dies in オーバーロード   作:Red_stone

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 マリィですが、今は①coolilyさん発案の偶然似た人が生まれた。もしくは②法国から何かのアイテムを分捕ることを考えています。生まれた場合、血筋に説得力が欲しいからドラウディロン王女をデリートしようかな、なんて。


第11話 ニグンとゾンビパニック

 

 村を取り囲んだニグンは勝利を確信していた。

 

「ふふ、ガゼフめ。愚かに重ねて愚かな真似を。そもそも無視すればよかったのだ。敵の罠だと知らんほどに脳が足りんわけでもないのだろうにーー村人を見捨てられずに5宝物を奪い去られ、挙句の果てには囲まれてやぶれかぶれの突撃か。自らが囮となってあれらを救おうとでも? 馬鹿な、口封じするに決まっているだろうに」

 

 一通り嘲笑して。

 

「さて、貴様ら猛獣は罠にかかったぞ! 包囲を狭め、天使をけしかけ体力を削るのだ。わずかな傷でいい、積み重ねて動きを止めるのだ。いいか、奴は猛獣ーー近づくな、油断するな。この段に至って失敗はあり得ない。であれば、貴様らの命こそが法国にとって価値のあるものなのだから」

 

 隙のない完全な作戦。……というよりも、ニグンは優秀であり値するだけの兵を預かっている。敵が自分からここまで罠にはまってくれたのだから、ここで手落ちをすれば無能のそしりは免れない。

 

「--行け!」

 

 そして、先頭を行くガゼフに天使をけしかけた。一体、二体……彼は武技による強化で確実に天使を屠ってくる。だが、こちらは天使を補充できる。勝利は最初から決まっているのだ。

 

 見ていると、天使の包囲を突破できたはずのガゼフ以外の兵たちは彼のもとへ集った。ーー天使に有効な技を持っているわけでもないのに。馬鹿め、自分から包囲されに行ってどうすると嘲笑う。それはただの自殺志願に他ならないのだ。

 

 これでこちらの兵が命を失う可能性はほぼ0になったわけだ。時折弓矢が飛んでくるが、やぶれかぶれのそれを喰らうほど練度は低くない。……積みだな。あとはルーチンワーク、じっくりと作業を続ければいいーー

 

 そして倒れた天使が20を数えたころ、ガゼフは膝をつく。まあ、もった方だろう。天使を20撃墜などそれは英雄の領域だ。惜しいが元からその力は無為、腐敗した王国を存続させて周囲を腐らせる毒に他ならない。

 

 その彼が何やら吠えている。まあ、なんだーー遺言ならば聞いてやろう。

 

「俺はガゼフ・ストロノーフ。王国を愛し、守護するもの。貴様らのような卑怯な手を使う輩などには絶対に負けん! 貴様がボスなら自分の手で俺の首を取って見ろ。俺は、その他大勢などに取られはせんぞ」

 

「ふふん挑発か? それが遺言でいいのかぁ? なあ、ガゼフよーー人間は弱い。卑怯な手段でも何でも勝たなければ意味がない。負ければ亜人に虐げられるだけなのだよ。お前のそれは負け犬の遠吠えというものだ。そして、俺は負け犬の首を取るのに手をかまれる危険は犯さん」

 

「ならばーー俺の方から行ってやろう!」

 

 光がひらめき、30を数えた。

 

「勇ましいな。英雄の遺言としては中々のものと言えるのではないか。だが、無駄だ。貴様はここにたどり着けんしーーあの村を救うこともできん。わざわざ帝国兵を装ったのだ、見逃すわけがないだろう」

 

 そして、ガゼフは地に沈む。人間である以上、血を失いすぎれば当たり前に立つこともできない。だが、絶体絶命で絶望しかないはずのガゼフが笑っている。それは英雄らしからぬ嘲笑の顔。

 

「残念だな、あそこには俺より強いお方がいるしーー傷一つつけられん村人たちもいる。手を出さん方が身のためだぞ、法国の」

 

「は、死に様を汚すか。何を頭の沸いたことを、それを信じる馬鹿がどこにいる」

 

