捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#5

 自己紹介。それは自分を知ってもらうためのもの。自分の名前や、誕生日、好きなこと、嫌いなこと、好きな食べ物に嫌いな食べ物。など、取り敢えず自分のことを知ってもらうために、赤の他人に次々と自分の個人情報を垂れ流すこと。そして、それを代償に、自分の事をいい人だと思ってもらえるようにする為のもの。第一印象をいいものにする為のもの。それが自己紹介。

 自分から悪印象を与えようとする、物好きもいるが、それはホントに極わずかの少数であり、まぁほとんどの人は好印象を与えようとするだろう。

 そして、自己紹介を受けた者もそれを元に、いい人であるのか、悪い人であるのかをだいたい決める。第一印象は大事と言われるのはそれが所以(ゆえん)だろう。人は一度、こう、だと決めてしまうとなかなかそのことを覆そうとはしない。いや、覆すことが出来ないと言った方が正解か。つまり、第一印象が全てであり、第一印象が悪いものだと、その人は当分の間は悪い人という認識をされ、第一印象が良いものだと、どれだけ内心が悪いやつでも当分の間はいい人という認識をされる。

 

 だが、少し待ってほしい。自己紹介というのは、お互いがなんの印象も持っていない状態でしかほぼ成り立たないということだ。

 じゃあ、例えば、自己紹介する前日に、ある男子生徒の第一印象がある女子生徒の所為で、最悪なものになってしまっていたら?

 さて、こんな時、その男子生徒は自己紹介をする必要はあるだろうか?

 

 

 結論を言おう。自己紹介をする必要は全くもって意味が無い。いや、しても意味が無いと言うべきだろう。

 

 まぁその男子生徒というのは俺のことなんだが……

 

「…………み……がみ……八神!八神界人!」

「ッ!?は、はい!」

「さっきから呼んでいるだろう!自己紹介、次は君の番だ!」

 どうやら、自己紹介が開始されてから色々頭の中で考えている間に俺の番が回ってきてしまったらしい。

 だが、さっきも言った通り、もう俺の第一印象は最悪なものになっている。その状況で、何が悲しくて、みんなの冷たい視線を浴びながら前に立ち意味の無い自己紹介をしないといけないのだろうか……

 そんなもの、新手の拷問だ……

 

「何をしている!あとが詰まっているだから、さっさとしなさい!」

「は、はい……」

 だが逃げ出すことも出来ない……つまり、やるしかないのだ。

「ファイト!」

 自分の席から教壇へと向かう時、ちらっとではあるが、水戸の顔が目に入る。というか、目が合った。

 その時に、水戸は小さくガッツポーズをしながらこれまた小さな声で、ファイト!と言ってきたのだ。

「イラッ!」

 それを見た瞬間、イラッと来てしまったのはしょうがない事だろう。なぜなら、こうなった主な原因がその水戸水菜なのだから……

 この時、凛にこいつの事を話そうと思ったのだが、なんとか思うだけで踏みとどまった。昨日で分かっていたがあいつに悪気は無いみたいだし、妹の凛を殺人犯にするわけにもいかない。

 だから俺はせめてもの抵抗で、この鋭い目付きを細め、もっと鋭くして水戸を睨んだ。

「?」

 意味なかったようだ……

 

 

 

 

 そうこうしてるうちに教壇の前へと到着する。

「ハァ~……えっと…」

 席を立ってからここに来るまで、そしてここに立ってから、ひしひしと伝わってくる冷たい視線。ほんと、精神的にしんどくてしょうがない。

「八神…界人です。好きな物とか嫌いな物は特にありません……」

「「「「……………………」」」」

 もちろん教室は静まり返っている。

「八神、それだけか?」

「え?え、……っと、そうですね。」

 これ以上何を言えばいいのだろうか。逆に教えて欲しい。とりあえず今は一秒でも早く席に戻りたい。

「……そうか、わかった。戻れ」

「は、はい」

 先生は何が気に食わないのか分からないが、よくわからない顔でこちらを見ていた、のだが、そんなことより早く席に戻りたかったため、早足で席へと戻り、そしてすぐ座る。

「フゥ~……疲れた」

 これだけで一日分体力を使ったのではないか、と言うくらい疲れた。主に精神的に。

 

