dies in オーバーロード   作:Red_stone

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第13話 初めての依頼

 そのあと。

 

 もちろん、酒場の安っぽい料理など食うわけがなく。家に帰った。そこで待っていたルサルカには「あら早かったのね。今からご飯作るわ」と言われたので、先に倉庫の整理を。アイテムをためるのが面白くて大量に集めてーーそして、整理していない。集めるのはよくても整理するのは面倒だったのだ。

 

 一人黙々と作業しているとすぐにベアトリスがやってきて「藤井君、螢が作業を手伝うって言ってます」と言ってきた。確かに本人は雑多なアイテムを面白がって眺めるばかりでほとんど貢献してくれなかった。螢曰く「藤井君、姉さんがごめんなさい」とのことだが、気にしてはいない。

 

 そして、ルサルカが作ってくれた食事を食べる。「なんかいいわね、こういうの。お家で帰りを待って、一緒に食卓を囲むの。私にとってはこれが最高の贅沢なのかもしれないわ」なんて。うまいと言ったら泣いて喜んだ。ベアトリスは死亡フラグ乙とか言って、さすがに空気は読みなさいね姉さんと口にザワークラフトを突っ込まれていた。

 

 そして、結局。宝物庫とは名ばかりの別の倉庫の探索許可を与えた司狼が持ってきた翻訳眼鏡をつけてーーショボイ依頼群の前にいた。やはり最低級で受けられるのは子供でもできるような雑用ばかりである。カッパーなんてそんなもの。

 

「……これを受けることはできないか?」

 

 ダメもとでシルバーの依頼を持っていく。

 

「申し訳ありませんが、カッパ-クラスは上のクラスの依頼を受けることはできません」

 

「そうか。そう言えば、討伐とかいうのを聞いたな」

 

「あ、はい。討伐証明箇所を持ち帰っていただければ報酬をお渡しできます」

 

「……そうか」

 

 ならば依頼などより魔物を倒した方がよさそうだ。RPGでもあるまいし、ただのお使いなど面白くない。踵を返して。

 

「でしたら、私たちと一緒にやりませんか?」

 

「あなたたちは?」

 

 彼らは実力的には凡百と変わりがない。弱い、という意味であの酒場にたむろっていた者たちと同じ。けれど、目の色が違う。あんなどぶ色はしていない。まるで、少年のようにきらきらしていてーーああ、その色は少しまぶしい。

 

「チーム『漆黒の剣』です。2チームあれば割のいい獲物を狙うこともできますから」

 

「……狙いはそれだけか?」

 

「あはは。あなたたちは強そうですから。今はあなたたちと共に戦うことでしか強い敵を倒せずとも、経験を積むことで私たちだけで倒すことができます。……あわよくば、そうなればいいかなーーと」

 

「なるほど。まあ、強いと思ってくれるのであれば光栄だがな」

 

「いえ。プレッシャーを与えるつもりはないんですよ。新人の方だと言いますが、だからこそあなたたちはすぐに級が上がっていくと思うんです。その前に知り合いになっておけばなんて下心もあって。いや、これじゃ更にプレッシャーかけてますか?」

 

「いや。強さについては人後に落ちるつもりはない。安心してくれ」

 

「人後……? ああ、いや。強いということですね。では、少し場所を移しましょうか」

 

 そして、別室へ。

 

「では、少しばかり自己紹介を。私はペテル・モーク。こちらはチームの目のレンジャールクルット・ボルブ。薬草にも詳しい治癒や自然使いのダイン・ウッドワンダー。そしてーーこちらはなんとタレント持ちのマジックキャスター、ニニャ・ザ・スペルキャスターです」

 

 よろしく、と中二的なあだ名の少年だけは恥ずかしそうに返し。

 

「では、こちらも。俺は藤井連。左から櫻井螢、ベアトリス・キルヒアイゼン、遊佐司狼だ。基本的に俺と司狼が前衛、女性が後衛だ。二人とも魔術詠唱者だ」

 

 前衛は軍刀を、そして後衛は杖を持っている。司狼の得意は銃で、蓮の得意はナイフだし女性二人も杖は門外漢だが、偽装としてそうしている。そもそもが本来の戦い方とは全く異なる。だからこそ偽装になる。

 

「……役割を決めてはいないのですか? 後衛と前衛というだけで」

 

「戦い方は多く学んできたんでね。縛ってしまう方がやりづらい。決めてしまうと役割のスイッチもできなくなるしな」

 

「そうですか。では、その戦い方を勉強させてもらってもいいですか」

 

