捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#6

「ランクだけが強さじゃないって、ランクだけが力じゃないって……そんなことない!ランクがすべてなのよ!力が全てなのよ!力のないものは、強くないものは、ランクは低い者は、力のあるものに、強いものに、ランクの高いものにただただやられるだけ!何もできずに!」

 

「み、水戸?何を言って……」

「ッ…………!!!」

「お、おい!水戸!」

「水戸さん!?」

 

 水戸が走り去ってから少しの間、周りの時間が止まったのではないかと勘違いをしてしまうほど、俺たちは動けなかった。動くことが出来なかった。

 

「なぁ、八神!なんで水戸さんは……」

「分からない……でも、」

 御子柴の角度からは水戸の顔が見えなかったのか、御子柴はなぜ水戸が走り去ってしまったのか、なぜ声を荒らげていたのか分からない様子だった。

 

 でも俺は見てしまった。

 水戸の悲しそうな顔を。水戸の苦しそうな顔を。水戸の……涙を。

 なぜ水戸が悲しそうな顔をしたのか、なぜ苦しそうな顔をしたのか、なぜ、泣いていたのか。それは俺もわからない。でも、

 

「でも、水戸が苦しんでることは……なんとなくわかった……」

「八神……」

 御子柴は俺の言葉を聞き、つらそうな顔をする。

 やめてくれ……

 何故かは分からない……でも、御子柴がつらそうな顔をすると俺もつらくなってくる。

 水戸の悲しそうな顔を見た時、悲しくなった。苦しそうな顔を見た時、苦しくなった。涙を流していたのを、泣いていたのを見た時、俺も泣きそうなほど胸が痛くなった……

 これがなんなのか分からない。いい事なのか?悪いことなのか?それすらも分からない。

 友達だからか?なら、友達ってなんだ?

 

「なぁ、御子柴……友達ってなんだ?」

「それは……わからない」

 分からない。御子柴ですら分からないのだ。

「曖昧なんだな、友達って……」

 曖昧。

 一緒にいることが友達なのか?それが友達なのか?一緒にいて、今さっきのように、悲しくなり、苦しくなり、つらくなり、胸が痛くなるのが友達?それなら一人の方がいいんじゃないか?いっそ独りの方が楽なんじゃないか?

 

「曖昧……曖昧か……たしかにそうかもな……友達だからと言って本心からその友達のことを知っているわけじゃない。信じているわけじゃない。だからこそ、仮面を被って本性を隠す。そして、信じる、信じてると言い合う。その言葉で縛り繋ぎ止めるために。」

「そっか…………」

 

 本心を隠し、本性を隠す。そして、信じる、信じてると言って相手を縛り繋ぎ止める。

 そんなのただの欺瞞だ……偽物。嘘。俺が嫌ったこの世界と同じ。

「なぁ御子柴、友達なんて、結局は仮面をつけたピエロたちの集まりだ。信じるなんてことを言っても、心の奥底から信じていない。信じられるように、なんて言っても結局は相手に合わせる。欺瞞……偽物。そう思うのは、俺が捻くれているからか?人を信じることが出来ないからか?」

「八神……」

 俺は何を言ってるんだろう。こんなのわかるわけが無い…

「八神、聞いてくれ」

 御子柴は力強い声で俺にそういい、話し始める。

 

「確かに友達ってのはみんな仮面をつてたピエロの集まりなのかもな。信じるという言葉で、関係を縛り繋ぎ止める。そんな曖昧なものなのかもしれない…………」

「………………」

「でも!でも、それは世間一般の友達だ。有象無象にいるそこら辺の友達だ。」

 世間一般の友達。有象無象の友達。御子柴は何言っているのだろう?

「俺たちは俺たちの友達を作ればいい。有象無象の友達ではなく、俺たちだけの。八神、さっき言ったよな。友達は本性を隠したピエロの集まりだって。その通りだろうな。だって、分かりあってないんだから。」

「わかり、あってない?」

 どういう事だろうか。分かり合う。それはつまることろ、信じ合うということじゃないんだろうか?

