捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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題名を少し変えさせていただきました。
すみません。


捻くれ者の最弱最強譚#8

「では……始め!」

 

 先生が合図する。その瞬間、目の前にいたはずの水戸が消えた。いや、消えることはありえない。

 消えたのではなく、目で追うのが精一杯の速さでこちらに向かって突っ込んできた。それはもう、とてつもない速さだ。

速さには慣れている俺でも、目で追うのがやったの速さ。

 

(ッ!?マジかよ!?速すぎだろ!)

 

 そして、開始1秒にも満たない間に水戸は俺の目の前へと着ており、俺を殴り飛ばすためだろうか、握り締めた拳を後ろに振りかぶっていた。

 

「フッ!!!」

 気合を入れた全力のパンチなのだろう。口から空気の漏れる音が聞こえるが、そんなのはどうでもいい。

 水戸が放った拳は今まさに俺の鳩尾に向かってきているのだ。しかも、全身纏いの状態で、だ。こんな攻撃を生身で喰らうと一溜りもないだろう。

 普通なら全身纏いは出来なくても、纏いで少しでも攻撃の威力を減らす防御をするのだが、俺には纏いの出来る元素量、元素濃度はない。

 

「クソっ!」

 

 つまり、ほぼ生身でその攻撃を受けないといけない。

 だが、まぁ、俺には俺にしか出来ないであろうやり方で防御出来る。

 

 とっさに、水戸の攻撃を鳩尾に届く前に止めるため、鳩尾の前に腕を交差させ攻撃を受け止める。もちろん《《生身ではなく元素を使っての防御》》で、だ。

 

 

「グッッ…!?」

 防御した。したのだが、その勢いは止まらず、ものすごい勢いで吹き飛ばされる。

 それもそうだろう、水戸は10mも助走を付けたトップスピードの状態での攻撃だ。全身纏いと言うだけでものすごい威力を持つ。その上にとてつもないスピードまでもが上乗せされている。

 そんな攻撃が簡単に受け止められるはずがない。勢いまで簡単に受け止められるはずがない。

 

 そして……

 

 ドォーーーーーン!!!

 俺は壁まで吹き飛ばされた。そして壁に埋もれる。

 

 そこからは、

 勝ちを、勝利を確信した顔付きの水戸水菜。壁に埋もれたまま動かない八神界人。先生が八神に近づき、戦闘続行できるかどうか、意識があるかどうかを確認しに行く。

 確認するが、八神には意識はない。それもそうだろう。EランクがAランクの、それも全身纏いの攻撃を受けたのだから、大丈夫のはずがない。

 先生は八神が戦闘を続行することが不可能と考え、手を挙げ、そして、水戸の方へ顔を向けながら高らかに宣言する。

 

「八神、戦闘不能!よって勝者は、水戸水菜!!!」

 その宣言によって、水戸水菜は全身纏い解除し、一瞬だけ、八神の方を一瞥してからこの闘技場を後にする。

 観覧席にいる生徒達は先生の宣言を聞き、やっぱりな、というような

 雰囲気になっている。そして、御子柴だけは心配そうにしている……

 

 そして、後日、EランクがAランクに生意気にも勝負を挑んだにも関わらず、たった1秒でノックアウトされた。と言うような噂や、新聞が出回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そうなるはずだった。

 誰もがそうなると思っていた。俺が壁に埋もれているのを、みんなが確認してからは、普通はそのような流れになるはずだった。

 誰もがそういう流れを想像しただろう。 そうなることを想像しただろう。

 だか、そうはならなかった。

 

「なっ!?嘘でしょ!?」

 水戸の驚いた声がする。水戸は勝利を確信していたのか、全身纏いは解除されていた。観覧席にいる生徒達も驚きの声をあげている。

 それもそうだろう。勝利を確信していたのだ。それなのに、そうならなかったのだから、それはもう驚くに決まっている。

 

 なぜなら、

「イッ……っっ……フゥ~…結構効くな……」

 そこには、壁に埋もれたまま意識を失っているはずの八神界人が、俺が立っていたからだ。

 

 俺は肩を回したり、手首を回したり、アキレス腱を伸ばしたりなど、簡単なストレッチをしながら元いた場所へと歩いていく。

 

