アーチャー・インフェルノさんのカルデアゲーム日記   作:レザス

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ネタが思いついたので続き書きました。
完全に蛇足ですが読んでいただけると嬉しいです。

また、作品内に登場するゲームは全て架空のものです。
真名バレ、絆セリフバレあります。

Pixivにも投稿しています。


アーチャー・インフェルノさんの続・カルデアゲーム日記

巴は駆けていました。

 

炎により燃え続ける、血にまみれた戦場をただただ駆け続けていました。

 

この戦場に我が愛しの君、義仲様はおられません。

 

共に戦った、戦友らも、そのほとんどが敵にやられ。立派な最期を遂げました。

 

この戦は既に負け戦。

 

本来ならば、守るべき者が敵に蹂躙されるのを眺めることしかできません。

 

でも、しかし、だからこそ生前、説得され戦場を離脱し、義仲様の最期を看取ることができなかった巴は思うのです。

 

今度こそ、モノノフとしての最期を遂げるのだと。

 

この身に流れる鬼の血によって、一切の敵を葬りさるのだと。

 

その時、ピタリと巴の足が止まります。

 

巴が駆けた先には、大量の敵が待ち受けていました。

 

中央には指揮を執っている、敵の軍師が。

 

敵の軍師は巴の存在を確認し、不敵な笑みを浮かべています。

 

あの軍師により、巴の戦友たちは多くが倒れることとなりました。

 

あの軍師だ、あの軍師さえ倒せば戦況は変わる!

 

そうして、巴は敵陣の中に吶喊を仕掛け――

 

「今だ、鶴翼の陣をかけろ」

 

軍師のその言葉を最後に、巴の心の臓は無数の火によって貫かれました。

 

 

==

 

 

「あああーーーーー!!ついに......ついに......負けてしまいましたあ......」

 

【YOU LOSE】と表示される画面を見て、彼女―アーチャー・インフェルノこと巴御前はうなだれるように撃沈した。

 

うなだれているが、正座の姿勢を崩さないのは彼女の生まれのよさか、それとも例の事件の反省からか。

 

「まさか、巴のスキルを持ってしても破ることができないとは......」

 

彼女は悔しさを滲ませた顔で、そう呟く。

 

「たしかに貴女の戦術は見事だった。だが、戦術にゲームの腕がまだ追いついていないようだな。せっかくヘッドショットチャンスもブレブレのエイムでは意味がなかろう」

 

彼女の言葉に対して、敵の軍師―孔明先生ことエルメロイ二世が状況を冷静に分析する。

 

「も、申し訳ありません巴殿。いつもの任務と勝手が異なるとはいえ、あんな策に引っかかるとは拙者はくノ一失格です......」

 

うなだれる巴に、アサシン・パライソこと望月千代女が申し訳なさそうに声をかける。

 

「いえ、望月殿、あなたの責任ではありません。全て私の至らなかった次第」

 

巴はぐぬぬといった表情で、千代女に答える。

 

「デュフフフww美少女ポニテ鬼っ子のぐぬぬ顔ktkr。NDKwwwNDKwww」

 

そんな二人を孔明先生と同チームだった黒髭が煽り始める。ほんとに例のAA通りのポーズなのがうざい。

 

あ、後ろに控えていたアンメアコンビに銃でぶっ叩かれて連れてかれた。助け――なくていいか。

 

「まーまー、楽しかったからいいじゃん!」

 

悔しそうにしている二人とは対照的に同チームの女剣士、宮本武蔵は朗らかに笑う。

 

まあ、真剣ではあったがたしかにみんな楽しそうではあった。

 

「もう一回!もう一回お願いいたします孔明殿!」

 

「私は別に構わんが......」

 

そう言って、孔明先生は再戦のボタンを押す。あ、いつのまにか黒髭も戻ってきている。

 

巴は姿勢をただすと「今度こそ勝つ!」といった面持ちでコントローラを握り締める。

 

武蔵ちゃんと千代女も同様だ。

 

俺、マスター・藤丸立香はそんな状況を横から眺めていた。

 

なんだか最初はやけにシリアスな雰囲気であった気がするが、なんのことはない。

 

ここはカルデアのレクリエーションルーム。彼らサーヴァントたちは、そこに備え付けられているテレビゲームで遊んでいただけである。

 

 

