捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#7

「「「「「「え~~~~!?」」」」」」

 

先生が俺にEランクであることを告げた瞬間、この第一闘技場に生徒総勢99名分の驚いた声がコダマした。俺以外の人がそれはもう驚いていた。

それもそうだろう。Sランクはこの世界に50人しかいない。38億人中50人だ。もし俺がSランクだと言われていても、みんなは驚くだろう。だが、まだ可能性はある。なぜなら50人()いるからだ。あと一人くらいいても、ありえない話ではない。

だが、Eランクはどうだろうか。赤ん坊を入れればいるだろうがそれも、5歳遅くても10歳には覚醒し無条件にDランクへと上がる。つまり、高校生でEランクなどありえないのだ。つまり、この年でEランクは俺以外にいない。()()()()()()だ。

本当の意味で一人だ。38億人中の1人。そんなの驚くに決まっている。

 

ほら、こっちに凄い顔をしてこっちに向かってくる御子柴が見える。一つ気がかりなのが、水戸も御子柴の後ろからこちらに向かってきているのが見えるのだが、御子柴の驚いた時にする凄い顔ではなく、なにか怒っているような顔なのだ。

 

「八神ーーー!Eランクってどういう事だよ!おい嘘だよな、嘘なんだよな!おい何とか言えよ!」

「ウッ……ゆ…………すな……」

ちなみに、揺らすな!って言っているんだが、御子柴が俺の肩を掴み前後左右に揺らすに揺らしているため、思うように声が出せない。

 

「おい、おいってば!何とか言えって!」

「く、……る…し……い……ゆ…………で……くれ……」

ちなみに、苦しい、揺らさないでくれって言っているのだが……もちろんすごい揺らされているため、思うように声が出せず、御子柴には俺の声は届かない。

てか、揺らされて、声が出せない上に息が上手に吸えないため、とてつもなくしんどい。また、脳が揺らされ、とてつもなく気持ち悪くなってきた。いや、まじで……吐く……

 

「御子柴くん。八神くん死にそうよ。やめてあげた方がいいと思うわよ」

「えっ?!うおっ!ホントだ。ごめん、八神。」

「ゴホッゴホッ……おぇえええ……気持ち悪い……」

 

御子柴から俺を救ってくれたのは、先ほど怒った顔でこちらに向かって来ていた水戸だった。

 

「す、すまん。八神……大丈夫か?」

「うっ……ぷ…あぁ、大丈夫だ。ただ、目眩がするだけだ。」

「だ、大丈夫か?ほんとにごめん……」

「お、おう……水戸、ありがとな、止めてくれて」

「…………」

 

素直に感謝した。ほんとにあれ以上揺さぶり続けられていたら、確実に吐いていた。そこは本当に感謝していた。だから、心の底からの感謝だったのだが。

「水戸?」

「…………」

どうやらやっぱり怒っているみたいだ。先程から俺のことを睨んできている。なぜ怒っているのか、分からない。この授業でランク分けされるまでは変な感じはしたが、怒っている感じはしなかった。でも、俺のランクが言われてからだ。明確な怒りの感情が俺に向けられたのは。

 

「えっと……水戸?なんで怒ってるんだ?俺に悪いところがあったなら言ってほしい。悪いことをしたのなら謝る。だから教えてほしい。」

「食堂の時、八神くんは、『俺はランクだけでは強さってのは決められないと思う』っ言ったよね?」

「え?お、おう」

食堂の時話していた、ランクがすべてだとか、そんな話に俺が言った言葉だ。覚えている。今でもそう思っている。

「それは、八神くんがEランクで弱いから言ったの。自分が弱いと思われるのが嫌だから、最弱者だと思われるのが嫌だったからそんなこと言ったの?」

「……え?」

もちろん俺はそんなつもりで言ってなかった。別に自分が最弱者だと思われるのは嫌だと思ってない。本当のことだしな。俺はただ、ランクが低くても低い者なりの戦い方があり、強さがある。そう言うつもりで言ったのだ。