「そう、分かり合う。八神はさ、人を簡単に信じることが出来ない。信じれない。そうだよな?」

「あ、あぁ」

 そう、俺は信じることが出来ない。結局は裏切られるのだから、結局はみんな離れていくのだから。そう思ってしまう。そして、自分自身を信じることが出来ない。

「それってさ、分からないからじゃないか?」

「分からないから?」

「そう、知らない人を信じれないのは当たり前だ。その人のことがわからないんだからな。友達ってのは分かってるつもりで分かってないだと俺は思う。だって、仮面をつけて気に入られるように、裏切られないように、嫌われないように、相手に合わせているだから。それは分かりあってるとは言わない。でも俺たちは違う。俺は八神が本心から人の事を信じる事が出来ないっていうのを聞いた。つまり分かったんだ。だから俺も本心で言った。信じれないなら、信じてもらえるように行動するって!これで八神は俺がお前に信じてもらえるように行動するって分かっただろ?それでいいんだよ。本心で話し合ってわかり合えばいい。もちろん仮面は外さないといけない。それは難しいかもしれない。でも仮面をつけるのは、いい人に見られようとしたり、信じてもらおうとしたりする時だ。そんなの関係なく、本心を言うことだけなら出来る。だから、本心を言い合えばいい。時には喧嘩する時もあると思う。その時は喧嘩すればいい。そうやって、少しだけど分かり合うことが出来たらそれが本当の友達なんじゃないかって俺は思うぜ。」

「ッ……」

 そっか……そういうことか……信じ合えばいいんじゃない……わかり合えばいいんだ。疑いあっていてもいい。信じれなくてもいい。でも、俺は御子柴が信じてもらえるように行動するってことを分かっている。それでいいんだ。それが……友達なんだ……

 

「ちょ、八神?なんで泣いてんだよ!?」

「え、?」

 御子柴にそう言われ初めて、俺の頬に暖かい涙が流れていることに気づく。こんなのは初めてだった。これまで泣いたことは沢山ある。過去にたくさん。悔しくて、つらくて、悲しくて、たくさん泣いた。

 でも、今回は違う。初めてだった

(そっか……これが嬉し涙か……)

 

「友達……信じ合うんじゃなくて、分かり合う……そっか……ははっ、はははははは……凛、俺頑張ったよ。本当に友達が出来たんだ……信じ合うんじゃない歪な形だけど、分かり合うって言う俺だけの友達ができたんだ……」

 

 なら俺のやることはもう決まっている。

「ありがとう、御子柴!」

「え?」

 水戸は俺のことを知らない。俺も水戸のことを全然知らない。だから、水戸がなんで悲しそうな顔をしたのか。なんで苦しそうな顔をしたのか。なんで泣いていなのか、分からないのも当たり前だ。

 なら、話せばいい。本心で話し合えばいい。そして分かり合えばいいんだ。

 それでも、水戸のことを助けることはできないかもしれない。それでも分かってる。分かる。そして分かってもらえる。それでいい。

 だから俺は……

 

「俺は水戸と友達になる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、八神……」

「なんだよ……」

 今は5限目の実技の授業のために第一闘技場に移動中だ。服装はもちろん体操服。

 俺は御子柴は列の最後尾にいるのだが……

「水戸さん、さっきからこっちめちゃくちゃ見てきてるんだけど……八神、昼休みに水戸と友達になるって言って張り切ってたのに何やってんだよ」

「いや、昼休みの間に水戸を見つけられなかったんだよ。しょうがないだろ!あれからすぐチャイムなったんだから。探す時間が短かったんだよ!」

 そう。昼休み、水戸と友達になる!と言って張り切って食堂を出たのはよかったのだが、その時の昼休み残り時間は10分。そんな短い時間で、この広い学園の敷地から水戸を見つけ出せるわけもない……

 結局見つけられないままチャイムがなり、慌てて教室に帰ってから体操服に着替え廊下にいた御子柴と合流したのだが、その時から少し後ろにいる水戸は俺たちの事を正確に言うと俺を見ていた。それも睨むとかそんなんじゃない。その顔もよくわからないのだ。

「なぁ御子柴……あれって睨んでるのか?それともただ見てるだけなのか?」

「さぁ?わかんねーけど。睨んではないような気はするけどな……」

「だよな……」

 