「な、なんで!!なんで普通に立っていられるの!?なんで、効いてないの!!」

 そして、壁から元いた場所の半分ほどの距離まで来たところで、水戸は声を荒らげて聞いてくる。

「普通じゃねーよ。痛かったし、効いてる。でも、気を失うほどではなかった。それだけだ。」

 そう。普通に痛かった。攻撃をガードした腕も、吹っ飛ばされた先で壁にぶち当たった時の背中も痛かったし、効いてないわけがない。ただ、()()意識を刈り取るには至らなかった、と言うだけだ。

 

「なら、なんで!普通なら立てないはずよ!」

 水戸がそう言ったところで、試合を開始した時にいた場所、俺が元いた場所へと到着する。

 つまり、水戸のすぐ目の前にだ。俺と水戸の距離は最初あった20mの距離はなく、今は1m程しかない。

 

「な、なんで……私は本気で…普通なら……絶対に……」

 俺がそこまで到着し、水戸から目を離さないでいると、水戸は小さな声で呟きながら、一歩、また一歩と後ずさっていく。

 

「水戸。水戸の言う普通ってなんだ?誰からの目線で見た普通だ?何からの目線で見た普通だ?」

 水戸の考え方は間違ってないのかもしれない。確かにランクが高ければたしかに強いし、ランクが低ければ確かに弱い。そこは間違ってないのだろう。

 でも、だからと言って、ランクが低い者がランクの高い者に勝てないと誰が決めた?

 これまではランクの高い者が低い者に負けたことがないから、低い者が高い者に勝てたことがないから、ランクが低い者は高い者に勝つことは出来ないと言われているだけ。

 

 

「そ、そんなの世間一般から見てよ!誰からの目線で見ても、そんなの当たり前のことなの!ランクが低い者は高い者に、力のない者は、強さのない者は、力がある者、強さのある者に負ける!絶対に!」

 そう、水戸の考え方は間違ってない。正しいのかもしれない。

 でも、水戸は間違っていて、正しくない。

 

 なぜなら、

「水戸、水戸は間違ってないのかもしれない。正しいのかもしれない。でも、間違ってもいるし、正しくもない。」

「そんなことない!私は間違ってない。世間一般が言ってるんだから、みんなが言ってるんだから。」

「そうだな……でも、水戸。絶対!なんて言葉はありえないんだぜ?」

 そう、絶対なんて言葉はありえないのだ。だから、みんな間違ってなく、正しいのかもしれないが、みんな間違っていて、正しくないのだ。

 

「そんなこと……」

「なくはないだろ?」

 今の時点でその絶対というのはないということが証明されている。

 いや、俺が証明している。

 

「だって、Aランクの水戸の全力の攻撃を受けたEランクの俺が今、実際ここに立っているんだから。」

 確かに、俺は普通のEランクではない。それでも俺は絶対なんてないと言う。ランクが全てじゃないと言う。

 俺が、Aランクであっても、Sランクであったとしても……

 

「そんな事ない……私は負けない…Aランクなんだから…ランクは絶対なんだから……」

 そう言う水戸は俺から少しづつ離れていく。それも、何かに怯えているように、震えながらだ。水戸は自分自身がそんな事になっているのに気づいていないのだろうか。

 

 俺は水戸が何を抱えているのか、知らないし、分からない。なにに怯えているのか、なんでそんなにランクに固執するのか、分からない。

 それを少しでも分かることが出来るように、友達になれるように今戦っている。本気で、本心でぶつかり合っている。

 俺はそれを続けるだけだ。そして、負けるつもりは無い!

 

「水戸、試合はこれからだ。行くぞ!」

 俺は水戸にそう告げると、体内にある元素を足裏に集めるように意識する。

 そして、足裏に元素が溜まり攻撃に移ろうとした時、水戸の体に先程と同じように水を纏い、全身纏いをしていた。

 そして、片方の手を前に出す。すると、その掌の前には水の球、いわゆる水流弾が作り出されていく。

 

「水戸、さっき言ってたことに答えてやる。なぜ俺が水戸の攻撃に耐えられたか。簡単な話だよ。元素を使って防御力を底上げした。だから、俺は大丈夫だった。」

 俺は水戸が疑問に思っていたであろうことを簡潔に説明し、攻撃に移るため体制を低くする。

「そんなこと出来るわけない!防御力や攻撃力を底上げするには纏いをしないと出来ない!勝手な事を言ってバカにしないで!」

 俺の言葉に対し、水戸は声を荒らげ怒りをあらわにする。そして、その怒りに任せ先程から作り出していた水流弾を俺に向け放ってきた。

 

 これがものすごい速さなのだ。もしかすると、試合開始直後の水戸の突進と同じかそれ以上はあるかもしれない。

 

(速っ!?無意識に圧縮してるのか?でも次は避ける。俺だってさっきから元素を溜めてるんだからな!)