「ふふん、世の中には計り知れんほどの方々がいるということだ。俺には主殿の強さが分からなかったがーーおそらく、誰よりも強いのだろうな。貴様の信じる神よりも」

 

「ふん、英雄の最後は黒粉にでも塗れたか。まあ、いい。安心しろ、たわごとは聞き流して格好をつけた言葉だけを後世に伝えてやる。--殺せ」

 

 4体の天使がガゼフに引導を渡すために近づいて。

 

 ーー消えた。

 

「「--は?」」

 

 誰もが戸惑っている。そして、ガゼフは一点を見つめている。そこを見ると草苅鎌だった。村人の置忘れ? などとニグンは一瞬思うが、だとしたらなぜここにあるのか。

 

「「「ーーオオオオオオオオ」」」

 

 頭をかき回されるような多重音声。心臓をわしづかみにするような声が幾重にも重なって響いてくる。……村の方から。

 

「……ゾンビ、だと?」

 

 それはゾンビだった。見たことがないーー腐ってもいない、人の個性を残したゾンビなど。だが、それはアンデッドに違いない。あらゆる生を憎む目があんなにも赤く輝いているのだから。

 

「馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なーーなぜアンデッドが発生する!? おかしいだろう、この村は死体の処理すらまともにできんのか!」

 

「はは、貴様らが殺したのだろうに」

 

「殺してからすぐにアンデッド化するわけがあるか。ふざけているのかガゼフ・ストロノーフ!?」

 

「いやいや、身動きできんしふざけもできんよ。これは、助かったということかな」

 

「--気狂いめ。もういい、さっさとガゼフを殺せ! そして防御陣形を取るのだ、天使がアンデッドに後れを取るはずがない」

 

 動いた天使は壊される。しかもそれは投げた鍬や棒切れによるものなのだ。

 

「……っはあ!?」

 

 ありえない。天使を一撃で殺せるようなアンデッドなど、それこそただの一体で現れたともエ・ランテルでさえ多くの血と引き換えに倒すような災害と同義。それほど強力な人類の敵。いや

 

「攻撃力が強いタイプならば防御は薄いはず! 魔法で攻撃せよ、近寄るなーー近よらせるな!」

 

 だが、現実は非常だ。事実はむしろ逆である。ゾンビたちのステはデス・ゾンビ相当……その能力は防御に偏っている。効きやしない。

 

「なぜだ。なぜだァ! 撃ったんだぞ、当たったんだぞ、なんで倒れねえんだ、ありえねえだろ。アンデッドが! 神聖魔法に! 当たってェ! 倒れないなど、あるかァァァ」

 

「……ふふ」

 

 嫣然と笑う女が向こうに見えた。死臭がする。死神のごとき色気。この世のものではない妖艶に背筋が凍る。

 

「き、貴様は?」

 

「ごめんなさいね、うちの子が遊びたいって聞かないのよ」

 

 普通の場所であれば魅力的な笑顔。母性すら感じるだろう。だが、ここではーー

 

「……奴だ」

 

 確信した。あれこそが

 

「奴が死霊術者だ! 殺せェ!」

 

 けれど、天使は動かない。部下は、もうーーありふれたゾンビとなり果てこちらに向かって蠢いていた。

 

「っひ! ひィィ。こ、ここここうなれば最高位天使を召喚するしかない。は、死霊術者などいかなるものかよ。怯え、震えて死を待つがいいーー」

 

 結晶を取り出し、必死に神に祈りながら使用する。今ほど心の底から願っていたことはほかにない。

 

「……リザ」

 

 声。だけど、ニグンは気付かない。

 

「至高天の熾天使だと厄介だな。とはいえ、ここで召喚してくれるなら首を刈れる。リザは動くな、戒、螢フォローを頼む」

 

 そして、召喚。したのだがーー声の主、蓮は動かない。

 

「ふふふ。ははははは! 見よ! 最高位天使の尊き姿を!  威光の主天使〈ドミニオン・オーソリティ〉の美しき姿を。畏れ、声も出ないか。当然だ、魔神すら打倒した最高位天使なのだ。この最高位天使には手も足も出まい。この最高位天使にはなァ」