「ああ、少しくらいなら教えられることもあるかもな。だが、代わりにここのことを教えてくれ。俺たちは異邦人だからな、分からないことが多いんだ」

 

「なるほど。ふむ、名前の響きからして南方の方ですか? ベアトリスさんはこちらから南方に渡った方とかだったりして」

 

「--はいはい! 質問。あなたたちってどんな関係なんですか」

 

 と、いきなりチャラそうな外見の男が迫ってくる。髪も金髪で、まあ”らしい”。まあ、さすがに椅子に足をかけて顔を突き出すくらい、間合いの内側にまでは行かないが。

 

「仲間だな」

 

 蓮が返す。何の気負いもなさそうで、ルクルットは安心するがベアトリスが溜息を吐く。螢はよくわかっていない顔。

 

「ベアトリスさん、螢さん。惚れました! 付き合ってください!」

 

 螢は絶対零度の瞳を向けて。

 

「最低ね、いきなり二股をかけようとする男は死ねばいいと思うわ」

 

 一方でベアトリスは。

 

「あら、モテモテですね。ですが私には相手がいるんです。あなたと違って誠実で優しいイイ男なんですよ」

 

 ニコニコ顔できついことを言った。

 

「……ありがとうございます! お友達から始めさせてください」

 

 ルクルットはくじけなかった。

 

「やめろ、バカ。すみません、うちのものが」

 

「いや、気にするな」

 

 そういうのも悪くない。しつこいし、女性には嫌われるだろうが蓮はその諦めない精神は嫌いではなかった。無理に間合いを侵しているわけではない。そういうところは冒険者としてきちっとしているのだ。

 

「では、さっそく準備を――」

 

 ペテルの言葉は組合の女性のノックで遮られた。

 

「藤井蓮さんに指名依頼が届いています」

 

 とのことだが、読んで字のごとくであるならば心当たりなどない。

 

「あの、藤井蓮という方はどちら様でしょうか……? カルネ村までと、その近くの森の薬草採取の護衛任務をお願いしたいんですけど」

 

 目元を髪で隠した少年が後から入ってくる。女の子であるならば、かわいいかもしれないが――線が細いとはいえ普通に男である彼がそうしても、連には不潔にしか見えなかった。もちろん、態度には出さないが。

 

「俺だ。あなたが依頼者か、だがすでに契約が成立してしまっていてね。一度成り立った契約を覆すのはよくない。たとえ書面を交わしていなくても」

 

「ちょ――藤井さん、彼はンフィーリア・バレアレさんですよ。彼からの依頼なんて名誉なこと、お邪魔するわけにはいきませんよ」

 

「だが、有名であろうとなんだろうと契約には誠実であるべきだ。契約の順序に優劣は付けても、契約そのものに優劣などありません。……そもそも彼のこともよく知りませんし」

 

「ああ、異邦人の方ですからね。けれど、彼はこの街の影響力で一二を争う薬師リィジー・バレアレの孫です。冒険者として依頼を逃す手はないと思いますよ」

 

「いや、しかし――」

 

「では、こうしてはどうでしょう? 僕が二チームお雇いするというのは。言っては悪いですが、カッパーの依頼料はたかが知れていますので……そのシルバーの方と一緒に雇っても大丈夫ですから」

 

「それなら俺の方に異存はない。魔物を相手にする警護などやったことがないからな。教えてくれよ? ペテル。それと俺たちを呼ぶのに敬称は不要だ」

 

 実は、魔物以外ならやったことがある。というか、藤井蓮は天魔・夜刀の設定を引き継いでいる。彼の見た記憶の中にはドイツ軍人、ロートスの記憶とてあるのだ。暗殺や要人警護の知識ならある。

 

「はい。ではよろしくお願いしますね。トワイライトの皆さんと……えっと」

 

「漆黒の剣です。よろしくお願いします」

 

「ええーー」

 

 握手を交わして。しかし、横のベアトリスは何やら考え込んでいるようで。

 

「どうした? 気になることでもあったか」

 

「いえ、彼の髪。あれは――」

 

 目を細める。つばを飲み込んで。……なにか、危険なものでも見つけたか?