 

 水戸の放った水流弾が俺に直撃するその直前に俺は足裏に溜めていた元素を一気に解放し、水流弾を避けた後、水戸の約10m後ろへと回り込む。

 

「なっ!?消えた!?」

 水流弾は、もともと俺がいたところを通過しそのまま壁へと当たり爆散する。

(ば、爆散……あれ当たったらやばいだろ……さて水戸が俺の事を見失っているうちに……)

 俺はそこでもう一度体制を低くし、次は片方だけの足裏と右の拳に元素を集めていく。

 

「消えるなんて……ありえない!どこ!?……なっ!?いつまに!!」

 水戸は俺のことを見失ったのだろう。当たりをキョロキョロと見渡す。そして、後ろを向いた時俺が10mほど離れたところにいた事に驚く。

 しかし、水戸の凄いところは、驚きながらも攻撃の手をやめようとせず、もう一度手を前にかざしてくる。

「今どうやったから知らないけど、今度は逃げられないから!」

 そう水戸が言うと、俺のいるところから半径約5m程の水色の円が地面に映し出されている。多分範囲攻撃だろう。

 

 

「水戸。試合開始早々俺をぶっ飛ばしてくれた攻撃の借りを返すぜ!!」

舞水(まいみず)

 水戸がそう叫ぶと、地面に書かれた直径10mの円の上につまり、俺の頭上に無数の水流弾らしきものが形成され、こちらに向け落ちてくる。

 

 だか、俺には当たらない。

 俺は元素を溜めた足が後ろに来るように両足を前後に開く。そして、先程と同じように足に溜めた元素を一気に解放し一瞬で水戸の前へと移動する。

「うそっ!?」

 俺がさっきまで立っていた場所は水戸の攻撃により悲惨なことになっていて、水戸の攻撃力の高さを表しているが、当たらなければ問題ない。

 

「お返しだ!空裂波(くうれっぱ)!!!」

 今度は俺の番だと言わんばかりに俺は声を張り上げ、技名を口にする。

 そして、10mという距離を一気に詰めたスピードを殺さないまま、上半身を捻り裏拳を繰り出す。

 あと少しで当たるという所で水戸はギリギリ体を後ろに逸らし直撃を免れる。

 だが、この技を避けるにはもっと距離を開けて避けないと意味が無い。

 なぜなら……この技は裏拳を当てることが攻撃じゃない。拳に溜めた元素を一気に解放、爆散させる。爆散された元素は一気に拳から勢いよく空気中へと送り出される。それによって、波動を作り出す。

 そして、

「きゃっ!?」

 その波動で相手を吹き飛ばす。

 助走を付けスピードを上乗せした状態じゃないと出来ないという弱点はあるが、そこそこ気に入っている技だ。

 

 吹き飛ばされた水戸は何度が地面を転がっていたが、上手いこと着地し勢いを止める。しかし、ダメージはあったのだろう、顔をしかめながらこちらを睨んでくる。

 

「なに!?なんで?避けたのに!」

「水戸、なにに怯えてるんだ?なんでそんなに焦ってるんだ?」

 そう水戸はなにかに怯えている。その証拠に先程から手足が震えている。

 水戸は焦っている。その証拠に冷静に考えれば分かりそうなことを分かっていない。

「お、怯えてない!焦ってもない!」

「怯えてるよ。手足がさっきから震えてる。それに焦っている。焦ってなかったら、水戸は今頃俺の戦い方に気づいていただろうから。」

 そう。最初の攻撃をもろに受けたのにも関わらず、ほほ無傷だった時に水戸なら薄々感づけたはずだ。

「き……づく?」

「そう、水戸なら気づけたはずだ。俺が体内にある元素を使って防御や攻撃、移動してるってことに。」

「た、体内の元素を……そんなの、そんなの不可能よ!私達元素使いが、なぜ、纏いをすると思ってるの?それは、操れないからよ!目に見えない元素のままじゃ、上手に操れないから。だから、目に見える物質へと変換しそれを纏う。纏うことによって元素を視認でき、操り、物質変換を自由自在に高速にすることができるようになる。そしてそれを攻撃や防御、移動に応用する。それが私たち元素使いの戦い方。なのに、体内で見えない元素を正確に操るなんて無理よ。」