例の事件以降、巴御前がゲーム好きであるのはカルデアの職員、サーヴァントたちの間で周知の事実になった。

 

彼女は例の事件のことを相当恥と感じたのか、英霊の座に帰ろうともしたが、みんなの必死の説得によりことなきを得た。

 

その後、しばらくは彼女自身はゲームを控えるようになったが、彼女がゲーム好きと知った、他のゲーム好きサーヴァントたちが一緒にプレイしようとアピールするようになった。

 

事件の恥からか、当初は逃げるように断っていたが、だんだん勢いに押され、しぶしぶ参加するようになった。

 

そして次第に他のサーヴァントたちと打ち解けていき、このようにワイワイとゲームをプレイする姿が見受けられるようになった。

 

どうやら彼女は一人になると熱中しすぎてしまうようなので、みんなでプレイする分には問題ないらしい。

 

ちなみに今、彼女たちがプレイしているのはジャンル的にはFPSと呼ばれるもの。

 

意外なことにこれが巴御前の得意ジャンルらしい。

 

その理由は彼女の持つ、サーヴァントとしてのスキルにある。

 

彼女のスキル「乱戦の心得」はその名のとおり、多対多、一対多の戦いで補正がかかるスキルである。

 

どうもそのスキルがゲームの戦いでも適応されるらしく、多対多、一対多の状況が生まれやすいFPSでは彼女は非常に強いらしい。

 

ゲームでサーヴァントのスキルを使うのはどうなんだとも思えるが、直感持ちサーヴァントは直感で意図せず弾を回避してしまうし、エルメロイ二世も依り代である諸葛孔明の戦術を使っているので特に問題はないようだ。

 

そんなわけで、彼女は召喚時期が近い武蔵ちゃんや千代女とチームを組んで、連戦連勝していたのだが、そこに待ったをかけたのが孔明先生だった。

 

どうも彼女達の戦いぶりにゲーマー魂に火がついたらしく、黒髭という強力な助っ人も用意し、戦い――結果は見ての通りである。

 

紆余曲折はあったが、巴御前がカルデアに馴染むことができてなによりである。

 

「あ、みんなそろそろ修練場の時間だから、戦闘準備に入ってもらえるかな?」

 

二回目の対戦―またも孔明チームの勝利―が終わったのを見計らって声をかける。

 

「おっと、もうそんな時間か。巴殿、続きはまた今度にさせていただく」

 

「残念ですが、仕方ないですね。みなさん本日はとても楽しい一時を過ごすことができました」

 

巴がみなに深々とお礼をする。

 

他のサーヴァントたちも楽しかったよーと口々に答え、戦闘準備に入る。

 

そして巴もそれに続いて戦闘準備に入ろうとするが、

 

「あ、ごめんなさい。巴さんは午前中に早朝に出撃したので今回はお休みです」

 

今日の修練場は残念ながら巴の出番はない。

 

「む、そうでしたか。では、巴はしばし待機させていただきます」

 

巴は納得した様子で戦闘準備を中断する。

 

そして、この後暇な時間をどうしたものか思いをめぐらせているようだ。

 

「うん。それで、今から暇になっちゃうと思うんだけど......」

 

俺が言葉を発すると、自分の考えが読まれたのが恥ずかしかったのか、彼女は顔を赤らめる。

 

「申し訳ありませんマスター......二度とあのような醜態は見せませんので......」

 

「あ、違う違う。そうじゃなくて......」

 

どうやら彼女は一人で残るにあたって、例の事件のことを指摘されると思って恥ずかしがったらしい。

 

俺は慌てて、用件を切り出す。

 

「これ、きっと巴さんなら楽しめるかなーと思って」

 

そう言って俺は巴さんにある物を手渡す。

 

「これは......たしか【たぶれっと】というものでしたか?職員の方が持っているのを見た覚えがあります」

 

巴は不思議そうにタブレットを受け取る。

 

「そうそう。これは俺の私用タブレットなんだけど、実はこのタブレットでもゲームができるんだ」

 

「なんと。このような薄い板でゲームができるのですか」

 

巴は感嘆の声をあげた後、ハッとなってタブレットをこちらに返そうとしてくる。

 

「心遣いありがとうございますマスター。ですが、また一人でゲームをしては以前のような醜態を見せてしまうかもしれませんので......」

 

ずーんとした雰囲気になる巴。

 

