dies in オーバーロード   作:Red_stone

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 エンリはガチの英雄。黄昏の特攻隊長を(どうせ全員細胞に決まっているのだから、言われた通り調査はするけど終わったら殺し尽くす)から(どうやら人間もいるらしい。確かめる必要があるか)に変えた功績は計り知れない。
 王国民虐殺ルートの可能性が9割から3割くらいに減りました。(数値は適当)



第10話 模擬戦

 

 

 広場の中央で二人、剣を構える。ベアトリスは借り物の剣を手にしている。だが、ガゼフもまた手に持つのは握りなれた剣ではなく、倉庫の予備を引っ張り出してきたものだ。条件は五分と呼べずとも、近くはある。互いに本気を出しようがないという点で。

 

(--だが、ベアトリス殿は剣を借りたときに振って調子を確かめた。立ち居振る舞いから分かる通り、型もこの上なく流麗だった。彼女は強い。おそらくここが練兵場で、互いに木剣を持っていたら負けるのは俺のはず)

 

 けれど。

 

(隠すべきだったな、型を。振るときに重心がわずかに下がっていた。たったひと振りで矯正したのは見事の一言に尽きる。が、これは勝負。弱点があるのならつかせてもらう)

 

 重心が下がっていたというのは、常はもっと軽い剣を振っていたということを示す。別に借り物が使いにくいとか言うことは期待していない。だが、己が得意とするのは剛剣ーー生半可な技術など一切合切叩き斬ってしまう。

 

(ふむむ、彼は弱いですねー。これは、真の姿は解放できませんですね)

 

 一方で、ベアトリスもまたガゼフを品定めしていた。

 

(彼が実力者であるというのは、部下の反応から見ても間違いはない。村人が言うには王国最強だそうですが、私から見れば弱く拙い。ただの人間としか見れない。こんなんでも最強ならば私一人でも王国を滅ぼせますね。とはいえ、私の知らない”何か”がある可能性もありますし。まさか藤井君に地雷原を歩かせる真似をさせるわけには行きません。とりあえずは私がちょこちょこ歩いてみますか)

 

「……中々隙を見せませんね、ベアトリス殿」

 

「ええ、あなたも噂に違わずの腕前。お見事です」

 

「あなたを前にすると自信を失ってしまいますがね」

 

「いえいえ。私などはまだまだです。単純な剣の技量も、心の方も」

 

「謙遜とは。そこまでの力をお持ちでも自戒を忘れない。心技体ーーそこまで高められているまど、正直言ってあなたのレベルに到達したお方がいるとは信じられないほどだ」

 

 ガゼフは額に汗をかく。わずか数分の睨みあい、ここまでの戦いでは有利もくそもない。けれど、このまま続けば決定的な隙を晒すのはガゼフの方だ。

 

(ーー心の修練が足りないのは私の方であったか。しかし、高々10分程度にらみ合ったくらいで気が削がれるとは。知らず知らず、俺は五宝物の疲労無効に頼っていたらしい)

 

 苦笑して。しかも、こちらは【可能性知覚】まで使っているのに全く打ち込める気がしない。どの角度から打ち込もうとも逆襲される未来しか見えない。

 

(ならば、こちらから攻める。彼女の主武装は軽い剣、打ち合いよりもむしろ隙をつくことに適性があるのならーーつばぜり合いに持ち込めば!)

 

 意を決して踏み込む。負けるつもりなどない。男の意地だ、最初から負けるつもりで挑むなど格好悪いことこの上ないだろうが!

 

「行くぞォ!」

 

 それはまさに剛の一撃。気を込めた一喝で動きを封じ一息に斬る。技術は一撃のためにあるのだと、そう喧伝してはばからない強烈無比な技をーー

 

「……ふむ。こう来ますか」

 

 ベアトリスはこともなげに受け止め、そらす。

 

(こうなることは分かっていた。ただの力技の一撃で崩すことはできない。だから、至近距離での打ち合いにもっていく。……【即応

 

「隙ができましたよ」

 

 彼女の守りは攻めにつながる。連結するーー技の結晶。そもそも攻めと守りの差異すらわからないほど見事な淀みを知らない川のごとき剣技。

 

「うーーおお! 反射】ァ」

 

 ぎりぎりでかわしたところから武技による体勢変化。一瞬で攻撃ができる体勢までもっていく。

 

「……ッ!?」

 

 彼女が驚く。……驚く? 実力者ならば、そう珍しい武技でもないのだがーーともかく今が好機!

 

「おおおおおおおお!」

 

 一撃一撃に気迫を込める。勝つ術はそれしかないと確信した。技量で負けている。心で負けている。ならば、頼るのは”意地”しかないだろう!

 

(先の攻撃。武技よりも早い技……そうだ、俺は己惚れていた。戦士長などとちやほやされって知らず傲慢になっていった。これこそが、技量を極めた者の戦い方。攻撃や防御が一連の流れになっている。切れ目がないそれは美しい。だが、俺はどうだ? 武技だよりで物切れの見るにたえないお粗末さ)

 

「ぬぅ……おおおお! 【即応反射】。ぬおーー【即応反射】! 【即応反射】ァ!」

 

(だが、だから負けましたなど言うつもりはない。ガムシャラに一直線にーーそれしかできることがないならば、それだけはやらせてもらうぞ! 素晴らしき武芸者よ)

 

「ガアアアアアア!」

 

「……」

 

 ベアトリスは木の葉のように、ひらりひらりと受け流す。この程度か、と言いたげな視線を感じて。

 

「っく。本当にお強い。あなたは、どこでその力を手になされた……?」

 

 一度引く。正直にやっていては、ここで手を止めては勝てはしない。けれど、あれ以上続けても無為に体力を消耗するだけだ。

 