 

 俺たち元素使いは元素を操るためそう言われている。でも、実際は水戸の言った通り、視認できないとそれを上手に操ることが出来ない。だから、元素使いはまず、元素を必ず体のどこかに纏い、視認できる物質へと変換する。それにより、元素を自由自在に、かつ迅速に操ることが可能となる。

 

 だが少し待ってほしい。ならなぜ纏いは出来ている?なぜ纏いは出来る?

 視認できないと操ることが出来ないのならそもそも纏いができないだろう。纏いとは片腕であれば片腕に、片足であれば片足に、元素を集めないといけない。それも体内でだ。全身ならば、体内にある元素を満遍なく均一に全身の隅々へと移動させないといけない。

 その上、集めた元素を体外へ放出し、目に見える物質へと変換する。それも目に見えない元素を操ってという矛盾が生じるのに、だ。

 

 つまり、元素使いは、もう体内の元素を、見えない元素を操ることが出来ているのだ。確かに精密に動かしたり、早く動かしたりなどは出来ないだろうが、それでも出来ている。

 

「水戸、それは違うぜ。元素使いは体内になる元素を普通に操れている。確かに精密に迅速に操ることは出来ていないかもしれないが、それでも操ることは出来ている。」

「そんなの……」

「じゃあさ、水戸はなんで全身纏いをすることが出来るんだ?」

「え?………………ッ!!!」

 どうやら気づいたようだ。

 

「気づいたか?つまり、俺たち元素使いは体内にある元素を、見えない元素を操ることができる。なら、Eランクで纏いをするほど元素量、元素濃度のない俺はどうすればいい?」

「ま、まさか……」

「そう、そのまさかだ。体内にある元素を操り圧縮する。それを、正確に、そして迅速に操る。攻撃したいなら拳に、防御がしたいならその防御したい場所に、移動がしたいなら足に。と言った感じにな。そして、移動する時はその圧縮した元素を一気に解放する。まぁ簡単に言えば爆散させる。そうすれば、爆散した元素はものすごい勢いで体外へ、空気中へと放出される。そうなれば空気は揺れ波動が生み出される。その波動によって、あの移動速度を出していたってわけだ。」

「も、もしかして、さっきの攻撃は……」

 やっぱりな、水戸は冷静になれば頭が回る。まだ水戸の事は何も知らないが、それだけは何となく一目見た時から感じていた。

「まぁ、そうだな。さっきの攻撃はそれを応用し、拳で行なったって訳だ。まぁ、俺もここまで至るのに相当な努力はしたけどな。」

 

 最近はその努力、トレーニングをサボっていたのだが、まだ感覚を覚えていて助かった。

 

「さて、どうする?水戸。このまま続けてもいいけど。」

 続けてもいい、いいけど、俺としてはここで終わり、水戸と本心で語り合いたい。そして分かり合いたい。

 この試合がその第一歩だったのだが、それは水戸に俺の戦い方を知ってもらうということでクリアしている。

 

「ねぇ八神くん。私ははまだ自分が間違ったことを言ってるとは思ってない。正しいとも思っている。」

「うん。」

「だからさ、最後の一撃だけ、思っきり来て欲しい。八神くんの最高の技で。もちろん私も全力でいく。だから、」

 水戸の顔には先程まであった怯えや焦りなどの表情はない。

 よかった……今度は間違えずにできたみたいだ。ならここも間違える訳にはいかない。

 水戸が俺と全力でぶつかりたいと言っているのだ。断るわけがない。

「あぁ。分かった。でも負けるつもりは無いぜ?」

「もちろん!!」

 水戸は俺の返事を聞きとてもいい笑顔になる。

 やっぱり、いい笑顔だ……

 

「水戸!」

「なに?」

 これで終わりじゃない。まだやる事があるのだ。友達になるためには、分かり合うためにはまだ足りない。

 だから……

「今日の放課後、教室に来てくれないか?」

 これだけは伝えないと。

 

