dies in オーバーロード   作:Red_stone

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第27話 人類の守り手

 前人未踏のトブの大森林に我が物顔で歩く侵入者がいた。

 

「……ふん。無駄じゃな、これは」

 

 二人の青年、女性、そしてもう一人……年老いた老女が鋭い目を周囲に配る。リーダー格は呟いた彼女だ。だが、その恰好は一言で言えば奇異である。露出の多いチャイナ服、それは公害的な意味で目の毒であった。

 

「それは、ここは関係ないと言うことでしょうか。カイレ様」

 

 彼らは侵入の痕跡など隠そうとさえしていない。それは何をも恐れず、襲ってくる者がいるならば返り討ちにしてやるとの自負だった。ここに居る四人はそれぞれ人類最高峰の実力を誇っている。

 

「否。関係はある――不自然じゃ。気付かぬか」

 

 戦闘、という点で言えば老いているのは弱点しかならないが彼女のそれは一種の厚みと呼ぶものを得るに至っていた。要は経験だ。

 

「確かに不気味な静寂ではあります。トブの大森林において、このようなモンスターの少ない山があるとは。それに、ここには山などなかったと地図にはありますな。占星千里、本当にここが予言の場所か」

 

 青年は首をかしげる。鏡のような盾を持った男……見た目通りにブレイン役ではないのだろう。

 

「いや、私にはどこが予知の場所かわからないんだって。推理するのは私の仕事じゃないでしょ。そもそもそこに来たって何かわかるわけでもないし……」

 

 女性はまるで踊り子のような恰好をしている。街行く男が居たら視線は彼女に釘付けになるだろう。もっとも、二人の男を見て逃げていくだろうが。

 

「ここはただの森林の一部じゃった。しかし、突如にして山が出現した。復活が予言されたカタストロフ・ドロゴンロード捜索において、重要視されておったのだ。地図の間違いなどはない」

 

「しかし、少し歩いただけで何がお分かりになったと言うのですか? この山をくまなく探索するべきでは」

 

 最後の一人はじゃらじゃら鎖を巻き付けて歩いている。そんなんでもまったく木に引っ掛けていない。この4人は相当の実力者である。……痕跡を隠せるのにやらないのは、する必要がないからだ。

 

「ああ、だから無駄じゃと言ったのじゃよ。これは、ただの偽装じゃ。それも秘密の通路が隠されているのでも何でもない、ただあるだけの空っぽの家――儂にはわかる」

 

「……なんらの痕跡も残っていないと言うのですか?」

 

「それを狙って調べる者の無駄足を狙ったものじゃ。怪しいところに普通の家を立て、何もしない。何もないのじゃから、何も出なくて当然。じゃがな、何か成果を欲して探し続けてしまう――貴重な時間がどこまでも無駄になる。……そのようなトラップじゃ」

 

「足止めを狙った罠。カタストロフ・ドラゴンロードはそれほどまでの知恵を。いいえ、奴は”山”すら偽装のために作ってしまったと言うのですか? それは、そこまでの脅威は――」

 

 そう、恐ろしい。山すら作るとは、人知の範疇にない。まさに”神の御業”と言えた。

 

「隊長であれば山くらい蹴り飛ばせるじゃろうが」

 

 そんな一種馬鹿げた妄想――だが、そんな常識外など見飽きたといった風情の老女は傲岸に断定する。

 

「いや……まあ、それはそうですが」

 

「探すべきは周辺。この山の周りをくまなく探すのが良いじゃろうな。しかし……」

 

「カイレ様、カタストロフ・ドラゴンロード捜索は急務とはいえ陽光聖典捜索の件もあります。あまり時間は」

 

「ああ、やれやれ……まったく、仕事ばかりよこしおって。この老骨を少しはいたわってもらいたいものじゃな」

 

「それで、どうなされますか?」

 

「陽光聖典の方を先に片付けることにしようかの。大森林が絶滅したところで問題はない。目覚めたばかりなら楽に任務ができるとも限らぬ。ならば、急ぐべきはそちらじゃ」

 

「では、魔封じの水晶が発動された地点の近くにあるカルネ村へ行きますか」

 

「……では、待たせてある馬車の方へ戻りましょう」

 

 四人、まったくトラブルもなく馬車へ着いた。馬車の男たちはいわゆる”裏”に属する者たちではあるが、実力が低い。殺すならば簡単だったそれが殺されていないと言うことは、ただ何も起こっていないからだと安心した。してしまった。

 

 

 そして、彼らは”それ”と出会う。

 

「前方、難度200超えが2体! それに、え? なにこれ――難度3? いや、ちがう……どういうこと。どういうことよ!? こんなのーーッ!」

 

 占星千里が悲鳴を上げた。彼女の感知能力は難度を調べることができる。もっとも、感覚的なものだから比較対象がないとそれがどれだけ大きいかわからないという欠点があるのだが。しかし、その特異な感知能力から生まれる予言は重宝されている。

 

「御者、馬車を反転させよ! 二体相手は避ける!」

 

 カイレが責任者として矢継ぎ早に指示を下した。己の身は法国にとって重要な意味を持つ、そして占星千里の予言も。”隊長”のいない状況で難度200超えとの突発的遭遇など冗談ではなかった。

 

「まあ、お待ちください。少し、話をしようじゃありませんか」

 