 

「萌えませんね。かわいくないです」

 

「……ベアトリス、オマエな。つか、年下食いの趣味でもあるのか。いや、そう言えばお前はアレか。あれだったな」

 

「アレってなんですか!? ひどくないですか。私は若作りババアとは違いますよ。心はピッチピチの18歳ですから」

 

「……姉さん、ピッチピチって。死語よ、それ」

 

 螢ですらため息をつく。

 

「ちょ。螢、あなたまで何を言い出しますか!?」

 

「ま、若作りしようとしてアレな言葉言っちまうアネさんはほっといて。依頼主さんよ、出発はいつからだい?」

 

 司狼がスルーしてまとめにかかる。

 

「できれば今から。遅くても明日には出発したいです」

 

「あいよ、了解。こっちはすぐに荷物をまとめられる。ペテルさんよ、そっちはどうだい?」

 

「狩りの準備はしてあるので、半刻後には」

 

 

 

 そして、馬車にのって手綱をとるンフィーリアを8人の護衛がのんびりと足を進めている。とりあえず、連としては大した事件もないのに随伴が死んでは冒険者としての評判が最悪になるということで殺さないように仲間を説得した。

 

「そういえば、ニニャはタレント持ちだとか。タレントとはどういうものなんだ? すごいものだとか言っていたな」

 

「ええ。ニニャはタレント持ちで、それが自分に合っている珍しい例なんですよ。このタレントは半分の時間で魔法を覚えられることなんですよ。もちろん魔法詠唱者としての才能も普通以上にありますよ。そういうタレントを持ってはいても階位魔法をほとんど使えない人だっているでしょうね、きっと。だから神様の贈り物なんだって思ってます」

 

「やめてくださいよ、ペテル。神様の贈り物なんてたいそうなものじゃないです。それに、神様なんてなにもしてくれませんよ」

 

「いやいや。ニニャはきっと大物になるさ。すぐに第三位階魔法も覚えて俺たちの手の届かない立派な冒険者に……ぐすっ。たとえ離れ離れになっても俺たちはずっと仲間だと思っているぞ。……ぐすぐす」

 

 想像したのかぐすぐすと泣き出してしまっている。涙もろい奴だ。

 

「ちょっと。それは本当に洒落になってないです。もし第三位階を覚えられたとしても出て行くつもりはありませんよ。約束したじゃないですか、漆黒の剣を探すって」

 

 あわあわと慌てて。そう、微笑ましいというやつだ、これは。

 

「……ニニャ。そうだな。ああ、そうだった。絶対、見つけ出すって誓ったもんな。俺たちで」

 

 仲間の絆は永遠――だとか言うことでぺテルは感動して泣き出してしまう。そして黄昏の彼らはそういう仲間の絆というものが大好きだ。なぜなら波旬には存在しえないものだから。

 

「……漆黒の剣とは?」

 

「ああ、藤井さんは知りませんでしたか。おとぎ話に出てくる伝説の剣なんですよ。十三英雄、八欲王――伝説は伝説に過ぎないと言われますがね、ロマンですから」

 

「……いや、お前たちならきっと見つけることができるさ。諦めなければ、きっと夢は叶う。――だが」

 

「はい?」

 

 首をかしげたペテルの肩に女性陣に話しかけてはすげなく無視されていたルクレットが、急に顔を真面目にして、ペテルの肩に手を置く。

 

「……敵だ。オークもいる。あいつらたくさんいやがる。……襲ってくるぞ!」

 

 敵が来た。丘の向こう――魔法が届く距離ではない。少なくとも、50mというのはこの世界では射程距離内にない。

 

「数は20ほど。まだ来るぞ」

 

 ルクルットは地に耳をつけて聞いた。

 

「オーガ種は4体。ゴブリンが10体、ウルフは8体だけど、14体が後から来るわ」

 

 螢は地に耳すらつけず、ただ普通に足音を聞いただけで種すら把握する。戦闘経験が違いすぎた。まあ、もっとも”彼女”は魔物と戦うのは初めてだ。異業種というくくりではギルド戦があったものの、初めてで、だがしかし設定が彼女に英知を与える。……もしかしたら、それは既知感と呼ばれるものかもしれない。

 

「オーガ種は右が3体か。そちらは俺たちが相手をする。ぺテルたちは左を頼む」

 

 連は特に気負うこともなく歩き出す。三人もそれについていく。レベルが違いすぎて警戒するとかそういう次元ではないのだ。寝首をかかれようがダメージが入らないのに、真面目に怖がるなどできやしない。

 

「ああ!」

 

 漆黒の剣の面子は力強くうなづいて準備にかかる。罠、そして魔法によるバフ。生存確率を上げることは何でもやるのが真の冒険者だ。くすぶっているような人種とは違う。

 

「あの程度ならば、そうだな一度斉射。後に前衛が突撃して掃討だ」

 