 

 羽を幾重にも重ねた天使。あまり美しくもない単なる化け物……とは、後世の感覚か。リアルにて伝え聞く天使、今や萌えの対象であるそれはキリスト教誕生までさかのぼると無性であるらしい。そもそも人間の形をしていないのだ、であればアレは原初の天使か。

 

「藤井君?」

 

 動かない蓮に螢が口火を切った。

 

「いや、第7位階とはな。警戒して損した気分だ。だが、デス・ナイトたちには厳しい相手だな」

 

「ならば、僕がやろう」

 

「ああ、頼んだ戒」

 

 大剣を手にした優男が前に出た。

 

「ふふふ。剣を手に、どういうつもりだ? もしや、勝てると思っているのか。最高位天使に。この最高位天使の前に人間の力など通用せんよ」

 

「さて」

 

 不敵に笑う。

 

「行け、威光の主天使〈ドミニオン・オーソリティ〉よ。ホーリースマイトを放て!」

 

 戒がいた場所に光の柱が突き立つ。後に残るのはチリ一つなくーー

 

「ははは、消し飛んだか。馬鹿め、最高位天使に勝てるわけがないのだよ。ふははははーー」

 

 声が、響く。

 

千早振る(ちはやふる)| 神の御末の吾ならば 祈りしことの叶わぬは無し《かみのみすえのわれならば いのりしことのかなわぬはなし》』

 

 不吉な声。そして、その声は先の男と同じそれである。死んだはずの男がどうして、などという疑問を抱く暇はニグンにはなかった。

 

創造(Briah)ーー|許許太久禍穢速佐須良比給千座置座《ココダクノワザワイメシテハヤサスライタマエチクラノオキクラ》」

 

 そこに出現した。そうとしか言いようがないが、実際は気配断ちと体術の組み合わせで視線から逃れていただけだ。ニグンはもちろんガゼフにも見えずとも、もちろん黄昏の面々には見えていた。

 

「腐り落ちるがいい」

 

 触れた。それだけ、最高位天使は地に沈む。腐食し、虫の息になってーー崩れて消える。

 

「……ほへ?」

 

 ぽかん、と口を開けて。ニグンは最高位天使が敗れたという現実を直視できなかった。視線が明後日の方向に向かう。

 

「現実が理解できないか。細胞らしいな、お前たちは自分の見たい現実以外見ていない。不快だな、見ていたくもないよ」

 

「おろ? うむ。ああーー最高位天使が人間などに負けるわけがないのだ。しかし、一撃では足りなかったようだな。よし、二発目のホーリースマイトで消し飛ばしてやろう」

 

 と、そのようなことをぶつぶつと言っている。ありていに言って、精神異常者の有様であろう。

 

「だから、死ね」

 

 腐食の風が吹いた後、黒色のヘドロが残った。

 

 




ちょっと解説
 戒のカルマ値の設定はー500です。蓮もー500。先輩だけ+13くらい? とか考えたけれど他はどうしよう。一律に―500でもいい気もしますが。リザは低めかな。
 ラスボスに対抗できる渇望を持っている時点で、人間社会の倫理など気にもかけないだろうから―500です。流出位階もそんな感じ。黄昏の面々は殺戮系ではないのでまだマシですが、それでも王様とか法律とか気にするはずがありませんね。悪即斬の渇望で王様が悪だと認定した場合は、国民がどうなろうが斬るような人たち。
 戒は本性出してない状態なら、ドミニオン・オーソリティに負けることもあるかもしれませんね。ホーリースマイトでかなりのダメージを受けてそのまま押し切られる可能性もあるけど、それはPCが相手だったらの話。上のあれはかわしただけです。かわした上でため時間のある強攻撃で一気に沈めました。ニグン相手なら何度やっても負けない。


お知らせ
 パーティ募集は今週までです。中間として螢ちゃんは参戦決定。弄られキャラとして輝いてくれるでしょう。後は募集の結果と作者の個人的な趣味で残り二人を決定します。

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