 

でも、それは伝わっていなかった。いや、伝わらなくて当たり前なのだ。言わなくてもわかる……そんなのあり得ないのだから。そんなのでは分かり合うことは出来ないのだから。友達にはなれないのだから。

「そっか……俺はそこから間違っていたのか……」

間違っていた……ならもう一度問い直せばいい。あった事は、起きてしまったことは消しゴムのように消せない。でも、上書きならできる。

水戸は俺の言葉を聞き、水戸なりにあぁ言う答えを出した。前の俺ならそこで終わりにしていた。結局はそんなんだろうと。結局は信じられないから、そうなるのだろうと。

でも、今は違う。どうすればいいか分かっている。

「ねぇ!どうなの八神くん!もしそうなのだとしたら、私はあなたが許せない!そんな軽い理由で私のしてきたことを、やってきたことを否定されたんだから。無駄だと言われたんだから。」

水戸が言ってる事は俺には分からない。何を俺は否定してしまったのだろうか。何について無駄だと言ってしまったんだろうか。もちろん、そんなつもりはなくても、水戸はそう思ったのだろう。そして水戸はその気持ちを仮面をかぶる事なく本心でぶつけてきている。なら、俺のする事は決まっている。

 

俺もぶつかる!本心で!

 

「水戸……俺はそんなつもりで言ったつもりは無かったんだ。俺はただ、ランクが低くても低い者なりの戦い方があり、強さがあるってことを言いたかった。それだけなんだ。でも、水戸はそうは聞こえなかったんだろう?なら、ぶつかろう。そして分かり合おう。」

「な、何を言って……!」

「水戸……俺と試合をしないか?本気の本気でだ。」

まずは、水戸に俺の言ったことを分かってもらう。それには俺が水戸とやり合うのが一番手っ取り早い。世界一の最弱者がAランク相手に戦うんだ。でも普通なら負ける。でもここで俺が簡単に負けなければ?それだけでも俺の言った、ランクが低くても低い者なりの戦い方があり、強さがあるということを少しだけでも分かってもらえる気がした。だから、水戸と闘う!もちろん本気でやるし、負けるつもりもない。

「本気で言ってるの?Eランクの八神くんが、Aランクの私に勝てると、本気でそう思ってるの?」

「あぁ!勝てるかはやってみないと分からないけど、簡単に負けるつもりは無い。それなら、俺の考えが、俺の事が、水戸に少しでも分かってもらえると思ったんだ。」

「いいわよ……やってあげるその試合!そして私が勝って、八神くんに証明するんだ。」

証明。その言葉を水戸が口にした時、一瞬だったが、水戸の顔はなにかを決意したものになっていた。つまり、何かを決意したのだろう。

決意しということは本気でぶつかってきてくれるということだ。

それは今から俺がしたいことからすると、とてもありがたい事だった。

 

だから、感謝しないといけない。本気でぶつかってきてくれる事を。

分かり合えるチャンスをくれたことを。

「ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、すみません。勝手に試合をしたいなどと……」

あの後、授業中だったことを思い出し、先生に授業のあと残ってもらい、立会人をしてもらえるように頼みに行った。

だが先生から帰ってきた答えは意外な答えだった。

『今から試合をすればいい。私が許可する。』というものだった。

怒られると思っていた俺からすると驚きを隠せない言葉だった。

 

「いや、いいよ、謝らなくても。さっきも言っただろう。私が許可すると。誰にも文句は言わせん。それに、この学年に2人しかいないAランクの実力を見たかったし、他の生徒達にも見せたかったのでな。あと、EランクのはEランクの、最弱者なりの戦い方があるというのにも興味がある。それも見せてくれるのだろう、八神」