「………フフッ。分かった!放課後ね」

「あぁ、ありがとう。」

 

 これでいい。あとは、全力でぶつかるだけ。本心でぶつかり合うだけ。

 そこから先は分からない。分かり合えるのか、友達になれるのか分からない。でも、前に進む!ただそれだけ…

 

「やっぱり、八神くんは優しいね……」

 

 それぞれ試合開始地点までもどる。その途中、水戸と俺がすれ違う時一瞬水戸の声がした。何を言ったのかは分からなかったが、それでも悪いことじゃないと断言できた。

 

 だって、

 

 

 今、20m先にたっている水戸は最初と違い、堂々としている。辛そうな顔も、苦しそうな顔も、悲しそうな顔も、もちろん涙も流していない。

 笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、いくよ!」

「ああ!」

 水戸がそう声を上げる。その瞬間水戸は全身纏いをし、掌を上に向け、両手をあげる。

 しばらくすると、水戸の頭上には、水の龍と氷の龍が形成される。そして、その二匹の龍は絡み合っている。お互いの力を高めるかのように。

二天水氷龍(にてんすいひょうりゅう)

 

(やっぱり水戸はすごいな。全身纏いだけじゃなく、形質変化まで出来るなんてな…)

 

「……なんて感心してる場合じゃないな、俺も全力で行かないと。」

 

 水戸の技に感心していたが、それを中断し、自分も必殺技の準備を開始する。

 

 足を肩幅より広く開き、腰を落とす。そして、右拳を地面へとつけ、集中する。

 

「フゥ~…………」

 元素を両足、そして、右拳に集める。

 

(まだだ、もっと集中しろ……もっと圧縮しろ!元素をかき集めろ)

 

 そして、限界まで元素を集め圧縮する。

 すると、左右の足には白いモヤのようなものが、そして、右拳には雷が纏われていた。

 

部分纏い(テイルエンチャント)鳴雷(なるかみ)……」

 

 

 お互い準備できたのか、目が合い、そして頷き合う。

 

「いくよ!」

「あぁ!」

 

 その瞬間、俺は両足に溜めたうちの片方を一気に解放し、水戸との距離を縮めようとする。

 すごい速度が出ているはずだが、水戸はそれでも慌てず、上げていた両手を振り下ろす。すると二匹の水と氷の龍がこちらに向かってくる。

 しかし、八神もその攻撃をもう片方の足に残った元素を解放し上空へジャンプし交わす。

 だが、それだけで終わるわけもない。

 

「甘いよっ!」

 

 水戸は振り下ろした手をまた俺の方へと向ける。

 二匹の龍はそれに従い俺に向け上空へと昇ってくる。

 

 普通ならここで慌てるのかもしれない。だが、俺は慌てることなく、重力に従い下に、二匹の龍に向け落ちていく。

 そして、その龍に向け振りかぶっていた、雷の纏った右拳を、俺の中で最高の技を放つ!

 

大雷(おほいかづち)!!!」

 

 

 その瞬間、二匹の龍は消し飛び、そして、俺の真下の地面が俺の攻撃により抉れ、爆風が巻き起こり、一緒に砂埃が巻き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、砂埃が消えたあと、そこに立っていたのは、目付きの鋭い寝癖のついた黒髪の八神界人、俺だった。

 

「ハァ……ハァ…ハァ……ハァ……」

 

 

「………………ハッ!水戸水菜の戦闘不能により、この試合、八神界人の勝利とする!」

 

 先生のその合図により、観覧席にいる生徒達が何やら騒いでいたが、立っているのがやっとな、俺にはよく聞こえなかった。

 

「………………」

 爆風で吹き飛ばされたのか、水戸は壁の近くで倒れている。

 今すぐ駆け寄りたかったのだが、どうやらそれは無理らしい。

 

「ハァ………ハァ………………………」

「八神!」

 

 目の前が暗くなり倒れる直前、御子柴の声がしたような気がしたが……俺はそのまま意識を手放した。

 




捻くれ者の最弱最強譚#8
いかがでしたでしょうか。

バトル描写ムズすぎる!自分で書いてて頭がこんがらがりました(^^;
でも、楽しく読んでいただけたのなら、面白いと思っていただけたのなら幸いです。

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