「いや、あれは孔明先生が勧めたゲームが悪かったのだと思うよ?さすがにゲーム初心者にC○v4はね」

 

Ci○4...あれは一種の麻薬に近いと思う。

 

「まあ、ちょっと見てみてよ」

 

俺はタブレットの電源をつけ、ゲームのアプリを起動し、巴に画面を見せる。

 

さすがにずっと落ち込んでいると悪いと思ったのか、巴も画面を覗き込んでくる。

 

「おお、ホントにこのような小さな板でゲームができるのですね」

 

画面を食い入るように見る巴。やはり彼女はゲームが好きなようだ。

 

そして起動したアプリのタイトル画面があらわれる。

 

「ね○あつめ......ですか?」

 

巴はアプリのタイトルを口にする。

 

俺はタイトル画面をタップし、ゲーム画面へと移動させる。

 

「巴さん、画面に映っている、猫の餌を指で触ってみてください。」

 

「こ、こうですか?」

 

巴は恐る恐る画面をタップする。

 

「あ、画面の庭に餌が置かれました」

 

「はい、こうした状態でしばらく待つと......」

 

巴が餌を置いて10秒ほどたつと餌の近くに猫が現れる。

 

「あ、猫が出てきました!」

 

巴の顔がパッと笑顔になる。

 

「えと、このゲームはねこ○つめと言って、こうやって餌を置いて、猫を集めるゲームなんです」

 

ねこ○つめに興味津々な彼女に俺は説明を続ける。

 

「やることは餌やグッズを置いて、後は眺めるだけなので、以前みたいに熱中しすぎることはないと思います」

 

C○v4はやることが多すぎて、ついつい後一ターン!となってしまうからなあ。

 

こういうゲームなら彼女も我を忘れて熱中しすぎてしまうこともないだろう。

 

「巴のことをそこまでお考えになっていてくださったとは......感謝いたしますマスター」

 

背筋を伸ばして巴は深々と礼を垂れる。

 

「いえいえ、こんなことでそこまで喜んでもらえるなら、マスターとしても嬉しい限りです」

 

巴のあまりの笑顔と礼儀正しい感謝に少々照れくさくなる。

 

「じゃあ、俺は修練場の方に行ってきますので、戻るまでそれで暇をつぶしててください!それにあるゲームなら熱中しすぎることもないと思うので!」

 

俺は巴に背を向け、修練場の方に向かう。

 

「はい、お気をつけてください。マスター」

 

巴はそれを笑顔で見送った。

 

 

==

 

 

数時間後......

 

「ふふ、大分、ネコさんたちも集まってきましたね」

 

現在は誰もいないレクリエーションルームで、巴はすっかりねこ○つめにはまっていた。

 

とはいえ、今回はマスターの言っていたとおり、我を忘れて熱中しすぎていることはない。

 

髪は綺麗に整ってるし、休憩中なのである程度崩してはいるものの姿勢は良く、目に隈ができていることはない。

 

「義仲様やマスターも楽しく遊んでおられるようで何よりです」

 

義仲とマスターといったがこれは本物の義仲とマスターを指しているのではない。

 

その声は画面の中の二匹のネコたちに向けられていた。

 

このゲームは集めたネコに自由に名前をつけることができる。

 

そこで巴はネコたちの中でもとりわけ仲のよかった二匹にそれぞれ「ヨシナカ」「リツカ」と付けたのである。

 

(きっとお二人が出会ったら――このネコたちのように仲良く笑い合うことができるのでしょうね)

 

そんな想いを秘め、巴はネコたちに二人の名前を付けたのだった。

 

(私はサーヴァント。いずれこの地上からは消える身。それでも、そんな光景を夢見ることぐらいは許されるでしょう)

 

巴は穏やかに微笑みながらゲームの操作を続ける。

 

「あ、そろそろ餌が無くなりそうですね。補充しませんと」

 

巴は餌の補充のために指を動かす。

 

「あっ......」

 

しかし、その指は誤って別のボタンにふれてしまった。

 

それはタブレットのホームボタンであった。

 

「ねこ○つめの画面が消えてしまいました......」

 

当然、ゲームの画面は消える。

 

巴は慌てて、元に戻そうとする。

 

「えと、たしかマスターはこの部分を触っていたような......」

 

巴はマスターがねこ○つめを起動したときのことを必死に思い出し、操作を再現しようとする。

 

