dies in オーバーロード   作:Red_stone

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第3話 模擬戦

 

 スクロールによって隠ぺい魔法のかけられた闘技場では、いくつもの爆音が咲いていた。それはまるで戦場めいた地獄の現出。その悪夢を作り出しているのはたった二人であるのだ。

 

「--っぐ」

 

 魔法で加速、爆風から逃れる。けれど、そこにはすでに爆撃がーー三重化魔法(トリプレットマジック)で逃走先に置いておいたのか!

 

「その程度か、戦友(カメラード)

 

 鉄のような重い声。

 

「さすがだな、ミハエル。長い間お前とは戦っていなかったがーー」

 

 嘘だ、NPCとなど戦ったことはない。というか、見間違えたにもほどがある。”これ”がただの拠点防衛用NPCであるものか……! 強力、凶悪。言い方は何でもいいが、技量の極限という設定がこれほどまでに厄介だとは。

 

「刹那ですらない予行演習、何の意味があるかは知らん」

 

 ずんずんずん、と戦車の砲撃じみた魔法が叩き込まれる。第10階位魔法、それくらいでなければ模擬戦といえどダメージ判定に成功すらしない。魔法もアイテムも効果は変わっておらず、負けたところで1ダメージ負うだけだ。だが、即座にダメージを計算して威力の低く範囲の大きな魔法に切り替えてくるとは……本当に初めてかよ、お前。

 

「やはりお前は強いな!」

 

 この性能はNPCではない。それを完全に確信できた。ビルドが滅茶苦茶(PK戦では)だが、それをプレイヤースキルで補っている。俺がPK戦用のビルドでなければ落ちていた。というか、ダメージを与えるためには最低限それだけ必要などなぜ知っている? 加速加速加速、全てを避けきる。模擬戦ではダメージを喰らえば、即座に負け。

 

「が、お前に意味があるというのならばそれでいい。俺が動く意味もあるのだろう」

 

 ここまでの戦闘能力は普通の人間に出せるようなものではない。というか、ぶっちゃけワールドチャンピオンでよく見る動きである。だからこそかわせてると言っていいーー設定が反映されている。最強の兵士、しかもユグドラシル流にアレンジまで。しかし、俺が使えないように彼も原作の固有能力を使えない。歴史あるものを終わらせる幕引きの力はない。

 

「そうだな、確かに意味はあった」

 

 装備を確認できた。戦えることを確認できた。そして、俺たちは原作の人間たちではない。もしかしたら魂が混ざっていることもあるかもしれないが、俺たちを縛る理がユグドラシルである以上、それを模しただけの別人とみるのが正解か。

 

 ああ、確認できた。それはよかった。ならば、次は勝つことを考えよう。なあ、戦友ーー俺はどうにも負けず嫌いらしいぞ。

 

 --俺が狙うのは一撃必殺。常にそうだった。ユグドラシルの戦いにおいて、俺はそう選択した。小太刀を魔改造した罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)はクリ特攻。

 

 例えば炎特攻なら、火属性の相手を攻撃したときに1.5倍になるとしよう。そして、俺のはクリティカルが出たら、もとの1.5倍にさらに1.5倍かけの倍率ドン。合わせて2.25倍だ。

 

 しかもデータクリスタルを積みまくってたからそれどころの威力じゃないぞ。”触れれば不死すら殺す”女神の力を反映した聖遺物に比べれば児戯に過ぎないが、当たれば痛いぞ。

 

「……行くぞ戦友、身体はもう温まったのだろう?」

 

「ああ、決着をつけるぞ」

 

 バフはかけ終わった。ミハエルもこれ以上弾をばらまいても俺の有利になるだけだ。やはり戦術面も完璧か。一瞬にかける、やはり戦いとはそういうものだろう。

 

「「……ッ!」」

 

 加速加速加速、最大にまで高まった速度で一直線に首を狙う。この段では技巧など必要ない。タイミング? 迎撃? そんなもの、反応することもできない刹那に決着をつければ関係のない話だろうが……ッ!

 

 交錯。

 

 確かに当たった感触がして。模擬戦が終わり。

 

「ぐっ……!」

 

 腹に苦痛。最後の一撃が当たっていた? いや、それよりも模擬戦で負うのは1ダメージのはず。最大HPの千分の1でこれほどの苦痛だとーーいや、ステータスバーはないが感覚でわかる。半分ほど削られた。

 

「ミハエル」

 

「……すまん」

 

 彼は平気そうだ。当たったはずーーならば模擬戦の効果か。そうか、模擬戦で彼が喰らったのが1ダメージ、そして俺は模擬戦が終わった状態で喰らったというわけか。

 

「気にするな、そして貴重なことが分かった。それはそれとして模擬戦は俺の勝ちだな、ミハエル。2勝1敗だ、勝ち越しだな」

 

 俺はそう口にする。他の1勝1敗がどこでカウントされたものかも気付かず。

 

 しかし、重要なことは分かった。フレンドリーファイヤが解除されている。むしろ同じギルドであるならば、模擬戦でないとダメージを与えられないのだ。その縛りが今やない。利用して超位魔法で吹き飛ばしまくっていたものだが。

 

「いや、この命に代えても贖いを」

 

「何を言ってるんだ? それよりもフレンドリーファイヤが解禁されているようだが、何か知らないか」

 

 そんな殊勝なことを言うキャラではなかったはずだ。……もともとNPCだからか? まあ、そんなことはいいさ。お前もあいつらと変わらず俺の大切な刹那(仲間)だミハエル。

 

「申し訳ない、味方はさけるように撃っていたはずだが」

 

「そうか、ありがとう。いい実験になった。お前も休め、ミハエル。俺は休む」

 

 ポーションを飲んだが、まだ体が重い気がする。……風呂にでも入るか。

 

 




キャラ紹介

ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン
 魔名はマキナ〈鋼鉄の腕〉。藤井連はミハエルと呼んでいる。彼はミハエルの魂を核に蟲毒により幾百の魂を混ぜ合わせて作り出された人間の形をした戦車である。呪いは「安息(死)を取り逃がす」
 無駄な戦いを好まず、己の矜持に従って戦う英雄。死を尊ぶ精神性から蘇生アイテムばりにポンポン復活する黄金錬成を嫌っている。「唯一無二の終焉をもって自分の生を終わらせたい」という自殺願望すれすれの渇望を持つが、その死を意味あるものにしたいとの渇望に転じるため安易に死に逃げることはない。
 個として極限の体術・経験を有しているチート。


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