 そんなことを話していると、急に体が何かを通り抜けたような感覚がした。なにかの薄い膜を通ったような感じだ。

「う、おぉ!?なんだ?」

「何かを通り抜けた感覚だったな。変な感じだ。」

「なんで八神はそんな冷静なんだよ。」

 なんでと言われても、体になんも異常はないのだから当たり前だろう。それに嫌な感じもしない。

「いや、体には異常ないだろ、それに嫌な感じもしない。そんな事にいちいち反応するなよ、バカ。」

「バ、バカ!?バカって言ったか?」

「食堂で言ってたろ?本心を言い合うって。だから思ったことを言ったんだが?」

 もちろん本心ではあるのだが、からかっているという方が大きいだろう。

「なっ!?確かに言ったけどよ。でもさ……グッ、こ、この捻くれ者!」

「ははっ」

 自然と笑いがこみ上げる。楽しいのだ。この会話が。

 食堂での事を御子柴が分かっているからこその会話。それがとてつもなく楽しく、嬉しい。

 だからこそ、早く水戸とも本心で話し合い、いや、言い合い、分かってほしい。分かりたい。そして、友達になる。

 そうもう一度心に決め前を見ると、闘技場の入口が見えた。

 

 

 

 

 闘技場に入ると、そこにはもう数名の先生がおり、すぐに人数確認が行われた。それが終わったのを確認したあと、一人の先生が声を上げる。

「よし、みんな揃ってるようだな。では今から実技を始める。」

 先生がそう言うと、周りの生徒は待ってましたと言わんばかりにいっせいに声を上げる。約100人もの生徒が声を一斉に上げるのだうるさくないわけが無い。

「う、うるせぇ~……」

「まぁ、実技だからなら盛り上がるのもわかるぜ。俺もちょっと盛り上がってる。八神は?」

「俺は別に……」

 御子柴の言葉には嘘はないのだろう。凄くイキイキとした顔をしている。

「うるさいぞ!静かにしろ!」

 流石にうるさすぎたのか、先生の我慢が限界だったのか、先生の叱責が飛ぶ。

 そうすると、先程までうるさかった生徒全員が静かになる。それも一瞬でだ。隣も御子柴も大人しくなっている。

 それなら最初から静かにしとけばいいものを……

 

「まず、実技の授業を始める前にランクごとに分かれてもらう。ランクは入学式前に記録したものだ。ランク評価は一ヶ月に一回行い、その都度ランクが変わればまたランク分けをして、というふうにしていく。ランクの分ける意味だが、ここに先生が5名おられる。この先生方にそれぞれのランクについて貰う。一人は監視役だ。つまり、そのランクごとに先生が一人存在するので、ランクに応じた授業を行ってもらうことになっている。」

 つまり、簡単に説明すると、A、B、C、Dのランクそれぞれに一人づつ先生がつき、そのランクにあった授業をするということだ。

 その方が効率がいいからだろう。そこには文句は全く持ってない。

 しかし……

「もう一人、先生がいると思うけど……」

「なんか言ったか、八神?」

「んいや、別に」

 俺が小さな声で呟いたことに気づき、御子柴が声をかけてくる。まぁ言わなくても、分かることなので大丈夫だろう。

 

「それではランクを言っていく。言われたものはそれぞれのランクに分かれるように。場所は書いてある。では、Dランクから…………」

 先生がDランクの生徒から順に読んでいく。

「なぁ、八神。」

「なんだよ」

 先生がランク分けをし始めてすぐ、御子柴はまたソワソワとし始め俺に声をかけてくる。ホント、忙しないやつだ。

「ランク、どれくらいあるかな?」

「お前のか?」

「そう、俺のランク。ランクがすべてじゃないってのは俺も八神の意見に賛成だけどよ、でもやっぱり気になるだろ?」

 確かに、普通の人なら気になるだろう。どれほどランクがすべてじゃないと、強さのすべてじゃないと分かっていても、目に見える強さの象徴だ。気にならないわけがない。

「俺は……別に気にならねーけどな」

「八神、お前……もしかしてランク高いんだろ!だからそんなこと言えるんだろ……いいなぁ……」

 ほんと、ムキになったり、しょぼくれたり、忙しいやつだ……

「別に高くねーよ。それにこの時期にCあれば充分強い部類だろ。」

「そうか~?俺Bは欲しいんだけどな。」

 

 Eランク。最弱。Fランクって言うのがあるにはあるのだが、それは元素を操れないものつまり、無能力者に与えられるランク。つまりEランクは実質、元素使いの中での最弱。まぁそんな奴はいない。いたとしてもまだ元素が体内にあるだけで覚醒していない赤ん坊とかだ。