 

 俺の後からの自己紹介は俺の時が嘘だっかのよう盛り上がりを見せながら、スムーズに進んでいった。

 

 

 

 

 

「………………このお陰で、私達人間も元素を操れるようになり、そして、力をつけることが出来た。ちなみに、この日本では火・水・風・土・雷の五大元素を操るのに秀でた名家がそれぞれ存在する。その名家のお陰もあり、今の日本は他の国にも負けないほどの国になっていると言っても過言ではない。火の名家の火野家。水の名家の水原家。風の名家の……………………………………」

「ふぁ~あ……眠い」

 自己紹介が終わってから約2時間半。時刻は11時半であり、今は4限目、つまり午前最後の授業中なのだが、とてつもなく眠い。どうやら、前日よく寝れたからと言って、眠くない!ということにはならないようだ。

 

 他の学園は知らないが、ここは午前は他の高校と同じように机に座って勉強。午後からは元素を使った実技。といった感じだ。

 なぜ実技だけではなく、午前中は普通の勉強なのか。それは元素使いでも、常識を知らないといけないという訳だろう。

 

 だが、数学や英語、国語もそうだが、俺のように名家やら、ランクやらに全く興味が無い者からすると退屈で仕方ないのだ。

「ふぁ~……後、30分弱寝るか……」

 その退屈を凌ぐには周りにいる友達と話したりするしかない。あとは寝るか、のどちらかだ。

 しかし、唯一友達の御子柴や水戸は俺の席からは離れている。つまり、俺には友達と話して時間を潰すという選択肢は自動的に消え、消去方で寝る、という方法しかないのだ。

 

 という訳で……

「おやすみなさい……」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――キーンコーンカーンコーン

「んぁ……もう終わりか…」

「それでは今日はここまでだ。午後からは実技だ。場所は第一闘技場だ。遅れないように」

 アレから30分。時刻は12時過ぎ。どうやら俺はしっかり寝ていたようだ。心なしか、自己紹介の時の疲れが取れたような気がする。

 

「…………フゥ~…さてと昼はどーするか」

 机で寝ていたため、少し固まった筋肉を体を伸ばしてほぐす。

 これがなかなかに気持ちいい。時々つるときはあるが……

 そんなことをしていると、御子柴と水戸が近づいてくるのが見える

「おーーす、八神。食堂行こうぜ~」

「八神くん、食堂行こ!」

「お、おー」

 友達になったと言っても、このように誘われるとは思っていなかったのだ。驚いても無理はないだろう。

「何驚いた顔してんだよ?早く行こーぜ?」

「そうそう、八神早く立って!行くよ」

「お、おう」

 小学生や中学の2年まではこんな事があったかもしれないが、それすらも、その感覚すらも忘れてしまっているほど、俺の中にあるトラウマは深く根付いているのだろう。

「それよりも、お前らって知り合ってたっけ?」

「んいや、まだだな」

「いや、まだね」

 よくもまぁ、まだ知り合ってもないのにこんな普通にいることができる。よくわからないが、これがコミュ力が高いと言うやつなのだろうか…

 

「あー、えっと、水戸、コイツは昨日水戸がいない間に友達になった御子柴陽だ。で、御子柴、コイツが水戸水菜。」

「おー、御子柴陽です!よろしく水戸さん。」

「水戸水菜です。こちらこそよろしく、御子柴くん!」

「それじゃ、食堂行くか……場所知らないから、御子柴と水戸の後ついて行くから。」

「おう、了解だ」

「逃げないでよ?」

 失礼なやつだ。さすがの俺でもここで逃げ出すほど捻くれてはいない。多分。ただの知り合いだったら逃げてるかもだが、今は友達だ。

 だから、大丈夫だ。きっと。多分……

「逃げねーよ……もう」

「うん!」

 俺の逃げない宣言がそんなに嬉しかったのか、水戸は顔を少し赤らめ満面の笑みをしていた。

 