しかし、悲しいかな。今、開かれている画面は最初とは違う画面だった。

 

マスターが押したときとは違うアプリが画面には表示されていた。

 

「あ、何か出ました......でもねこ○つめの画面とは違うような......?」

 

アプリが起動されタイトル画面が開かれる。

 

先ほどのねこ○つめとは対照的な勇壮な音楽がタブレットから流れてくる。

 

「戦国......ばとるこれくしょん......?」

 

タイトル画面には侍と思しき人物が、不敵な笑みを浮かべ刀を構えており、でかでかと【戦国バトルコレクション】というタイトルが映っている。

 

「これもゲームなのでしょうか?」

 

気になった巴はついタイトル画面をタップする。

 

すると、いきなりゲームがスタートする。

 

「あ、はじまってしまいました。」

 

ねこ○つめに戻ろうと指を迷わせる巴であったが、途中でその指を止める。

 

(マスターはたぶれっとのゲームなら熱中しすぎることはないと言っていましたね。ならば、こちらのゲームで遊んでも大丈夫でしょう)

 

そのように納得し、巴はそのまま戦国バトルコレクションを続けることにした。

 

そしてチュートリアルをこなすこと約10分。

 

 

......

 

 

「ふむ、このゲームは侍を集めて、戦わせるゲームのようですね」

 

既にある程度、ゲームという概念に慣れ始めていた巴は、ゲームの内容をすぐに理解することができた。

 

「こちらはネコではなく侍を集めるのですね」

 

巴は指を動かし、画面をスライドさせる。

 

そこには様々な武将がリストになって並んでいた。

 

「聞き覚えのあるお名前もいくつかありますね。沖田さんに織田さん、佐々木さん。......何故か沖田さんと織田さんは男性になっていますが」

 

妙な違和感も覚えながら、色々なところをタップしていく。

 

ねこ○つめに比べるとやることは多そうなゲームである。

 

「それでも、以前プレイしたC○v4ほどではないですね」

 

これなら、我を忘れて熱中してしまうこともなさそうだ――巴はそう考えながらゲームを操作していく。

 

「これは......」

 

操作していく内にゲームの中の、あるバナーに眼がとまる。

 

「いべんとくえすと......?」

 

赤いバナーに大きく書かれた【イベントクエスト】の文字、巴は吸い込まれるようにそれをタップする。

 

そして――

 

新たに開かれた画面は巴にとって衝撃的なものであった。

 

「こ、これは!!!!」

 

 

==

 

 

レクリエーションルームを後にして、ほぼかなりの時間がたったころ、俺、藤丸立香はようやくカルデアに帰還した。

 

「お疲れ様です、先輩。あとはゆっくりお休みになってください」

 

「ああ、ありがとうマシュ」

 

サーヴァント姿から元の私服姿に戻っているマシュが声をかけてくる。

 

たしかに身体中から疲れがドッと沸いてくる気がする。

 

「あー疲れた!こんな時はうどん食べにいくか!」

 

刀を納めた武蔵はそんなことを叫び、じゃあね~と手を振りながら食堂の方に一直線で進んでいく。

 

以前から知ってはいたが、彼女のうどん愛は凄いな。

 

「では、拙者はマスターの護衛を」

 

千代女は辺りを警戒しながらサッと俺の傍につく。カルデアの中ならそこまでしてもらわなくてもいいんだけどなあ。

 

「では、私も休ませてもらおうか。積んでいるゲームもあるのでな」

 

最後の一人、孔明先生は疲れた様子でそんなことを口にする。

 

ゲーム、ゲームか......

 

「そういえば、巴さんからタブレットを返してもらわないと」

 

孔明先生の言葉に、巴にタブレットを貸していたことを思い出す。

 

「なに?彼女に一人でゲームをやらせているのか?その......色々と大丈夫か?」

 

俺の言葉に孔明先生が苦々しい顔をする。

 

孔明先生は例の事件の発端となった人だ。責任を感じているのだろう。

 

「大丈夫ですよ。彼女にやらせているのはねこ○つめですし、中毒性のあるゲームはタブレットには入ってませんから」

 

「それなら心配はないか......マスターは今からレクリエーションルームに?」

 

ふむ、と孔明先生は納得する。

 

「はい、多分彼女はまだそこにいると思うので」

 

「私もレクリエーションルームに置いたままだったはずだ。同行させてもらおう」

 