 だが、ここにいる黄昏はそんなのとは次元が違う。そもそもが強すぎてどこまで手加減すればいいのかが分からない。そして、冒険者としての戦い方もできやしないのだ。だから、戦い方はおのずとこういうものになる。

 

 蹂躙。

 

 オーガどもはマジックアローに貫かれ、勢いをそがれ――そのまま前へと出た蓮と司狼に斬り殺される。軍刀の一撃でおしまい、怪我でひるんでしまったモンスターを屠殺のごとく殺していく。

 

 そこには冒険などなかった。ただの作業だ。殺すことに何の感慨も抱いていない。

 

「--すごい」

 

 それを見たペテルたちはわけがわからず、そう言うのが精いっぱいだった。けれど、彼らとて冒険者。死なないためにきちんと動く。まず、ダインがドルイド魔法で先行するオーガを止めた。

 

「行くぞ、オーガ!」

 

 すかさずペテルが剣で斬りつける。間合いが広すぎる――がそれでいい。殺すための剣ではない。そこまでの技術も、筋力もない。だが、仲間を信じる心はある。ほんの少し動きを止めた。それだけでは1秒後に殴り殺される。けれど

 

「いい感じだぜ、ペテル。あいつらビビってる!」

 

 ルクルットの放った矢が当たる。オーガは貴重な時間をさらにロス。痛みに耐えてチャンスをつかむような知能はない。こつこつとダメージは積み重なる。だからこそ、彼が間に合った。

 

「……マジック・アロー!」

 

 ニニャの放った魔法がオーガの頭を潰した。

 

「うむ。オーガさえ倒せば後はたやすいのである」

 

 ダインがゴブリンをこん棒で殴る。こちらの担当は二体だけ。ウルフたちも腰が引けて、どうしようもない。

 

「よし、あとは弱い奴だけだ。油断せずやるぞ!」

 

 担当分を終えた黄昏は彼らを生暖かく見守る。戦術も能力もお粗末で、まるで子供の遊びでしかない代物だったが――彼らは真剣だった。

 

 けれど、だからこそ連携がある。彼らは彼らでしかなく、替えが効かない。誰かが欠けたから補充、などというわけには行かないのだ。拙い連携だからこそ、気心が知れて阿吽の呼吸でないと役割は果たせない。

 

 それは黄昏にはないものだ。黄昏の連携はパターン化された工場の規格品のようなもの。しかも超人だからこそ拡張性が高い、どの役割を任されようとできてしまうのだ。誰がどこを担当しても変わらない。

 

「いい連携だった。だが、連携が決まりすぎていて下手にいじると動きが悪くなってしまうな」

 

「そうですか? けっこう臨機応変にやっているつもりなのですが」

 

「ダインが足止め、ペテルとルクレットでダメージを与えてニニャがとどめ。雑魚も基本は変わらずペテルとルクレットがとどめを担当するということもあるだけだ。上を目指すならば地力が足りないし、それを前提に置いた作戦ではどのみち強敵は倒せない」

 

「……強敵。オーガ以上の、ですか」

 

「レベルを上げ、装備を上げる。やはり一番早いのはそれだ。仲間を増やすという選択肢もあるが、連携に余計なものを入れても逆効果であることも多い。まあ、足手まといの期間さえ超えれば何とかなるだろうがな」

 

「レベル……装備、仲間。あの、レベルって何ですか?」

 

「レベルの概念がないのか。いや、言うなれば筋力を上げろと言うことか……? そういうわけでもないな。あの宿屋みたいな筋肉があれば剣の威力が上がるわけでもないしな」

 

「……ええ!? そうなんですかーー筋肉って、あればあるほど強くなれるんじゃ」

 

「そういうわけでもない。まったくついていないのは論外だし、俺たちのは特殊な訓練を受けているから細いが。でかければいいというものでもない。剣術家に聞け、でなければ剣を振り続けろ。重いものを持ち続けたところで筋肉が膨らむだけで強くなれはしない」

 

「なるほど。勉強になります……!」

 

 そんな風なことを話す。彼らの回復が終わると、カルネ村への道をたどっていく。漆黒の剣いとっは死闘であった、が冒険者ならば当然だ。一々疲れてなどいたらやってられない。だからこそ、先駆者の話をよく聞く。より強い敵を倒すために。

 

 

 




 黄昏に接触するならリザがおすすめ、大体蓮に報告を上げてくれる。その蓮は事なかれ主義、ただし彼に直接接触しようとすると他の面々がいい顔をしないからリザで。自己愛かどうかなんてはた目にはわからないからね、そもそも接触しないのが一番な罠。

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