「ふふ。遠い故郷で、上官に嫌になるほどしごかれまして」

 

「なるほど。その上官というお方にお会いしてみたいものだ」

 

 じりじりと、円を描くように移動する。やはり、隙など見つかるわけがない。……けれど。

 

「戦場のやり方でやらせていただく!」

 

 石。顔面めがけて蹴とばした。

 

「--見せてもらいます」

 

 剣を傾け、あっさりと弾き飛ばされる。が、欲しかったのはその一瞬。武技というものは隙にしかならない、彼女と戦ってそう感じたーーけれど、俺はずっとそれを積み上げてきた。だから、”それ”にかけるのが男というものだろう。

 

「武技……【六光連斬】!」

 

 大技にすべてをかける。俺の最高の武技。ガゼフという男の到達点。これこそが”俺”なのだと誇る。

 

「……ッ!」

 

 彼女の目が細まる。剣気が高まるのを肌で感じる。まさか、全てを撃墜しようとーー

 

「あーー負けてしまいました、ね」

 

 6つのうち、5を撃ち落としたのちに彼女の剣は弾かれた。

 

「ーーありがとう、ござい……ます。ベアトリス殿」

 

 これは、きっと勝利を譲られたということで。彼女はその気になっていれば、耐えきれたのだろう。そして、それは大技で隙だらけの俺をどうにでもできたということで。

 

「いえいえ。勝者は歓声に応えるのが華というものです。皆さん、喜んでらっしゃるようでよかったです」

 

 屈託のない笑み。彼女は全く気にしていないようだ。

 

「敵いませんな、ベアトリス殿には。……お前たち、少しは静かにせい! 騒げる元気があるなら復興の手伝いの一つもせんか」

 

 口では怒りながらも、笑みが浮かんでいる。そして、そこに急報が飛び込む。

 

「ーーせ、戦士長ォ天使が。天使が村を囲んでいます。敵が!」

 

「なんだとォ!」

 

 向こうで見物する蓮に視線を送る。

 

「帝国軍の後詰めといったところでしょうか」

 

 一応丁寧語で話す蓮。

 

「いえ、天使を召喚するほどの手練れをこの規模で用意できるのは法国以外に考えられない」

 

 ふむ、ではーー戒が聞き出した話は正しかったのかと納得する。だが、蓮は言葉にも態度にも出さない。様子見だ。実は全滅させる気満々だったNPCたちと違って、蓮はこれといった思惑を持っていない。黄昏に害をなすものは殲滅するが、他は決めかねている。

 

「ーー藤井蓮殿。あなたはこの者たちのリーダーとお見受けしてお願いする。王国に仕えてはくれないだろうか?」

 

「それは断りますよ。俺たちはどこの勢力にも与するつもりはありませんーーもちろん、法国にも、帝国にも。あなた方にも」

 

 だから関わりと呼べるものはさける。国というのは裏の顔を持つものだし、それに検討がついている。どういう形でも関係のない他人が、情報が少ない今は望ましかった。

 

「……残念だ。しかし、一時的にでも手を貸していただけないだろうか」

 

「一時だとしても、傘下に入るとはどういうことを意味するかは、あなたは理解しておられるはずだ」

 

 傘下に入る、とは下になるということ。上だったものが下になることはあり得ない。雇われたというのは下につく関係になる。つまり、雇われた事実こそが下だと証明する。彼らの黄昏は王国より下であると。そんなことは認められない。大体、ここで雇われるとは強制徴用と何ら変わりがない。1度目があれば何度でもが人間の心理というものだろう。

 

「失礼なことを言った。謝罪する」

 

 ガゼフは無理と諦めた。無理を通しては、むしろ己らがここで全滅しかねない。……というか、先ほど戦ったベアトリス殿ならば全員の首をはねることも可能だろう。彼女一人でそれだ、彼らは五人いるのに何ができるのか。いやーー副リーダー殿を人質にできれば……無理だな。

 

 実際のところガゼフが侮った戒は最強戦力に近い。とはいえ、それも仕方ない。弱く見えるのは、実力が隔絶しているからそう見せることが可能で、彼は泥をかぶるのが好きだからそうした。足手まといを連れてないパーティよりも連れているパーティの方が取っつきやすいし、狙うとなれば一番弱い奴だろう。

 

「いえ、必要ないでしょう。あなたはそういうことを言ってはいけない立場におられる」

 

「では、一つお願いが。どうか、この村を守っていただけませんか? 我々はこれより法国兵に突貫する。そのあとどうするかはあなた方の勝手であるはず」

 

「そうですね。一度救ったものをすぐに見捨てるのも目覚めが悪い。あなたのお願いは聞き入れました。けれど、どうするかは俺の勝手です」

 

「……すまない」

 

「いえいえ、勝手にすることですから」

 

 息を吸い、鬨の声を上げる。

 

「お前たち! 敵は法国兵! 敵は天使! 魔法の武器がなければ危ういだろう。ゆえ、奴らは勝利を疑っていない。だからこそ、鼻を明かせてやろう。ーー撤退だ! 敵の中央を食い破り、前方に撤退する。遅れた者は捨て置け。……行くぞ!」

 

 幸いと言えるのか、わずかな小休止で装備の類は外していない。馬に飛び乗れば、それで戦闘態勢は完了する。すぐに隊列を組み、敵へと向かう。

 

 ……それを虎のアギトと知りながら。

 

 

 





 なんか模擬戦書くのが難しかった。ベア子は手加減しまくってるし、ガゼフは生き残ってるから色々と裏考えてるし。あとガゼフは許されたわけではなく、情報源として殺せなかったので保留状態です。

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