 

 

 

 

「なぁ、八神。今日の授業についてどう思った?」

「は?授業?どう思ったって……何が?」

 食堂で前に座っている御子柴が急にそんなことを聞いてくる。

 俺の横に座っている水戸もキョトンとした顔している。当たり前だ。なんの脈絡もなく、急にそんなことを聞かれてもなにがなんだかわからないものだ。その上、どう思った?などの抽象的過ぎる問いなのだ答えられなくてもおかしくはない。

 まぁ俺の場合は、寝ていて、授業を聞いていなかったのが答えられない主な理由だと思うが。

 

「いや、4限目の時さ、ランクの話になっただろ?その時に、強さってのはランクで決まる。つまり力が全てだー。なんて事を先生が言ってたからさ、本当にそうなのかなーっと俺は思ったんだよね。」

「あー、その話なら、私は聞いてて、なるほどなーって思ったよ?だって強さってのは結局ランクで位付けされてるんだから、ランクがすべてなんじゃない?力がすべてってのも私はうなずけるよ。」

 

 御子柴は困ったような、そして迷ってるような苦い顔をして話し、水戸はなにか決意のこもった顔を、目をして話している。

「水戸さんはそう思うのか……八神は?」

 ふむ……結構難しいことを聞いてくる。

 

 《ランク》それは確かにその人の強さそのものだと言っていいだろう。体内にある元素量。量があればあるほど良いのは言わなくてもわかる。

 その元素の濃度(元素濃度)。濃度が濃いほど薄い人より、少ない元素量で攻撃などができる。

 変換速度。元素を攻撃や、防御に使えるように元素を物質変換する。まぁ火の元素で例えるなら、体内にある火の元素を空気中に放出し、目に見えない元素という形を目に見える炎という物質に変換するとっいった感じだ。

 そして、それで作り出した物質の単純な威力、つまり攻撃力や防御力。

 元素量、元素濃度、変換速度、威力。この四つを総合的に評価しランクを決める。ランクは上からS~Eの6段階。

 この四つの数値が高ければ高いほどランクは高くなる。その上、ランクとランクの間にはものすごい差がある。ということはランクが高ければその人の単純な戦闘力だけで言うと強いということになるのだろう。

 

 つまり……

「まぁ、水戸の言う通りだろうな。単純な戦闘力での強さ、それがランクだ。つまり、ランクが高ければ高いほど強いということになると言うのは否定出来ないな。」

 俺がそう言うと、御子柴はガクッと項垂れるように机に伏せる。

「やっぱりそうなのかな~?」

 

「でも!俺はランクだけでは強さってのは決められないと思うけどな。」

 

 そう。それだけでは強いということにならない。

 強いと言うのにも、力と言うのにも、色々種類があるからだ。

 ランクでわかる強さは()()()()()()()()()。そしてそれが力と言われている。それが今俺たちの世界で言われている、強さと力だ。

 

 たしかに、悪魔を倒し、葬ることの出来る戦闘力。それは強いし、力があるといえるだろう。でも、守りたいものを守れなかったら?それは強いと言えるのだろうか。力があるといえるのだろうか。

 俺は言えないと思う。まぁつまり、何を言いたいのかというと、その時々で、場面場面で求められる強さ、求められる力は変わってくるということだ。

 

「強さ、力には色々ある。敵を倒す強さ、力。敵を欺く強さ、力。人や物を守る強さ、他にもあると思うが、このように色々ある。だから俺はランクだけが強さというわけじゃないと思う。力がすべてじゃないと思うけどな。」