「はい。そのつもりです。」

「そうか、なら私は止めない。存分にやりなさい。」

先生はそう言うと、ニコッと笑った。そして、ほかの生徒達に観覧席へと移動するように促す。

その時に御子柴が心配そうに俺と水戸を見ていたのだが、俺が大丈夫だという笑みとサムズアップをすると、御子柴は真剣な顔になり頷く。

(大丈夫だよ、御子柴。お前はやっぱり優しいやつだな。また一つお前の事を分かることが出来たよ。)

 

 

 

「では、今から試合について説明をする。勝負はどちらかが戦闘不能になるまで、または、どちらかが降参するまでとする。もし、行き過ぎた行為があれば私が直々に止めに入るからな。」

「先生。一つ質問いいですか?どちらかが降参と言うのは分かったのですが、戦闘不能と言うはダメではないでしょうか?私はそこまではできません。」

先生が軽く試合について説明をしたあと、水戸が手を挙げ先生に質問をする。

確かにその部分は俺も気になっていた。戦闘不能という事はほんとんど瀕死の状態に近いということだ。そんな事、出来るわけないし、させるわけにもいかない。

しかし、その質問に対し先生は少し笑った後、笑顔のままで答える。

「あはははは。()()()()()()()()()()、か。水戸お前は戦う前から、自分が勝つ前提でいるのか?一つだけ忠告してやろう。勝負は最後まで何があるか分からんぞ?ちなみに、質問の答えだが、心配するな。そこまでやってもお前達の体には傷はいっさいつかない。お前達がこの闘技場に入る前、何かを通り抜けたような感じがしただろう?あれは特殊な結界でな。その結界内であればすべてのダメージは肉体ダメージではなく精神ダメージとなる。それでも痛みはあるし、戦っている間、体に傷もつく。だか、これはどういう仕組みか知らんがこの結界から出ると肉体の方のダメージはきえ、全てが精神ダメージへと変換される。まぁ、ここで瀕死になったりすれば目を一生覚まさない事になったりもするがな。だが、私がそうなる前に止めるのでそんな心配はいらん。だから、思い切り戦うことだ。」

なんだそれ……無茶苦茶すぎる。

「なんですか……それ」

水戸もそう思ったのか、呆れたような顔をしている。まぁ多分観覧席にいる他の生徒達も同じような顔をしているだろう。

 

「まぁ、そう言う事だから、心配せず戦え。では始めるぞ。位置につけ」

 

その合図を聞き、俺と水戸は、闘技場の中央からそれぞれ10m離れた場所で向かい合って立つ。

水戸の顔には当然迷いなどない。

俺も迷いはない。

 

「では準備はいいか?」

 

始まる……

「はい!」

「うす…」

 

分かり合うための、友達になるための、本気のぶつかり合いが。

 

「では…………」

 

「ッ…………」

その時、水戸の全身からは水が吹き出していた。いや、纏っていた。

(おいおい……マジかよ。Aランクだからあり得ると思うが、まだそれは習ってないだろ。それなのに全身纏い(フルエンチャント)できるとか……すげぇな…)

 

「始め!!!」

 

ドォーーーーーン!!!

 

 

先生から始めの合図が出た瞬間、凄い音が鳴る。

それは一瞬のことで誰も何が起こったのか認識することが出来なかった。

だが、結果だけはその3秒後認識することが出来た。

 

 

 

 

そこには、全身纏をしたまま腕を振り切った状態で佇んでいる少女が見え、そして、その少女の視線の先には壁があり、そこには一人の少年が壁に埋もれていた。

 

 

 

 

 

つまり。開始早々いきなり、水戸は八神を全力で殴り飛ばし、八神は水戸に殴り飛ばされ、壁に埋もれていた。

そんな情景が観客の目には映っていた。




捻くれ者の学園生活#7
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけましたか?
前回、後書きでバトルをやるといっていたのですが、思いの外進まなかったので、すみませんが、バトルは次回ということになりました。本当に申し訳ありません……次回は本当にバトルしますから!
では次回もよろしくお願いします。

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