 

 Dランク。元素使いとして覚醒した時に無条件になるランク。元素を操り、体に変換した物質を纏えるのはせいぜい1箇所。頑張っても2箇所行くかどうかという感じ。下級悪魔以下には単独で戦うことを許されている。

 

 Cランク。元素量、元素濃度、変換速度、威力。この四つの総量が平均値を超えていたら与えられるランク。体に変換した物質を纏えるのは2~3箇所。二級悪魔以下には単独で戦うことを許されている。

 

 Bランク。凡人が努力で到れる最高地点。体に変換した物質を纏えるのは4箇所。つまり、両腕、両足と纏えることが出来る。一級悪魔以下には単独で戦うことを許されている。

 

 Aランク。このランクに到れるのは天賦の才がある人のみ。体全体にに変換した物質を纏えることが出来る。それほどの元素量、元素濃度を持つ者でないこのランクは与えられない。変換速度ももちろん速い。特一級悪魔以下に単独で戦うことを許されている。

 

 この上にSランクがあるのだが、それはもう人間ではなく化物。最上級悪魔と言われる奴らと戦うことを許されている程の化け物しかなれない領域だ。

 

「Cランクは以上だ。次、Bランク!」

 俺がランクについて、思い出していると、いつの間にCランクまで呼び終わっていようだ。

 よく見てみるとこの時点で90人程の生徒が呼ばれている。まぁ当たり前だろ。

 それに、今の時点でのランクなどほぼ意味が無い。なぜなら、元素を上手く操れるようになり、実力も上がり、そしてランクも上がるものもいれば、躓き、ランクが下がる者もいる。つまり、これから学校で元素の扱いについて習っていくこれからが本番なのだ。

 

「なぁ八神!俺Cで呼ばれてないってことは、Bってことだよな?」

 先生に呼ばれて、DランクCランクにそれぞれ分かれている生徒をボーと見ていると急に横から声がする。もちろん御子柴の声だが。

「うおっ!いたのかよ!」

「なんだよそれ、いてもいいだろ。」

「いや、てっきりもうCランクで呼ばれているものかと思ってな。」

「ひでぇ~。八神容赦が無くなったよな……」

 なんて会話をしていると、先生から御子柴を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「最後だ、御子柴陽!」

「おっし!八神はAランクか。しかも、水戸さんもいるな。頑張れよ。友達になるんだろ!じゃあ行ってくる」

「お、おう」

 悪いな御子柴……俺はAランクじゃない

 

 

「次はAランクだが、まさかこのクラスにAランクがいるとはな。」

 先生はそう言いながら嬉しそうな顔をする。そして、Bランクのところに行った御子柴も俺の方を見て自分の事かのように嬉しそうにしている。

「ではAランク、水戸水菜」

「はい!」

 水戸はそう呼ばれると、一瞬こちらを見てから返事をする。それが何を意味しているのか分からない。まぁ多分俺もAランクだと思ってビックリしているんだろうけど……

 

「以上だ!」

 

 目をキラキラさせて嬉しそうにしていた御子柴に、俺を一瞬見た水戸。済まないな。俺はAランクなんかじゃない。

 

 俺は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後に残った八神界人。私はお前がなぜこの学校に入れたのかこのランク表を見た時不思議で仕方がなかったぞ。」

 

 その言葉が闘技場に響き渡る。みんな静かに俺のことを見ている。

 さっきまで目をキラキラさせていた御子柴も、そして、水戸も首を傾げている。

 

「八神界人。お前はこの世界でたった一人の」

 

 そう俺はこの世界でたった一人の、

 

 

 

 

「Eランクだ」

 

 たった一人の最弱者。Eランクだ。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「え~~~~!?」」」」」」

 




捻くれ者の学園生活#6
どうでしたでしょうか。楽しんでいただけましたか?
楽しんでいただけたのなら良かったです!!
今回はちょっとシリアスなところがありましたが…それにあの部分ちょっと難しかった……

でもなんとかけて良かったです(^^;
次回はやっとバトルをすると思います。バトル描写が難しくて、ちょっと変な文になるかもしれませんが、頑張りますので、次回も読んでください!

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