「分かりました。マシュと千代女も行こうか」

 

側にいる二人にも声をかけ、俺たちは四人でレクリエーションルームに歩を進めた。

 

 

==

 

 

「巴さーん。ただいま戻りました!」

 

レクリエーションルームにはすぐに着いた。

 

扉が開かれると同時に巴を呼びかける。

 

「あれ?」

 

と、同時に違和感に気づく。

 

やけにレクリエーションルームが騒がしい。

 

サーヴァントや職員がある一点を中心に円をつくり、「ナニカ」を遠巻きに眺めている。

 

「何かあったのでしょうか......?」

 

マシュが不安そうに呟く。

 

マシュの声に俺も何かあったのか気になった。

 

俺は人ごみの中のサーヴァント―坂田金時に声をかける。

 

「金時、この騒ぎ一体何があったの?」

 

「お、マスター戻ったのか」

 

俺の存在を確認し、金時はニヤっとこちらに笑みを向ける。

 

筋骨隆々のバーサーカーだが、彼は優しい性格の持ち主だ。

 

「いやあ、それがよぉ......あぁ、なんて説明すりゃいいか」

 

俺の問いに金時は口ごもる。

 

「うーん、まあ実際に見てみたほうがはえーな」

 

金時はそういうと俺を連れて、人ごみのなかに突っ込んでいった。

 

そして、人ごみの中央で俺が見たものは――

 

 

 

 

 

目を真っ赤にして泣き崩れる巴御前だった。

 

「と、巴さん!?」

 

俺は驚いてつい叫んでしまう。

 

「どうしたんですか!?」

 

後ろからやってきたマシュや孔明先生も驚いた表情を浮かべている。

 

俺は慌てて彼女に駆け寄る。

 

すると彼女もこちらに気づいて顔をあげる。

 

「ま、ますたぁ......」

 

彼女の顔は涙でまみれて凄いことになっていた。それでも美しさは変わらないのはさすがか。

 

こんなに泣き腫らして一体何があったのか。

 

その姿に困惑していると、彼女が口を開く。

 

「ついに......ついに......義仲さまがドロップしたんです!」

 

彼女の口から飛び出したのは分けのわからないことだった。

 

え?なに?義仲様がドロップ?

 

義仲様とは彼女、巴御前の最愛の人だ。それはマイルームで何度も聞いている。

 

それがドロップした?とは一体どういうことなのだろうか。

 

「原因はこれか......」

 

疑問が沸き出る中、孔明先生がタブレット―俺が彼女に貸したもの―を拾い上げる。

 

「え、どういうことですか先生?」

 

先生は無言でタブレットを渡してくる。

 

画面を見ると、そこにはソーシャルゲーム【戦国バトルコレクション】のゲーム画面が映っていた。

 

そして、その画面の中央に表示されていたのが......

 

「木曽義仲降臨イベント......?」

 

であった。

 

なるほど、彼女はこのゲームをプレイし、キャラクターである【木曽義仲】がドロップするまで掘り続けたのだろう。

 

そして、徹夜で掘り続けた結果ドロップして、疲れも合わさり、感極まり泣いてしまったと。

 

しかし......

 

「マスター。君は中毒性の高いゲームはタブレットには入ってないと言っていた筈だが?ソーシャルゲームなど中毒性の高いゲームの最たる例だぞ?」

 

孔明先生にそう指摘される。

 

いやそう言われても、ソーシャルゲームがタブレットに入れてあった記憶なんてさっぱりない。

 

だからこそ、彼女にこのタブレットを渡したのだが......

 

そこで少し考えを巡らす。

 

いや、待て、でも、この戦国バトルコレクションというゲームは見覚えがある、たしか......

 

「あ」

 

人理焼却......外界からの断絶......

 

もしかして......

 

「そういえば、このゲーム一年前、カルデアに来る前にインストールして......でもソシャゲーだから人理焼却でプレイできなくなって......」

 

そのまま完全に存在を忘却していた。

 

やってしまった......

 

「F○ck......」

 

孔明先生もうなだれる様に毒を吐く。

 

「先輩......?孔明先生......?」

 

マシュが心配そうにこちらを気遣う。

 

色々あるけど今日もカルデアのゲーム事情は平和です。

 

俺は力なく腰を落とすことしかできなかった。

 

 

 

おわり




巴さんに聖杯使いました。

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