 そして馬車が揺れて全員の視線が”そこ”からずれたとき、見知らぬ男が馬車の中にいた。漆黒の軍服、それがどこの国のものかはわからないが上質の。そう、”遺産”を除けば、もしかして法国のものよりも。

 

「こ、こいつ――こいつが難度200超えの……」

 

 占星千里が額を抑え、血涙を流して呻く。一瞬で移動したとしか思えなかった。感覚器官が混乱している。度を過ぎた脅威が目の前にあっては吐き気をこらえるのに大変だった。……にげださなくてはならないのに、そんな余裕もない。

 

「まさか、『テレポーテーション/転移』なの? 移動する馬車の中に、なんて馬鹿げてる……」

 

 コイツの実力、それは漆黒聖典四人が気付かずに馬車の中に現れたことからも明確で。

 

「……ッ!」

 

 その瞬間、巨盾万壁が馬車が砕いた。御者を放置して散開する。

 

「おっと、中々に思い切ったことをしますね。自ら足を破壊するなんて」

 

 その男、トリファは柔和な笑みを浮かべて周囲を見る。壊れた一瞬に神領縛鎖が放った攻撃など意に介してすらいない。

 

「珍しいところで会うこともあるのね。ここには人間は入ってこないって聞いたのだけど」

 

 少し離れた場所に彼らが乗ってきた馬車が止まる。だが、”それ”は引く馬すらない異形だった。彼らの世界ではジープと呼ばれる”それ”。

 

「……なに、ただの通りすがりですじゃ――」

 

 カイレは言葉を転がす。4人、それぞれとりあえず距離は取った。御者は腰を抜かしているが、戦力にならない以上は数に入らない。

 

「カイレ様、違う。そいつら、人間じゃない!」

 

 占星千里が叫んだ。

 

「……ほほう? なぜ、それを」

 

 柔和な笑顔の彼の雰囲気が変わった。

 

「ならば――潰れろッ!」

 

「死ね! 異形種!」

 

 彼らは探索を主とした構成、けれど戦う力はある。そして”彼女たち”は貴重なだけに絶対に守らねばならない。その男たちが我が身を犠牲に相討ったとしても。

 

「潰れろ? 死ね? 我が愛しのテレジアにそれを言いますか。ええ、しかしそれらしいと言えばそれらしい。ああ、カテゴリを分別してそれで死ねと言うのは実に人間らしいですね。私もやりましたね、そういえば。ふふ。……はははは。ああ、実に人間らしいとも――」

 

 衝撃波も、高速で飛来する鎖も彼には通じない。ただむなしく弾かれ、髪すら揺らすことはない。彼が歩を進める。

 

「ぐぐぐ……! ここで”使えば”後がまずい! まずい、が――仕方あるまい。使わざるをえぬ! 使うぞセドラン、エドガール……奴の動きを止めよ」

 

 カイレが叫ぶ。並々ならぬ決意とともに。

 

「その程度で誰の動きを止めるというのですか?」

 

 トリファは囲むように展開された盾をこともなげに拳で粉砕するが、その隙に飛んできた鎖に囚われる。けれど、すぐに砕いてしまう。その程度の力で拘束しようなど愚かと嗤いながら。

 

「人類の敵よ。今こそ六大神の遺物の力を見よ。『ケイ・セケ・コケ』よ、今こそその神々しき絶対なる力を顕すがいい――!」

 

 チャイナ服が光る。龍の召喚、大きくアギトを広げトリファを飲み込もうとして。

 

「ふむ、少しばかり厄介そうなので回避しましょうか」

 

 その力をトリファはやすやすとかわし……

 

「甘いわ!」

 

 そのまま馬車へと突き進む。

 

「な――テレジア!」

 

 トリファは戻ってきて盾になる。……カイレの予測通りに。回避するかもしれない、もしくは防がれるかもしれない。宝物の効果をかわせずとも洗脳が完了する前に自身がやられては意味がない。

 

 --だから、馬車を狙うふりをした。年老いて身体が衰えた代りに経験を得た。”敵を殺す”そのための方法を数多学んだ。彼が馬車を気にしていたのは分かっていたのだ。異形種だろうと心はある。ゆえ、そこを突けば力に劣ろうとも嵌めるのはたやすい。

 

「……トリファ!」

 

 馬車から少女が出てくる。占星千里を見ると首を横に振る。彼女も異形種だ。

 

「さあ、我がしもべよ。まずはその二人を肉塊に変えてしまうがいい!」

 

 ケイ・セケ・コケ……それは相手を支配するワールドアイテム。同種の守りがなくば防ぐこと敵わぬ究極の力。ここにヴァレリア・トリファが敵の手に落ちた。

 

「なるほど。リザ、テレジア。私は君たちを殺さなくてはならないらしい――」

 

 トリファは変貌する。それはまさに世界を終わらせる天魔。すべてに滅びをもたらす”街すら踏みつぶす”絶望的な巨大な、規格外という概念すら逸脱する山のごとき海坊主。

 

 




 ちょっと傾城傾国のエフェクトを変えてるけれど結果は変わらないはずなので許してください。ワールドアイテムの効果には基本的に絶対命中がついてそうな気がします。原作でシャルティアに当ててたから、傾城傾国なら多分回避不可能なんだと思いますが槍とかはどうなんでしょうね。

 ちなみにこのSS内ではリザさんだとトリファに勝てません。雑魚を大量生産したところで時間稼ぎにしかならないので。


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