉さん方。ここは男湯だぜ、女人禁制だよここは」

 

 司狼か。……ああ、うん。邪魔されたとか思ってないぞ。ああ、うん。助かっ……た?

 

「ま、そういうことで? 退散してくれると嬉しいんだがな。ま、関係ねえがな」

 

 しゅるしゅると音がする。全然、まったく色っぽくなんかない。男のストリップとか誰が興味あるよ。

 

「遊佐君、最低」

 

「え? ホントに脱いじゃうの?」

 

 底冷えする声と嬉しそうな、正反対の声。

 

「ま、そういうわけで蓮としけこむのは俺ってことでよろしく」

 

 ……残念がってなどない。本当だぞ?

 

「よ、蓮。マキナと戦ったみたいだな。あいつに勝っちまうとはさすがだな」

 

 マッパだ。まあ、風呂だから当然か。嬉しくもないし、特に見るべきもんでもないが話には相槌を返す。

 

「ああ、あいつは強かった」

 

「ま、うちで強いのはマキナと戒の奴だな。戒とも戦うのか?」

 

「どうだろうな。ただ、俺の技量ーー剣士としての技量は低い。一撃必殺狙いの暗殺者だからな……この世界に敵がいるならば新しい力を得るのも悪くない」

 

「そういうもんかね。お前さんに勝てる奴なんざいねえよ」

 

「……本当にそう思うか?」

 

 狂信? 励ますならともかく、こんなことを言うとは。嫌われ者だからこそ、言えることがある。信じるという言葉のもとに鵜呑みにしない、そういうこと。嫌われ者を買って出ても現実を見せる。こいつはそういう者のはずなのに。

 

「ああ、俺たちはお前を信じてる。負けねえさ、絶対」

 

 それは、遊佐司狼のーー天魔・宿儺の言っていいセリフではない。やはり、ここは神座世界でもないし、本人でもないのだろう。設定だ、ユグドラシルのNPCが設定を取り込んで生まれたもの。

 

 ーーけれど、偽物という点では俺と同じだ。

 

「ああ、負けはしない。例えあの最悪が相手でも、俺は俺の大切な刹那(お前たち)を守る。守ってみせる」

 

「おお、頼りになるね。ところで、大将……一献どうだい?」

 

 その手に持っているもの。盆に乗っている特徴的な形の容れ物はもしかしてーー

 

「酒か?」

 

 がぜん、興味が出てきた。よくやった、司狼。

 

「おおよ、日本酒のいいのだぜ。城の貯蔵庫からかっぱらってきた」

 

 それは、まあなんとも”らしい”言い方で笑ってしまう。ここは俺たちのギルド、奪うも何もないものだ。

 

「お前、ワルだな」

 

「おいおい、昔は俺とお前とバカスミで不良三人組だったじゃねえか」

 

「いや、お前の悪評だろそれ」

 

「いやいや、お前だって乗り気だったじゃんよ。忘れたとは言わさないぜ」

 

「いやいやいや。お前、あの時のこと忘れたんじゃないだろうなーー」

 

 そう、ありもしない思い出を語り合う。飲んだことのない本物の酒の味に震えながら。

 

 




主人公は順調に精神汚染が進んでいます。kkkをやったことがあるなら想像ついているかもしれませんが、このギルドは全員異形です。本気出すと形態が変わります。

 活動報告の方に希望パーティを書いていただきありがとうございます。櫻井一家と学園チームは誰がパーティになっても、セバス的な活躍の機会はあります。ただし選ばれないと出番が少なくなるキャラはいるかも……

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