 

 俺は自分の考えを言い終わったあと、顔を上げる。そうすると、目の前の御子柴は目を輝かせながらこちらを見ており、横にいる水戸は下を向きなぜか震えている。

 

「えっと……」

「か……か……」

「か?」

「カッケェ~!!!」

「は?カッコイイ?なにが?」

 

 御子柴は輝いた目をこちらに向けたまま、とんでもないことを言ってきた。どこがカッコよかったのか全くもって分からない。俺はただ自分の意見を述べただけだ。

 

「わかんねーけど、なんかカッケー!俺は世間の考え方に流されてたのに、八神は自分の考えを持ってるってゆうの?なんかそれがカッケーと思った!」

「あ、そ、そう……」

 

 

 俺と御子柴がそんなどうでもいいやり取りをしている間、水戸は常に下を向いていた。

 どこか気分でも悪いのだろうか。そう思い、声をかけようとした時、

 

「そんなことない!」

「「え?」」

 

 水戸は急に顔を上げこちらを睨み声を荒らげてくる。それに対し、御子柴もビックリしたのか、目を見開いて水戸を見ている。

 

「み、水戸?」

「ランクだけが強さじゃないって、ランクだけが力じゃないって……そんなことない!ランクがすべてなのよ!力が全てなのよ!力のないものは、強くないものは、ランクは低い者は、力のあるものに、強いものに、ランクの高いものにただただやられるだけ!何もできずに!」

 

「み、水戸?何を言って……」

「ッ…………!!!」

「お、おい!水戸!」

「水戸さん!?」

 

 水戸は俺たちの声に振り向くこともなく、走り去ってしまった。

 この時の水戸の顔を、悲しそうな、そして苦しそうな、顔を俺は一生忘れないだろう。水戸の涙を一生忘れることは出来ないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ハァ…ハァ…………」

 私は何をしているのだろう。なんで走っているんだろう。

 なんで……泣いているんだろ。

 

 何故かわからない。分からないが、八神君が言った言葉すべてが心に突き刺さってきた。力を強さを、ランクをだけを求めて生きてきた私のこの数年は無駄だったと言われたみたいだった。

 もちろん八神くんはそんなことは一言も言っていない。それに考え方は人それぞれだ。それでも、何故か苦しかった。悲しかった。……涙が出た。

 

「ほんと、私何やってるんだろ……八神くんの言う通りなのかな?私のしてきた事は無駄だったのかな……」

『恨め!』

「ッ……」

『力のない自分を恨め!』

「やめてっ……」

『ランクの低い自分を恨め!』

「やめて!」

『お前は弱いから負けた。力が無いから負けた。ランクが低いから負けた。だから、何も……護れない。負けるから、護れないんだ。力がない、強さがない、ランクが低い、その自分自身を恨め!』

「やめてよ!」

 

「そうだ、そうだよ……あの時思い知ったじゃない……力がすべてだって。強くないといけないって。ランクがすべてだって……八神くんがそうじゃないって言うなら、私が証明すればいい。八神くんに勝って、八神くんの考えは間違ってるって、私の考えは正しいんだって、証明すればいいんだ……」

 

 私は間違ってないんだから……

 

 

 

 

 この時、水戸自身、自分がどうなっているのか、どんな顔をしているのか知らなかった。

 

 水戸の体は小刻みに震え、顔は悲しそうで、苦しそうな顔をしていたこと。涙は止まることなく溢れ続けていたことを。水戸は分からなかったのだ。

 自分の事が、自分の体の事が分からなくなるほど、この時水戸は何かに怯えていた。

 




捻くれ者の学園生活#5
いかがでしたか?
今回は少し長いです。なのに……話が全然進まない……
でも、焦らず、確実に1話1話積み重ねていこうと思っています。
これからも話の進行は遅くても、皆さんに、楽しんでもらえるように、面白いと思ってもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします!

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